①⓪⑦名代カーラ
思えば悪人が余り出て来ない物語ですよね苦笑
その内腹立つ奴を出そう。
「ではカーラ殿、話を聞こう」
笑いを収めた子爵さんは顔を引き締め彼女の事を「殿」付けで呼ぶ。
これは今からは商人カーラ・マハではなく伯爵令嬢カーラ・ナンコーとして接するつもりの様だ。
「では先ず父から預かったハヤ様当ての書状をお渡し致します」
カーラは伯爵さんが俺達の為に書いてくれた手紙を差し出した。
「これは‥‥なるほど、ナンコー家の刻印入りの書状ですな。わざわざ貴女が持って来たとなると、もしかすると持っていなさるのかね?」
「はい」
刻印は正式な意味を持つ証だと聞いていたが、持っているって何をだ?
「これです」
そしてカーラは小さな筒状の物を見せた。
「ナサさん、あれは?」
「あれはナンコー家の印だ」
「印?」
「うむ、貴族家の印は当主しか持てない物だ」
「つまり印を持つ者が当主で、今回カーラが預かってるって事は」
「印はナンコー家の当主に成り代わ者の証。あれを持つお嬢様が申される事はクスナ様か申される事と同じ意味を持つのだ」
単に伯爵令嬢が預かった手紙を渡しに来ただけじゃないって事か。
「確かに。ではカーラ殿、書状を拝見する時間を頂いても宜しいですかな?」
「はい」
印を見たハヤ子爵は言葉使いを目上とは言わないまでも、敬意を持ったものに変えている。そして封を開けてゆっくりと読み始めた。
「なるほど、お前とステトと言う女性はナンコー領を救った英雄で重要人物らしい」
途中で顔を上げて気になったのか俺とステトの事を確認した。
英雄?重要人物?
また盛った事書いてくれちゃって伯爵さんめ。
「そんな大層な事してませんよ」
「しかしそう書いてある、そうですなカーラ殿?」
「はい。彼等が居なければ父も私も生きていなかったかも知れません」
「‥‥ナサ・ミツグ殿、貴殿達騎士は何をしていた?」
「俺は主の命令でその場に居りませんでしたが、命の恩人だと仰っておりました」
「ほう。貴殿はそれを聞いて信じたのか?」
「主が言うのであればそうだったのでしょう。この男は武術など嗜んで居らぬが様ですが、何と言えば良いか‥‥侮れぬかと」
「あんたには侮られてるけどな」
ギロッ
そんなに睨まなくてもいいだろ。
「ふむ‥‥‥クスナ卿の要望承知した」
読み終えた子爵は直ぐにそう答え、そして丁寧に手紙を封に戻すと懐に仕舞い込んだ。
「一つだけ条件を申して宜しいか」
「何でしょう?」
「貴女達が領に滞在中は出来るだけ単独での行動を控えて頂きたい。領主として恥ずかしい話だが、いくら私が君達の安全を保障しようともヒラの様な勝手をする種族が居るのが現状ですのでな」
「そんなに子爵さんの立場は弱いんですか?」
「失礼ですよフツさん!」
また失礼な物言いをした俺にカーラもまた慌てて声を上げる。
「はははは良いのだカーラ殿」
「しかし」
「彼の言う通りで、これは我が領の歴史が関係しているのです」
ワヅ王国が建国されたのは約五百年前で、長寿種の亜人族達は既にこの地に住み着いている。ツルギ家が同地を与えられたのはまだ二百年かそこららしく、初めは各種族達に一つ一つ施政の内容も相談し、納得しない種族に説得し回ったとか。代を重ねた今でも領主と言うより纏め役の様な意味合いが強いと、簡単にだがハヤ子爵は説明してくれた。
「私は舐められてる」
「いやそこまで言ってませんけど」
「気にせんで良い、事実だ」
だから言って無いって。
「ツルギ家が領地を賜って二百年、この地ではお前が言う領主の力など露程のもので、今でも王国を、私の事を侵略者か只の余所者と思っているのでしょう」
「御苦労されているのですね‥‥」
建前と見栄でで生きている貴族なのに、平民の俺が居てるのにぶちまけるなんて普通なら考えられない。子爵さんは自分の立ち位置を冷静に見ているだけだんだろうけど、カーラが何て言っていいのか困ってるぞ。
「良いんですか?俺にも聞こえてますよ」
「はははははは!!」
「え?」
笑うとこ?
「はははは、は~。クスナ卿の書状に書いてある内容をお前は知っているのか?」
笑い終えると面白いものを見る目で俺に聞く。
「およその事は」
何?笑ったのは伯爵さんの手紙?でも「仲良くしよう」「俺達に何かあれば悲しむ」だろ?カーラもデンボに言ってたけど、表現に違いはあれどおよそそんな感じの事で、笑う内容じゃないと思うけどな。
「何か手に余る事が有るならカーラ殿に相談したら良い書いてある」
「それ俺関係無いですよね?」
「そしてお前の言う事に耳を傾けろと」
「はぁ?」
「一体ナンコー領で何をした?」
「何って、ちょっと手を貸しただけです」
「本当にそれだけか?お前達に手出しすればナンコー領は持ち得る戦力を差し向ける事も厭わないとある、金に糸目は付けんとな」
「冗談でしょ、多分それ」
あの親父、余計な事書いてんじゃねぇ!!事情も知らない平民の俺が何を言えってんだ、大体持ち得る戦力って言っても領兵は少ない‥‥金って、雇うつもりかよ!!
「クスナ卿は愚かな男では無い、これに書かれている事は本気だぞ。全く、あの大人しい性格の卿が脅しを掛けて来ようとはな。カーラ殿の前で失礼を承知で言うが逞しくなりおったわ、これを笑わんでどうする」
いや、脅されてるのに笑うのはおかしいと思う。
「だから私も遠慮無くお前の前で愚痴った訳だ」
「はぁ」
愚痴って
「カーラ殿、貴女が印を預かって我が領に来られたのは何か理由があるのでは?」
「はい。しかし別の問題が起こりましたので、それを先に解決しない事には」
「‥‥‥そう、そうでしたな」
カーラに鬼人族の事を言われ心苦しそうに俺に声を掛ける。
「ナサ殿にフツ」
「は」
「はい」
「私が頭を下げたらまた困らせるのは解っているが改めて謝罪する。ヒラは一線を越えてしまった、人質と取るなど一族の長がやって許される事では無い。そもそもナサ殿が我が領出身だからと言って縛り付ける権利などは無い」
憐れんでいるのか怒っているのか、ハヤ子爵の顔の皺が深くなる。
「しかしあの頑固爺は考えを変えんだろう。そこまで追い詰めたのは私の、いや私なのだ」
先祖から散々苦労させられてる種族の一つである鬼人の、その族長の罪なのそれを自分の罪と言う。
「許してくれ」
今度は頭を下げなかったが俺にはその気持ちは伝わっていた。
「それにこのデンボの事も許して欲しい。詳しく話さないのは私を思っての事で、決して君達をこの様な立場にさせる意図は無かった」
デンボの父親が毒を盛った張本人なのに身籠っていた母親を引き取って仕事を与え、成長したデンボにも仕事を与えていた。そこまで面倒見てるのに更にこの気遣い、これは自分に関わる者の責任は全て背負う覚悟を持っているからこそ出来る事なんだろう。
降参だな。
この人を悪く思えないし言えない。
手を貸すつもりは無かったけど、何か出来るならしようと思わせる人だ。
ちょっと手が止まっていて毎日はキツいので、次回更新は‥‥7/30か31予定です。
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




