①①⑧キリ・ツルギ
奥さん登場です。
そしてまた少し次から事情的要素が増えます笑
「お?もう夕暮れか」
「そうみたいですね」
「魔術ってやっぱり無くちゃ不便だよな~」
「一度知ってしまってますから」
鬼人族の集落とは違い、子爵さんの屋敷には『照明器具』が備え付けてあった。外が暗くなったのか光を灯したのでそうカーラに溢すと彼女も頷き、俺達2人はこの一般的な生活の魔具の有難さを改めて認識する。
「俺は無くても平気だぞ、集落にも慣れれば問題は無い」
「私には『証明魔具』が少し眩しく感じますね」
さっき戻って来たナサがそう言いデンボは目を細めているが、それは混血のあんた達の目が良過ぎるからだ!と心の中で突っ込んでおいた。
「修理はどうだった?」
夕食に呼ばれるまでまだあるみたいなので、ナサがデンボと外に出ていた成果を聞いてみる。
「デンボ殿のお陰で助かった」
「それ程の事でも有りませんよ」
「武具屋か?」
「いえ、鍛冶屋です」
「その主人がドワーフ族でな、人族の職人では難しいと言われたから運が良かったのだ」
また出たドワーフ。
「何で無理なんだよ?」
「俺の大剣が堅いからだと」
そのまんまだな。
「じぁ大剣直るんだ?」
「少し手間が掛かるが直せると言っておった」
ナサは鍛冶屋に大剣を修理に出し、仕上がるのは数日後になるみたいだ。
「ツルギ領の鍛冶職人は少ないですが腕は確かです」
「うむ、良い鍛冶屋に巡り合った」
「良かったですねナサ様」
「は。お嬢様を御守りするのに素手だけでは心元無かったので助かりました」
いや、あんたは素手でも大丈夫。それにしても人族の鍛冶屋じゃ無理って、ナサの大剣はどんな材質してんだよ。
「大剣の代わりになる剣など無い」
「何で?でかい剣は他にもあるだろ」
「俺の力に耐え得る剣を見付けるのに苦労するのだ」
「ナサさんの大剣って自分で手に入れたのか?」
「俺が爵位を賜った時、クスナ様から頂いた」
「お父様の事ですから、きっとそれなりの素材を使って作らせたんでしょうね」
「なるほど」
伯爵さんが授けたんならカーラの言う通り、かなりの業物で人族じゃ直せない堅さってのも納得出来る。でもそれを殴って曲げた鬼人のヒウツがとんでもない奴だったと思い知らされもした。今度会ったら余り怒らせないでおこう。
コンコン
「はい」
扉を叩く音がしデンボが対応してくれる。入って来たのは老齢の細身女性で、首に『付輪』は嵌められてない。
「これは、奥様」
「誰の?」
「奥方とな」
「フツさんナサ様」
一瞬飲み込めなかった俺達にその女が誰かを理解したカーラがすぐさま立ち上がる。
「奥様が何故?」
「それよりデンボ、早く皆様をご紹介なさい」
「あ、これは失礼を致しました。カーラ様、ナサ様、フツさん、ツルギ領主王国属子爵ハヤ・ツルギ様の御妻女キリ・ツルギ様で御座います」
デンボが紹介した奥さんは色白で、夫の子爵さんより少し老けて見える。しかし物腰は凛としつつ温かみが感じられ、何となくお似合いの夫婦だと思った。
「初めましてキリ様。ナンコー領主王国属伯爵クスナ・ナンコー長女、カーラで御座います」
「お初にお目に掛る、ナンコー領属騎士ナサ・ミツグで御座る」
「御丁寧な御挨拶を有難う、ハヤの妻キリです。ようこそお出で下さりました」
仰々しい挨拶を他人事の様に眺めてるとカーラとナサ、デンボまでもが俺を見ている。
「何だ?」
「フツさんも」
「お主もだ」
「フツさん」
どうやら俺にも挨拶しろと。いや言われなくてもするつもりだけど、あんな貴族的な後で俺は何て言えばいいんだよ。
「え~っと、ですね」
「彼方は平民?」
「そうです」
「では夫が言っていた興味深い方とは彼方の事ですね?」
「男に興味持たれても」
「フツさん!」
「フツ!!」
「え?だって」
カーラとナサの突っ込みが激しい。
「奥様、フツさんはこういう事に慣れてない御方で‥‥」
今度はデンボが庇ってくれる。俺そんな酷いか?
「確かに爺に言い寄られてもねぇ」
「寄られてませんけど?」
夫を爺って、印象と違って口が悪い。
「じゃ私が言い寄ろうかしら?」
「奥様?」
「奥方?」
「キリ様?」
奥さんの返しに他の3人が唖然とした。
「子爵さんに怒られますよ?」
「怒られなかったら?」
「俺が殺されます、来世で会いましょう」
「っぷ」
吹き出したと思ったら奥さんがいきなり笑い出す。
「おほほほほほ!」
何か解らんが受けたみたいだ。
「あの~」
「面白い方ね彼方、お名前は?」
「あ、遅れてすいません、俺はフツ、ただのフツです」
俺も頭を下げて挨拶くらいは出来るぞ。
「初対面でこんな事聞くと失礼かしら」
「いやもう手遅れですけど、何ですか?」
「その言い草っ、ほほほほほほほ」
少し老けてるなんてとんでもない、笑うその姿は若々しかった。
「ほほほ、ほ、ふぅ久し振りに笑っちゃったわ、では聞きますけどフツさんはカーラさんとどんな関係?」
「はい?」
「キ、キリ様何を」
今度はカーラ?いきなり矛先を向けられた彼女がたじろぐ。
「良いわねぇ若いって」
「奥さんも十分若いですよ」
「あら人妻を口説く気?」
「参ったな、これじぁさっきと逆だ」
「うふふふ、お返しね」
夫の子爵さんと負けず劣らずの茶目っ気だな。
「あの奥様、何用でいらしたのでしょうか?」
「何言ってるんですかデンボ、御夕食の準備が出来たから迎えに来たに決まってるでしょう」
「奥様が直々にですか」
「我が家に久し振りにいらしたお客様ですよ、居ても立っても居られないじゃない、そうでしょフツさん?」
「え?いやまぁ、そうなんですかね」
「そうなのよ、さ、旦那様も御待ちだから皆さん参りましょう」
「ちょ、お待ち下さい奥様」
歩くの早い!
「何か、俺が思っていたのと違うな」
俺が想像していたのは、もっと暗い感じの女だった。娘達が犠牲になって四十年その世話を続けていると聞いていたからもあるが、今のツルギ領で領主の妻で有る事も決して楽では無いと思う。でも奥さんの颯爽と歩く姿には悲劇に遭った事を感じさせない力強さが有った。
「デンボさん、奥さんてどんな人だ?」
奥さんとの距離が結構開いたのでデンボに聞いてみる。
「あんな感じの人ですね」
「随分ざっくりした答えだな」
「奥様の人となりはこれからお解りになりますよ、強いて言えば今日はしゃいでおられるみたいです」
「はしゃぐ?」
「カーラさんやフツさんは孫と言っても良い御年齢です、もし御嬢様達がご無事なら‥‥‥」
「それを想像して楽しんでるって?」
「そうは言いませんが、お若い御2人とお話し出来る事が楽しいんじゃないでしょうか」
「‥‥ふむ」
普段の奥さんを知っているデンボが言った事を考えると、あれはあれで自然なんだろう。じぁ何であんな風に居てられるか、颯爽と明るく笑顔で居てられるか。
「キリ様はご無理をなさってるのではありませんか」
「お嬢様は奥方が我等に気を遣っておられるとお思いか」
カーラとナサの会話が前を歩く俺にも聞こえて来た。
無理してる?気を遣う?いやそうじゃない。
「キリ様はお辛い筈です、でもそれを表に出せば私達が気にすると思ってかも知れません」
「我等にその姿を見せぬ為に」
辛さを取繕うなんて事はしないと思う、それをすればこっちは気を遣う事になり、遣われた奥さんが惨めになるだけだ。
「それとも苦悩なさっているハヤ様を元気付かせ様と明るくなされてるとか」
「子爵様を思って‥‥考えられますな」
違う、そうじゃない。
奥さんは子爵さんの健康状態を『黄輪』の女奴隷達に目を光らせさせたりしてずっと支えて来たんだ。あの態度が無理してやってるんなら四十年間それを続けているって事になり、とてもじゃないがそれじゃ自分が持たない。
子爵さんも四十年悲しみ続けながら残された自分達で必死にツルギ領を運営してる。酒造りもそうだし奴隷政策もそう。やり方はどうであれ、これだけでも軟な人じゃ無い事が解る。強くならざる負えなかったって事もあるだろう、何より先の見えない辛さを抱え込み、生きていけてるのはその希望を捨ててないからだ。
そう、あの夫婦は前を向いてるんだ。
「キリ様のお気持ちを無駄には出来ません、私達はいつも通りでいましょうナサ様」
「は」
向こうはそんな事気にしないよ。
俺は後ろを歩く2人の考えに頭の中で勝手に反論していた。
次回更新は、明日か8/20辺りになる予定です。
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