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①③②デンボの災難

そろそろ次の展開に進みそうな予感。

「まだ目を通してない医学書や過去の症例に似たものがないかなど僕なりに取り組んで行くつもりです」

「頼むよ、また何か思い付いたら教えてくれ」

結構話し込んでいるからナサとデンボも待ちくたびれてるだろう、カーラを見ると頷いてるのでここいらで切り上げるとするか。


「有難うございます、センさんのお話は参考になりました」

「でもこれはあくまで仮説ですから領主様に言わないで下さい」

「憶測は主義に反するって?」

「それもありますがもし間違っていたら、より落胆されるかと」

俺達の考えと同じだ。


「そうだな、解った」

「私達も無暗にハヤ様の心中をかき乱したくないので安心して下さい」

「宜しくお願いします‥‥」

そうして院社(ヤック)の出口に向かうと声を掛けて来る。


「あ、あ、あのっ」

「はい?」

「カ、カ、カ、カーラさんは、また来られたりしますか?」

医療の話じゃないと直ぐこれか。


「何かまたお聞きしたい事が出来るかも知れませんから、その時はお伺いします」

「おおおおおおおおおおおおお待ちしています!!」

待ち過ぎだそれ。


「俺もそん時は宜しくな」

「その時は寝てると思います」

この差!!


「カー、ラさん、あ、あ、あ、その」

「まだ何かセンさん?」

「そこ、むむむ、を」

「何処見てるんですか?む?」

「胸だよ」

「胸?あっ!」

お色気作戦で胸元を広げ、谷間を見せていたが本人は忘れてそのまま話を聞いていて、それをこいつの視線でやっと気が付いたようだ。


「くくく、あの顔」

「もう」

「残念がってたぞあいつ」

「フツさん」

胸元を締める彼女を名残惜しそうに見ていた若き真階医(マーイ)セン・ジュを置いて院社(ヤック)を出る。


「結構待たせちゃったな」

「ナサ様もデンボさんも話の重要性を解っていますから大丈夫ですよ」

「ありゃ?」

院社(ヤック)に入れない為、待ってもらっていた混血2人の姿が見当たらなかった。


「先に帰ったとか?」

「そんな筈はないかと‥‥」

カーラの言う通りナサが彼女を置いて何処かに行く筈はないし、デンボは子爵さんの言い付けで俺達のお守り役だからそれもない。


「あいつ等何処行ったんだろ」

「フツさん、あれ」

「ん?」

カーラが目をやった先で人だかりが出来ている。


「なんの騒ぎでしょう?」

「喧嘩かな」

「まさかナサ様が」

デンボはツルギ領じゃ未だ混血を嫌う奴もいると言ってたからな、それにナサと一緒じゃ混血2人になるしカーラが危惧するのも当然だ。


「デンボさんが付いてるからそれは無いと思うけど、どうする?一応見に行ってみるか!?」

「はい」

巻き込まれない様に俺は彼女を連れて遠巻きに近付くと、既に騒ぎ自体は収まっていた。


「終わった後みたいだぞ」

「此処じゃ見えませんね」

「どれ」

背伸びをしても見えないのでは(かが)んで隙間から覗くと、野次馬が集まってるのは誰かが倒れているかららしく、それを介抱してる別の男の後ろ姿が目に入る。


「どうです?」

「ちょっと待ってくれ」

あの男前な後ろ姿は間違いなくナサだ。って事は倒れてるのはデンボか?


「カーラ、ナサさんだ。それにデンボさんが怪我してるみたいだぞ」

「え?本当ですか!?」

「多分。中に行こう」

「あっ」

彼女の手を取り野次馬を押し退け割り込んで入って行く。


「ちょっと通してくれ」

「オイ、押すナ」

「悪い、あっちに行きたいんだ」

「女連れで何のつもりだお前?」

「俺達の連れかも知れないんだよ」

輪の中心に飛び出すと、見えた背中はやっぱりナサだった。


「おいおい何があったんだ?」

声を掛けるとナサが振り向き、その陰で見えなかった倒れてるデンボの姿を確認する。


「お嬢様、フツ」

「ナサ様、一体どうしたのです?どうしてデンボさんがこんな」

「デンボ殿は石の(つぶて)を当てられ申した」

「石を?」

「は」

「誰がそんな事を‥‥いえそれよりデンボさんのお怪我は?」

「幸い軽傷で御座る」

大事には至ってないみたいだが額に当てられたらしく、ナサがそれを布で押えていた。


「軽傷って血が出てるじゃないですか!」

「落ち着き下されお嬢様、既に血は止まっています」

「ナサ様、もっと綺麗な物はお持ちじゃないんですか?」

「あいや俺が持っているのはこれだけで」

「カーラさん、私は平気ですので」

「いいえ駄目です、さぁデンボさん傷を見せて下さい」

彼女は倒れてるデンボの元に駆け寄りると自分の清潔な手拭きを出し強引にナサと交代する。


「‥‥あれしか無かったのだ」

「まぁあんたに小綺麗な手拭いなんて似合わねぇしな」

持ってただけでも偉いぞ。


「で?何がどうなってデンボさんに石ころを投げ付けやがったんだ?」

「我等に絡んで来た1人が去り際に(つぶて)を投げよった」

「どっちを狙って?」

「俺だと思う。だが(かわ)した為に、それがデンボ殿に当たってしまったのだ」

「それは責めねぇけど、ナサさんはそいつ等をそのまま行かせたのかよ」

避けた石ころが当たったのは不可抗力だが、ナサがそんな事した奴を放っておくのが意外だった。


「私がナサさんをお止めしたのです!」

「止めた?何で!?」

「あのような者達の相手をナサさんにさせる訳には参りません」

「‥‥‥そいつ等何であんた達に絡んで来た?」

「我等を見て混血のせい自分達は貧しくなった、人族の奴隷が増えたのも貧しいからだとな」

「何だそりゃ、あんた達はどうしたんだそんな事言われて?」

貧しいだの何だの、この2人に全く責任なんか無い、ただの言い掛かりだ。


「我等は無視した」

「それで何で石ころを投げられるんだよ」

「聞こえてるのかとしつこく言い寄って来て俺が睨むと黙り込んでな、そしていきなり(つぶて)を投げて逃げよった」

「追い掛けてやり返しゃ良いじゃねぇか」

「俺が此処で暴れたらお嬢様や子爵様にご迷惑を掛ける」

「そうかも知れないけどさ」

「フツさん!私がお止めしたのです!」

「それはさっき聞いた」

「‥‥すみません」

「怪我したのはあんただろ、何謝ってんだ」

「いえ、皆様をこういう事から避けさせる為に御一緒したのに、申し訳有りません」

「だから何でデンボさんが謝るんだよ、絡んで来たのはそいつ等だろが」

「しかし混血が嫌われているのは元を(ただ)せば‥‥」

「はぁ?四十年前の事なんかデンボさんに関係無いだろ、気に食わないならツルギ領から出て行けばいいじゃねぇか」

俺が腹を立ててるのを見たカーラが隣に来る。


「フツさん」

「間違ってるか俺?」

「いいえ、怒って当然と思います」

「だったら」

「でもナサ様の言う通り追い掛けてまで仕返しをしたら、ハヤ様とキリ様に余計なご心配をお掛けする事になってしまいますね」

「それは」

「それはフツさんの望む事じゃないでしょう?」

「‥‥ああ」

子爵さんに尻拭いさせる訳には行かないと諭された。


「ナサ様」

「は」

「デンボさんがお怪我をされたのは非常に残念ですがよく堪えて下さいましたね、正しい行動たったと思います」

「‥‥は」

カーラとナサはナンコー領主の娘と領属騎士の立場があり、正しさとは自分達の行動が自領の評判に傷が付かなかった事を指している。でも俺は貴族じゃないから、気に食わないのもは気に食わない。


「しっかし腹立つよなぁ~、堂々とやり合うならまだしも石ころだぜ?」

「フツさん、私はこれくらい何ともありませんので、もう」

額を割られて何ともない筈はないのに、これじゃ俺が聞き分けの悪い餓鬼みたいだ。


「デンボさんが良いなら良いけど、傷の手当はどうする?」

「デンボ殿、薬師などは何処に()る?」

「使用人達が心得ています」

「『黄輪』の中に薬師が居るのか?」

「消毒くらい彼女達でも出来ますよ」

「でも結構傷深そうだぞ?」

「一度ハヤ様のお屋敷に戻りましょう、また何かに巻き込まれてもいけませんから」

カーラの提案に皆が同意し、屋敷に戻ってる途中に前から歩いて来る白衣姿の男が見えた。それは権階医(ゴーイ)のおっさんで宣言通り飲んでいたらしく、俺に気付くとご機嫌顔で声を掛けて来る。


「おう盗人、聞きたい事は聞けたのか?」

「誰が盗人だ、ったく。ああ一通りは聞いた」

「アイツは優秀だったろう」

「医者の優秀さなんて俺には解らねぇけど、まぁそう思ったよ」

「医者がいの無い奴だ」

何だその医者がいって。


「そう言えばあの若い真階医(マーイ)、センだったか、あいつもあんたの事優秀な外医って言ってたぞ?」

「センめ、生意気な事を」

「褒められてんのにそれか」

「俺が優秀なのは解ってる‥‥む?」

威張って答えた権階医(ゴーイ)が後ろに居たデンボを見た。


「怪我人か?」

「ちょっとな」

「ふむ」

すると白衣の内ポケットから紙入れを取り出す。


「これをくれてやる」

「何の傷かも解んねぇ癖に急に何だよ」

「その男の傷は殴られたんじゃないな、ぶつけたにしては深い‥‥鋭利な物ではないみたいだが、凹凸(おうとつ)があり何かザラザラした物、それに当てられた、違うか?」

酔いどれ権階医(ゴーイ)がデンボに確認すると頷いた。


「ほら見ろ」

「そこまで解るのか」

「俺が優秀だからだ、黙って今やったそれを使え」

俺に渡した紙入れを指差し、院社(ヤック)に戻るのか俺達から離れる。


「おい!この代金は?」

「この間抜け。その男は混血だろう、受け取れば俺が規則違反に問われる」

「酒を飲むのも規則違反じゃねぇか」

院社(ヤック)で飲んでないからギリギリ大丈夫だ」

いや駄目だって。


「だから代金は要らん、今度俺に酒を奢れ」

「何で俺が」

「そっちのお嬢さんを酒の相手に誘う訳にも行くまい」

「あの、有難うございました」

「ほう?」

彼女が礼を言うと俺を見る。これは俺にも言えって事か。


「酔っ払い医者、あんた名前は?」

「名前?聞いて驚くな、俺はゲン、ゲン・セイだ」

「驚く名前かよ。でも助かった、有難な酔っ払い権階医(ゴーイ)のゲンさん」

「酔っ払いは余計だが受け取った。ではさらばだ」

満足したのかまた格好付けて歩いて行った。


「あの方達は‥‥過去に居た医者達とは違うみたいですね」

「まぁな」

あれで酔ってなきゃもっと素直に褒めるんだけど。


あの権階医(ゴーイ)と若い真階医(マーイ)が何故ツルギ領に居たがってるのか解らないが、2人が悪い奴等じゃない事は確かだ。

でも、間抜けはねぇだろ!

次回更新は、明日9/10か9/11予定です。

読んで頂き有難う御座います。

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