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02 少女との契約

 自分の存在が希薄になっていくのを感じる。


 精霊に転生したからか、オレは精霊がどんな生き物なのかなんとなくわかった。


 精霊は意思のある魔力の塊だ。


 魔法を使えば、その分、自分の存在が薄くなっていく。


 だが知ったこっちゃない。オレが、この少女を助けると決めたんだ。自分の決定に嘘は吐きたくねえ。


 少女は水をたらふく飲むと、ゆっくりと体を起こした。


 そして、不思議そうな顔で周りを見渡している。


 そうだった。普通の人間には精霊の姿は見えないんだったか……。


 どうしたものか。


 そう考えていると、精霊としての本能が『契約』と囁く。


 契約。なんでも精霊と人間は契約ができるらしい。そしたら、この少女にオレの存在が見えるようになるようだ。


『そうだな……』


 オレは少女を見下ろす。痩せた細い体。水も満足に手に入れられなかったことから考えても、このまま少女の元を去ったら、少女はまた死にかけるだろう。


 それじゃあ助けた意味がない。最後まで面倒見れなきゃ、助けるべきじゃない。


 中途半端に手を出すのは、偽善者よりも質が悪い。


『契約するか』


 オレの心は一瞬で決まった。


 少女の額に尻尾をくっ付けると、一瞬で契約は終わった。


『これで見えるか?』

「えっ!?」


 少女は急に目の前に現れたオレに驚いているようだった。


『オレの声が聞こえるか? 言葉わかるか?』


 少女はコクコクと頷いた。


「せいれいさま……?」

『ああ、そうだ。お前、名前は?』

「ペトラ……」

『オレの名前は……。死んでまで前世の名前にこだわる必要もねえか。適当な名前くれねえか?』

「名前……?」


 少女はぼんやりとした顔で考え、呟くように言う。


「アラン……?」

『じゃあ、アランでいい。オレはこれからアランだ。よろしくな』

「うん……。え? なんでペトラ精霊様が見えるの……?」

『それはオレがお前と契約したからだ』

「けいやく……。ペトラが、精霊様と……」


 なんか反応の鈍いガキだな。それに、ぼんやりとした表情のままだし、夢だとでも思っているのかね?


 なんか腹立つんだよなあ。


「ねえ、アラン。……ペトラも死んだら精霊様になれるかな……?」

『あん? そんなこと死んでみねえとわかんねえよ』

「そっか……。じゃあ、もうすぐわかるね……」

『あ?』


 そうか。違う。こいつの顔。これはぼんやりした顔じゃねえ。もう生きるのを諦めた顔だ。だから腹が立つんだ。


 オレが助けるって決めたんだぞ? お前には嫌でも助かってもらう。


『よし、決めた! ペトラ、お前にはしわくちゃのババアになるまで生きてもらうぞ! んで、幸せな人生だったって言わせてやる! これは絶対だ!』

「……無理だよ。だってペトラ……」

『うるせえ。いいか? 人間本気になりゃ無理なんてことはねえ! ペトラ、お前だって本当は生きたいんだろ? 生きたいって言えコラ』

「もういいの……。ペトラもう疲れちゃった。ママに会いたい……」

『死んだらママに会えないじゃねえか……ん?』


 そうだよな。普通こんな小さい子どもなら親がいるはずだ。親はなにしてるんだ?


 もしかしなくても、親も死んでるのか?


 マジかよ。


『ペトラ、お前、親はどうした? 死んじまったのか?』


 ペトラはコクリと頷いた。


『じゃあ、オレと同じだな』

「……え?」

『オレもガキの頃親が死んじまった。六歳の時だった。ちょうどペトラくらいの年だな』

「そう……」

『オレも死んだが、親には会えなかったぞ? まぁオレの場合は会いたくもなかったからちょうどいいが。ペトラ、死んだってママには会えねえ。諦めて生きろ。生きるって言え』

「でも……」

『なんだよ? まだ死にてえのか? めんどくせえ奴だな』

「ペトラもうお金持ってない……。小っちゃいから誰もペトラなんて買ってくれない……」

『じゃあ、別の商売でも考えるんだな。ていうか、その年で売りなんてしようとしてるんじゃねえよ』

「でも……。ペトラこれしか知らない……」


 まったく、この街はどうなってんだかな。こんな小さい子が死にかけてるのに誰も見向きもしないし、その子どもは売りしか商売を知らないときてる。


 いや、逆かもしんねえな。日本が平和過ぎるのか。外人に平和ボケしてるなんて言われるのもわかるわな。


『その体じゃ売りも力仕事も無理だな』

「さっき本気になれば無理なんてないって……」

『うるせえよ。物の例えだ』

「えぇ……」


 ペトラが困惑したような顔をしているが、知ったこっちゃない。オレは揚げ足取りをする奴が嫌いなんだ。


『それよりペトラ、なにか売れそうな物とかないか? オレも協力するからよ。一緒に考えようぜ』

「……水?」

『水? 水なんてあっちの池に腐るほどあるぞ? そんなもの売れないだろ』

「水汲むのにお金かかる……」

『ふむ……?』


 そういや、街の外は砂漠だったな。ここはオアシスみたいなものか?


 水が貴重品だとしたら、そりゃ商売になるな。


 しかも水を汲むのに金がかかるとなれば、それより少し安い価格で売ればたちまち売れることになるだろう。さながら脱法水ってところか?


 いいね。とくに脱法ってところがいい。


『よし決まりだ。水を売るぞ!』

「えぇ……」

『ペトラ、お前が言ったんだろ? 金があれば好きなだけ美味い物が食えるぞ?』

「がんばる……」


 ペトラはもう死を待つだけの無気力な顔をしていなかった。オレにはそれがなんだか無性に嬉しかったんだ。

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