①②①見えない希望〖留め猫⑤〗
少しづつ動きが出てきます、ほんの少しづつ‥‥。
留め猫⑤《同日の夕食》
「ヤッパ丸焼きは美味い!!」
「アンタは良く食べるねぇ」
「若い証拠さね」
「オバさん達もよく食ってる」
オレより。
「ははは、違いない」
「鬼人は体が大きいから入るのさ」
夜はヒウツのオジさんのツガイのフゼオバさんと、ナサ兄さんのシンセキのオバさん、シデオバさん3人で飯を食ってた。あれから鬼人の雄達のトコに行って、それまで一緒に居たオバさん2人とシデオバさんが交代したんだ。
「ビックリしたかい?」
そのシデオバさんが聞いて来たケド、多分あそこでの雄のコトを言ってると思う。
「別に、あのくらいダイジョウブ」
「まぁその食いっぷり見りゃ解るけどね」
「アンタは変わった子だよ」
オバさん達が言っていた『メンドウを見る』って、雄達にハカせていた物を替えたり、体の向きを変えたりするコトで、眠っていても糞尿は出るからそれを受け止める為に布をハカせてるんだって。体の向きを変えるのはずっと同じ向きだと肌がズリムケるからと教えてくれた。
「だってオレはもっとイヤなモン見て来た。オバさん達は剣闘士って知ってるかナ、オレはソコで‥‥」
剣闘士の時は相手を殺すコトだけを考えて気しなかったケド、恐怖で漏らすヤツなんか居たし、死んでもそれは漏れてた。手足を切り落としたり、内臓が出ていたりと、それに比べたらあの雄達を見ても全くヘーキ。腹に穴開いてタツ院国売られて受けた仕打ちに比べてもそうだし、そのヘンのコトを少しだけオバさん達に教える。
「‥‥そんな経験してたなんて」
「ステトは辛い人生を過ごして来たんだね」
「オレだけじゃナイ、フツもタイヘン?な目にあってるんだ」
「アンタの仲間かい?」
「ウン」
シデオバさんはフツに会ってるケド、フゼオバさんはまだ会ってない。
『異世界』のコトはヒミツだからそこは飛ばしてフツの話をした
「そうかい‥‥外を知らないって駄目だね」
「あぁ、自分達だけが虐げられてるとか思ってしまってさ」
「?」
オバさん達の肉を食う手が止まってる。もう腹一杯になったの?
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力になると決めた俺だが、正直ツルギ領又は子爵さん夫婦の為に具体的に何をすれば良いのか今は解らない。先ずはステトを取り戻さないとな、あいつを留め置かれた状態じゃ何をするにもモヤモヤしたままだ。
「その前にカーラ殿達の御仲間とナサ殿の事を何とかせねば」
俺が考えていた事を察したかのように子爵さんが人質になってるステトの事を気遣ってくれる。
「分けて取り組む訳には行かないですよ?」
「解っている」
その切っ掛けとなったナサの鬼人族帰結の事も交換でステトを解放すると族長が無茶をした結果が今なので、当然この二つは同時に解決すべき事柄だ。
「あなた、ヒラは本気で言ってるとお思い?」
「さてな。あの頑固爺はそうかも知れんが、シデや他の者達は違うだろう」
「1人で暴走しているのね‥‥マギがあれだから」
マギとはヒラ・ヨスタ(鬼人族の族長)の息子でナサの父親ケシ・ミツグと親友だった。奥さんの言う『あれ』とは四十年前の一件で毒を飲み、子爵夫婦の娘達同様今も眠ったままの事を指している。
「ナサちゃん達を追いだした癖に」
奥さんも当然過去現在の状況を知っているみたいで、呆れる様に首を振り吐き捨てた。
「そう言うなキリ、彼等も被害者なのだ」
「解ってます、でも」
「お2人共、今その話は止めましょう」
話が前に進まないからか、珍しくカーラが夫婦の会話に割り込む。
「私ったら、ごめんなさいねカーラさん」
「いえ感情的になられるも当然です、ですがこれからの事をお話する方が良いと思うのです」
「済まないカーラ殿、貴女の言う通りだ、過去に拘っても未来は無い」
「そうね、これからどうすかよね」
凄惨な事件だったからどうしても過ぎた事を気にしてしまう。そう、大切なのはこれからどうするかだ。
「カーラ殿から何か御意見など有りますかな?今の状況について」
「確認しても構いませんか?」
「どうぞ」
「飲まされた毒が何か、どんな薬だったかは何も解らなかったで間違いないですか?」
「弟シマとホム卿にも問い詰めたが、そう解らない」
「その後マロ領とは?」
「あれ以降一切の関係を断っています。ホム卿は何年か前に亡くなっいて、王宮で今の領主に顔を会わせたが互いに無視ですな」
王国属の貴族は最低でも年に一度王宮で開かれる国王の誕生祭には参加しないといけない。そこで新しい領主に会っても過去の遺恨は残ってると言っていた。
「その新領主殿は弟御の?」
ナサが既に死んでいる弟シマのかつての婚約者が継いだのか聞く。
「そうだ、マロ領初の女性領主になる」
「あの件が有って違う相手見付けたんですかね?」
かつての令嬢も今は五十も半ばくらいか、シマが死んで別の男と一緒になってても何もおかしい事はない。
「独身らしい、未だな」
「あれからずっと独身ですか」
まさか操を立ててるなんて事は無いだろう、撥ねられたシマの首を見て精神的な傷を負ったか。気の毒だと思うが事件の切っ掛けはそのかつての令嬢、今のマロ領主と言って良い。親の罪も合わせても償いには軽いくらいだ。
「ハヤ様が事後の後、お嬢様達の他に被害に遭われた方々のご処置をどうなさったのか教て下さい。どうして毒に『薬』をお使いになったのか、院社の医者の見解など」
「相解った。あの時は私も相当慌てていたので‥‥」
子爵さんはまた当時の事を話し出す。
事態が収拾するまで時間が掛かったが、意識を失ったままの者達の治療にすぐさま院社に駆け込む。息があっても死蔵の鼓動が遅く感じられるなど、ハヤはこの症状を説明し実際に娘達を診させた。それと同時に飲まされた物が何のか、症状を診て思い付く事はないかなどと医者達に尋ねた。しかし残念ながら数人の医者達、果ては薬師にも診させたが検討も付かないと言う答えしか帰って来ない。
このまま放置したらどうなるのかと聞くと、それも解らないと言う。途方に暮れたが1人の真階医が取り敢えず延命させるには『薬』が宜しいでしょうと提案し、ハヤはその『薬』の事を詳しく知らなかったが、試しに娘達に飲ませた所、確かに鼓動が力強いものへと戻ったのであった。
「『薬』を処方したのも、例の真階医だったのですね?」
「そうです、弟シマが毒の生成を依頼した真階医が勧めました」
「知ってて『薬』を‥‥」
「毒を作った者に毒を飲んだ者の薬を融通して貰っていたとは、我ながら間抜けな話です」
「ハヤ様が知ったのは事後の一年後です、何の責任も有りません」
「しかし私がいち早く気付いていれば」
「子爵様にはどうする事も出来なったと思いますぞ」
「お2人の言う通りです!あなたには何の責任も無いわ!」
カーラとナサが庇い、奥さんもそれに同意する。
「‥‥有難う、ついぞ過去を後悔してしまうのは悪い習慣だな」
「その真階医は事後の一年後に帰国したんでしたよね?」
「私がシマとホム卿から子細を聞き出したからだろう」
出世するタイミングが良過ぎると思ったら、バレたから逃げ帰っただけか。
「真階医が居なくなってからは?つまり新しく赴任して来た医者ですけど」
「それから新しい医者が来る度に娘達を診て貰い、同じ事を聞いたが結果は」
「‥‥どの医者も解らないと言うのよ」
子爵さんは首を振って奥さんがそれに続いた。
「何を飲ませたか欠片も解らない、か」
「フツさんに考えがあって?」
俺の呟きを奥さんが拾う。
「いやね、カーラと前に話してたんですが」
「キリ様、ナンコー領には院国から亡命して来た正階医などの医者達が居ます。私は毒の詳細さえ解れば何とかなると思っていました」
「そうなのね、でも」
「その御気持ちは感謝しますが、それは無理でしょう」
「‥‥はい。残念ながら生成した者でないとその毒の事は解りません。生成で使った『魔術』などを知らないと対抗する『薬を作る事が出来ない‥‥逃げ帰った真階医を見付けるか、生成方法を知る者を見付けない限り解毒薬を作る事は難しいかと」
「その者を探すのは現実的では有りませんな、それに移動して来た医者達に毎回言われてる事です」
「‥‥すみません」
子爵さんの言い方からなのか、力になれないからか、カーラは俯き加減にそう言った。
「あなた!」
「おっと申し訳ないカーラ殿、私の言葉が悪かった」
「いえ、私がいけないのです。お2人のお気持ちを解ってる筈なのに」
「カーラさん、気になさらないでね。爺はその辺の配慮が足らないのよ、おほほほ」
また言った爺って。
「おいおい勘弁してくれ、お前が私を年寄り扱いしてどうする」
「カーラさんは孫みたいな年齢なのよ。実際そうじゃない」
「そう言えばそうか、いやそうだな。ははははは」
デンボが奥さんが今日ははしゃいでいると言っていたが、それは娘達が無事で子を成していたらカーラや俺みたいな歳の孫が出来ているかもと想像しての事だと言う。
でもこんな場でそれを思うか?笑えるか?
このまま何も変わらず、ずっと眠っている者達が目を覚まさないと言われた様なもんなのに、この夫婦には落胆どころか笑ってカーラを、俺達を気遣ってくれている。
「子爵さんはそうだったけど、奥さんにも負けたな」
最悪から逃れられない時もある。俺達が役に立てない可能性も有る。でもこの夫婦から希望だけは捨てさせる訳にはいかない思った。
次回更新は、明日の8/25予定です。
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