①⓪⑨子爵家の事情(繋がる者達)
読み返して無いので誤字脱字あると思います!!
想像力で乗り越えて下さい苦笑
子爵さんは俺の言葉に頷き話を再開しようとしたが、何かを思い出したのかナサに声を掛ける。
「ナサ殿」
「は」
「今から貴殿にも関係ある話をするが誤解せんで貰いたい」
「誤解とは?」
「事実を言うが、貴殿家族には全く責任は無かった」
「‥‥」
「ナサ様」
無言になったナサにカーラが失礼に当たると窘めた。
「失礼致しました子爵様」
「気にせんで良い、それだけ言っておきたかったのだ」
「は」
「では続けよう、その頃私が待ちに待っていた吉報が入って来た」
ナサに確認した子爵は再び話し始める。
鬼人族の集落に住み始め、族長ヒラの姪と夫婦になった人族の男が育てていた茶が、ハヤの後押しもあって売るに値する品質にまでに成ったと知らせが来たのだ。この男と知り合い、何回も顔を合わせ協力してやっとの事で漕ぎ付けた、ツルギ領の未来の産業になる茶の完成。これで希望が見えた、我が領の産業が林業以外にも出来、領民である亜人族や人族も今より豊かになれると。
先ずは完成した茶の試飲をしなくては。そして労ってやらないと。既にその男とはお互い家族ぐるみの付き合いになっており、早速男とその家族を屋敷に呼び寄せた。人族の男と鬼人の女の夫婦には男子が1人居り、十歳に届くかの歳だったが混血の為見た目より中身は幼い。
「もしかして子爵様、その男子は」
「貴殿の事だ」
「そうでしたか、シデ殿に我等親子が子爵様に懇意にして頂いていたとは聞いておりました」
「貴殿の母親とシデは従姉妹だったな、そうか聞いていたか」
「しかしまさか俺も子爵様の御屋敷を訪れていたなんて」
「記憶に無いかね」
「誠に申し訳有りませぬ」
「貴殿はあの時九歳くらいだったか、鬼人との混血であるから人族では三、いや四歳と同じ、覚えてなくても責めんよ。であれば当然娘達の事も覚えておらんだろう」
「御嬢様達ですと?」
ハヤの双子の娘達はこの時三歳で、混血の叔母(ハヤの腹違いの妹)の存在も有ってか亜人族や混血を怖がらない。たまに訪れる混血の少年とは精神年齢が近く、親達が大人の話をしている時など、ハヤの妹が一緒の時もあれば、子供達だけで遊びに興じていたと言う。
「ナサ様がハヤ様のお嬢様達と面識が有ったなんて、祖父や父はこの事を知っていたのですか?」
カーラからすると自分の父親や祖父がこんな重要な事を知っているなら、何故教えてくれなかったとか思ったかもな。
「クスノ殿にはナサ殿家族がナンコー領に移る事は知らせてあったが、そこまで詳しくは知るまい。もし知っていたとすれば後にナンコー領に戻ったナサ殿の父親から聞いたかだが、元騎士兵と言ってもわざわざ報告はしなかったと思う。それに当時はお互い自領に戻り足場固めをしていた時期でもあったから、知っていたとしても気にする暇は無かっただろう。カーラ殿の父上であるクスナ卿はまだ生まれたばかりじゃなかったか、当然知りはしまい」
あの伯爵さんの赤ん坊姿とか想像したくもないが、俺はそれは違うと思った。
あの人は用意周到で疑り深いから、ナサがここまでツルギ家と関係が深かった事を知らない筈は無い。ナサの生い立ちや、その背景を調べて知った上で今回同行させたと考えた方がしっくり来るし、多分情報が欲しくてカーラの仕事や俺の目的、ナサの出自まで利用したと思う。
「全く、貴族って奴は」
今の俺の考えが当たってたら相当腹黒いぞ伯爵さん。
「え?何がです!?」
「独り言さ」
カーラに父親が悪どいなんて言えないな。
「それはそれとして、ナサ殿と娘達の距離が近い事を良く思わない者達が居た」
「弟さんですね?」
「その近しい者達も」
俺の言葉に子爵さんが付け足した。
「弟のシマがマロ家に婿入りするとなると、何人か連れて行く事になる」
ここで初めて弟の名を言葉にする。ナサの従叔母であるシデもナサの父親の名を口にしなかったが、恐らく忌まわしい事件に関わる者達の名を口に出す事は長い間封印していたんだろう。
「役得狙い」
シマ・ツルギに同行しマロ領に帰属すれば将来の領主夫の側近になれる。そうなれば環境も待遇も田舎領であるツルギ領とは雲泥の差だ。こんな機会を逃す訳には行かないとか思いはしたよな。領主である子爵さんが亜人族達との関係を大切にしているのだから、何を言っても無駄なのは解っていた筈だ。そいつ等にとって重要なのはツルギ家の周りに亜人族の存在を感じさせない事だが、それを言えば混血の姉だけは何とか排除しなければ駄目だと考えたかも知れない。
「実際それが有ったのか疑わしいがな。だがそ奴等は私の娘達と招いた友人夫婦の息子が仲良くしている姿を見て、要らぬ危機感を抱いたのであろう」
混血の妹だけで問題だったのに、平民で異種族夫婦との友人関係、その夫婦の子供は混血男子で領主の双子の娘達とは仲睦まじい。これら全てを排除しなければと思うと、弟のシマとその取り巻き連中は頭を抱え込んだ事だろう。
「全く持って愚かな者達だ、いや『だった』」
結末まで聞かないとはっきりした事は解からないが、そいつ等は死罪になったか追放になっている筈で、それを一々過去形に言い直すのは子爵さんは既に片が付いていると言いたいんだ。
「俺と家族の存在が弟御の邪魔になったと」
「ナサ殿、最初に言った筈だが貴殿家族には何の責任も無い」
「は‥‥しかし」
「愚かだったのは弟シマとその周りだ」
ナサが気にしてしまうのも解る、ある意味だけど弟達の凶行を決意させる事に繋がったんだから。でもそこに鬼人族が入るのは何故だ?母親は鬼人だが、その一族は関係無い。その事を聞いてみる。
「弟さんとその取り巻きの事は解りました、じぁ何で鬼人族が巻き込まれたんですかね?」
「妹の名はイサナと言う」
「はぁ」
何か関係があるのか、俺の質問に今まで言わなかった混血の妹の名を答えた。
「その妹が奥手だと言ったが」
「はい」
「それを見兼ねて手を差し伸べてくれた」
「イサナさんに手をって、誰かを紹介した?」
男を世話したってか、本当何の関係があるんだ?
「そうだ、しかも身近に居た打って付けの良い男をな」
頷いた子爵さんはその人物を説明してくれる。
かつてナンコー領とツルギ領合同で魔獣討伐を行った際、ナンコー領騎士兵だったナサの父親がツルギ領兵の鬼人の強さに憧れ、それを切っ掛けに鬼人族の集落に住み着いた。その男とはその時見た鬼人の兵で、この時も領兵としてハヤに仕えていたのだ。逆にその男、鬼人の兵は鬼人の女と所帯を持った人族が集落に居るとハヤに教えた張本人でもあった。
「後にナサ殿の父親とその鬼人兵は親友になっている」
「その鬼人の兵がイサナさんに紹介された男だったんですか?」
「正直盲点だった、向こうも女っ気の欠片も無い朴念仁で私もお似合いだと思ったくらいだ」
「その後上手く行ったんですか2人は」
「結婚したいと言って来たくらいにな」
「子爵様さんはそれを?」
「勿論認めた」
弟のシマは相当頭を悩ましたに違いない。『聖側領』のマロ伯爵からすると婿に混血の姉が居る事だけでも問題なのに、その夫が亜人になると更に許し難くなる。だから鬼人族も巻き込まれたのか。
「子爵様、それでは」
「そうだ、妹に幸せを運んでくれたのが貴殿の父ケシ・ミツグ」
「父が‥‥」
ナサが自分の父親の名を出され言葉に詰まっている。
「ナサさんの親父さんの名か、今更だけど初めて聞いたな」
「ナサ様のお父様の名はケシ、様」
それはカーラも同じだったみたいで確かめる様に言葉にした。
「妹の相手は鬼人族の長、ヒラ・ヨスタの息子でツルギ領兵副長のマギ・ヨスタ」
「ヒラ様の」
「そう言う事か」
だからナサの父親ケシを追い出したんだ。
息子が領主の妹と結婚する事にならなければ、鬼人族達が巻き込まれる事は無かったかも知れない。その切っ掛けを作ったナサの父親ケシが許せなくなり、お門違いの言い掛かりだけどが感情が先走りしてしまった。ナサ家族がナンコー領に移り住む事になったのは自分のせいだと解ってるのに、今になって跡を継ぐ傍系の血筋が絶えると泣き言を言ってやがる。同情の余地は有るが子爵さんが代わりに頭を下げてくれているって、どんだけ迷惑掛けてんのか解ってるのか族長め。
「‥‥一筋縄ではいきませんね」
「これだけ繋がってたらな」
ナサの父親ケシが子爵さんの妹イサナに紹介したのは、自分が憧れた鬼人の男本人で族長の息子マギ。毒を盛ったのは子爵さんの弟シマだとすると、何てややっこしい話だ。
「それが続いてるんだよ」
入り乱れた関係が四十年経った今も鬼人族達の恨みや、子爵さんの苦悩をより根深いものにしている。
次回更新は、む~ん8/1の明日と一応思っておりますが、無理でも8/2にはします~
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