①⓪②人族が嫌われるもう一つの事情
連休ですね、自分も休みですが暑いから外に出る気が起きません苦笑
この機会に進めて行ければと思っております~
翌早朝に俺達は鬼人族の集落を出る。もし誰かに会ってもカーラが居るし、シデが他の女達に話を通してくれてると思うから絡まれる心配はしてない。ただ別の災難が降り掛かる可能性も無くは無いので早めに出発した。
「ステトさんは何をしてるんでしょうね」
「心配要らねぇよ、あいつは好きにしてるさ」
「はい、でも一緒に居ないのが不思議な感じで」
「まぁ‥‥な」
俺も相棒が居ない事に違和感がある。
「昨晩俺からもシデ殿にステトの事を頼んでおいたぞ」
「何だ気にしてくれたのか」
「仲間を案じるのは当然の事」
「仲間、か」
「それも『殺さぬ仲間』だ」
俺は極力殺しをしない事にしてるが、それは俺が勝手に決めてるだけでステトは付き合ってくれている。彼女はナサにも殺さない様に言い、それを守った事で俺を含めて『殺さない仲間』とか言っていた。
「有難な、相棒に代わって礼を言うよ」
カーラはステトの姿が無い事に寂しさを感じてくれてるみたいだし、ナサにも仲間だと思われてるなんて本人が聞いたらきっと喜ぶ。俺も彼女がこうして受け入れられて嬉しかった。
鬼人族の集落は領都アラギ内と言っても端の端に位置する。領主ハヤ子爵の屋敷まで行くには、領都に入って初日に泊まった『コシエ舎』のある大通りまで一旦戻った方が良いと、先頭を歩くデンボが事情を説明してくれる。
「そうでなければ他の種族の集落を横切らないとならないのです」
「その種族達も人族敵視か?」
「長年の蓄積と言いますか、鬼人族程では有りませんが中にはそう思ってる者達も居るでしょう」
「嫌な人族しか知らねぇのかよツルギ領の亜人族達って?」
「当時も今もやはり選民意識を持った方々は我が領を見下していますから、その事もあるのでしょう」
「何だかなぁ」
茶をくれた鷲人族のヤトは俺に、人族に対して普通だった。ツルギ領の亜人族達全員がって訳では無いと解ってはいても、こう何回も人族が嫌われてるとか言われると自分がそれで有る事が悪に思えてしまう。
「そいつ等が人族代表とかじゃないってのに、大体どんな種族にも嫌な奴は居るだろ」
「我等混血もそうだぞ、悪しき輩はその者の責任で血は関係無い」
「亜人種の方々が人族を嫌うのは少なからず何処の領でもある事ですが、ツルギ領は何と言うか極端な気がしますね。毒の件とは別に理由があるのですか?」
カーラは俺とナサの間を歩いていて、話を聞き代表して疑問を聞いてくれた。
「院社です」
「人族しか診ないからか?」
医療国家であるタツ院国は人族しか治療しない。それは建国の祖であるアラ・ターサが転憑者でもう一つの人格ラテスの世界では人族以外の、亜人族が存在して無かったのが理由で、知らない生物を治療出来ないとしたアラ・ターサの考えを後年の弟子たちが歪曲し、その結果人族至上主義にまでなっている。
「それも有りますが、その行き過ぎた利益主義が反感を買ったのです」
タツ院国の診療所「院社」は各国の主要都市は勿論の事、領や街、町や村にも有る。人族しか診ない院社であったがその医療と薬はなくてはならず、院国からの申し出が有ればどの国でも受け入れるのが政治的思惑も絡み暗黙の了解だ。医療に公平性を保つみたいな高尚な理由があるのか、逆に院国に要請した場合でもどんな場所であろうが設立される。治療費や薬代を取る院社はその土地に税を納めている為一見軋轢など皆無と思われていた。
「各院社の利益は本院社に流れている事はご存知ですね?」
「ええ、その利益を本国に送っている事は知っています」
院社を統括しているのは本院社で、各国の本院社を総括しているのはタツ院国の主院だ。例えばワヅ王国に有る院社は王都に有る本院社が管理し、それを本国に送金しているらしい。
「医療はタツ院国の重要な収入源です」
「だから上納金を取る?」
「と言いますか院国は本店で院社はその支店とお考え下さい」
「なるほど、売り上げを本店に送るみたいな感じだな」
「‥‥医療も商売と言う事でしょうか?」
「はい。それだけに院社には利益を確保する様に圧力が存在していると私は考えています」
「本店が支店にもっと稼げと発破を掛けてるのか」
「恐らく」
それからデンボが事実と私見を交えて話し出す。
同じ効果ならより高価な薬を売って、一回で終わる治療を二回に三回に分け余計な治療費を取るなどいかに儲けを出すかを優先し、そうして売り上げを伸ばして自分の評価を高めて出世に繋げるのだと。
「各院社に売り上げで評価される仕組みが有るのかは解りません、ですが本院社、最終的には本院が医者達の処遇を決めているんだと思ってます」
「どうしてそう思われるんですか?」
「そうでなければ医者達が金勘定に必死なる理由が解りません」
「‥‥それが本当だとしたら人族が多い領が良いですよね」
カーラの言った通り人族しか診ない院国の医者達が売り上げで評価されるなら人族が多い国や領の方が有利だ。亜人族達が多い場所に有る院社では患者数が少なくなるから儲けなんて出ない。
「でも医者達は院社の場所を選べないんだろ?」
もし派遣先を自分で選べるなんて事にしたら誰も来たがらないだろうし、初めからそんな場所に院社を置かない筈だ。
「そうです」
「それじゃ派遣先次第で評価が決まる様なもんだよな?医者にとって不公平になるじゃねぇか」
「医者達は院社の場所を選べませんが、一定期間過ぎれば移動します。但し何処の院社かは、またこれも選べません」
「移動なんて制度があったのか」
「ナンコー領の院社では来られる真階医や権階医は数年で入れ替わってましたね」
カーラが頷きながらそれが有ったと認める。
「へぇ、その辺は院国も考えてるんだな」
「派遣先との癒着を避ける為も有るでしょう」
「中央から派遣される役人も任期があるから同じ様なもんか」
「汚職は付き物ですけど程度が大切ですからね」
デンボが答え、カーラは施政者目線で付け足した。
「では儲けなど差が出んのでは無いか?移動先も選べないのであろう?」
ナサが言った事は当たってると思う。場所を選べない移動を繰り返したら最後には不公平感は薄まる。よっぽど運が無い限り、亜人族だらけの場所にある院社ばかりには派遣されないだろう。
「そうでもなかったのです、それが人族が嫌われる要因の一つになりました」
デンボは一旦黙り昨日通った鷲人族の集落を見る。道は変わらず傾斜が激しいが話をしながら歩いてるので速度も遅い。これだと行きと違い休憩を取らなくても大丈夫そうだ。
「それで結局何で院社がツルギ領で人族が嫌われてる理由に繋がる?」
俺は続きを聞く。
「敢えてツルギ領からの移動を望まない医者達が居ました」
「移動するのが決まりなんだろ?そんな事許されるのかよ」
「医者の誰もが来たがらない領ですので認められたのかも知れません」
「でも何でだ?儲けは出ないぞ」
「不利になるのではないですか?」
デンボの答えにカーラと俺が疑問を口にした。
「この人族が少ないツルギ領で売り上げを伸ばせば評価も高くなると踏んだんでしょう」
「でもどうやってだ?」
「陰で人族以外の種族に医療行為や薬を提供し始めました」
「自分の国の決まりを破って金を稼ぐって、医者にとって汚職だよな?」
「亜人族達を助ける気になったとは思えません」
「それでも皆さんは必要な治療など受けれたんですよね?人族を憎む理由にならないと思いますけど」
汚職だとデンボは認め、カーラはその程度は有りだと言っている。
「正規の治療費や薬代ならそうです、医者達は亜人族相手に暴利を貪り利益主義に走りました」
「どの位の?」
「薬は五倍で医療は十倍です」
「確かにそれは行き過ぎですね‥‥」
金額を聞いて彼女は無しだと考え直したみたいだ。
「それが暴利だって思わなかったのかのな?」
「薬師しか知らない亜人族達にとってはそれに値すると思ったのかも知れません」
「知らなければ、ある意味奇跡ですものね」
「確かに」
怪我や病気になって頼れる相手が薬師しか居ない亜人族達にとって、院社の医療は神の御業に見えたかもな、だから言われた金額が暴利だなんて疑問も湧かなかったか。
「それに嫌なら診ない売らないと言われれば払うしか有りません」
「呆れるぜ、足元見て吹っ掛けるなんて破落戸のやり方だぞ」
「はい。付け加えるなら人族の患者には正規の料金で今まで通りの続けていました」
その暴利の金額しか知らなければ、それが当然の額だとそのまま受け入れていたんだろう、ところが隣の人族は自分達より半分以上安い金額だと解り、亜人族からすればあからさまな差別だが決まりを破ってやってるんだと言われれば何も言えない。優遇されるのは人族で、する医者も人族じゃ嫌いにならない方が無理がある。
「皮肉と言うか、不公平感がそこで出るのかよ医者じゃ無くて」
「医者達はしてやったりとほくそ笑んだんはないでしょうか」
自分達の不利な条件を亜人族達を利用してひっくり返しやがった。本当タツ院国って禄でも無いな。
「これじぁ結局俺も人の事言えねぇか」
院国の医者達の全てが悪では無いと思う。じゃないとこのツルギ領の亜人族達が人族を嫌うのと同じだ。解ってはいるが今の話に出た医者を許せないと感じた俺は、この感情を抑える事が出来なかった。
次回更新は‥‥明日?もしくは明後日の7/21予定と睨んでます笑
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