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そういうときは風の如く

作者: 浅賀ソルト

 競走馬を育てるのには金がかかる。だからあちこちからお金を集める必要がある。育てた馬がレースで優勝すればハイリターン。そうでなければ金は無駄になり返ってはこない。

 だから馬主組合にとって金の管理は大事なのだ。

 俺はそう思っていたのだが、そうじゃない組合もある。やっていくうちに馬を持たず、馬を飼わず、レースにすら出さない馬主組合というのがあると知った。俺はその運営をやっている。

 社員は俺一人だ。管理している馬主組合は二十近くある。それぞれにきっちり書類を作り、実際に北海道にそういう馬がいるように形を整える。

 先に説明しておくが、詐欺じゃない。そういう詐欺もあるが、俺がやってるのは詐欺じゃない。会員も馬がいないことはよく知っている。

 競走馬を育てるのには金がかかる。みんな知ってる。金額がでかいから、それが動いても不自然じゃない。

 仕事場は自宅ではなくよくあるレンタルオフィスなのだが、ある日、インターフォンが鳴った。時刻は16時。約束はない。

「どちら様ですか?」

「秋本様から頼まれて来ました」

 秋本は上客だ。だがそれだけに名前が有名で使われやすい。

「どちらの秋本様ですか?」

「先日、ゴルフで一緒になった秋本です」

 暗号は合っている。俺は玄関に向かい、鍵を開けて客を招き入れた。

 男はまだ若く、スーツが似合っていなかった。闇バイトで受け子をするために初めてスーツを着ましたという若者をネットで見たことがあるが、そんな感じだった。ツーブロックのサラリーマンはたまにいるが、若者だと逆にどうか。

 痩せてて挙動不審でオフィスの中をキョロキョロ見回していた。

 面接室に通し、お茶のペットボトルを自分の分も含めて二本冷蔵庫から出しそのまま出して向かい側に座った。

「どうかしましたか?」

 変な脂汗をかきながら内ポケットから紙を取り出し、「こちらの口座にですね、1000万を入金お願いしたいのですが」と言った。

 俺は紙を受け取る。普通に銀行名や口座番号が書いてある。印刷ではなく手書きだ。

「入金は明日になりますが、それはよろしいですね?」

「はい、それはもう」

「あなたのお名前をいただいてもよいですか?」

「あ、はい。里村といいます」

 名刺もないのか。

 俺が黙っていると若者スーツは耐えきれなくなり、「あの?」と言った。

「用件は承りました。確認して送金いたしますので」

「あ、はい。ありがとうございます」

 というわけで若者スーツは去った。出るときに外に誰か待ち伏せしているのかと思ったがそういうこともなかった。

 なんだありゃあ。

 LINE通話をする。相手はすぐに出た。

「おう、どうした?」

「秋本の使いって奴が来て、1000万の送金をお願いしてきた」

「送金先は?」

「どこかの店だな。飲食店の口座みたいだ」

「心当たりは?」

「ない」

「分かった。ちょっと調べてみる」

「頼む」

 切断のあと、すぐに別の着信があった。

「はい?」

「平気か?」

「なにが?」

「お前のことが漏れてきてるぞ」

「どういうことだ?」

「昨日、金を動かしたろ?」

「ああ」

「あれ、まったく無関係だったらしい」

「ん?」嫌な汗が出る。

 話はシンプルなことで、単純にマネーロンダリングで、馬主組合への入金と出金という形で、賄賂なり脱税資金なりが形を変えていくわけなのだが、その出口がすげかえられていたらしい。

 とするとこの銀行口座は、新規の新しい正しい出口なのか、それとも別の偽物の出口なのか。

 俺は言われた通りに金を動かし、書類ではちゃんと競走馬を育てている形を整えるのが仕事なのだ。怪しいからといって動かさないという選択肢はない。詮索したところで本当の金の目的は分からない。

 つまり俺の取れる手段は一つだけ。

「おい、シロー、どうした?」

「いや、なんでもない。教えてくれて助かった。ありがとう」

 通話を切ると、事務所の金庫に取り付いた。

 もちろん手元にもいくらか現金を用意している。

 俺はそれを開けるとデイバッグに入れ——せいぜい3000万だ——室内をざっと見回した。

 結構長いこといい仕事してきたんだがな。

 あとはこの持ち逃げも読まれてどこかが待ち伏せしてないか用心しなくてはいけない。


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