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①①⑨四十年の愛情

これだけ書いてるのにツルギ領に来てまだ四日目???苦笑


「お前様、入りますよ」

(キリ)さんが案内したのは客を招く食堂にしては少しこじんまりとした部屋で、既に子爵さんが席に着いていた。


「ようこそ我が家へ」

「今日はご招待有難う御座います」

「有難う御座る」

「どうも」

俺達が入ると子爵さんが立ち上がって出迎えてくれ、俺達3人は子爵さんのそれに応える。


「遠慮しないで(くつ)ろいでね。デンボ、彼方は手伝って頂戴」

「はい奥様」

案内を終えた奥さんはデンボを連れて奥へ消えた。


「私的な部屋でね、手狭だが好きな所に座って下され」

「では失礼します。ナサ様、フツさんも座らせて頂きましょう」

「は」

「はいよ」

各々適当な椅子に座ると子爵さんが真面目な顔で俺達に向き直った。


「改めて此度はヒラが迷惑をお掛けしてしまって本当に申し訳ない」

「ハヤ様、今晩はお忘れになって下さい」

「子爵様の責任では御座らん」

「‥‥それなのに我が領の事まで気遣って下さり感謝してもし足りません」

律儀な子爵さんだからな、飯の場でも頭を下げようとしている。


「謝るのはもうやめて下さいよ」

「お前の相棒は私がちゃんと取り返す」

「俺は族長(じじい)を絶対殴ります」

「はははは、それは頼もしい」

コンコン

丁度その時デンボが酒を持って部屋に入って来た。


「失礼します、お食事の前に乾杯でもと奥様が」

「うむ。では皆さん一先ず乾杯といきましょう」

俺の軽口で気分が楽になったのか、子爵さんはデンボから酒を受け取るとグラスを持ち上げ、そうして皆が酒を手にすると音頭を取る。


「乾杯」

「「「乾杯」」」

一口飲んだ酒は『スイートポテト』や『ポテト』で作った酒だった。


「これは我が領が五年前から始めた酒造りで造った酒なのだが、どうかね?」

「「タイジュウ」と「バイジュウ」でしょ、美味く出来てると思いますけど」

「何だ知っているのか、詰まらん」

「いやそんな事言われても」

詰まらんて。


「実はハヤ様、私達は『コシエ舎』で飲んだ事があるのです」

「そうでしたか、それはそれは。してカーラ殿の感想をお聞かせ願っても宜しいかな?」

「私はタイジュウを飲みましたがあんな匂いのするお酒だと知らなくて驚きました」

俺が匂いに癖が有ると教えていたのを隠してくれてる。


「やはり匂いが気になりますか」

「あ、でも匂いは慣れたので大丈夫だったんですが」

「他に何か?」

「お酒の強さの方が私にはちょっと」

「ワインの倍は有りますからな、カーラ殿の様な酒に強くない方には少々口に合いませんでしか‥‥」

そんな残念そうに言わなくても子爵さん、彼女は正直に感想言っただけで不味いとかじゃ無いんだから。


「ですのでお水で割って飲んだんです」

「‥‥‥水で割るですと?」

この世界じゃ酒を何かで割るって事は普通しないからな。


「はい、お水で割れば自分好みの強さに調整出来ますし匂いも気にならなくなりました」

「‥‥カーラ殿はそれを誰から?」

「それはフツさんが、あ」

さっきは隠してくれたのに言っちゃったよ。


「フツ?」

そして子爵の目線が俺に向けられる。

別に俺が教えたって隠す必要も無いとは思うが、俺が考えたんじゃないって答えるとじぁ誰からだって話になる。まさか異世界で知ったとは‥‥試すか。


「何故水で割ろうと思った?お前はこれまでにこの類の酒を飲んだ事があるのか?」

「ハヤ様、フツさんは」

「有りますよ」

カーラが取り繕ってくれ様とするのを遮って認めた。


「フツさん?」

()いのかフツ」

カーラが驚き、サナも俺が認めた事に意外らしく小声で聞いて来たが、それに答える前に子爵さんがまた質問をして来る。


「ほう、有るのか。この手の酒はまだ王国でそんなに出回っとらんぞ?」

昨日の夜デンボにもした事だが、この世界に存在しなかった『スイートポテト』や『ポテト』の事を知っていると匂わせ、子爵さんが何かしらの反応をするのを試してみた。


「‥‥‥」

「‥‥‥」

睨み合い程では無い沈黙になるが俺は答えない。


「‥‥何処で何を飲んだかなど私に聞く権利は無いか」

「気にならないんですか?」

「気になる、と言って欲しいか?」

食い付いてくれよ子爵さん、逆に俺はあんたが何処で(あれ)を手に入れたか気になってるんだ。もし異世界に関わる何かを知っているのなら教えて欲しい。


「フツよ」

「はい」

「この酒はそれに引けを取って無いか?」

「‥‥俺は気に入ってます」

「そうか、ならばもう聞かん」

「ハヤ様、これにはその、フツさんには」

少し剣呑な空気になっていたみたいでカーラが俺を庇おうとしてくれる。


「今の話は気にしないで頂きたいカーラ殿」

「は、はい」

「それよりですな、水の他に試されてはどうだろう」

「え?」

「いや閃いたのですよ、我が領の茶などはどうかなと」

それ絶対良いと思う。


「ただでは起きませんね、何だったんですかさっきまでの話は」

「はて?何だったか、まぁ気にするな」

「それもさっきまで子爵さんがしてたんですけどね」

「そうか?はははははまぁ良いではないか」

相変わらず子爵さんの態度には嫌味が無い。何か誤魔化された気もするが、俺もまぁ良いや。


コンコン


「失礼します」

またデンボが入って来て今度は飯に必要なあれこれを持って来た。


「もう少しで御食事が出来上がると奥様が」

「解った」

それらを置いてデンボは再び奥へ消える。


「ハヤ様、デンボさんとキリ様は何をなさっていらっしゃるのですか?」

「妻は料理をしていて、デンボは手伝いです」

「キリ様が自ら?」

「心配には及びませんぞ。あれの料理は中々のものでして」

「あ、いえそういう意味では無いのです」

「‥‥使用人や料理人を使わないのかと、言う事ですかな?」

「失礼ながら、はい」

当たり前だが、領主の妻が客に手料理を振る舞うなんて、よっぽど料理好きか、雇う余裕がない貧乏貴族くらいなもんだ。今は酒造りで以前ほど貧しくない筈だし、料理の出来る『黄輪』の使用人も居る筈で、カーラが言ってるのは貴族の女、しかも子爵夫人が自分で料理をするのが考えられないと言う事だ。


「もう我が家では当たり前の事となってるので、そう改めて聞かれると何とお答えすれば良いのか」

「お客様が来られた時だけでは無いと?」

「そう、ずっと家内が料理をしてくれておりますな」

「もしかしてキリ様はあの件が」

「‥‥もう心配は要らないと言っているのですが」


奥さんは娘達が毒を淹れられた事を引きずってるんだ。だから旦那の子爵さんまでそんな目に合われたらと心配で極力口に入る物を管理し続けている。目を覚さない娘達の面倒を見、夫の心配もし続け、老けて見えるって思ったけど、それだけ苦労してるんだから当然だ。


「ずっと管理されるって大変ですね、する方も大変ですけど』

「妻が来る前だから言うが最初の頃は正直辟易していたんだ。私が口にする物全てを自分で用意すると言って実際にそうしていたんだからな。だがそれも時が経つとマシになって、茶などは使用人達が用意しても何も言わなくなった。未だ料理だけは自分でしているが、あれはもう習慣で気が付けば四十年続けていた訳だ、我妻ながらよくやる」

「愛情籠った飯食えるんだから幸せ(もん)じゃないですか」

「はははは!私もそう思う」

本当に前を向いてる人達だな。


「お待たせしたかしら」

酒をちびちびやりながら子爵さんがナサ家族の話をしたり、カーラが今のナンコー領の話をしたりしてると、奥さんとデンボが部屋に料理を運んで来てくれた。


「キリ様、私もお手伝いします」

「カーラさんはお客様なんですから」

「いえお気になさらないで下さい、私がしたいんです」

まるで嫁と姑のやり取りを見てるみたいだぞ。


「じぁこのお皿をお願いして宜しいかしら?」

「おいおいカーラ殿は今回ナンコー伯爵家の名代として来られたんだぞ?失礼だろう」

「ハヤ様もお気になさらず、私も楽しんでますから」

子爵さんの気遣いをかわして奥さんから料理が乗った皿を受け取り、机に並べて始める。


「お嬢様、俺も何か」

「駄目ですナサ様」

「しかし」

「良いから座ってろよ」

あんたが運ぶ料理なんて笑えて食える自信が無い。


奥さんを手伝うカーラを見てると本当に楽しんでるんだなと解った。彼女の実母は流行病で死に、継母と異母弟は死罪になった(てい)で平民となり今は逆隣のスタダ領に居る。そんな複雑な家庭環境だから、こういった普通の母親とのやり取りみたいな事が新鮮なのかも知れない。ま、敢えて言うと奥さんはカーラにとっての祖母さんくらいの歳なんだけどな。


「どうぞ」

「有難さん」

「フツさんに料理をお作りしたらこんな感じなのかしら、うふふ」

「おいおい」

何かとんでもない事言った気がするけど‥‥まぁ良いか、今日は「良いか」が多い気がするけど‥‥‥これもま、()っか。


次回更新は8/22予定です

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