①⓪③ツルギ領の院社(ヤック)事情
これは設定や登場人物の章を設けるべきか‥‥‥とか思ったりしますけどまだしない笑
「その小ずるい医者は何時からツルギ領に赴任してた?」
「鬼人族の集落での悲劇が起こる十年くらい前らしいです」
「普通は移動するまで何年くらい居てるもんなんだ?」
「短くて三年、長くても五年でしょうか」
「移動を拒んでた口か、まさかまだ居るとか言うなよ」
四十年前だからもう結構な歳だ、流石に有り得ない。
「その医者は十一年近く我が領の院社に勤め、功績が認められたのかは解りませんが本国に帰ったと噂で聞いています」
「それだけ居りゃ金を稼いで出世に繋げる目的が果せたかもな」
「ではもう暴利で亜人族の方々を診なくなったのですか?」
その医者だけがそれまで亜人族を診ていたならカーラの疑問は尤もだ、それが良いのか悪いのかは別にして。
「いえ、取り決めが有ったのか同じ様に出世を目指したのかは解りませんが、後に来た医者達もそれは続けました」
「良い稼ぎになると教えられたか」
「そうでしょうね」
「気に食わないって?でも亜人族達には気の毒だが見ようによっては持ちつ持たれつだと思うぞ」
「まだ続きが有ります」
「また何か問題が?」
領都の中心部まで行きの記憶ではもうじきだった筈。この行程で話してるのは院国の院社の事だけで、それだけツルギ領に及ぼした影響が大きかったのかデンボの話は終わらない。
「暴利でも頻度が少なかったので表立った軋轢は無かったのですが」
「うむ、混血の俺もそう病には掛からんからな」
「メスティエール商店に居る亜人族の従業員もそうでしたね」
「頑丈に出来てるから、医者に診せるのもたまにで済む?」
「はい」
「じぁ内心はどうであれ上手く収まってたんだろ、何があった?」
「15年前に起こった病の大流行です」
「あ」
「う」
「?」
オノゴロ大陸中で流行った病は種族関係無く各国に甚大な被害を出し、病の原因の耐性を持っている亜人族から血清を作り、そのお陰もあって収束した。反面タツ院国は亜人族から血清を方法が解ってるのに作らず輸入に頼り医療国家の評判を落とす。
俺の両親もその病で死に、カーラの母親も同じで正妻の嫌がらせから王都で避難生活をしていた中だった。
「暴利で有ろうが陰で種族関係無く受け入れていたツルギ領の院社の医者達が、その時は一切亜人族を診なかった。本国からの命令でしょうが人族のみの治療を徹底し、病に掛かった亜人族を見殺しにしたんです」
手のひら返しされて頭に来たんだな。
「抗議でもしたか?」
「それだけだったら流行り病が収まれば、また再開してたかも知れません」
「亜人族の方達は何をしたんですか?」
「暴動です、院社を襲撃しました」
「あちゃ~医者達を襲ったのかよ」
今までは暴利でもそれなりに融通を利かせて診ていた医者達が、15年前の流行り病の時には一切それを拒んだ。確かに逆恨みなんだが肝心な時に見捨てられて許せなかったんだろう。
「襲撃とはどんな?死人は出たのですか!?」
「いえ院社の建物に火を付けて鬱憤を晴らしたくらいで、医者達には手を出していません」
医者を殺したりすれば国同士の争いに発展する。人族の領民にとっても院社は必要で、その辺りの一線は超えなかったか。
「ナサさん達混血はその時どうしてた?」
「他の混血は知らんが病が流行った時は俺は既にナンコー領の騎士兵だった。幸い俺自身は病に掛からなかったが、もし掛かってもクスノ様やクスナ様が何とか手を回して下さっていたであろう」
「そうですね、祖父や父はその辺りの事は考えていましたから」
「医者達を囲ってるしな」
「『元医者』ですけどね、亡命を望んでいる医者達を受け入れていたんですよ」
「そう言う事ね」
伯爵さんは院国の教えに疑問を持つ正階医や権階医などの医者達を囲っている言っっていて、カーラはそれは不法な手段では無いと教えてくれる。
「話止めて悪い、それで?」
「院社がツルギ領から撤退しなかったのですが、多額の賠償を求められました」
「払ったのか?」
「だから現在も有るのでしょう、それ以来どんなに金を積もうが本来の姿に戻りまして、表向きは何事も無かった様に人族のみを診ています。ただ」
「ただ、何だよ?」
「その財政的負担は領民にも及んで離領する者達が後を絶たなくなり、その原因は亜人族のせいだとこれまで以上に風当たりが酷くなって、亜人族はそうした積もり積もった悪感情も人族に抱いているのです」
「根深い問題ですね」
カーラの言う通りだ。
これは簡単に解決出来る問題じゃない。今までは暴利でも助けられていた部分が有って、理不尽を感じながらも表立って文句は言わなかった。しかし15年前の病の肝心の時には見捨てられ、病の原因も亜人族達のせいにされた。ただでさえ世間の見る目は厳しい時期だったし、それに加え貧しくなったのも自分達のせいにされるなんて、怒りの矛先を誰かに向けないと耐えられなかったと思うが、その怒りを愚かな方法でぶつけてしまった。この件に関してはどっちもどっちな気がするけど、長年こうした不公平に晒されている亜人族達が人族を嫌う事も十分理解出来る。
まだある。
恐らく『薬』をカーラの母方の祖父セフに依頼した理由は院社が融通しなくなったからだ。正規ではコセ・ポーションは処方制限が有るから纏まった量を仕入れるのは無理で、もしかしたらそれも有ってハヤ子爵は暴利でも融通が利く医者達を見逃していたのかも知れない。
「全く、事前に聞いていた通りややこしい領だな」
領民が減り働き手が居なくなり、財政的に苦境なんて詰んでてもおかしくないのに、それでもまだツルギ領が持ち堪えてるのは多分『スイートポテト』と奴隷達のお蔭だ。子爵に何があったのか、伯爵さんは五年前から今のツルギ領になったと言っていた、一体どうやって異世界の『スイートポテト』を手に入れ、それを育てたり酒を造る方法を知った?
今日その領のハヤ子爵と会うんだが、さて何が聞けるか。
次回更新は7/22~23予定です。
読んで頂き有難う御座います。
☆マーク押して頂けると励みになります。
評価頂けるとやる気になります。
レビュー頂けると頑張れます。
宜しくお願いします~。




