①②④ハヤの心情と風呂でのカーラ
次は外に出たいっす笑
「お伝えしたらカーラさんが大層お喜びになっておりました」
部屋を出て廊下を歩いていると、言付けを終えたデンボが私達に追い付き報告して来た。
「それは重畳」
「お前様、彼女に何を言ったの?」
「離れの風呂の事だ」
隣を歩く妻が聞くので答える。
「お風呂?」
「お前の料理以外では我が家唯一の自慢だからな」
「ふふふ有難う。でもそうね、女性には何よりの御馳走だわ」
「どうせなら一番最初にとお勧めしたのだよ」
彼女が今晩泊まるよう誘いを受けたのも風呂があると言ったからだった。
『コシエ舎』に風呂は無い。近くに大衆風呂場が有るが来て間もなかった彼女達は知らないだろう。鬼人族の所を含め、数日間体を拭くくらいしか出来なかったとくれば妻の言う通り女性にとってこれ以上のものはない。
「先程は御2人で何をコソコソ話していたのですか?」
後ろを歩くデンボが尋ねて来る。
「嫌ねデンボ、コソコソだなんて人聞きの悪いこと言って」
「いえフツさんが気にしておられたので」
「彼が?どうして?」
「何か失礼な事など言ったかを心配されていました」
「あんな喋り方をしてるのにそんな事気にするなんて、彼は変わってるわね」
「‥‥」
妻とデンボのやり取りを聞きながら話していた内容を思い出す。
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「お前様はお解りになった?彼の言う事」
「目が覚めない、眠り続けている理由を見付けるんじゃなく、薬が効いている状態とは何かを調べてみてはどうかとフツは言いたいのだ」
「心臓の動きが弱い状態、じゃない?」
「それ以外にあれば、それが原因かも知れないと言う事だな」
「副作用が出ない、でも飲ませなきゃいけない、そんな症状‥‥」
「解らん、だが調べる価値はあると思う」
「私は何をしていたのかしら、死なせない事に必死で死なせない薬に目もくれなかった」
「私も同じだ、自分を責めるな」
「しかも事情を知って間もない彼が思い付くなんて、もっと早く色んな人に聞けば、この事を言えば良かったのかしら」
「誰にでも言える事ではない。だが人に話さない事で違った目線を持つ者まで遠ざけていたのは確かだろう」
「この歳になると新しい出会い自体が貴重だけど、良い人達に出会えたわね」
「私もそう思うが、惜しむらくはもっと早くに出会いたかった」
「遠回りしていたとしても良いじゃない、希望が見えたんだから」
「‥‥そうだな」
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「希望か」
来る医者来る医者に診させても原因が解らず、結局娘達を、被害に遭った者達を死なせないよう『薬』を飲ませ続けた。当初は私も副作用が出てない事を不思議に思ってはいたが、次第に生きているのだからと何処か安心し、死なせない事が目的になっていた。決して妻には悟れないようしていたが、四十年もの年月に新しい治療法を見付ける事が出来なかったのは、もしかして私に諦めがあったのかも知れない。
「子爵様?」
「ん?ああ、大した話をしていた訳では無い」
それが我が領に来てたった数日の、あのフツと言う男が良い意味で私のそれをぶち壊してくれ、感心と同時に得も言われぬ不安を覚えた。
「ねぇお前様‥‥‥フツさんの事どう思う?」
「どう、とは?」
デンボに当たり触りの無い返事をすると妻が私に聞き、自分の不安を悟られたのかと身構える。
「カーラさんの従者よね彼?その彼がナンコー領を救ったと本当にお思い?」
「そっちの話か」
「そっち?」
妻にも大まかな事は教ており、確かにあの書簡は信じられない内容だった、が。
「いや、クスナはその様な嘘など言わんよ」
「まぁ!伯爵様を呼び捨てにして」
「はははは安心しろ、人前では自重するさ」
脅しとは別に書かれていたあの警告、恐らく娘も知らないだろう、軽口でそれを誤魔化した。
「でも伯爵になったなんてね、私もまだ信じられないわ」
「うむ。しかし手腕は確かだよ、あのナンコー領を『外側領の交易拠点』と呼ばれるまで発展させたのだからな」
「進んでないのは私だけね」
「この機会に進めば良い」
「そうよね、感謝しなくちゃいけないわね」
「無駄には出来んな」
フツの事は気になるが彼女には感謝しなければ。
「今日はあの子達に話す事が一杯あるわ」
「無理はするなよ、明日もあるのだ」
「ええ」
現在の娘達の見た目は四十過ぎだが精神は三歳から止まっているのだろう、内心は娘達の事を思えば目覚めない方が良いと思う時も有る。だが妻は娘達が被害に遭って以来、その日の出来事を話聞かせていた。意識が有るのか無いのか解らないが、もし目覚めた時に時代の流れを極力感じさせないようにと思っての事だ。
「デンボ」
後ろに付いてるデンボに声を掛かける。
「はい」
「キリではないがお前はどう思った?」
「フツさんの事でしょうか?」
「そうだ」
「‥‥‥」
直ぐに答えないところを見ると彼なりに何か思うものがあるのか、私は急かずに待つ。
「フツさんは恐ろしい方、だと思います」
「恐ろしい?」
「はい。あの洞察力、それに鬼人族相手にも怖じ気付かない」
「洞察力は認めるが鬼人族の事はナサが一緒に居たからだろう」
「それは関係ないと思います、彼は‥‥何かを隠してる」
「‥‥フツはそれを匂わせたのか」
「カーラさんが少し」
「それは?」
「彼は鬼人と争っても何とかすると言ったのです。人族の彼が何とか出来るはずもないのに」
「そんな力を持っているとお前は思ったか?」
「それが物怖じしない理由ではないかと」
「ふむ‥‥他に有るか?」
「酒造りの工程を知っていました、それに原材料も知っている様子です」
「確かか」
「お待ちしている間に話をしたのですが、私が知らない事を聞いて来たくらいですので‥‥」
「ふうむ」
食前の時もあの酒を知っている態度を取っていた、まさかあの男も?
「子爵様?」
「‥‥フツが何を隠していようとお前は詮索するな」
「勿論です、彼を含め御3方には御協力して頂いているのですから」
「その通りだ、解っていれば良い」
「はい」
「少なくとも彼等は敵では無いのだからな」
今は、とはデンボには言わないでおく。
フツがもしあの『黄輪』の娘と同じなら確かめる必要がある。
「皆様のお部屋の手配を済ませて参ります」
「それが終わればお前も休みなさい」
「はい」
そう言って別れ、その後ろ姿を見ながらデンボが言った事を考えた。
「何を隠している?」
それにクスナの書簡にあった警告。
『彼を敵に回せば子爵は死ぬ』
私の歳はもう若くないが一級剣士で今までも魔獣を討伐し、亜人族達にも対抗できるよう腕を磨いて来た。人を殺すのに平民である事は関係ないが、武術の嗜みもないであろう男にこの私が??有り得ない、フツは何者なのだ。
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「ふぅ、気持ち良い」
ハヤ様のお屋敷にある離れの浴場は石造りで広く、その中の竈には火炉具で熱せられた石に飲水魔具から流れる水が掛かり、蒸気が浴場を埋め尽くしている。
「敵わないなぁ」
麻の布で体の汚れを擦り落としながら呟いていた私はフツさんの事を考えていた。
最初に『薬』を四十年も飲ませて副作用が出ていない事に何かあると言ったのは私だ。でもそれ以上の事は思い付かなかった。それはあくまで解毒薬的なものがあると思っていたからで、逆から考えるなんて思い付きもしなかった。彼はどうしてああ機転が効くのだろう。ナンコー領での時でもそれでリウ様とケンダを助けてくれた。天性のものなのか、彼が生きて来た組で培ったのか、どんな経験を積んだらそうなるのか不思議に思う。『異世界』では戦争行為しかしていないと彼は言っていたけれど、少なからずその経験も関係しているのかな。
「婿入り、か」
お父様が本気でフツさんを私の婿に迎え入れたがっているのはあの書簡で確信した。『持ち得る戦力を向かわせる』だなんて、ハヤ様じゃないけれどお父様には似合わない言葉だ。いくら私達の恩人でもお父様の性格なら気に入らない相手にはお金で全て済ます筈で、それ程彼を気に入ってると解る。ハヤ様の弟、シマを思うと伯爵令嬢と一緒になるのは一種の羨望なんだろう、でもフツさんには通用しない。御礼で差し上げた小切手の存在も忘れているんじゃないかと思う程その手の事に無頓着で、地位もお金も興味が無い。それはあの女性も一緒だ。
ステトさん‥‥フツさんに相応しいのは彼女みたいな女性かも知れない。いっその事妹のオシカに跡継ぎを譲ろうかしら、そうなったらステトさんの言う「2人でツガイ」も有り得ない話じゃない、フツさんにそんな気が有ればなんだけど。
彼の女性観を知りたい、今度機会が有れば聞いてみよう。
次回更新は、8/29予定です。
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