①⓪①混血商人の事情
意外に筆が進んでますのでまたフライングしました。
見直して無いので誤字脱字は想像力で乗り切って下い(笑)
「鬼人族の集落で開いた宴の茶に毒を入れたのは私の父でした」
「え」
その時生まれてないから実感が湧かないのか、淡々と自分の父親が犯人だと言うデンボにカーラが言葉を詰まらせる。そう言えば俺達はこのデンボと言う混血の事は半分役人で半分商人である以外何も知らなかった。
「デンボさんは何族との混血なんだ?」
「千鳥人族と人族です」
「親父さんが千鳥人族?」
「母が千鳥人族で父は人族でした」
「でした?」
「故人ですので」
「そうか」
毒を盛りそのまま無事で居るなんて有り得ないし、死罪になったか鬼人族に殺されたのどちらかだった。
「でもデンボさんは生まれていないんですよね?でしたらどうやって‥‥」
「既に母が私を身籠っておりました」
「あんたの母親は連座にならなかったのか?」
領民である鬼人族はあくまで平民扱いで、毒を盛った罪は問われるが当人のみで済む。しかしこの場合は領主である子爵がおり、多分高位の招待客も居たから一族が死罪になって普通だ。
「後、先程話に出た『流し』をしていた行商人が父です」
「は?」
「ち、ちょっと待って下さい、え?お父様が毒をお入れになったんですよね?」
って事はナサが居た頃に集落に来ていた行商人はデンボの父親の可能性も有るって事じゃねぇか。カーラはカーラで納得いかない顔をして重ねて聞く。
「そう聞いています」
「でもハヤ様に協力をしていたと」
「はい、だから宴にも呼ばれたみたいです」
「茶を売り出す手伝いをしてたんだろ?それが何で」
「父は‥‥脅迫されていたのです」
「脅迫?」
「どんな?」
「母が囚われの身となって、それを脅迫の材料にされたのです」
「そんな、何て卑劣な事を」
身重の女を人質にするなんてカーラの言う通り卑劣で見下げた行為で、確かにこれじゃ一族連座は酷ってもんだよな。自分の子供を身籠った妻を助ける為に言いなりで毒を入れたか。
「誰がそんな酷い事をしたのかご存知なのですか?」
「お答え出来ません」
「それって」
「‥‥‥」
こいつは遠巻きに教えてくれてるんだ。デンボが答えられないのは領主のハヤ子爵に関係する事、だったらその子爵の、まさか本人じゃ無いだろうから反対した身内か周りの誰かが脅したって事になる。
「でも何で混血まで嫌われるんだ?あんたの親父さんが毒を盛ったんだから人族だけで済むだろ」
「画策した者の理由が混血を、種族間の情愛を忌避する為だったからです」
「毒を盛ったのは種族が違うのに色恋したからだって?そのせいで被害に遭ったから子供である混血も同罪だってか?」
「私には解りません」
「こじ付けに思うけどなぁ」
人族を憎むのは解る、実際毒を入れたのはデンボの父親で人族だからだ。黒幕が異種族間の色恋をさせない為に計画したとしても、その対象に子供まで入れるなんて随分乱暴な気がする。混血で有る事は選べないし責任も無いんだぞ。
「憎む相手が居なければ耐えられない程の悲劇だったのでしょう」
「そういうもんかな」
「誰にも、その立場になってみないと理解は出来ない事ですね」
「ふむ」
確かに憎しみの深さや強さは当人達でないと解らない、これ以上は止めておこう。
カーラが一定の理解を示して話を変える。
「お母様はどうなされたのです?」
「事件の後、母を子爵様が御屋敷の使用人として勤めさせました」
「親父さんは罪を問われたんだろ?なのに?」
「私達母子を不憫に思って下さったのかも知れません、連座を免れてもあのままではツルギ領では生きては行けなかったと思いますから」
「そうでしたか‥‥きっとお母様もお辛かったでしょうね。デンボさんがハヤ様にお雇いになられてるのはお父様が関係しているのですか?」
「父の事を口に出した事は有りませんし子爵様も何も仰られていませんが、それも有ると思います。他にも身近に適当な人材が居たからではないでしょうか、何せ私は御屋敷で生まれましたから」
不憫はそうだろう、それに裏で糸を引いていたのは子爵関係者だとして後ろめたさも有ったと思う。生まれた時から知っているデンボは信頼出来、尚且つ恩を感じているから裏切る心配も無い貴重な存在で、逆に言えばこいつの忠誠心も並大抵のものじゃないだろう。
「じぁこの一連の事件は解決したんだな?毒の後遺症は別にしてさ」
「はい」
「黒幕やらは見付かって捕まった?」
「全員死罪となりました」
その中には恐らくデンボの父親も入ってる。
「全員ですか?」
「その筈です」
「では毒の出所は解っているのですか!?」
「それは、申し訳有りません」
解っているんだったら、どんな毒かも知ってるって事で、だったら何で解毒薬を作らない?
「出所はいいし、それを用意した犯人もいいからさ、どんな毒だったかだけでも教えてくれ」
「フツさんの言う通りです、教えて下さい!!」
「それが毒の事は解らなかったらしいのです」
「そんな事って」
ガラガラガラ
俺が反論しようとした時、客屋の戸が開く音が聞こえた。
「どうしましょうフツさん、この事はナサ様にお話しない方が‥‥」
ナサが戻って来た事が解り、デンボの話を聞かせるかカーラが迷っている。
「そういう訳にも行かないだろ」
結局知る事になるんだし、後から聞く方が本人にとって辛い。
「戻りました」
「お、お帰りなさいナサ様。シデさんの思い出話はどうでしたか?」
「は。俺にとっては貴重な話でした。この様な機会をお与え下さり感謝します」
「そそれは良かったです、え~っと」
カーラは俺を見ながら答え、中々切り出そうとしない。
「俺が話すよ」
「え?」
彼女には無理そうなので俺がしようと割り込む。デンボの事を憎むか殴るかするかも知れないが、冷静になればデンボに罪は無いと解ってくれる男な筈だ。
「む?何の話だ!?」
「長くなるから座ってくれ」
「そうか、解った」
「私からお話します」
ナサが囲炉裏の前に腰を下すと今度はデンボが割り込んで来た。
「フツ、それにデンボ殿まで一体何なのだ?お嬢様は知っておいでか!?」
「ナサ様、デンボさんがこれからお話される事を冷静にお聞きなって下さい」
「冷静ですと?」
「はい、くれぐれもその様にお願いします」
ナサが俺見たので頷く。
「承知しました、デンボ殿お聞き致そう」
デンボはもう一度自分が知っていて話せる事を語り出した。
「以上です」
「‥‥‥」
俺はデンボが話してる間に皮肉にもその茶を飲んでいたが誰も気付いて無い。ナサは話を聞いて無言だが顔に怒りが現われる様子は無く、そんなナサを見てカーラが胸を撫で下ろしてるのが解った。
「そうか、この集落でその様な事が」
「はい」
「何だよ随分冷静だな?」
「これを聞いて俺が激昂するとでも思ったか」
「そこまでじゃ無いけど」
「私は覚悟が出来てました」
もう少し違う反応を想像してたが、ナサもデンボも他人事みたいな感じだ。
「四十年前だぞ?脅され毒を入れた、それが俺の両親が作った茶だと言うだけでデンボ殿は生まれもしとらん。デンボ殿を責める必要が何処にある?」
そんなに割り切れるもんじゃ無い、心の中はきっと複雑な筈なのに全くこの男は。
「男前過ぎて何も言えねぇ」
「お主は女の敵だったな」
「それも何も言えねぇけど今言う事か?」
「はははは、これは使える」
「絶対あんたの格好悪い所見付けてやるからな」
こんな俺達のやり取りをカーラは笑い、デンボは信じられない顔をして見ていた。
「先程デンボさんお聞きしたのですが」
カーラがナサを交えてこの話題をしても問題無いと解り、毒の事を説明する。
「お嬢様はどんな毒か知れば何とかなると?」
「可能性はあると考えています」
「でもあんまり期待すんなよ、専門家でも難しいと思うからな」
「はい、その毒が『薬』の類なら正階医で無いと解毒薬を生成出来ないと思います」
「出所さえ」
「それは解ってるらしいけど、毒の詳しい事は解って無いんだ。だろデンボさん?」
「はい、父が渡された毒が全てだった様で使い切ったと供述していたと」
「明日ハヤ様にお会いして出来る事ならもっと詳しくお聞かせ願いましょう」
「カーラさん、子爵様はお話にならないかも知れません」
「それでも話して貰うさ」
自領の恥とも言える行為で起こった悲劇をわざわざ他領の者に言う訳無いか。しかしその因果で俺達は巻き添えを食ったんだから、何としても聞かせて貰うつもりだ。
俺の失礼とも受け取れる言葉にカーラも頷く。
「その時はナンコー領主名代としてお聞きします」
『薬』の取引は商人カーラ・マハで接するが、終われば伯爵令嬢で今回は手紙も託されてる伯爵の名代だ。それは父であるクスナ・ナンコー伯爵本人と同等の立場、子爵であるハヤ・ツルギが邪険に扱って良い相手では無い。
何回思ったか、カーラは頼りになる雇い主で何より良い女だ。
次回更新は今週末の7/19.20辺りになると思います。
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