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①①⑤子爵家の事情(一応の決着)

少し長いです。これで事情は終わりますが、まだ別に同じ様な展開が始まります苦笑

繋げてるつもりなんですが、無理くりと思われてもドンマイです笑

「あの惨事から一年近く経ち、私が自らマロ領に赴いた」


子爵さんが鬼人族の集落で開いた宴で行われた陰謀の画策者、それは(シマ)なのだが、マロ領でその本人から聞き出したと言う話を聞いている。


「何で一年経った時だったんですか?」

もう子爵さんもこの時点で(シマ)が怪しいと思ってた筈で、乗り込むなら一年も待つ必要は無い。


「亡くなった客達の家元への対応、生き残ったが目を覚まさない者達への対応、領内の亜人族達を落ち着かせる為の対応、その全ての事態収拾に時間が掛かっていたのだ」

「そんなに?」

「特に亡くなった客達への事がな」

「ハヤ様がお招きになって犠牲になられたお客様とはどの様な方々だったのですか?」

カーラが客の事を尋ねた。


「主に他領から招いた商人達ですが中には貴族付(つき)の者も()りました」

「‥‥それは大変な問題になった事でしょうね」

「はい。特に貴族付(つき)の者達への対応は私が説明と謝罪に出回りました」


貴族付(つき)』とは貴族が直接が行けない商談などに代わりにそれを行う商人で、商売の代理とは言えその意を汲んだ商人が殺されたんだ、一つ間違えればその貴族を狙ったと誤解されかねない。だから子爵さんは自分で頭を下げに行ったと言っている。何人呼んだか知らないけど、その全員の領に足を運んで頭を下げ回ったらそのくらいは時間が掛かるか。


「それで済んだんですか?」

「無論賠償金を払った」

「‥‥ですよね」

新しい産業の目途が立った祝いの席だったのに、これじぁ泣きっ面に蜂だよな、ほんとよく子爵さんは持ち堪えたと感心するぜ。


「その決着を付けるのに半年掛かっている」

「じぁあとの半年は?」

「待っていたのだ」

「待つって何をです?」

「シマが正式に婚姻を発表するまでだ」

「婚約発表では無くて婚姻ですか?」

(シマ)と取り巻き連中は参事の後直ぐにマロ領に向かっていた。でもまだ婚約者だったし、それを一年マロ領に滞在するなんて婿入り先のホム伯爵は何も言わなかったんだろうか。そもそも当主である子爵さんの許可を得てない、なのにその(シマ)の結婚発表まで待ったって?


「あ奴等がマロ領に入ってから幾度となく戻って来いとの手紙を出した。だが何の返事も無かったので今度は我が領の兵長を使いを出し、連れ戻させ様としたがマロ領側が入領を拒否した」

「拒否?」

「理由は兵長が亜人だからだ」

「『聖側領』は度し難いで御座るな」

ナサが呆れてそう言い、子爵さんは頷いて話を続ける。


「私はホム卿宛てに婚姻は破棄させて欲しいと書簡を出したがなしのつぶてだった。どうせシマが戻りたくないと婚約者である令嬢に泣き付いたのであろう、容姿だけが自慢のあ奴の事だ、年若い娘を篭絡させるなど容易(たやす)かったと思う」

縁談自体がその伯爵令嬢の希望だったしな、惚れた弱み付け込んだんだ。


「それでもうあ奴等が画策したと確信した。だがいきなり当主の私が乗り込む事は出来ん。呼ばれもせんのに行ったとて追い返されるのは目に見えている」

「子爵さんにそんな事するんですか?貴族同士なのに?」

「婿入り先が伯爵家ならな、カーラ殿ならお解りでしょう?」

「確かに」

「そうなのか?」

「はい。身分が上の貴族家に赴くならそれ相応の理由が必要になるんです。招かれてもいないのに押し掛け、それを断られて苦情など言っても通用しません。礼儀に沿った行為なら先方も無下には出来ないんですが‥‥」

「貴族の序列、ね」

礼儀も何も罪人を引き渡せって言ってるだけなのに、貴族の建前ってのは面倒くせぇな。


「確固たる証拠が有れば良かったが残念ながら無かった、その為にもシマと会う必要が有ったのだ」

「その理由付けが結婚発表ですか」

「そうだ」

子爵さんが頷く。


「だから私はもう婚約云々に何も言わずシマの思い通りにさせた」

(シマ)が先走るまで待ってたんですね」

「ホム卿にも直接会って聞かなくてはならん、婚姻発表でも披露宴でも何でも良い、兎に角来賓としてマロ領に入る機会が欲しかったのだ」

マロ領に入りさえすればこっちのもんって事だろうな。


「子爵様」

「何かねナサ殿」

「亜人の兵長殿が拒まれたと仰っていましたが」

「いくらマロ領が亜人族を嫌おうとも来賓が連れている者は拒めんよ」

「でも良い顔はされなかったでしょ?」

「関係無い、連れて行ける領兵を全て連れて堂々とマロ領に入ってやった」

「流石は子爵様」

何に感心してんだあんたは。

ツルギ領の兵には亜人族が多く在籍しているだろう、それを『聖側領』のマロ領に連れて行くって、揉める気満々じゃねぇか!


「そういう訳で一年後マロ領に赴き、そこでシマから事の詳細を聞き出した」

「よく素直に白状しましたね、どうやったんです?」

「女性の前で言うのは(はばか)れる」

この意味を俺とナサは直ぐ解り、女性と気遣われたカーラも理解して頷いている。

つまりは拷問だが、人ん()で拷問なんて普通やらないと思うぞ。


「周りは気付かなかったんですか?子爵さんが(シマ)を痛め付けてるって」

「悲鳴は聞こえていたかもな、兎も角シマは全ての罪を認めた」

「でもハヤ様、ホム伯爵は何も言わなかったのですか?自分の屋敷で、その、それを行った事に対して」

「無論、騒ぎを聞き付けた供の者と部屋に飛び込んで来ました」

「子爵様はそれをどうなされたので御座る?」

「その状況を利用してホム卿にも聞きたい事を聞いた」

「恐れ入りました子爵様」

「え?」

ナサは感心したみたいだけどカーラが若干引いていて、主従の価値観の差が見て取れた。

しかし敵地と言って良いマロ領に乗り込み、(シマ)を拷問してその姿をまた脅しに利用したとか、平然と言う事じゃ無いぞ。


「ごほん、それでホム伯爵から何か聞けたんですか?」

もう子爵さんの事が何となく解ったから話を進める。


「シマに混血の姉を排除せよと言った事」

(ポーション)を作った医者の事は?」

「紹介したが、その者の事は詳しくは知らんと言っていた」

「信じたんですか?」

「股を汚していたから本当だろう」

「うわぁ」

まだ全然解ってなかったわ、伯爵に漏らさせるって。

下手しなくても根に持たれるし、王宮内や貴族間の関係にも良い影響は与えないのに、それだけ腹が立ってたんんだろうけど、よく無事に戻って来れたな。


「子爵様は咎人の弟御(シマ)を連れ帰ったのですか?」

ナサが罪人のシマをどうしたのか聞いた。


「全てを聞き終えた後首を()ねた」

「何処で?」

「その場で」

「‥‥いや死罪には違いないですけど」

この人は優しいけど絶対怒らせたら駄目な人だ。


「連れ来ていた兵達に取り巻き達を捕えさせ、同じく首を撥ねた」

「マロ領内で?」

「責任は向うにもある、それを咎めると言うのなら、私は」

子爵さんはそこで一旦止め、当時の感情を思い出したのか首を振る。


「私はそのままマロ領を攻めるつもりだった」

そうか。腹が立ってた所じゃない、煮えくり返っていたんだ。娘達、妹、領民である鬼人族、脅され罪人となったデンボの父親、招いた客人達、ある意味では新産業の茶もそうだ、その全ての犠牲者の恨みを晴らしてやろうと思って、貴族や領主みたいな重いものを背負ってても、無茶でも論理外でも暴れるつもりだった、(やる)つもりだったんだ。


「子爵様はそこまで」

「戦をなされるつもりだったと」

「どうして‥‥皆様の敵討ちですか?」

デンボとナサは驚いたが、カーラは違った反応を示す。


「敵討ち?いや、全く違うとも言い切れませんが(ポーション)を飲まされた者達は生きていました、まさか四十年も意識が戻らないとは想像もしておりませなんだが、当時は生きているなら大丈夫、意識も(いず)れ戻ると思っていました」

「ではどうして領主の貴方様がその責を放棄する様なお考えに」

彼女の言う事は貴族目線での意見だが、それは恐らく真っ当な意見なんだろう。二百年先祖が守って来た領地と領主と言う立場を、一時の感情でその全てを掛けて戦いをする愚行を選ぶなんてと言っている。

一方で家族を、仲間をそんな卑怯な方法で酷い目に遭わされ黙ってられなかった子爵さんの気持ちも解る。


「性に合わねぇなやっぱり」

カーラは伯爵令嬢でナサは領属騎士だから貴族側で、ナサが言っていた喧嘩も自由に出来ない身分だ。

何にもない俺はやられたらやり返す。そんな当たり前の事を我慢しなくてはいけない貴族が少し滑稽に思えた。


「‥‥シマが持ち込んだ茶の苗の事をホム卿が白状したからです」

「父と母が始めた茶の事ですか?」

「そう、ナサ殿の両親が苦労して完成させた茶を、苗を持ち出し既にマロ領で植えていると聞いて私は切れたのだ」

「子爵様」

その茶を新しい産業にしようと、ナサの両親に鬼人族達、デンボの父親、ツルギ領全体が頑張って完成に漕ぎ付けたのに全てを壊されたんだ。それを毒を入れられた一因があるホム伯爵のマロ領に横取りれたと知れば、ぶち切れるに決まってる。でもだ、いくらぶち切れても同じ王国の貴族に手を掛けるのは不味い。


「まさかホム伯爵を?」

「殴りはしたが殺しはしていない、カーラ殿言う通りだよ、領民を捨てては置けんからな、それに意識が戻らない者達の事もある。戦は思い留まり金を払わせる事で決着させた」

「お辛かったでしょうが御英断だったと思います」

「カーラ殿にそう申されると‥‥ふむ、あれで良かったのでしょうな」

「はい」

子爵さんは未だにその落とし所を悔いているのか、それとも納得しようとしているのか、その声には妙な諦めが感じ取れる。


「よく我慢出来ましたね」

俺は少し和ませようと軽い口調で言った。


「そこで暴れても結局は私の自己満足だ、しかし」

「しかし、何です?」

「もう一度あの場に戻れるなら‥‥それは解らん」

振り上げた拳の行先がまだ見付かって無いのか、不完全燃焼なんだろうな子爵さんは。


次回更新は‥‥8/13.14辺りになります~

読んで頂き有難う御座います。

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