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①⓪⑥ハヤ・ツルギ子爵

ここから先のエピソードは怒涛の事情説明が続きます。

登場人物の名や設定、時系列とこんがらがるかも知れませんが、そこは読み返して楽しんで下さい笑

粗が出まくりなのも一興ですからね~

扉から音が聞こえデンボが開ける。入って来たのはさっきの『黄輪』の女使用人で、手に持っているのはお茶のお代わりともう一つの器だ。


「デンボさん、御主人様が来られます」

「これは預かろう、君は下がって良い」

「では私はこれで」

女が出て行くと入れ違いに男が入って来るとデンボが預かった茶を机に置いて頭を下げる。


「皆様ツルギ領領主、王国属子爵ハヤ・ツルギ様です」

そして俺達にその男を紹介した。


「お初にお目にかかります、カーラ・マハで御座います」

カーラを始め俺達全員が立ち上がり同じ様に頭を下げて挨拶をする。


「ハヤ・ツルギだ。お待たせして申し訳ない、座ってくれ給え」

「はい。皆さんハヤ様のお言葉に甘えさせて頂きましょう」

目の前の男が座って俺達も続く。


ハヤ・ツルギは60代半ばと思われ、白髪でも老人然とせず、見るからに武人のそれで背筋は延び体には無駄な肉が付いてない。身なりは貴族が好む絹製ではなく綿で織られた質素な服だ。ただそんな恰好をしていてもこの子爵には一目で貴族と思わせるものが有る。


「ハヤ様、生前祖父が御世話になりました」

「堅苦しいのは無しで良い。私こそセフには世話になってたいた、彼が‥‥いや、残念だよ」

「有難う御座います」

セフ祖父さんの何かを一瞬言い掛けたみたいだが、カーラは聞き流して悔やみに礼を返す。


「早速だがヒラが大層勝手な事を言っているみたいだな」

昨日出掛けてたのは報告に行っていたのか、カーラがデンボを見ると頷いたのでどうやら当りだ。


「少しばかり困惑しているのは事実です」

「そうだろう。私があの頑固爺に会わせる事を許可したせいで、済まなかった」

「ハヤ様!」

素直に頭を下げた子爵にカーラは慌てて腰を浮かす。


「お止め下さいそんな事をされては困ります」

「いや君の仲間の女性が人質になっているんだ、私が頭を下げるくらいでは追い付かない」

「ハヤ様の責任では有りませんので」

「領民のした事は領主の責任だ、そう思わんかね?」

「それは、何と言って良いか‥‥」

カーラが珍しく答えに詰まってる。


「クスナ卿に似ておらんが、君は本当に娘か?」

「母に似たのかも知れません」

「ははははそれは幸運、おっと今の言葉は御父上には秘密に願おう!」

快活に笑いながらそう言った。


「しかしまさか君の父上が跡を継ぐ事になるとはな。しかも伯爵に陞爵(しょうしゃく)されるなんて誰も予想しなかった」

「本人は継ぐつもりは無かったと溢していました」

「さもあろう、クスナ卿の兄が継ぐものだと誰しも思っていた、かく言う私はそれの筆頭だったが」

「ハヤ様は父と伯父の事を?」

「勿論だとも!君の祖父であるクスノ・ナンコーとは若かりし頃、共に王都で近衛兵を勤めていたのだよ。そしてお互いが自領に戻り領主となってからも魔獣討伐で共闘をしていた。子が生まれて聞かされるのは自慢ばかり、クスノ殿は隠居生活を楽しんでいるかね?」

「はい、王都の屋敷で何かと苦労してくれています」

セㇷ祖父さんはカーラの母方で、話に出てるのは父方の祖父さんだ。ナンコー領前領主のクスノ・ナンコーは、現領主で彼女の父親クスナ・ナンコー(あだ名は『成金貴族』)とは真逆の武人だった。


「ふははは、あの男が王宮の顔色を見ているなんて想像したら愉快だな」

同じ武人同士で共に研鑽を積んだ男が引退し、今その様子を想像してか、また笑ってそう言う。


「叔父上は立派な男だった」

落ち着くと緩んだ顔を引き締める。

カーラの伯父、クストはナンコー家の長男だったが魔獣との戦いで命を落としている。それもあって次男の現在のナンコー領主クスナ、彼女の父親が跡を継いだ背景があった。


「君はまだ生まれていなかったが、弔問に訪れた時クスノの痛々しさは見てられん程でな。如何にクスト殿に期待を寄せていたか‥‥いや誤解せんでくれ、君の父上が領主になったからこそ今のナンコー領がある」

「はい、有難う座います」

ナンコー家の話が落ち着くと子爵さんは隣に座っているナサを見る。


「ナサ・ミツグだな」

「は」

「私の事は‥‥覚えていないか」

「申し訳御座らぬ」

「気にしないでくれ。こんな形で再会果たすとは思ってもいなかったが‥‥」

何かを言おうか迷っている。


「如何なされた子爵様」

「‥‥いや、いずれ知る事になるのなら私から言うべきだな」

「知る、と申されますと?」

「私が貴殿達家族に我が領を出るよう進めたのだ」

「子爵様が追い出したと言う事ですか?」

「ナサ様」

言い返すナサをカーラが(たしな)めた。


「失礼致しました」

「謝る事は無い、全ては私の‥‥今は止そう。話が逸れたが、君をどう扱えば良いかね?セフの孫で商人の君か、ナンコー領の領伯爵の令嬢としてか」

ナサが謝罪するのを流し、カーラに彼女の立場を確認する。


「今は商人『カーラ・マハ』で結構です」

「‥‥解った、では先ずその話を終わらせよう」

先に取引を終わらせるつもりのようだが、カーラの言い回しでその後は令嬢として話が有る事を察したな。


「今回の御注文の品で御座います、ご確認を」

そしてカーラは卓上に『(コセ・ポーション)』の瓶を並べ、それを見ている子爵はどこか悲し気な表情をしてる。


「確かに。現金では重いと思うが支払いはどうするかね?」

「では仲介所(ギルド)の私の口座にお願い致します」

「了解した、今日中には振り込むので確認してくれ給え」

「早々のお支払い有難う御座います」

頭を下げ直ったカーラが俺を見たので頷く。


終わったな。それは実にあっさりとしたものだった。

俺とステトが彼女に雇われた本来の仕事である取引に行く為の護衛が終わったんだ。これは一つの区切りと言っていい、だからと言ってカーラとの旅はまだ続くんだけどな。


「お前がフツか」

「そうです」

今度は俺に声を掛けて来たので返事をする。


「人質になってるのはお前の相棒だと聞いている」

「はい」

「ヒラの此度の行い、どう思う?」

「思うも何も許せませんよ」

「では質問を変えよう、お前はどうしたい?」

「出来る事ならあの族長(じじい)をぶっ飛ばしたいすね」

「フツさん!」

俺の失礼な物言いは慣れてる筈だけど、流石に初対面の子爵相手に不味いと思ったのかカーラが咄嗟声を上げた。


「何もおかしな事言ってないだろ?あの族長(じじい)にはそのくらいしなきゃ」

「くっくっく、なるほどデンボの報告通り平民とは思えん堂々とした態度だな」

「そうですか?」

「その態度がそうだと言ってる」

「申し訳ご座いませんハヤ様。フツさんは、彼は礼儀作法が苦手で‥‥」

「じぁ『お殴りします』で」

「フツさん!!」

二度目のお叱りだ。


「ふっはははは!!」

「あ、あのハヤ様?」

「?」

何だか知らないけど笑ってるから不敬罪にはならないか。


「世の中どうして捨てたもんでは無い、いやはや面白い男だ」

「あの族長(じじい)をぶちのめすのが?」

「ふははは、今度は『ぶちのめす』ときたか。人族が鬼人族を?しかも族長を?本気でやれるとでも思っているのか?」

「まぁ。でも後から怒らないで下さいよ?」

「怒るどころか褒めてやる!」

お墨付きを貰ったぞカーラ。


「私も是非見てみたいからな。ぷっ、うはははははは」

しかしよく笑う人だ。裏表無さそうだし、こんな領主ならもっと普通の領民が増えても良いのにな。


「フツさん、もう少し言葉を選んで下さい」

小声でカーラが呟く。


「どうせ無理なんだからさ」

「でも」

「それに最初からさらけ出した方が後々楽だろ?」

「出し過ぎです」

「う」

言われしまった。


「お主とステトが相棒なのが解る」

「何が?」

「お主等は空気を読まん」

「あいつと一緒にすんなよな」

ステトはそうでも俺は空気くらい読むわ。


「フツ」

笑っていた子爵さんが真面目な顔で俺を呼ぶ。


「何ですか?」

「お前の相棒に迷惑を掛けて済まないと思う」

「ちょ、それは」

いきなり向かって頭を下げるので俺は立ち上がって止めさせようとした。


「平民の俺に頭下げるとか本当止めて下さいよ!後でカーラに怒られます」

既に俺のこの言葉で睨まれてるけど。


「この事に身分は関係無い」

「解りましたから 受け取りましたから勘弁してください!!」

「謝ってるのは私だ」

「そんな事解ってますよ!!それを止めて下さいって言ってるんです!」

「謝罪のつもりが迷惑になるか、はははは」

頭を上げた子爵の顔はまた元の快活さで笑った。


「細かい事を気にしおって」

「俺は平民ですからね、一応気にしますよそりゃ」

「お前の様な男でも?」

「気を遣うくらいはします」

「それは悪かった」

頭を下げようとして今度は自分から止める。


「いかんいかんまたやってしまう所だ、はははははは」

「ええ~?」

わざとやってるだろそれ。


でも何か負けた気分だ。

そう思うのと同時に俺はこの白髪の領主に好感を持った。

女を『女性』と言うし、族長(じじい)をまんま頑固爺と呼んだり、カーラが伯爵(パパ)さんに似ず幸運だったと言うくだりでは相手を和ます気遣いが感じられた。数々の不幸に見舞われてもいじけた様子も無く、手法は独特だが何とか領を立て直そうと前に進んでいて、こんな領主が居ると知った今では、貧しい領でも留まる領民や奴隷が存在する事に納得出来る。何より自分の非を素直に認める度量を持ってるあたりなんか、あの族長(じじい)と正反対だ。

何て言うか、そう、嫌いになれない人だった。


次回更新は明日の7/28予定です、多分!!

読んで頂き有難う御座います。

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