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05 吸収

「まさかペトラが精霊様と契約するなんてねえ」


 おっかさんは目に涙を浮かべて我がことのように喜んでいた。


 周りの女たちも感化されたのか、涙ぐんでいる者がいた。


「これでペトラ、いらない子じゃない? ペトラ、ここにいてもいい?」


 ペトラの一言に、ハッとした様子をみせる女たち。


「ペトラ……」


 ペトラの言葉に、おっかさんはついに耐えられず涙を流してペトラを抱きしめた。


「ごめんね……。ペトラ、ごめんね……。あんたには辛い思いをさせたね……」


 ペトラにとって、この娼館はペトラの家なのだろう。そして、周りの女たちは家族だと思っているのかもしれない。


「でもね、ペトラ。あんたはこんな所にいちゃダメだよ。ペトラは精霊様と契約できたんだ。きっとペトラはすごい人になる。娼館になんて出入りしてちゃいけないんだよ……」

「でも、ペトラここにいたい……」

「困ったねえ……」


 おっかさんは泣きながら嬉しそうな、しかし悲しそうな顔もしていた。


 たしかに、母親を失ったペトラにこれ以上家族を奪うってのは酷な話だよな。


『ペトラ、お前はここにいたいのか?』

「ん……」


 ペトラがコクリと頷く。


『じゃあ、決まりだ。ペトラはここで暮らせ。だが、絶対に売りはやるなよ?』

「なんで……?」

『病気になったら怖いからな。この条件を飲めないなら、ここにいることをオレは認めない』

「わかった……」

『じゃあ、こう言え。精霊様であるオレが認めてるってな。きっとおっかさんの考えも変わるだろうよ』

「ん。おっかさん、精霊様も認めてくれた」

「ええ!? あんた、精霊様としゃべれるのかい!?」

「ん! おっかさんの声も聞こえてる」

「こりゃたまげたね……」


 おっかさんたちがオレを探すようにキョロキョロとしていた。


「ここにいる」


 ペトラが自分の頭の上を指差すと、みんなの視線がオレに殺到した。


「ここにいるのかい?」

「なにも見えないけど……」

「きっと契約したペトラだけ見れるんだよ」


 女たちが不思議そうにつぶやく中、おっかさんが真剣な目でオレを見てきた。


「精霊様、ここは娼館なんだ。こんな所に出入りしてたなんて知られちまったら、きっとペトラの傷になっちまう。ペトラを見捨てたあたしが言えたことじゃないけどね、あたしはこれ以上ペトラに迷惑をかけたくないんだよ……」

『それを決めるのはペトラだ。ペトラからこれ以上家族を奪うな。そう言ってやれ。んで、売りは絶対禁止だというのも伝えとけ』

「ん。精霊様はこう言ってる。それを決めるのはペトラ。ペトラから家族を奪うなって。あとペトラは売りは絶対ダメだって言ってる」

「そんな……。ペトラは本当にそれでいいのかい?」

「ん! ペトラ、みんなと離れたくない。みんなペトラの家族……」

「ペトラ……」

「この子は……」

「私たちは一度あなたを見捨てたっていうのに……」


 女たちがさめざめと泣き出し、ペトラも釣られたように泣き出した。


 まったく、ここの女どもと泣き虫で困る。


 そう言うオレも胸が熱くなっていた。


 オレは家族の情なんて信じてなかったんだがなぁ……。



 ◇



 その後、ペトラは泣きつかれたように眠ってしまった。いつの間にかもう夜になっていたしな。子どもは寝る時間なのだろう。


 このまま寝ているペトラを見てても仕方ないし、オレも行くか。


 ここなら安全そうだしな。


 オレは嬌声の聞こえ始めた娼館を後にすると、街の真ん中の池にやってきた。もう夜だってのに槍を持った人間が池を見張っている。きっと二十四時間体制で水を盗む奴がいないか見張っているのだろう。


 やれやれ、領主ってわりにやることがせこいな。


『はぁ……。どうすっかな……』


 オレはだいぶ薄くなって向こう側が透けて見えるようになってしまった自分の尻尾を眺めて溜息を吐く。


 水を創り出すのは、オレにとって朝飯前だ。だが代償がある。それが魔力だ。


 精霊ってのは、意志を持った魔力の塊だ。オレが魔法を使うってのは、自分の身を削っているに等しい。失った魔力をどうにかして回復しなくてはいけない。


『水を吸っても意味がねえか……』


 水を出したのだから水を補給すれば魔力が回復するかと思ったんだが……。そんな簡単な話ではないようだ。


『どうする……?』


 このままではペトラと始めた脱法水屋が頓挫しちまう。それはペトラの緩やかな死を意味していた。


 男が助けるって言ったんだぞ? 自分の言葉を嘘にはできねえ!


『どうにかしねえと……。ん?』


 その時、池の中央あたりでふよふよと浮いている存在を見つけた。まるでお饅頭に猫耳と猫尻尾が生えたような姿。オレと瓜二つだ。


『よお、あんたも水の精霊か? ちょっと魔力を分けちゃくれねえか?』


 近寄って話しかけてみるが、水の精霊は無反応だった。


『あ? シカトかコラ?』


 尻尾でつついてみるが、水の精霊はまるで反応が無い。だが、尻尾で触れた瞬間、わかったことがある。オレはこいつの魔力を吸い取れる。


『あんたには悪いが、オレには果たさなくちゃいけないことがあるんでな。罵ってくれていい。恨んでくれていい。だが、貰うぜ?』


 オレは水の精霊に尻尾を突き刺すと、その存在を奪い取った。

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