①⓪⓪四十年前のツルギ領事情
100話!!
コアな読者な皆さんのお陰です(笑)
そして一年が経った頃ついに納得のいく茶が出来たとの報告を受ける。早速その茶の味見をしに鬼人族の集落に赴くと、男の女房はクデと言う族長の姪で、彼女がその茶を淹れてくれ、一口飲むと香りが良く、ほのかな甘味があって申し分ない仕上がりだった。妻が協力をしてくれたから完成したとの惚気を男がしきりに言っ来るのには苦笑したが、夫婦が作り上げた茶は愛情の賜物なのだろう。種族の壁を乗り越えたこの夫婦は、今後のツルギ領の手本となるべき姿だと思った。
「それで何時しか家族ぐるみでの付き合いになったみたいです」
ハヤ子爵と男の仲はお互いの家を訪れる程になり、自然と鬼人族達もハヤ子爵と会う機会が増え、この若き領主に対する態度も友好的なものへとなっていた。
「家族ぐるみって事はナサさんも含めてだよな?」
「そうではないでしょうか」
「その当時ハヤ様は既にご結婚なされたのですか?」
「それに子供は?」
「‥‥お答え出来ません」
デンボは領主の事は本人に聞けとて言っていた。
領主のハヤ子爵は幼い頃のナサに会った事があるんだ。ナサ本人は覚えて無いと思うけど、子供が居てたら一緒に遊んだくらいはしていたかも知れない。しかし家族ぐるみとなると相当仲が良かったからで、ナサ家族がナンコー領に移る事に何も言わなかったんだろうか?
「解りました、お話の腰を折ってすみません続きをお願いします」
「はい」
ハヤは夫婦が作った茶を新しい産業にすると決め、先ずは鬼人族の集落に近い場所で小規模生産を始めさせる。それが上手く行けば周辺の種族達にもその茶を作らせるのだ。
「鷲人の集落もその中の一つだった?」
「はい。その後小規模で生産した茶の品質に問題は無く、この周辺の鷲人族、鹿人族、狸人族の集落にも生産させる計画が進められて行ったと聞いています」
「でもその種族達は素人だろ?」
「ハヤ様は指導を受ける様に申し付け、彼等はその通りにしました」
「指導されたのはナサ様のお父様?」
「奥様のクデ様がしたみたいですね」
領主の指示でも土着の各種族達に新しい事をさせるなんて、ただでさえ骨が折れる。それに加えナサの父親は人族で元々余所者だから気を遣ったんだな。
「そして更に一年が過ぎ、その集落の種族達が作った茶も夫婦が作った茶と遜色無い物に育ったのです」
実はハヤは茶の生産と言う新しい産業の目途が立つ前に、その販路を作ろうと前もって動いていた。協力を仰いだのは人族の男で、今は領内で行商を生業としている。元々は『流し』の商人だったのでその経験を買ったのだが、その男も亜人の妻が居り、何やら運命めいたものを感じてもいた。話を進めて試作品を他領に送らせたが、その反応は悪く無い。但しそれも茶の生産が上手く行かなければ全てが無駄になるのだが、その心配も無くなりハヤは安堵した。
いよいよだ、長らく林業に頼り切りだった我が領に新たな産業が生まれる。
その喜びを感謝の意味を込めて夫婦家族と当初から協力してくれた鬼人族達を宴に招く事にした。ところが一部の者達から、特に身内から反対され揉めたと言う。
「ナサさんの両親以外で同じ様な夫婦が居たんだ。それも行商かぁ、あ!もしかして鬼人族の集落に来てたってその男かもな」
「‥‥‥」
「?」
「何で反対されたのでしょう、それとお身内とは?」
「申し訳有りません」
「じぁ飛ばして話せる事だけで進めてくれ」
「はい。結局ハヤ様は茶の生産が成功した祝いとお披露目に、少数の招待客を連れて鬼人族の集落で宴を催したのです」
鬼人族は外交的ではなく、集落からも仕事以外では余り出ない種族でどちらかと言えば閉鎖的だ。それが若い領主である自分を受け入れてくれた事が嬉しかった。そしてその切っ掛けと、この茶を作ってくれた異種族の夫婦と、売り出す為に何かと骨を折ってくれている男に皆の前で改めて感謝を伝えるつもりだったが、あともう一つ喜ばしい出来事が有るので、それも合わせての宴だった。
「そのもう一つの祝い事って?」
「申し訳ありません」
「解った解った、話進めてくれ」
「はい」
ハヤはこの茶で乾杯をする事にし皆に器を持たせると女達が茶の入った鉄瓶を注いで回るのを待つ。鬼人族は男を立てる種族なので先に口にするのは男達だった。酒でも無いのに律儀な事よ、酒はこれが終わってから振る舞うつもりでいたので女達には酒の方は男達より先に飲ませてやろうと決めた。そんな事を考えてると、いざ乾杯の音頭を口にする直前に何かが起こり、鬼人族の男達は盛り上がっていた。鉄瓶を回して飲み始めると、その流れで数人の者達も飲んでいる。族長と今回の立役者の夫婦家族、鬼人族の女達はまだ手を付けてないと言うのに。苦笑したが彼等の笑顔を見て、まぁ祝ってくれているのだから咎めるのは野暮な行いだと思い勝手にさせておく事にした。
「そのお茶に毒が?」
カーラがデンボに確かめると混血商人は無言で頷いた。
「今此処にナサ様が居なくて良かった‥‥」
続けてカーラは呟く。
カーラはナサが自分の両親が懸命に作った茶を残したいとの頼みに応えると言っていて、その茶をそんな事に使われていたなんて彼女がそう呟くのは当たり前だった。でもこれでナサ家族がナンコー領に移り住んだ理由が解ったな。見当違いの恨みだし、何の責任も無い、とんだとばっちりだが自分達が作った茶で参事が起こり居辛くなったんだ。
「犯人は解ってないのか?」
「お答えできません」
と言う事は領主の方の誰か、反対した身内か。
「まだ話せる事ってあるのかよ」
「混血が嫌われている理由です」
「それは、ナサ様のご両親が関係しているでは?」
「否定しませんが他にも有ります」
「教えてくれ」
「茶に毒を入れた実行犯が私の父だからです」
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自分が生まれた家だと言うのに落ち着かぬのは、この家に眠り続けている男達が居るからであろうか。シデ殿は母の名は出すが父の名を出そうとせん。「アンタの父親」「あの男」としか言わなかった。
「シデ殿は何故父の名を呼ばれぬ」
「え?ああ悪いね、「あの男」で慣れちゃってるのさ」
「慣れ?」
「ある出来事があってからナサ坊達家族の話はご法度だったんだよ」
「何か父がしでかしたのか?」
「いやそうじゃ無い‥‥そうじゃ無いけど感情がそうさせてるのさ」
「感情とな」
「ヒウツの態度もそうさね、クデに惚れていた事とは別に割り切れないでいるんだよ」
「‥‥深く聞かぬ方が良いのであろうか?」
「解ってるじゃないのさ、餓鬼の癖に気が効くよアンタは」
「この歳でそう言われるとは」
「何言ってんだい、鬼人からしたら五十年なんてまだまだだよ」
「む、俺は混血なのだが」
「関係無いさね、従妹の息子を餓鬼扱いして何が悪い」
「それは、そうだな。いや色々聞かせて貰い有難う御座った」
「お止し、アタシも楽しかったんだ。戻るかい?」
「うむ。明日はお嬢様とご領主に会うのでな、まさか寝過ごす訳にも行くまい」
「言えてるね、そんな事になったら餓鬼扱いじゃ済まないよ」
「餓鬼と言えばステトの事を頼む」
「あの猫の娘っ子は愛されてるんだね」
「その様なものでは無い、放って置けんだけだ」
「それがそうだって言ってるのさ」
母の従姉には頭が上がりそうに無い。そして暇をしようと立ち上がり、シデ殿が見送ってくれる途中に男達が眠る部屋が目に入った。
「一つ聞くが」
「‥‥何だい?」
その部屋を見て俺が口にしたのでシデ殿は警戒したのか、眉間に皺が寄っている。
「そう構えんでくれ、聞きたいのは『薬』の事だ」
「それがどうしたんだい!?」
「コセ・ポーションの効果はお嬢様から教えて頂いたが、人族は処方に制限が有って一度飲むと一定期間空けると言うではないか。鬼人はどうなのだ?」
「‥‥一日に一粒、一錠って言ゃ良いのか、飲ませてる」
「何と、それは多い」
「領主は高い金を払って院社から手に入れてくれてたんだけどね、量が量だけに限界だったと思う」
「だからセフ殿に」
「それはアタシ達の承知する事じゃ無いよ」
「しかし今回、長はお嬢様から『薬』を受け取っておらん、持つのか?」
「あと半月分は有るけどね‥‥それまでにヒラ様の考えが変わらなきゃお終いさね。でもナサ坊が気にする事じゃ無いよ、ヒラ様が決めたんだったら最後には受け入れるしか無いんだから。もういいからお行き」
「‥‥‥」
母の里を絶えさせるのか、俺はもうどうして良いのか解らなくなっている。何か他に手が無い限り本当に俺が戻るしかなくなるのだ。
シデ殿に後ろめたさを感じつつ、お嬢様とあの機転の利くフツが居る客屋に向かった。
次回更新は7/18~19辺りになりま。
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