①②②二重の悪意
ウソです、話が続いちゃいます。まだ動きません苦笑
「失礼ですがハヤ様、元凶の真階医は如何程の金額で『薬』を提供していたのですか?」
「鬼人族達にも飲ませると知っていたのでね、正規の五倍と言った所ですか」
亜人族達に売るのと一緒の額だ。タチが悪いのは足元見るくらいじゃなくて脅しに近い、子爵さんは絶対に買わざる得ないんだからな。
「面の皮の厚い奴だぜ、自分が原因なのによ」
「‥‥その真階医が院国に戻った後もずっとその金額で?」
カーラも子爵さん達の立場に付け込んだ事を許せないみたいで、口調は冷静だが目が怒っている。
「新しく来た医者達からは三倍になりました」
「安く?」
値を吊り上げたなら解るけど。
「まさか値切ったとか?」
「いや」
「じぁ何で?」
「これからは他の領の院社から買うと脅した」
「やり返したって事ですか」
脅されたに近い金額を逆に脅して安くさせるなんて、子爵さんも商売の才能あるんじゃねぇか?
「でも子爵様、シデ殿が言っていましたが鬼人族には量が必要。他領の院社ではそのような融通など利かないのでは御座りませぬか?」
「その通りだよナサ殿、一つの院社では足らんから複数の院社を回って小分けに買うしかない」
「事情を知らない他領だったら少しばかり多くても正規で買えたのよ」
それでも現実的じゃない、手間も掛かるし仲介所に買い付けを頼むのにも費用が掛かる。
「毎回それだと面倒くさいでしょ」
「医者達もそんな事は解っていただろう、だが実際そうされる可能性も有ると思ったのではないか」
全く売れなくなるより三倍でも買わせた方が良いって、どの道欲深い医者達だ。
「毒の詳細は解らず仕舞い、『薬』頼りなのは変わらん、五倍のままでも結局は受け入れていたがな」
「まぁそうですよね」
「弱みに付け込みおって」
ナサも医者達のやり口に憤る。
「『薬』以外で何か試した事は?」
カーラはまだ諦めていない。
「院社が提供してる解毒薬などは全て試したが、この通りです」
「薬師達の怪しい薬も試したけど無駄だったわ」
「『薬』は本来救急用の薬で処方制限も有ります。ですから人族のお嬢様達にはご負担なる筈、その事を医者達は何も言わなかったんでしょうか?」
「弊害が出ていないので特段言っておりません」
「それが有っても飲ませるつもりよ。でないとあの子達が持たないわ」
今ままでも『薬』を飲ませないと心臓が止まっていた可能性の方が高い。奥さんは現実問題として表れていない副作用を気にするより、娘達を死なせない事を取ると言っている。
「キリ様のお気持ちは当然です、ですが四十年も飲ませ続けて何の弊害も出ていないのが‥‥」
「何があると申されますかお嬢様」
ナサがカーラに尋ねた。
「偶然とは思えないのです」
「むぅ俺は混血ですので薬事情は解りかねますが、わざとその弊害を出させないようにしてると?」
「それは、まだ解りません」
「カーラ殿のお考えは理解しました、偶然ではないとして他にも『薬』を進める理由が有ると思いますか?」
「どうでしょう、でも長い期間緊急用の薬しか有効な手立てがないのはおかしいと思います」
「‥‥‥」
デンボは初めから黙って聞いている。自分の父親が実行犯だからか、ナサ同様混血だからその辺りの話に詳しく無いからか。ともあれ全員が黙って彼女の言った事を考えているが、俺には思い当たった事があった。それは「何故を飲ませた者達が生きているのか」を考えると辿り着く。
子爵さんの弟シマは自分の腹違いの姉イサナとその相手マギ、そして鬼人族達を殺すつもりだった。殺す目的の毒が蓋を開けてみると死んでいない。人族の何人かは犠牲になったが耐性などが関係したからだと俺は思っているし、カーラの言った通り処方制限が有る『薬』を四十年も飲ませ続けて弊害が出ていないなんて事も確かに怪しい。
飲まされたものは毒かも知れないが殺す毒じゃなかったとしたらどうする?眠らせ心臓を弱らせるものだったら?いやもしかして『薬』を飲ませる為の毒だった?そうだとしたら何の為だ?
子爵さんは高価な薬を四十年も正規でも不法でも買い続け、それを被害に遭った者達に与え続けているんだ‥‥ぞ?
「そう言う事かよ、糞野郎が」
俺はその意図が解り思わず悪態を付いた。
「どうしたフツ?」
「フツさん?」
ナサとデンボに聞こえたらしく俺に目を向け、それに気付いたカーラが頷く。
「フツさんは何か思い当たったんですね」
「ほう」
「フツさんが?」
期待する目で子爵さん夫婦が見て来るが、思ってる様な事じゃないんだけどな。
「悪いんですけど違います」
「違う?」
「何が?」
「飲んだ毒が解ったとかじゃないって事です」
「でもフツさんは何か解った」
「まぁ。でも本筋からは外れる事だぞ」
「どういう事なのか聞かせてくれるかね」
「汚い言葉ですいませんが、胸糞悪い話になります」
「構わん」
「どんな事でも今更よ、気にしないわ」
この人達が一番の被害者だ、その本人達にそう言われると断る訳には行かない。
「確認ですけど子爵さん、シマは殺す毒の生成を頼んだって言ったんですよね?」
「あ奴はそう言っておった」
「それがどうかして?解ってる事じゃない」
「奥方の言う通りだぞフツ。邪魔な者達を排除する事が目的だったのだ、今更何を聞いておる」
「排除するつもりで殺す為の毒を頼んだのに死んでない」
「あ」
「む」
奥さんとナサの返しに俺は答えた。
「鬼人や混血だからじゃ?体力などは人族より秀でていますよ」
「幼かった娘さん達も飲んでるけど死んでないだろ」
「偶然とも考えられます」
「それは有ると思うけど、寧ろ死んだ客達がそっちだな」
「死んだ方が偶然、ですか」
「ああ」
デンボの疑問に答えると深く息を吸って自分の考えた事を説明する。
「多分カーラがさっき言った『薬』の副作用が出ていない理由がそれなんです」
「フツさんの言ってる意味がよく解らないんだけど、それではシマの婿入りする目的とかけ離れたものになるんじゃないの?」
「殺してないだけで邪魔な存在を排除出来てるじゃないですか」
奥さんの疑問に答えると子爵さんが聞いて来る。
「あの医者がわざとそうしたと言うのか?」
「俺はそう考えてます、だっておかしいと思いません?殺す為の毒を飲まされた者達が生きてるって」
「用途の違う毒を生成してシマに売ったと?ホム卿が紹介したのよ?マロ領は院国との国境でそれなりに関係も有ったでしょう、その医者にとっても裏切るなんて立場が悪くならない?」
「さっきも言ったけど一応その目的は果たしてると思いますよ、死んでないだけで」
子爵さんの混血の妹イサナとその相手のマギは眠ったまま。シマにとって邪魔ななのはその2人と、姪達と仲が良くなりつつあったサナで、この騒動の後ナサは家族共々ナンコー領へ移っている。
「狙われてなかった子爵さんと奥さんが無事なのも思惑通りで、果たし切れなかったのは鬼人族達だ」
「鬼人族の被害が男達だけだったのは‥‥」
「結果的ですけどデンボさんの親父さんのお陰ですね、下手したら女達も同じ目に遭ってた」
「‥‥フツさん」
俺はデンボに頷く。デンボの父で行商人のゴチェはデンボを身籠もってた妻を人質に取られ毒を入れる実行犯になった。貴賓客に振舞われる茶には入れずに、鬼人族達が口にするであろう茶が入った鉄瓶毒を入れ、自らそれを飲み警告しようとして失敗していた。
「偶然娘さん達が巻き添えに遭ってしまったのは残念ですが、今も息が有るのは殺す毒じゃなかったからだ」
「じゃフツさんはどうして違う毒を生成したと思います?」
カーラが聞いて来る。
どうして殺す毒じゃなかったのか、ここからが胸糞悪くなるんだよな。
次回更新は、明日8/26か27予定です
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