①②⑥祖父(セフ)の足跡
歩きながらでも説明、ですね(笑)
そして8月も終わりですが今までで一番アクセス数が多い月になりました!
有難う御座います!呼んで下さる事が書く意欲に繋がるので今後とも宜しくです~
デンボの案内で院社に向かっている最中に、彼女に確かめたい事を聞いてみる。
「なぁカーラ」
「はい?」
「もしかしてセフ祖父さんがこの『受け』を依頼されたのは十五年前か?」
「その時期だと聞いてますけど」
「やっぱりな」
「何がです?」
デンボが教えてくれたツルギ領の院社事情によると、本来タツ院国の教えに背く亜人族に対する医療行為をしていて、それは金目的の医者達が暴利を貪る勝手な行為だった。でも十五年前に世界中で流行った病を沈静化に導いた治療薬と言うのが亜人族から造られた血清で、その血清を院国が輸入に頼らざる負えない立場になり、医療国家の面子を潰された院国はより一層亜人族を差別する様になっていた。
その流行り病以降ツルギ領の院社では裏でも一切亜人族を診なくなり、どんな「薬」類であろうが売らなくなっていた。
「あの頃ナンコー領も流行り病が酷かったが、元から人族しか相手にしておらなんだからな」
「ツルギ様じゃそれをしてた、でも医者達の手の平返しのせいで子爵さんは院社から『薬(コセ・ポーション』を手に入れるのが難しくなったんだ」
「うむ、鬼人族達や混血の妹御に飲ませるとなると相当な量が必要な事もある」
「医者達に人族以外に飲ませる事を知られているって子爵さんは言ってたしな」
ナサとのやり取りでカーラが俺の言っている意味を理解する。
「だから祖父に依頼されたとフツさんは考えてるんですね」
「ああ。それにセフ祖父さんは大店の店主だったんだから顔は広かった、だろ?」
「はい、祖父は『流し』の経験も豊富でしたので色んな土地に知り合いが居てました」
「大量に買い付ける事が出来る人だったって訳だ」
俺はそれが有って子爵さんがセフ祖父さんに『薬』の買い付けを依頼したと考えたが、カーラの答えでそれが正しい事が解った。
「そもそも院国が病の原因を見付けられなかったのは亜人族を侮蔑しているせいで見落としたからだし、血清を自国で造らなかったっていうじゃねぇか」
「自業自得ですよね。それなのに亜人族の方達を憎むなんて勝手もいいとこです」
店の従業員は亜人族が殆どで、大店になる前の客筋は亜人族達が多かったみたいだから、彼女はそんなタツ院国の教えに思う事があるんだろう。
「亡くなったのが数年前って言ってたけど正確には何時なんだ?」
「私が成人に成る前でしたから三年と少し前ですね」
「じぁ間の十数年は新しい『受け』をしなかったって事だろ、何でだと思う?」
この仕事がセフが最後に受けた『受け』だと聞いていた。
「‥‥王都で母が亡くなり、メスティエール商店の跡継ぎも居なくなったのでもう終らそうと考えたのかも知れません」
「そうか、当時のカーラは伯爵令嬢だったからな」
「はい。でも結局祖父が亡くなってから私は店を継ごうと祖父や母のマハ性にしました」
「今でもその性を続けてて良いのか?」
「お父様が引退されるのはまだまだ先の話ですから、暫くはこのままでいようと思います」
今のカーラは既に父親であるナンコー領主の伯爵さんから跡継ぎと決められている。今は取引とは別の事でナンコー伯爵家の名代としての態度を崩していないが、彼女はその時が来るまであくまで『カーラ・マハ』でいるつもりみたいだ。
「でも‥‥今は祖父の生前にそうすれば良かったと後悔しています」
「そう決断したのが祖父さんが亡くなったからで、そん時はまだ成人じゃ無かったんだ、気にすんなよ」
「そういうものでしょうか」
「カーラは孝行してると思うぜ、セフ祖父さんも天国で喜んでるさ」
「‥‥‥フツさん」
彼女が店を継いでから逆隣のスタダ領に支店を開いたりしてる、それだけでも立派な経営者だ。
「ところでセフ祖父さんは子爵さんと何処で知り合ったんだろ?」
「さぁ?私も依頼主のハヤ様の事は今回お伺いするまで知りませんでしたから」
「先代のクスノ様が紹介なさったのでは無いか?」
「まぁ有り得るけど何かしっくり来ないな」
「フツさんは違うと思うんですか?」
「う~ん」
そもそも大店にまでなったメスティエール商店という『構え』をしていたセフが、他領に出掛ける事は有ってもわざわざ新しい『受け』の依頼を引き受けるとは考え辛く、違法な依頼と来れば猶更だ。子爵さんにしてもあの性格だから、お家騒動が絡む出来事に仲が良かった燐領の領主(十五年前は伯爵さんの父親で先代クスノの時代だった)を巻き込むなんて事はしたくなかっただろう。
「ヒラ様です」
黙って道案内をしてくれていたデンボが俺達の会話を聞いて答えを教えてくれる。
「族長?」
「ヒラ様がハヤ様に祖父を?」
「そうです」
「確か長がセフ殿を救ったと言っておったが」
族長曰く、セフ祖父さんを希少魔獣から助けた事で知り合い、恩返しとして色々世話になったと言っていた。
「その事があってからセフ殿は鬼人族の集落に度々足をお運びになられていた様で、鬼人族の為に骨を折ってくれていたと聞いています」
「祖父の対して悪感情が無かったのはそれでなんですね」
「孫である貴女にも当てはまる事ですが」
「その連れの俺達には散々だったけどな」
「ナサさんとステトさんは別として、人族のフツさんが生きておられるのは遠慮したからですよ」
「言ってろ」
遠慮していきなり丸太を投げ付けて来るか普通、それに生きてるのは俺が女の敵を甘んじて受け入れたからだ。
「それはそうと鬼人族達はセフ祖父さんに何の世話になってたんだよ?」
「解熱や鎮痛などの薬を融通してくれていたらしいです」
「その時は皆様が買えない状況でしたものね」
「母の里に‥‥セフ殿はその様な事を」
「他にも何とか育つ野菜の苗や、それ以外にも女達には服を子供達には珍しい菓子を与えてくれて、ヒラ様はお返しにセフ殿に魔獣の素材などを渡していたようです」
「これ、の事だよな」
「祖父がその時頂いたのがマンティコアだったら、そうなりますね」
カーラが認める。
俺が着ているマントルは元々セフ祖父さんの物でその素材はマンティコアの皮が使われていた。返しに貰った魔獣の素材の内そのマンティコアが入ってたんだったら、これは族長からの感謝の証って事になり、マントルに罪は無いけど何か微妙な気分だ。
「祖父の物と思ってヒラ様の事は気にしないで下さいねフツさん」
「実際そうだからな」
顔に出ていたのかカーラが笑ってそう言う。
族長の礼品とかどうでもいいか、これに助けられた事もあるんだし。
「デンボ殿、長は何故直接セフ殿に依頼しなかったのだ?」
「『薬』は高価です。それに量も必要とあってはセフ殿とて慈善では無理と言うものでしょう。だからと言って鬼人族では支払い能力を持ち合わせておりません、ですから子爵様を頼ったのです」
「あの長が頭を下げるなど考えられんのだが」
「あの方がそんな事しませんよ、セフ殿がヒラ様に頼まれて子爵様の元へ会いに行ったのです。詳しい事を何も知らされずにね。セフ殿が商人と知って子爵様はヒラ様の考えを理解して、そこで初めて依頼を出されました」
その口調には族長に対しての棘が混じっている。
デンボは自分が敬愛する子爵さんに頭を下げる事もせず、直接会う事もせずに金だけ払わせ『薬』を手に入れろと顎で使うような態度が許せなかったんだ。
「しかしデンボ殿は集落の事情にも詳しいの」
「十五年前のあんたはもう子爵さんの仕事を手伝ってたのか?」
「お手伝いはしていましたが、亜人族達の対応は子爵様がされていました」
「今は違うよな?何でだ」
「子爵様がもう気にするのは止めろと仰ったので‥‥」
父親の事が有って亜人族達の集落に立ち入るのを遠慮してたからか、色々知ってるのは子爵さんから聞いてるからか。どっちにしろツルギ領の事に精通しているのは間違いなく、カーラも生前の祖父の話が聞けて良かったと思う。
「デンボさんは祖父と会った事は無かったのですか?」
「何度かお目に掛っています」
「‥‥私がこの依頼の重要性を知ったのはここ数日の事なのです、祖父が何故教えてくれなかったのかが解りません」
「セフ殿はツルギ領の恩人です。御自分がそう思われてる事を自覚なさってたのかは解りませんが、それが重荷に感じてしまう事も有ったでしょう。それを継がれた貴女にも重荷と思わないよう気を遣われたのではないでしょうか」
「恩人なんてそんな。でも、有難う御座います」
亡くなっているセフ祖父さんの考えはもう解りようがないが、ただそのお陰で被害に遭った者達は今でも生きているんだから恩人と言って良い。
「あんまり気にすんなよ、取引自体は無事終わったんだ」
「はい。考えてみれば祖父が引き受けたからフツさんと知り合えたんですよね」
「この取引がなかったら護衛も必要無かったからな」
「その事は祖父に感謝しないと」
「‥‥‥俺もそうさ」
こんな良い依頼主に出会う機会なんて、この先一生掛かっても無いと思った。
次回更新は、9/2予定です。
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