①③⓪寝癖が付いた若き医者
頑張りました、長いです。でも小難しく考えないで、ふあっと呼んでくださいね~笑
「ほら、シャッキっとしろ」
「解りましたから酒臭い息で喋らないで下さい」
酒気帯びの権階医の男が、寝ていた【内医】担当の真階医を起こして表に出て来た。
「あいつが真階医か」
「想像してたよりずっとお若いですね」
出て来た内医の真階医は若く、寝起きの証拠に髪が撥ねている。
「お前の出番だぞ」
「珍しいですね患者さんですか?」
「そうではないが、あのお嬢さんがお前をご指名だ」
「お嬢さん?」
「あの、私です」
「‥‥‥」
カーラが自分の事だと言うと寝起きの若い医者が固まった。
「どうかされたましたか?」
「あ、スイマセン、こんな、うううう美、いえ何でも無いです!」
女と接する機会が少なそうだし免疫がないんだろう。それにカーラはかなりの美人だからな、見惚れるのも解るぞ。
「おいセン、何色気付いてやがる」
「ゴホン。ちょっとボーっとしただけです!そんなんじゃ有りません!!」
「俺の話聞いていたのか?【内医】のお前に質問が有るってよ、ちゃんと仕事しろ」
「それ、あんたにも言える事って気付いてるか?」
「俺は仕事しただろ、起こして来てやった」
「それは、まぁ有難うさん」
それは仕事なのかって、もういいや。
「さてと、俺の出番はここまでだ、後は頼むぞセン」
「え?僕一人ですか!?」
「医学書ばっかり相手にするより麗しいお嬢さんの方が良い、たまには俺以外の人族と喋れ」
挙動不審な若い医者を諭した権階医の男が俺を見る。
「俺は飯食って来るからそいつを頼んだ」
「頼むのは俺達なんだけど?」
「人並みの社交術を教えてやってくれ」
「何だそれ」
そう言って酔っ払い医者は出口に向かい、その背中に若い医者が声を掛ける。
「ゲンさんはまた飲みに行くつもりでしょ」
「当たり前だ、昼酒を飲まんでどうする」
「威張って言う事か」
「わははは、さらばだ!」
何で酒飲みに行くのに格好付けてんだ。
「すみません、貴方が【内医】とお聞きしてお休みの所を起こして頂いたのです」
「あ、いえそれは、僕が悪い、のので、構わないんですが‥‥」
「どうした?」
若い医者がたどたどしい口調で答え辛そうしてるので口を挟む。
「あの、普段余り患者さんと‥‥接しないと言いますか、慣れてないもんですから、緊張して」
「そんなんで医者が務まるのか?」
「ツルギ領は人族が少ない‥‥ですし、来られる患者さんは怪我などの、しょ処置が殆どなので」
「でも中には病など患う方もいらっしゃるでしょう?」
「はうっ、みみ皆さん薬師の方にみみ診て貰うようでして‥‥いらしても薬をおおおお買い求めになるくらい、ですね」
カーラ相手の方が酷いぞ喋りが。
それにしても過去の出来事も有って今でも院国の医者達はツルギ領じゃとことん嫌われてるんだな。自業自得なんだが今居るこの若い真階医と酔っ払いの権階医に罪はない、気の毒とまでは言わないが少し不憫を感じる。
「酒でも飲まなきゃやってられないってか」
「困ったものです」
俺には普通に答えてるのは女に慣れてないだけ?
「他人事じゃねぇだろ、あんなんで本当に【外医】が務まるのか?」
「あの方はああ見えて優れた外医なんですよ」
「優れたねぇ」
酔っ払い権階医はこの人見知りの若い真階医の事を褒め、真階医はあの権階医(酔っ払い)を褒める。どういった関係かは解らないがそこに嘘はないように思えた。
「フツさん」
「おっと、本題だったな」
ナサとデンボを待たせてるし医者2人の個人的な事はまたの機会で良い。この若い医者も俺達の要件を解っているらしく先にそれを聞いて来る。
「な、な、何かごごご質問が、お有り、な、ななんですよね?」
「そうなんです『コセポーション』の事で」
「『コセ・ポーション』?」
急に真剣な顔付きになったけど寝癖がそれを許して無いぞ。
「『コセ・ポーション』の何をお知りになりたいのですか?」
「ちゃんと喋れるじゃねぇか」
「医学に関する事なら、はい」
でも寝癖な。
「実はですね」
カーラは見た目がちょっ間抜けな若い真階医にも笑わず、長年に渡り飲み続けてる事やそれで弊害が出ていない現状を説明する。
「もしかして貴女方は領主様の関係者か何かですか?」
「一応そうなります」
「一応?」
「許しを貰って調べてるんだよ」
「あの方達の為に何とかお力になれればと」
「お嬢様方の事ですね、それは」
さっきまでのたどたどしい態度と打って変わって、カーラにもしっかりとした口調で言い当てた。
「ご存知でしたか」
「僕が赴任して最初に診た患者さんがお嬢様方なんです」
子爵さんは新しく来た医者達には必ず診せてると言ってたし、当然この若い医者にも診せてるか。
「同じ事聞かれてると思うけど、飲まされたものが何なのか見当も付かないのか?」
「既に四十年経ってますので、残念ながら」
「あんたは優秀な内医なんだろ?もし直後だったら解ったと思うか?」
「どうでしょう、でも可能性はあったと思います。尤も僕はまだ生まれていませんが」
「‥‥そうか」
当時の真階医が毒か何か解らない薬を生成した張本人じゃなかったら、この若い医者がその時に居たら、たらればを考えてしまう子爵さんの気持ちが解る。
「あの症状に何か心当たりなどは?」
「これは領主様にもお答えしましたが、ハッキリとした事は解りませんでした」
「その言い方だと何か思い当たる事がありそうに聞こえるぞ?」
「僕は無責任な憶測で症状を判断しません」
「責任取れなんて言わないから仮説でもあるなら教えてくれ」
「僕の主義に反します」
融通の利かない奴め。こりゃあの酔っ払い権階医とは真逆の意味で面倒臭いぞ。
「あんたの手柄を横取りすつもりなんかねぇし、俺達に必要なのは手掛かりになる方向性なんだよ」
「貴女方は『コセ・ポーション』の事が知りたいのでしょう?」
「それは、そうだけどさ」
カーラに目配せすると彼女は頷いて話を元に戻す。
「『コセ・ポーション』を飲ませ続けた場合、通常どんな弊害が起こり得るんでしょう?」
「そうですね、あのポーションはいわば心臓を動かす機能を手助けする為のもので、長期間服用すれば少しずつその機能自体が弱まる可能性があります」
「心臓が弱くなるって事か?」
「と言うよりそれを動かす機能が弱くなるのです」
「動かす機能?」
「解り易く言いますと信号を送る機能です」
「悪い、もうちょっと砕いてくれ」
「え~っと、体は頭からの命令で動きます。動かそうとする意志が頭だと思って頂いて結構ですが、命令をしないと動きません」
「咄嗟に動く時もあるぞ?」
「そんな時でも動かそうとする意志が、頭が命令を出しています。その伝達が早いから『自然に』とか『咄嗟に』と、それが関係ないみたいに感じるだけです」
「一々考える程でもないって?」
「慣れてる行動はそうですね、慣れている程命令伝達も早くなりますから。そしてその命令が信号なのです」
動けって命令を出すと動く、動けって信号を出すと動く、確かに『信号』って表現より命令って方が解り易い。隣に居るカーラを見ると、彼女は余裕で理解したみたいだ。
「しかし心臓は頭からの命令で動いてるのではありません」
「じぁ何処から?」
「自らです」
「心臓が自分を動かしてるのか?」
「心臓が動けと信号を出しています」
もう『命令で』良いじゃねぇかよ、とは言わない。医者的表現じゃないんだろうな。
「頭で考えて心臓が止まらないのはそれが理由です。でないと寝ている間に止まりますからね」
「それは寝ると意志が働かないからか?」
「その通りです、寝ている時は頭も休んでいるんですよ」
「勝手に心臓が動いてるのはそれでなんだな」
「そこで最初に戻りますが、『コセ・ポーション』を長期間服用すれば心臓を動かそうと信号を出す機能が弱まります」
「なるほど」
心臓自体が弱まるんじゃなく。動かさせる機能が弱まる、これが『コセ・ポーション』の副作用か。
「もし服用を止めるとどうなりますか?」
カーラが寝癖真顔の若い医者に聞いた。
「それはお勧めしません」
「お勧めしません?駄目って言わないのか?」
「『コセ・ポーション』を四十年も服用し続けている症例が他にないのです。それに弱まった機能が自力で元に戻るかどうかも定かではありませんし、服用をいきなり止めて何が起こるか試すなんて出来ないでしょう?」
「そりゃそうだ」
『薬』を服用し続けて出る副作用とは心臓を動かさせる機能が弱まる事だと解った。しかし応急処置用の薬とは言えその機能を弱まらせるなんて処方制限が有る訳だ。こんな矛盾した状態じゃ具体的に何かするとか分が悪い賭けに近い。
「『コセ・ポーション』の副作用が出ていないのは、一体どんな事考えられますか?」
「有り得ないとしかお応え出来ませんね」
「そうですか‥‥」
「この際何でも良いから気が付いた事でもあったら教えてくれ」
「一つだけ不思議に思った事があります」
「何を?」
「薬全体に言える事ですが、同じ薬を服用し続けていると効果が効き辛くなるんです。副作用が出なくてもこれは避けられないと思うんですが‥‥」
「それは薬に慣れるって意味か?」
「はい、そう言って良いでしょう」
「慣れたらどうなる?」
「今言いました通り効果が効き辛くなり、機能不全に繋がります」
「そうさせない為にはどうすれば良いのでしょう?」
「飲ませる量を増やすしかありません」
「増やす‥‥」
カーラが俺を見るので首を横に振る、実際にどれだけの量を飲ませているのか俺達は知らないからだ。しかしこの若い真階医は娘達を診ていたからかその答えを言う。
「お嬢様方は増やしていませんでしたね」
「普通だったら死んでるんだよな、それじぁ」
「かも知れません、それが不思議だったんです」
「増やさなくても生きていらっしゃるのは何か理由があるんですか?」
「あったとしても、僕、いえ【内医】達では見付けられないでしょう」
余程自分の知識に自信があるのか、他の【内医】でも解りっこないって言い草だ。
「この事は子爵さんには言ってんのか?」
「いいえ」
「ハヤ様にお伝えしていないのですか?」
「これをお伝えする必要がありません、それに知れば余計ご心配になられるのでは?」
確かに何も解ってない状況で普通は飲ませる量が増えるもんだとか聞かされてもな、聞く方にしたら増えてない事の方が寧ろ喜ばしい事かも知れない。
次回更新は、むむむむ9/7予定で!!多分!!
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