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07 服とパンツ

 服って意外と高いな……。


 そう思ったが、口には出さなかった。これ以上ペトラの服を買う意思を削ぐわけにはいかないからな。


『じゃあペトラ、好きな服を選べ』

「ん……」


 だが、一度決めたらペトラも女の子だからなのか、色々とこだわりがあるようで、一生懸命服を見繕っていた。


 店には溢れんばかりに服があるからな。好きな服を見つけるのも一苦労だろう。


 どうも見ていると、ここは古着の店みたいだな。ちょっと汚れた服なんかも平然と売ってやがる。これは買った服を後で洗った方がいいな。


 そんなことを思いながらペトラを見ていると、ペトラはとにかく安い服を探しているようだ。


 そうはさせるか!


『ペトラ、そこの箱の服はボロいから、こっちのハンガーの服から選べ』

「えー……」

『好きな服を選べって言ったろ? そんなボロい服が好きとか引くわ』

「むー……」


 ペトラがむくれながらハンガーに釣られた服を見ていく。


 だが、やっぱりペトラも綺麗な服が好きなのか、だんだんと機嫌がよくなっていった。チョロい。


「アラン?」

『なんだ?』


 ペトラを見ると、二つの服を持っていた。


 正直に言おう。この時点でオレは嫌な予感がした。


「どっちの方が似合う?」

『あー……』


 くそっ! やっぱりだ! なんで女はすぐにこういうことをするんだ! された男の気持ちにもなってみろよ!


 どうせ自分の中ではどっちがいいか決まってるんだろ! なんで確認するんだよ!


 でもって、男が選択を間違えれば「えー? 本当にそう思うー?」とかぬかしやがるんだぞ! やってられるか!


 恐ろしい。こんな幼い少女がもうこんな禁断の質問を覚えているという事実が恐ろしい……。


 過去のトラウマが甦りそうになりながら、オレは努めて冷静を装って口を開く。


『二つ気にいったんなら、二つとも買えばいいんじゃねえか? 着替えも必要だしな』

「えー……」


 なにが納得いかないのか、なぜかペトラは不満そうな顔をしていた。


 知るか!



 ◇



『うーん……?』


 オレは古着屋の中を何周もしたが、目的のものを見つけられずにいた。


 オレの探しているもの。それは女児用のパンツだ。ここには売ってないのか?


「アラン、決めた」

『おう。じゃあ買っちまえ』

「ん」


 ペトラが選んだのは、白と水色の二着のワンピースだった。ペトラはワンピースが好きなのか?


『ああそうだ。ペトラ、店主に下着は置いてないのか訊いてくれ』

「下着? 買うの?」

『ああ。スカートを穿くんだ。ペトラも下着を穿いてた方が安心だろ?』

「いらない……」

『え?』


 いらない? こいつ、ノーパンで膝丈のワンピース着る気かよ!?


『ペトラ、パンツぐらい穿いとけ。丸見えになっちまうぞ?』

「べつにいい……」

『ダメだ。パンツを穿け。じゃないと、オレはどっか行っちまうぞ?』

「……それ、ズルい……」

『なんとでも言え。お前には絶対パンツを穿いてもらう』


 なんで女児にパンツ穿かせるために説得せにゃならんのだ……。


 ペトラはむすっとしながら店の奥のカウンターにワンピースを置いていた。


 店主だろう老婆は、ペトラの姿を見て困ったような顔をみせた。


「お嬢ちゃん、この服は一着銀貨一枚だよ? 嬢ちゃんに払えるのかい?」

「払える」


 ペトラは昨日手に入れたばかりの銀貨を二枚取り出してカウンターの上に置いた。


「ならいいんだがねぇ?」


 老婆のペトラを見る目はなにか怪しいものを見る目だった。


 まぁ、ボロボロの服を着たペトラの見た目を考えれば、いろいろ疑っちまうのもわかるわな。


「おばあちゃん、パンツはないの?」

「パンツ? お嬢ちゃん、下着は高くても新しいのを買いな。変な病気でももらったらたいへんだからね」

「わかった……」


 パンツは新しいものを、か。古着屋なりの知恵なのかね。まぁ、たしかに他人が着けてた下着ってのは気持ち悪いな。


『よし。んじゃあ、パンツ買いに行くぞー』

「ん……」

『なんだよ、元気ないな? 新しいパンツは嫌か?』

「またお金かかる……」

『お前はなんでそんなに守銭奴なんだ……』


 まぁ一度無一文になって死にかけて、金の大切さが骨身に沁みてわかっているのだろう。


『いいか、ペトラ? お金ってのはただ持ってるだけじゃなんの意味もねえ。使って初めて意味が生まれるんだ』

「ふーん……」


 ペトラの気のない返事を聞きながら、オレたちは服屋っぽい店に突撃した。


 ここは新品の服が売っているらしい。当たりだな。


『しっかしまあ……』


 新品の服って金貨出さないと買えないんだな。高いなんてもんじゃない。めちゃ高い。これじゃあパンツも買えるかどうか……。


 ペトラと一緒に店を見ていると、下着コーナーを見つけたのだが、値段はピンキリだった。なんの飾りもない普通のパンツが銀貨三枚。しかも布をケチっているのか、少し際どい。ローライズパンツって感じだ。刺繍や飾りの付くと、それこそ値段が跳ね上がって金貨なお値段になる。


「高い……」


 ペトラが辛そうに呟く。


『でも買えるだろ? さっさと買うぞ』

「ん……」


 その後、どこか哀愁を漂わせたペトラは無事パンツを購入したのだった。

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