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⑫不思議な力

テンウはうずくまり、苦し気に咳き込む。

「おま、何を・・・奴隷のくせに・・・」


俺は本来付いてるはずの奴隷首輪「付輪(ツクモ)」が無いのを解らせる為に首を見せる。

「ほら良く見ろ、もう違う。」

俺はテンウの髪を掴み立たせる。「どどうやって・・・」と聞いてくるのを遮り

台に横たわっている獣人を指差して

「この獣人は何だ? 新しく買ったのか?」

と睨み付けた。


「何?! 何言ってる?」


「またろくでもない事の為に買ったのかって聞いてんだよ!!」

掴んだ髪を引っ張り上げ答えさせる。

「ちが、がっ、そいつは、お前が行く時に自由にした奴隷だ、、、」


こいつ!!自由になった亜人達を拘束して無理やり実験するつもりだったのか。

何て野郎だ。

「この下衆野郎が!」俺はテンウを力一杯殴り飛ばした。

テンウは実験台にぶっ飛び頭を打ち付けて気を失う。

俺は色んな怒りを一旦落ち着かせ、部屋にある使えそうな小物をポケットに入れてから縛り付けられている獣人の縄を解いてやった。

「大丈夫か?」

獣人は俺を見ようとしたが何か飲まされたのか、朦朧としてる。

「掴まれ、とりあえず逃げないとな。」


引きずる様に俺は獣人を肩で支え、急いで出口に向かう。

テンウ・スガーノの屋敷に護衛が居ない事は知っていた。

院主である淨階医(ジョーイと院国中枢を担う明階医(メーイ)達には当然付いてるにしても

いち正階医(セーイ)に護衛は付かないんだろう。使用人も数人程度だった。

騒ぎを聞きつけた者達が俺達を見つけたが、何が起こったのか解ってないらしくただ立ち竦んでいた。俺はそいつらを睨みつけ堂々と屋敷を出てやった。

いくら人族至上主義の国でもあいつがやった事は犯罪に違いない。

ばれたら明階医(メーイ)どころじゃない降格だって有り得る筈だ。だからこそいずれ追手が来る。何かしらの罪をでっちあげ捕まえに来る決まっている。急い此処から、この国から出ないと。


それから弱っていた獣人を半ば背負ってひたすら歩き、陽が暮れようとしていた。

タツ院国では亜人族達に国籍を認めていないが使用人として雇われている者は居る。奴隷として獣人を買う事は不潔とされ忌避されていた。テンウも極力秘匿したかったに違いない。

奇異の目で見られたが、俺もこの獣人も首に付輪(ツクモ)が無いので誰も気にしなかった。

俺はそのまま獣人を担ぐ様に、出来るだけ目立たない様にワヅ王国方向に歩いていた。


「アレ、、、、」


獣人が何か言っている。意識がはっきりしてきたみたいだ。

「「あれ」?何の事だ!?それより大丈夫か!?」


「・・・・もう大丈夫だよ、自分で歩く。」

獣人は小声でそう言い、俺から離れた。


「そうか?解った。」

俺は獣人を降ろして固まった肩をほぐす様に回す。

「正直助かったよ。そろそろきつくなってきてたんだ。」

と俺は笑って答えた。


「助かったのはオレの方だよ。アリガトウ。」


声が甲高い、でもオレ??

「え~っと、悪いけどお前は、、、女!?」


「オレって言い方?クセなんだ、女だよ。助けてもらったけど失礼な(おとこ)だなアンタ。」


俺は女って言う獣人を改めて見た。本当だ髪は乱れて服も見すぼらしいが、これは何と言うか、

胸がとんでもなくでかい。体もそんなに大きくなくどっちかっていうと細身だった。

あの場から離れる事に必死で全然気づかなかった。

俺は自嘲しながら彼女に尋ねる。

「他の奴らは?自由になった亜人族達はどうした?」


思い出したくないのか、しばらく無言だったが

「みんな死んだよ。変な薬を腕から刺し入れたりしてさ。オレが次の番だったんだ。」

と教えてくれた。

「そうか」

俺はそれ以上何も言わなかった。

彼女はまた「あの時のアレ」と言う。

「さっきも言ってたな、何だ「あれ」って!?」


「あの壁を壊したのアンタ?魔術師なの!?」


俺は答えに困った。自分の腕先から発したと思われる閃光。

RPGにも似た威力。何だったのか・・・・

「俺にも解らない。俺がやったのかも知れない。

ただ俺は魔術師じゃないよ、お前と同じただの「元」奴隷さ。」

俺は正直に答えた。


その日の夜、街から無事抜け出してあぜ道を国境に向けて歩く。

森に入ったところで今日はそこで休む事にした。

獣人の女の名はステトと名乗った。俺はフツだと答えた。お互い王国生まれだと解った。

ステトは奴隷でも契約奴隷で剣闘士だった。罪を犯して奴隷になったんではなく、

生きる為に自ら奴隷になったらしかった。

買主は地方の興行主でテントなどで命懸けの戦いを見世物にしていた。

再び自由になる為に彼女は戦った。剣闘士は実力さえあれば褒美も人気も手に入る。

地方の興行から始め、徐々に中堅の闘技場(アレナ)で戦えるまでになる。更に勝ちを重ね、名も知られるまでになった様だ。

剣闘士の花形は王立闘技場(フラウィウス)に召喚されそこで戦う事だ。

そこで結果を出せば多額の賞金が与えられる。己を買い戻せれるからだ。

だが彼女はもう少しで王都の剣闘士に手が届く所で重傷を負い、

価値が下がったと競売で売りに出されタツ院国のテンウに買われたそうだ。

俺は黙って彼女の話を聞き続けた。そこまで話し終えるとステトは肩を震わせ泣いた。

彼女が落ち着くと、今度はお互いの事を語り合った。生い立ちや境遇。

ステトは四分の一は人族の血を引いていて両親は既に亡く、育てて貰った人族の祖父もとっくに死んだと教えてくれた。

俺はテンウにされた事を詳しくは教えなかったが、俺も実験されたんだと言った。

俺はまずワヅ王国に行くつもりだと伝えると、彼女は自分もついて行くと言う。

命の恩人だと何度も言われたが、俺は成り行きだし気にしなくていい、自由になったんだし好きな所に行けよと諭したが彼女はついて行くと言い張った。

解ったと言いそろそろ寝ようと草に横たわる。


ステトの寝息が聞こえる。俺は思い返していた。

戻ってきて壁を吹き飛ばしたあれは何だったんだろうかと。本当に俺がやったのか?

あれは向こうの世界でのアルピジン(RPG)の様な破壊力だった。

あの時俺は「アルピジン」と確か口にした。

それと関係あるのか??

腕を突きだし

『アルピジン!』と繰り返し言ってみたが何も起こらなかった。

何も解らないまま目を閉じ寝る事にした。


朝からまたひたすら山道を歩く。ステトは一晩過ぎ吹っ切れたのか元気になっていた。

いや彼女の場合は能天気と言っていい。俺はそんな彼女を気に入った。

同じ逃げるにしても前向きな方がいいに決まってるからな。


ステトが何かに反応し歩みを止める

そして後ろから声が聞こえた。

「いたぞ!! 男と獣人の2人!! あいつらだ!!!」


振り返ると男達数人が見える。兵ではない、粗暴な男達だ。

テンウ・スガーノが雇ったんだろう。

「逃げるぞステト、追手だ!」

「あのくらい任せて。」

と踵を返しステトは男達に突進していった。

おいおいステトさん、まじか。


「逃げりゃいいものを!!」

「男は殺すなよ!捕まえろ!」

と男達は縄や短剣を取り出し向かってくるステトに対峙した。

ステトはその俊敏な動きで次から次へと男達を薙ぎ倒し無力化した。

いや、まじかステトさん。


拾った短剣を腰に差し込んで俺に笑う。

「何だ?全然大した事ないじゃん。剣闘士ナメちゃダメだよ、あ「元」か。」


「すげえなステト、お前と一緒で助かったよ。」

俺は彼女の肩に手を置き彼女を労った。


「ううん、オレにはこのくらいしか出来ないから。」

照れながら、男達の所持品をまさぐり少しの貨幣を見つけて俺に渡す。

「フツ、コレ持っててよ。オレじゃ使い道解んないと思うから。」


「預かっとくよ。さぁ行こう、これで終わりじゃないだろうからな。」


俺達2人は再びワヅ王国に向かって進んだ。また夜になり野営する。

森ではステトが野獣を捕まえるも俺達は獣を解体した事が無かった。

不器用に毛皮を剥ぎ血を抜く。テンウの部屋から持って来た魔具(クジキ)火打具(フオコ)」で火を起こし肉を焼いたが生臭さは消えなかった。それを我慢して食って休もうと木にもたれかかる。


闇が深くなり寝付けなかった俺はもう一度確かめようと『アルピジン』と言ってみた。


ドォーーーーーン!!!!

今度は爆音と閃光が出て地面を抉って大きな穴になった。


「ななな何???どーしたの?何が起こったの!!??」

ステトが飛び起きる。


俺も驚いて飛び起きたがこれで解った。

この現象は俺がした事だ。やはり俺から出た閃光だったんだ。

これはあっちの世界の武器の威力だ、「アルピジン(RPG)」だ間違いない。

そこまで確信したがまだ解らない事があった。昨日のテンウの屋敷ではこの現象が現れたが昨日夜何度も試した時は何にも発現しなかったのは何故だ!?

俺はステトの問いに答える事はせず考えをまとめようとした。

そしてもう一度『アルピジン』と言ったが次は出ない。

何かの制限があるのか?他の武器では??

俺は色々試した。覚えてる使った事のある銃器の名前を言った。


すると『アサルト』で、 パパパパパパパパ!!

同じく腕先から銃弾らしき光が連射され、木々に穴を空け木片が飛び散った。


「うわわわわわ!何??フツ!フツってば!!」

ステトは怯えて俺の元に来る。


俺は構わずもう一度『アサルト』と言った。

次は何も起こらなかった。

やはり何かの制限があるんだ。

でも何で「アルピジン(RPG)」と「アサルト」なんだ?何か理由があるのか?

俺ははっととした。


この二つは俺が向こうで()られた武器(やつ)だ。

夜読んで頂き有難う御座います。

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