①⓪⑧子爵家の事情(事の発端)
少し長めで文章が多いです。
四十年前の回顧なんですが、それを感じないのは未熟故なので気にしないで~っ
「此度の事を思うと領主としての私は‥‥」
「ハヤ様?」
「‥‥いや、先ずは貴女達の御仲間を取り戻さねば」
「‥‥‥ん?」
子爵さんが何か言い掛けたみたいだけど、俺は今言おうか言うまいか迷ってる最中でそれどころじゃない。何てたって俺は基本、面倒臭がりで関係無い物事に首は突っ込まない男だ。
でもステトが留め置かれてるしナサの事もある。乗り掛かった舟じゃないが、このハヤと言う子爵を気に入った。でも手を貸すにしてもどう言えば良いのか、気軽に「悩みがあるなら聞くぜ?」なんて言える訳が無い。
「何もじもじしとるかフツ」
「俺が?」
もじもじって恋の告白じゃねぇんだからさ。
「フツさんは何かハヤ様に仰りたい事でも有るんですか?」
「まぁ」
「女々しいぞフツ、有るなら早く言え」
「え~っと‥‥」
カーラが良い切っ掛けくれたのにあんた(ナサ)の追い打ちで気持ちが萎んだぞ。
「何かね?」
そこに子爵さんが俺に勇気をくれた。
「ふう~、じぁ言いますけど子爵さん、あのですね、何て言うか、その~良ければ、いや平民の俺が、迷惑かもしれませんけど、余計なお世話ですけど」
柄じゃ無い事言ってる自分が恥ずかしい。
「遠慮は要らん言ってくれ」
「いやだから、ね、相談‥‥に乗りますよ?」
「相談?」
子爵さんが止まってる。
そらそうだよな平民に相談って。やっぱり言わなきゃ良かったか。しかしカーラとナサを見ると頷いてくれている。
「ハヤ様、お詳しい事情を御話し下さい。私達に出来る事が有るかも知れません」
「僭越ながら俺も無関係では御座らん、助力致します」
後悔し掛かってる俺を後押する様に2人が付け加えた。
「クスナ卿の助言を受け入れるべき、なんだろうな」
「子爵様」
「‥‥‥解った腹を決めよう。カーラ殿達は何処まで知っておられる?いや何処から説明すれば宜しいか!?」
ハヤ子爵は最初独り言にも思える物言いで考えていたが、隣に座っているデンボを見て決めたみたいで、全てを話してくれるつもりの様だった。
「俺達が知らない、この件の背景を話して下さい」
俺は単刀直入に聞く。
「私の家族が全ての発端だった」
「ハヤ様の御家族とは現在の?」
「これからお話します」
「カーラ、聞こうぜ。質問は後にしよう」
「そうでした、申し訳有りませんハヤ様」
そうなる気持ちも解るけどな。
「話を戻しますと私の父は母とは別に妾が居まして‥‥」
頷いた子爵さんは話を再開する。
ハヤの父親、先代のツルギ領主には亜人の愛人が居て、それがどう影響したのか解らないが多種族との関係は良好だったらしい。愛人が居ても妻との関係に支障は無く、後に弟より早く父親が愛人との間に女が生まれ、ハヤにとっては混血の妹が出来たと言う事だったが、その存在も夫婦の、家族の問題にはならなかった。
その頃もタツ院国の院社とは微妙な関係で、ハヤの両親は極力自分達が院社の世話になる事を避け、亜人族達に寄り添う姿勢を貫いていたと言う。そのせいかはハヤは語らないが両親が早世し、二十代半ばで跡を継いだハヤも苦労を伴いながらではあるものの、亜人族達との良好な関係を崩さない様に務めていた。
既にハヤは結婚して子が生まれていたが、混血の妹は内気な性格も有り独身で、領主で兄でもあるハヤを施政者の側から支えてくれていた。一方弟はと言うと、容姿に恵まれたせいか成人を過ぎているのに独身で(当時の王国貴族は今より結婚年齢が若い)、生まれ育った自領に興味を持たない処か貧乏領だと罵り、亜人族達には見向きもしない、それに機会が有れば出て行くつもりだと日頃から周りに風潮している様な男だった。
そんな弟にある縁談が持ち込まれる。『聖側領』の一つ、マロ領主である王国属伯爵ホム・マロの1人娘との縁談で、なんでもハヤの父親が生前、王宮で行われる年始の挨拶に次男である弟を顔見せの意味合いを込めて連れて行った時に、同じく父ホム・マロ伯爵に伴われた、まだ成人になっていなかった令嬢が一目惚れしたらしい。それを未だに想っていると先方からの申し出で、田舎の外側領の子爵家次男にこんな幸運が舞い込むとは誰も予想だにしない信じられない話だ。
1人娘である令嬢が跡を継ぐ事に決まっていたが(ワヅ王国は建国当初から女爵位を認めていた珍しい国だ)、自分が将来伯爵領主の夫となるなんてまさに奇跡。話を聞いた弟は狂喜乱舞で、早速当主になった兄に承諾する様に願い出る。
ハヤも以前から弟がツルギ領を出たがっていた事は承知だったが、自分に何かあった時弟が跡を継がなくてはならない。子供達は幼いし、施政を手伝ってくれている妹が居るが彼女は混血で、人族でない者が貴族家当主になる事は認められていなかった(現在では混血でも血筋があれば認められているが、その敷居が高い事に違いは無い)
それに懸念もある。
『聖側領』がタツ院国に近い事だ。聖側領を治める貴族家は王国属貴族にも関わらず、表立っては口にしないものの、その思想も院国の顔色を窺ってか人族至上主義に走る傾向があるのだ。当然ホム・マロ伯爵もその例に漏れず、縁談の申し入れの書簡には『1人娘の願いだから受け入れた』とわざわざ一筆入れるくらいだから亜人族達と共生しているツルギ領を侮蔑している事が解る。
貧乏を嘆き、自領の民である亜人族達に寄り添おうともしない弟にとって、この婿入り先はお似合いと言う事か。ハヤはこの縁談を承諾す事にして返事の書簡を持たせ、弟本人をマロ領へ使いに出す。だが戻って来た弟から聞かされたのは懸念していたものより酷い言い草だった。
ホム・マロからすると婿になる者の姉が混血である事だけは受け入れられない、それはマロ領は院国の領土との国境に有り、経済的、政治的にも結び付きが強く、混血の姉と縁戚になるのは間違いなく関係に影響を及ぼすからだ。どうやらホム伯爵は将来の婿に混血の姉をツルギ家から籍を抜く様に迫った様で、それが無理ならこの話は無しにするとまで言われた弟は、兄ハヤに姉を一時的にでもそう出来ないかと頼んで来たのだ。
ハヤはその話を一蹴する。混血の家族が居て何がいけなのか、姉を邪魔と思うお前がおかしいと。そもそも王国は種族関係なく民になる権利を持っていて、我がツルギ領は亜人族達が居なければ立ち行かないのだ。この時は弟も双方の考えを政治的にも感情的にも理解し、何とか別の方法が無いかと姉の事は一旦置いて考えていたみたいで、後に判明したが将来の妻である伯爵令嬢との手紙にも、この大きな壁とも言える問題を書いてない。たが、それは父親のマロ伯爵からの口止めを守っての事だった。
「ここまでが事の背景だが、何か有りますかな?」
ハヤ子爵は話を一旦止めて俺達に飲み込む時間をくれる。
黒幕は次男の弟か婿入り先の伯爵か関係者か何方かなのは間違いない。予想外だったのは子爵に混血の妹が居る事で、その妹とどう関係する?種族間の色恋を嫌って毒を盛られたとデンボが言っていたが、鬼人族を巻き込んだのは何故だ? カーラも気になったか、その妹の事を質問した。
「妹様は今、何方に?」
「妹はずっと、ずっと長い間病に臥しています。この意味を解って頂けるかと」
混血の妹も毒を盛られたと暗に言っていて、病に伏してると言うのは鬼人族の男達と同じ様に眠ったままなんだ。
「‥‥はい」
カーラも意味を悟り静かに返事をする。
「子爵様、俺もよろしいか?」
「言い給え」
今度はナサが何か聞く様だ。
「人族の子爵様が長きに渡って主に留まっておられるのは鬼人族と関係していおるのですか?」
「鬼人族達の事には責任を感じている」
そう言えばこの人が跡を継いで四十年以上だ、ナサの言う通り何か理由が無ければ長過ぎる気がする。鬼人族の男達や、自分をを支えてくれていた妹が被害に遭って責任を感じて当主に留まっているとか?
「が、それとは関係無い」
関係無い、か。
話では子供が居てるって言ってたな。子供が居るならいい年齢になってるだろうし、跡を譲って引退してても不思議じゃない。現に同じ年代のカーラの祖父でナンコー領の先代クスノ祖父さんは後を伯爵さんに譲っている。事情を知っているから続けているとか?
「じぁまだ現役なのはどうしてです?子爵さんにはお子さんが居てるんですよね?」
若干今回の話に逸れてる気がするが最後に俺が質問した。
「同じだ」
「同じ?」
「病に臥せっている」
「う」
子供まで犠牲になってるのか、逸れてねぇぞこれ!!
だからずっと現役のままなんだ。この後子爵さんが話の続きをするだろうが、弟は恐らくこの世に居ない。混血の妹か子爵さんの子供が目を覚まさないと、この人でツルギ家が終わる。鬼人族の族長と同じ立場だったなんて。くそ、俺は相談に乗ると言っておきながら事の重さを見誤ったかも知れない。あの快活な笑いは悲しみの裏返しで、これで何も出来ず変わらなかったらこの人を待ち受けるのは‥‥畜生、何て無責任な事を言ってしまったんだ!
「あの子達も長く、な」
「達って」
「私の子供は双子で姉妹だ。活発な子達だった」
「‥‥‥」
「そん、な」
「御子達までも」
カーラとナサがその事に絶句する。
「‥‥話の続きを頼みます」
そんな2人を無視して俺は冷静を装いそう言う。
聞くと言ったのは俺なんだが早くこんな嫌な話を終わらせないと、今にもぶち切れそうだ。
次回更新は‥‥頑張って7/31明日?くは!!遅め時間で!!
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