⑨⑨更に見えて来た事情
フライング更新!!
背景や説明がもう何かずっと続きますが、フぁ~っと呼んで無理矢理納得して下さい(笑)
「お帰りなさい」
「何だ居たのか」
出迎えたのはツルギ領の商人で混血のデンボ・ハレノだった。何処か出掛けると聞いていたのでカーラも意外に思ったのかデンボに尋ねる。
「デンボさんは今晩お戻りにならないと思ってましたけど」
「そのつもりでおりました」
「では何故です?」
「あれからカーラさんが仰られた事を考えていまして」
「私?」
「はい、商人の矜持、そして信用のお話です」
彼女はデンボに思う事が有り、珍しく強い口調で責め立てていた。
「今更何言ってやがる」
こいつは鬼人族の現状を知っていて、雇い主の領主に伺いを立てたとしても族長の頼みを受け入た。ナサへの話の内容も恐らく想像は付いていた筈で、全て教えろとは言わないが、せめて危険があるなら忠告くらいするべきじゃねぇのかよ。その結果ステトが人質になったんだ、なのに信用だって?
「デンボさん、フツさんは怒っているんです」
「何かあったのですか!?」
「あったから頭に来てんだよ」
「ヒラ様とのお話です」
カーラが一連の出来事をデンボに話す。
「ヒラ様は何て事を‥‥」
「白々しいぞ」
「まさか!本当に知りませんでした」
「ヒラ様がナサ様を連れ戻そうとお考えだった事は?」
「それは、承知していました」
「知ってて呼んだってんなら俺達を嵌めたのと同じだ」
「その機会が欲しいと頼まれただけです!説得出来ればと言うお話でしたが、まさかそんな強行手段に出るなんて」
「どうであれデンボさん、お陰で私達は困った状態になりました」
「申し訳御座いません!!」
デンボは床に額が付くくらい頭を下げ、それを見たカーラは手を差し伸べデンボを起こしてやる。
「貴方は事情をご存知なんですね?」
「‥‥はい」
「何が有ったのですかこの集落で」
「全てを知っている訳では有りません、事が起こった四十年前の当時に私は生まれていませんでしたので」
「では何方からお聞きになったのですか?」
「主に母からですが、私が今の職に就いて子爵様とお近付きになってからは自ずと知る様になったのです」
「いい加減あんたが知ってる事教えてくれよ」
「そ、いえ‥‥解りましたお話します、但し子爵様の事だけは御本人からお聞き下さい」
カーラが頷くを見てデンボが話し出す。
ハヤ・ツルギが20代半ばで跡を継いで領主になった四十年前のツルギ領は、同じ領民でも人族から得る税収より亜人族からの方が多く、亜人族達の中にはワヅ王国建国以前から住んでいた種族もいる為、王国法を押し付けたり強権を使う事はせず、納める税も領主が集落の各族長達と話し合いで決めていた。
種族が長い間守って来た地に集落が有り、当時は種族の纏まりが強過ぎ融通の利かない状態で、稼ぎは各集落が自分達で管理していたが、その環境によっては得られる収入が左右されてしまっていた。種族間の貧富が広がると、それが原因で争いに発展する事もあったとか。ハヤ子爵はその問題を各種族の族長と根気よく話し合いを重ね、林業などは土地に関係無く分担制交代制にして収入も一旦全て領の管理下に置き、税を引いて均等に分配する事にし、ツルギ領に長く有る集落の亜人族には領民が治める居住税を免除した。
「それじゃ人族が納得しないだろ」
「人族は少なかったので別の優遇措置を行いました」
人族の領民には居住税を従来の六割に減税し、その代わり率先して仲介所に持ち込まれる魔獣や獣の素材を買う様言い渡して、それを股売り又は加工して売った収入や林業で持ち込まれる材木で作った品を売った収入に関しては半分に減税し、加え全ての領民に原野や山林を開墾して作った農作物の収入は向こう10年間無税とするとした。
「でも根本的な解決にはなりませんよね、ツルギ領の収入が減ってしまいますから」
「先ずは種族間の融和を優先したみたいです」
ツルギ領は亜人族が圧倒的に多くその存在は領主の頼りでもあったが同時に悩みの種でもあって、各種族の族長達を上手く扱わなければ領の運営が滞るのだ。人族の領民にしても平和で食べて行けたら不満は出ない。損を被って不満を抑えた。
「それ故に林業とは別の収入源を探すのは喫緊の課題だった様です」
「でも見付からなかったんだろ?それか失敗したか」
四十年前に新しい産業を始めて、それが上手く軌道に乗っていたなら人族がもっと増えてる筈だ。貧しい領のままだから人族も居なくなり苦肉の策で奴隷を増やしてるんだし、その奴隷達に『スイートポテト』を作らせる必要も無い。
「はい、あ、いえ見付かりました」
「何をです?」
「フツさんがハヤから貰っていた物です」
「まさかあの茶!?」
「はい」
「ナサ様のお父様が始められたんですよね」
「ご存知でしたか」
「シデさんから聞いた、ナサさんの両親の愛の結晶だってな」
「このお茶がお2人を結んだんですものね」
「その時はまだ試作中だったみたいですが」
領主となったハヤ子爵は人族は勿論の事、亜人族達の生活向上も目指していて、収入源になるを別の産業を作ろうと日々領内を回って何かないかと探し続けていた。
当時の王国はまだ他種族との婚姻を避けていた時代で、ある日視察の途中で鬼人族の集落に住み始めた人族が、鬼人の娘と所帯を持ち子も居ると聞き興味本位で訪れる。あの頑固な族長が許したのも意外だが人族と子を成すとは。鬼人族は代々ツルギ領主が頼りにしていた種族の一つで有り、領兵の副長も鬼人の男で、この視察に同行した彼からその話を聞いたのだ。
その人族の男に会うとナンコー領の出身で元々は騎士をしていたと言う。それがどうして騎士を辞め燐領のツルギ領、しかも鬼人族の集落に来たのか問い質すと、以前にナンコー領とツルギ領が合同で大規模な魔獣討伐を行った際その中に居た我が領の鬼人族の兵の強さに圧倒されたのだとか。自分の騎士としての自信を失い職を辞し、暫く放浪した後にその鬼人の兵と再会して、それが切っ掛けで鬼人族の集落を一目見ようと目的も無く来たのが始まりだった。何とその兵が今回同行してこの男の事を教えてくれた副長で、2人は既にそれなりの仲を築いているみたいだ。
ナサの父親が族長に集落に来た理由を聞かれ「憧れてた」と答えた事をシデが教えてくれていた。騎士を辞めて鬼人族の里に来るなんて無謀な男だと俺は言ったけど、それはその通りだった。でもシデが言っていた世迷言とかは間違ってる、本当の事だったんだ。
「伯爵さんの親父さんの時代か」
「そうだと思います」
「当時のナンコー領とツルギ領の付き合いは経済じゃ無かったのか」
「祖父クスノ様はお父様と違って武人でしたから」
クスノ・ナンコー子爵には息子が2人居て長男は今回の話より後年の魔獣討伐の祭、不幸にも深手を負って死に、そのせいで次男のクスナ・ナンコーが跡を継ぐ事になる。次男のクスナは既に平民の女と結婚しカーラが生まれていたが、その後嫡子となった事で外聞を気にした父クスノの命令で貴族の正妻を迎えた。クスナはその後、縁故をナンコー領の発展の為に利用し国道を開通させ、伯爵に「陞爵」されたのもそれがあっての事だったが正妻との軋轢も加わり、あのお家騒動に発展する結果となってしまっていた。
「でもナサ様のお父様が騎士していたなんて」
『騎士』である事と『騎士爵』である事は全く違う。『騎士』は騎士兵であって平民でも実力が有れば成れるが、『騎士爵』は半貴族と言えどれっきとした爵位だ。ナサは『騎士爵』を持つ『騎士』で、父親は騎士兵だった。
「伯爵さんは知っていてナサさんに領属騎士爵を与えたのかな?」
「クスノ様から聞いてる可能性は有りますね‥‥」
「その先代領主のクスノ祖父さんてまだ生きてんのか?」
「はい。今は王都のナンコー家屋敷をお任せしています」
「色々事情知ってそうだな、ナサさんの親父さんの事とかさ」
「今からわざわざ王都にまで聞きに行けないですけどね」
騎士を辞めてツルギ領に移り住み、鬼人の女房と息子を連れて再びナンコー領に戻って来たなんて、領主に報告があってもおかしくない。
「私は残念ながらナサさんの御父上の事は存じ上げてません」
「デンボさんは生まれてないから仕方ないだろ」
「それでハヤ様はどうなさったのですか!?」
鬼人族の集落は山の縁に有り、とてもじゃないが何かを作れる環境に適さない。ところがその男が持ち込んだ茶の苗は何とか生っっていると言う。山特有の寒暖差や日照時間が関係し、山林の土には自然の堆肥で栄養が豊富に含まれていからこの様な美味い茶が出来たと説明される。ただ育たない作物の方が多いとも付け加えた。元騎士の男が何故そんな事を知っているのか聞くと、放浪先で見聞きした事を試してその様な結果に辿り着いたらしい。ハヤは感心すると同時に可能性を感じて量産出来るか相談したが、まだそれ程の品質では無いと言われ、それからも元騎士の男と会う機会を設けては進捗を聞くと正直にまだだと答えが返って来る。若き領主はそんな男の人となりを気に入ったのだった。
次回こそ7/16~18辺りで更新予定です!
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