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04 初めての水売り

 ペトラは戸惑うことなく娼館の裏口を開けて中に入っていった。


 仕方がないのでオレも中に入る。


「おや、あんたペトラかい?」

「うん……」

「かわいそうにねえ。こんなに痩せちまって……」

「誰かおっかさん呼んできなよ」


 娼館の女たちもペトラ知っているようだ。


 ペトラは売りしか商売を知らなかったし、もしかしたら、ペトラの母親も娼婦だったのかもな。


 まぁ珍しい話でもないか。オレのお袋も水商売やってたしな。そして、オレを置いて男と消えた先で死んじまった。


『それにしても……』


 ここにいる女たちは娼婦なのだろう。みんな化粧をして薄着だ。それに女だけの空間なせいか、かなり不用心だ。いろいろと見えちまってる……。


 そんな女たちの奥から、肝っ玉母さんみたいなのが出てきた。こいつは薄着じゃない。助かった。


「おっかさん……」

「ペトラ、あんたまた戻ってきたのかい? 残念だけど、うちにはあんたを養う余裕がないんだよ。かわいそうだと思うけどね、消えてくんな」

「おっかさん、なんとかならないの? ペトラこんなに痩せちゃって……」

「そうよ。おっかさんの方から旦那様に頼んでくれないの?」


 周りの娼婦たちがおっかさんと呼ばれた肝っ玉母さんに懇願している。


 だが……。


「あたしだってねえ!」


 おっかさんが声を震わせながら吠えるように言う。


「あたしだって本当はペトラを見捨てたくなんてないんだよ! でもね。ペトラが客を取れるまで何年かかる? ざっと十年はかかるだろう。その間、誰が飯を食わせてやるんだい?」


 おっかさんの言葉を聞いて、周り娼婦たちが沈痛な面持ちで消沈する。


 そりゃそうだ。誰だって身銭を切ってまで他人の子どもを育てようなんて簡単に決断できることじゃねえ。


『ペトラ、さっさと水を売る話をしてやれ』

「うん……。あの、おっかさん……」

「ペトラ……。そんな目で見ないどくれ……」


 そう言っておっかさんは泣き崩れる。


「昔だったら、昔だったらねえ……。ペトラを捨てずに済んだんだ……。それが今の領主様になって、突然、水の価格が倍になって……。どこも家計は火の車さ。ペトラ……。なにもできないあたしを許しておくれ……」

「おっかさん……」


 周りの娼婦たちもおっかさんに釣られるように泣き始めた。


 どうにもよろしくねえな。オレは女の涙が大っ嫌いだ!


『ペトラ、さっさと水を売ってやれ。そしてこいつらを泣き止ませろ!』

「ん! あの、おっかさん。ペトラ、水売る」

「ペトラ……? あんたなに言ってるんだい?」


 オレは泣いてぐしゃぐしゃのおっかさんの顔に水鉄砲のように水をぶつけた。


「わぷ!? い、今のは? 水……?」

「ペトラ、精霊様と契約した。みんなに水売りにきた」

「精霊様だって!? じゃあ、今のは!?」

「うん。精霊様のいたずら」


 ペトラの言葉に、周りの娼婦たちが沸き立つ。


「ペトラすごいじゃない!」

「精霊様と契約できるなんて! どこの聖女様よ!」


 この地域には精霊の存在が一般的になっているのか、ペトラが精霊と契約したと聞いて大喜びだった。


「コップ銅貨二枚、バケツ銅貨八枚でいい……」

『あ、コラペトラ! 勝手に値段決めてるんじゃねえよ!』

「ダメ……?」


 ペトラが上目遣いで懇願するようにオレを見てきた。


 チッ。仕方ねえな。


『わかった。それでいい。ペトラの好きにしろ』

「ん!」

「その値段は昔の……。本当にいいのかい、ペトラ?」

「ん! 精霊様もいいって言ってる」

「あんたたち! 早くバケツ持ってきな!」

「はい、おっかさん!」


 オレは運ばれてきたバケツに水を注いでいく。


「ひゃっ! 冷たーい! これ飲んでみなよ! すっごく冷えてる!」

「すごいわ! 暑さが和らぐねえ」

「信じられないくらい透明なお水ね。冷たくておいしい……」


 女たちがキャッキャとはしゃいでいた。ここじゃあ冷たい水はごちそうなのだろう。群がるように飲んでいる。


 砂漠の街だからな。オレは精霊だからかあまり暑さを感じないが、やっぱり暑いらしい。


「これこれあんたたち、さっさと水瓶に水を運びな!」

「「「はーい」」」


 おっかさんの言葉に、女たちがいそいそとバケツを運んでいく。そしてすぐに空のバケツを持って帰ってきた。


 空のバケツに水を注ぐこと十二回。やっと水瓶がいっぱいになったらしい。


「えっと……」


 ペトラが指を折って数えている。たぶん水の料金を計算しているのだろう。


「銀貨六枚……?」


 ペトラが不安そうにオレを見上げてきた。自信がないのか?


『合ってるぞ。よく計算できたな』

「ん!」


 ペトラがふふんと自慢げにしている。オレはペトラの頭を撫でられない代わりにペトラの頭の上に乗った。


「アラン、冷たくて気持ちいい……」

『そうか。よかったな』

「ん……」


 その時、おっかさんがペトラに手を差し伸べた。


「じゃあ、銀貨六枚ね。ちゃんと確認するんだよ」

「ん」


 オレも数えるが、ちゃんと銀貨六枚あるようだな。


 収入としてはデカいな。ここには定期的に来たいところだ。

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