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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雨降る月

作者: 音琴 レナ

6月30日午後15時

久遠(くどう) 雨月(うるな)

無彩色だった僕の視界は美しい赤で埋め尽くされた。

感覚はまるでなく、まるで形があったはずのものが液体になったようだった。

きっと周囲には悲鳴とサイレンで溢れていた。

薄れゆく景色の中、微かに見えたものがそんな漫画のような世界だった。

そんな中、僕の笑い声が心で響き渡っていた。


4月7日午前6時30分 久遠 雨月

目覚まし時計の音で目が覚めた。

学校に向かう準備が終わり、鏡の前に立つ。

腹と背中の数カ所にできた痣が目立った。

朝から憂鬱な気持ちになった。

カバンを背負い家を出た瞬間に体がやけに痛むような感覚がした。

ココ最近、僕はいじめに遭っている。

クラスメイトの烏賀陽(うがや) (はる)に目を付けられ、それからは毎日いじめられている。

烏賀陽には、真島(まじま) 優希(ゆうき)

一ノ(いちのせ) 悠斗(ゆうと)の2人の取り巻きが居る。

きっと今日もいじめに遭う。


4月6日午後6時30分

鈴原(すずはら) 美晴(みはる)

幼馴染の雨月がいじめにあっているのを目撃してしまった。

止めたかったが、体がすくんで動けなかった。

今日は雨月と一緒に帰る約束をしていた。

そこでいじめの話を切り出した。

「あのさ、今日ね、烏賀陽くん達が雨月に暴力を振るってたの見ちゃって…」

そう言い雨月の方を見ると表情が雲がかった月のように暗くなっているのが分かった。

「止めようと思ったんだけど…」

そう言いかけた時、

「美晴、この事誰にも言うなよ。僕の家族は母親しか居ない。これ以上迷惑はかけられない。だから余計なことしないで欲しい。」と雨月に言われた。

「でも…」と反論しようとした時

「なぁ、お願いだから、僕はこれ以上周りに迷惑を掛けたくないんだ。わかってくれよ。」この雨月の号哭を聞いてしまったから、かける言葉が見つけられなかった


4月7日午後1時30分 久遠 雨月

僕は空き教室の椅子に縛り付けられていた。

烏賀陽達はなんの躊躇もなく、殴る蹴るを繰り返していた。その時担任の先生である、百鬼(なきり) 彩音(あやね)先生が入ってきた。

助かったっと思った次の瞬間、「烏賀陽くん!わざわざ久遠くんと遊んであげてるの?優しいね!」って百鬼先生は言った。

その刹那に僕は『遊んでる…?この身動きの取れないような異常な状況で?』と心で先生に問いかけた。

先生がこちらへ顔を向けた時、味方なんて居ないんだと強く思った。

僕に向けられたそれは冷酷かつ、蔑みを持ったものだった。

消えてしまえばいいのに何もかも。

消えてしまえたらいいのに僕なんて。


4月7日午後1時 鈴原 美晴

昨日の雨月の号哭を聞いてあの時止められなかった自分を責めている時、雨月が烏賀陽くん達にスタンガン的なもので気絶させられた瞬間を目撃してしまった。

雨月には余計なことするなって言われたけど、やっぱり無理だよ。

そう思い、烏賀陽くん達を止めに動いた。

しかし、止めることすら出来ず、私まで襲われそうになった。怖くて逃げてしまった。

雨月ごめん。力になれなくて。

非力な自分を責めた。自分の好きな人の事守れないなんて。

どうにかして力になりたい。そう思っているのに体が言うことを聞かない…


4月7日午後6時30分 久遠 雨月

下校していると、後ろから聞き馴染みのある声で僕を呼ぶ声がした。

美晴だった。美晴がこちらに近づいて来るにつれ、彼女の表情が鮮明にわかった。

僕は驚いた。なんせ、美晴は泣いていたのだ。そして僕の横に来て1言目に発した言葉は「雨月、ごめん…烏賀陽くん達止めれなかった…雨月の事守れなかった」だった。

少し戸惑いつつ僕は「あの状況じゃ美晴も危うかったかもね。まぁ期待なんて元から無いけどね」と言い放った。

強がっていたのかもしれない。

その時の自分はどうかしていたのだろう。

その後二人の間に一切会話がなかった。


5月6日 午前2時 久遠 雨月

母親が帰ってくるのを待っていた。

特に理由はない。いじめの事を打ち明ける予定もなかった。

ただ何となくこの世から消えたい感情があった。

だから母には感謝を伝えておきたかった。

もうすぐ僕自身が崩れるから。

感情がなくなるかもしれないから。

そんな事を考えていると母が帰ってきた。

手には線香、蝋燭の入った袋と花を持っていた。

そうか、今日で父が亡くなって丁度5年か。

彼は天才音楽家だったそうだ。数多くの名曲をこの世に残していた。

音楽に夢中になり、盲目的になり、家族を捨てた人間だ。

だから父はあまり好きではない。

だからいつもお墓参りには行ってない。

今回も母に行かないことを伝えた後に

「いつもありがとう。僕のために頑張ってくれて。普段言えないから今日言わせてもらったよ。本当にいつもありがとう。」と感謝の意を伝えた。

母の驚いた顔と、嬉しそうな顔を見た時、母の苦労を感じ取れた気がした。

迷惑しかかけて無いな本当に。


6月15日午前9時30分 鈴原 美晴

今日も1限目が始まった。化学の授業だ。

今日は実験らしい。普段の授業なら百鬼先生は雨月に問題集の解説を求めたり、他の生徒に教えさせたりで頼りっぱなしだから雨月も気が楽だろうなと思っていた。

でも逆だった。

雨月が少しミスをした時必要以上に責めた。

まるで見せしめみたいに。

私が止めても先生はやめなかった。

また雨月を守れなかった…


6月15日午後3時30分 久遠 雨月

今日も当たり前のようにいじめがあった。

最近は特にエスカレートしている。

クラス全員が僕のいじめに加担している。

そして、一ノ瀬が改造したエアガンの使用など、もう無法地帯だ。

相変わらず百鬼先生はこれを容認している。

腐ってるな、この世界は。

そう思って生きる理由を見いだせない世界を生きている。


6月17日午後9時 鈴原 美晴

自分に嫌気がさして、こんな時間に家を出てきてしまった。

そうやって落ち込みながら歩いていると、雨月の姿が見えた。暗くてよく見えないけど、なにか作業しているようだった。

この時間に人気のない場所で何してるのだろう。

気になって近づいて見てみると、雨月は木にロープを掛け自殺しようとしていた。

それを見た瞬間、背筋が凍るような感覚がしたのと同時に、自然と体が動いていた。

そして「雨月!死んじゃダメ!」と叫んだ。

その声に驚き雨月は乗っていた脚立から地面に落ち、自殺は未遂で終わった。

未遂で済んでよかった。そう思っていると

「なんで邪魔するの?もう僕は疲れたんだよ。何があっても状況は改善するどころか悪くなる一方。誰も助けてくれやしない。美晴だって止めようとしてるとは言いつつ、何も出来てないじゃないか。感情は崩れてなくなっちゃうし、こんな世界のどこに生きる理由があるんだよ!」雨月はそう叫んだ。きっとこれは雨月心の叫びなんだろう。その時私は考えるより先に行動していた。「私は雨月が好きなの!だから生きてて欲しいの!雨月が生きる理由が私じゃダメなの?私今まで何度も止めようとしたんだよ?でも止められなくて…烏賀陽くん達に力でも言葉でも敵わなくて、…力になりたいのになれなくて…でもずっと味方でいたいの!今、世の中の事嘆けてるんだから、感情は残ってるよ!だから死のうなんて考えないで」本心だった。これを雨月がどう捉えるか不安だった。

しばらく無言が続いた。

その中で雨月にかかっていた雲が動き始めた気がした。


6月18日6時30分 久遠 雨月

昨日の自殺を美晴に止められた。

僕は思ったことを口にした。

しかし彼女はそれに本心でぶつかってくれた。そんな気がした。

感情が残ってる…か。たしかにな。

あの時少し嬉しかった。

人に好きだとか言われる事。いわば好意を持たれること自体初めてのことだから。

でも僕は、僕と関わったことによってその人が傷つけられるのを見たくないんだ。

僕なんかのために自分を犠牲にして欲しくないよ。そんなことになるくらいなら死んだ方がマシだ。君の好意を知ってしまったから死ぬべき理由の方がハッキリした気がする。

僕は美晴が壊されないようにする為に死ぬべきなんだ。


6月20日 9時10分 鈴原 美晴

あの日以来、雨月に少し笑顔が増えた気がした。いじめの被害がなくなった訳でもないが、笑顔で過ごす日々が増えていた。

嬉しかった。昔の雨月に戻ったみたいで。

でも同時に怖く感じた。いじめられていても笑顔でいることもあるから。

烏賀陽くん達も少し気味悪がっていつもより強めになってるからいつか死ぬんじゃないかと思うと怖い。


6月20日9時20分 久遠 雨月

やはり今日もいじめがあった。

美晴はあの日以来1度もいじめを止めようとしていない。

外からずっと見ているだけになった。

笑えるよね。あんなこと言っておいて結局見捨ててるじゃん。

結局僕のことどうでも良かったんでしょ?

僕1人で舞い上がっちゃって馬鹿みたいじゃん。

もう何も信じられない。

美晴のあの言葉が本心なのか嘘なのかも。

美晴のしたいことも、周りの人間も。

何もかも分からない。

それでも美晴の言葉が頭でこだましている…

何が正解なのかもう分からないよ…

僕らを照らす太陽がやけに暗く感じた。

雲ひとつ無い快晴なのにも関わらず…


6月24日 午前9時30分 鈴原 美晴

雨月がいじめられているのを止めたいのに行動できなくなった自分に嫌気がさす。

前までなら行動して止めようとはしていた。

しかしあの日以来、雨月の顔に笑顔が増えて嬉しかった反面恐怖も芽生えた。

その恐怖が私を雨月から引き離してしまう。

私は雨月にずっと味方でいるなんて言いながら、見捨てたも同然の行動をしてしまっている。

最低だ。こんな人間、消えればいいのに。

ごめんね…雨月。

でも好きな気持ちは変わらないんだよ?

信じて…


6月25日 午前8時8分 久遠 雨月

生まれて初めて学校を休んだ。

いじめが原因では無い。

あの日の美晴の言葉が残り続けて苦しいから。あの日以来僕は、美晴と話していない。

最近は学校で美晴に会う度に少し怖がっているような気がした。

だからもう嫌われてるんだろうなと思っている。そう思いながら何故か美晴の事が頭から離れない。こんな事今まで無かったのに。

分からない感情は恐怖へと変換されていく。

それが僕を新たに蝕んでいる。

辛い。それでも痛みは感じない。痛みを感じないというより痛みに慣れてしまったのだ。痣の色もだんだんよく分からない色になっていた。それでもその痛みすら何とも思わなくなっていた。どんな痛みも何ともないと思っていた。はずなのに、とてつもない鈍痛が僕の心を襲う。分からない。心の痛みは初めてだ。この痛みを僕は知らない。

都合のいい神様なんていやしないと知りつつ縋ってしまう。

神様、僕何か悪い事でもしたのでしょうか?

していたなら反省します。

だからもう僕を許してくれませんか?

そんな願いが頭で響き渡って飽和していた。


6月25日 午前10時30分 鈴原 美晴

今日は珍しく雨月が学校を休んだ。

烏賀陽くん達は雨月が来てない理由を私に聞いてきた。

分からない。そう答えた時、雨月の代わりだと、私がいじめにあった。

雨月が受けてきた暴力ではなく、女性としての辱めを受けた。

こんなになんの躊躇もなく人を汚したり、傷つけられる人間が存在する恐怖を知ったと同時に、雨月の心の痛みなど理解できた気がする。全てなんておこがましくて言えない。

でも少しだけでも分かった。

雨月本当にごめんね。怖かったよね。

辛かったよね。見捨てちゃってごめんね。

もう1人にさせないから。

そう思い学校を抜け出し、雨月の家へと向かった。


6月25日 午前11時 鈴原 美晴

雨月の家のインターホンを押す。

その瞬間、雨月が「はい」と言いながら外へ出てきた。私は「雨月!今まで本当にごめんね…」そこまで言葉に出したところで雨月は家に入ってしまった。

私は構わずドアの外側から「話したいことがあるの!雨月の苦痛私少しわかるよ!」


6月25日 午前11時 久遠 雨月

家のインターホンが鳴った。

こんな時間に来客なんて珍しいなと思いつつ外へ出る。僕はそこにいた人物に驚いた。

なんと美晴が来ていたのだ。

美晴が言葉を発していたがそんなことに構わず、すぐにドアを閉めた。

なんで美晴が家に来たのか。その理由が分からない。学校もまだ終わる時間のはずがない。混乱していると、外から声が聞こえてきた。「話したいことがあるの!雨月の苦痛私少しわかるよ!」という言葉だった。

気持ちがわかる?何馬鹿なこと言ってんだ?ふざけるのも大概にしろよ。いじめの本当の恐怖を知らない人間がわかるなんてほざくなよ!そう心で思った。

だから「美晴に何がわかるんだよ!いじめられたことなんてないくせに」と言い放ってしまった。


6月25日 午前11時 鈴原 美晴

雨月が家から叫んだ。「美晴に何がわかるんだよ!いじめられたことなんてないくせに」というものだった。

「いじめられたこと、たしかに今日までなかったよ!」と私は返した。

少しして雨月の家の扉が開いた。

雨月の姿を見て私は驚いた。なんと泣いていたのだ。

私はどうするべきかわからなかった。

ただ声をかけた。「雨月…本当に辛かったよね…ごめんね…謝ることしか出来ないや…私ね、好きな人の力になれなくてずっと苦しかったの。でもそれ以上の苦しみを雨月は味わってたんだね。本当にごめんね…」


6月25日 午前11時 久遠 雨月

僕の悲痛の叫びに対して美晴が返した答えに驚きを隠せなかったと同時に申し訳なさや無力さなど、様々な負の感情が僕に強くのしかかった。僕は自然とドアを開けていた。

頬には涙が伝っていた。

その後美晴は僕に声をかけて泣いてしまった。事の詳細を美晴に聞いてしまった。

本当は聞くべきじゃないはずなのに…

内容は僕が恐れていたことだった。その時の自分はとても弱く、無責任な人間だと思った。僕が学校を休まなければ美晴は辱めを受けることはなかったのに。そう自分を責めた。僕は消えてしまいたいと思った。

そんな中、美晴は僕に「何かいじめが関係なく辛そうに見えるけど何かあったの?」と聞いてきた。きっと見透かされたんだろう。

僕は正直に話した。

「あの日、美晴が僕に好意を伝えてくれて本当に嬉しかった。そんなこと今まで1回もなかったから。でもそれと同時に死にたくなったんだよね。美晴が僕と関わることで今日みたいな事にならないように、傷つかないように、壊されないように。でももう遅かったみたいだね…僕は美晴を守ってあげたい。美晴のこと考えると慣れてたはずの痛みとは別の痛みが心に出てくるんだ。これが余計に辛いよ。」言い終えた時、美晴は笑っていた。


6月25日 午前11時 鈴原 美晴

雨月の言葉に少し動揺しながらも嬉しくて笑ってしまった。私なことそこまで考えてくれてたんだね。

私は雨月に言った。「それは、恋だよ。」

雨月の顔に?が浮かぶ。

私は続けて聞いた「雨月はいつ心が痛むの?」雨月は「美晴の事考えてる時」と答えた。私は雨月ってピュアなんだなって思った。勉強は県内1位の実力があるのに恋愛とかには疎いんだなと思った。とにかく可愛く感じた。そんなことはさておき、「きっと雨月は私に恋してる。だから守りたいとか、色んな感情に押しつぶされてるんだと思うよ。」と雨月に言うと明らかに動揺していた。ちょっと意地悪してみたくなって「ねぇ雨月、私と付き合わない?」なんて言ってしまった。でも後悔はしていない。


6月25日 午前11時 久遠 雨月

どういうことか分からないが美晴に告白された。僕は焦った。どうしていいか分からない。美晴ただニヤリと笑っているだけだ。

どうしたらいいか分からない。きっと美晴のことが好きなのは事実だろう。でもどう返すべきか分からなかった。

だから僕は「少しだけ時間を頂戴」と言った

「わかった」と美晴が言う。

もうどうしていいか分からない。


6月26日 午前9時45分 久遠 雨月

未だに美晴に返事できていない。

そして相変らずいじめは無くならない。

いじめられてる中僕は烏賀陽に聞いた。「美晴はかんけいなかっただろ?なんで昨日いじめの矛先を美晴に向けたんだ?」と。すると烏賀陽はニヤリと笑って「アイツの事はどうでも良かったんだよ!ただお前が来ないから代わりにアイツいじめたらアイツのこと好きなお前は学校休めないだろ?お前を引き出すためにいじめただけだよ!」と答えた。

とてつもない憎悪が僕の中を駆け巡った。

烏賀陽、真島、一ノ瀬が笑っている中、僕は怒りに任せて行動していた。

気が付けば烏賀陽の事を蹴り飛ばしていた。

それを見て唖然とする真島と一ノ瀬。

そのまま真島を蹴り倒した時、一ノ瀬がカッターナイフを取りだし、飛びかかってきた。

でもそこに恐怖はなかった。なんせ全部ゆっくりに見えたから。その攻撃を躱し、一ノ瀬の顔面を殴った。そこから3人の意識が無くなるまで殴る蹴るを繰り返した。

それ以来いじめはなくなった。


6月26日 午前10時 鈴原 美晴

とてつもないものを見てしまった。

雨月が昨日私が話した内容に至った経緯を烏賀陽くん達に聞いていた。

その返答に怒り、その怒りに任せて烏賀陽くん達を気絶させてしまったのだ。

私は雨月の凄さにより好意を持った。

私の為に動いてくれた雨月はとてもかっこよかった。

それ以来、雨月のいじめは嵐の後のように何の変哲もない日常へと姿を変えた。


6月29日 午前9時45分 久遠 雨月

僕は美晴に未だに返事をしていない。

烏賀陽達を倒した事で問題になるかと思ったがそんなことはなかった。いじめのない平和な日常に急に戻った。

なんだかなれないな。こんな平和な世界は。

でも暴力を奮ったこと、美晴に散々迷惑をかけたこと、色んなことが残ってる。

いじめられてた時とは別の辛さがそこにはあった。そういえば明日、美晴に手紙を渡そうと思う。僕から美晴へ送る最初で最後の手紙を。


6月29日 午前10時45分 鈴原 美晴

あの日の返事雨月は、まだくれない。

最近雨月を見ていると、いじめが無くなったのにどこか悲しそうに写る。

聞いてみても「なんともないよ!ただ平和になったのに慣れないだけだよ」と答えていた。

それだけだといいのだけれど…

嫌な予感が私の頭の中を駆け巡る。

この勘がハズレることを願うばかりだ。


6月30日 午後4時43分 久遠 雨月

今日はよく晴れてるな。そんなことを思いながら僕は電車を待っていた。美晴に手紙を渡して、僕は体調不良を言い訳に学校を早退した。美晴には手紙は家に帰ってから読んで欲しいと念を押した。あれを読まれると僕の行動がわかるから僕を止めるだろうから。

僕は踏切の中に居た。そこで立ち止まっていた。そこへ遠くから見覚えのある顔が見えた。美晴がこちらへ走ってきているのだ。

その後ろには烏賀陽、真島、一ノ瀬もいた。あぁ、手紙学校で読んだんだな。

美晴達が向かってくる中喚く踏切が僕達の間を遮った。「これで全て終わりだね!美晴!君に出会えて良かったよ!僕も美晴が好きだよ!でも僕はこの世界で生きることに耐えられない…。だから今日でお別れする。こんな僕を好きになってくれてありがとう!美晴ならきっと僕よりいい人に出会えるよ!幸せになってね!」と僕は言った。

美晴が何か言っていた気がしたけど、僕には何も届かなかった。

さっきまで青かった空が赤くなった気がした。薄れゆく意識の中僕が最後に見た景色はそんな空と美晴の顔だった。

僕の中では美晴の泣き声と僕の笑い声で満たされた。

ありがとう!美晴!幸せになってね!


6月30日 午後3時30分 鈴原 美晴

今日、雨月から手紙を貰った。

家帰ってから見てって念押しされたけど

雨月が体調不良で帰っちゃったから見てみたくて見てしまった。

内容はこんな感じだった。

『美晴へ

手紙を書くなんて慣れてないから上手くかけるかわかんないや。

美晴!遅くなってごめんね。この前の返事をしようと思って手紙を書いたんだ!

率直に言うと美晴の事好きだし、付き合いたい。けどそれは出来ないんだ。ごめんね。

振ってるわけじゃないよ!僕は今日いつもの帰り道の踏切で死のうと思うんだ。

散々人に迷惑かけた挙句幸せになるなんて許されることじゃないからね。

でも止めないで欲しい。僕は生きるのに疲れただけ。君は幸せになってね。大好きだよ!

雨月より』

この内容に雨月を死にたいと思わせる原因を作った烏賀陽くん達を連れ出し、状況を説明して、雨月の元へ向かった。

雨月が踏切の中にいるのが見えた。止めなきゃ!助けなきゃ!雨月が死んじゃう!大切な人が死んでしまう!今まで散々守れなかった大切な人が!そう思って力いっぱい走った。

しかし無情にも踏切が降りる。まだ電車が来ていなかったから急いだ。踏切まで後10m程のところで、雨月を助けることが出来なかった…電車が去った後、雨月に近づき泣いた。声にならない声で泣いた。雨月に近づいている最中に雨月が私に『幸せになれ』と言ってくれた。

雨月、私は貴方と幸せになりたいんだよ?

他の人じゃ嫌。雨月がいいよ。

私をひとりにしないで?


6月30日 午後4時43分 烏賀陽 晴

罪悪感で押しつぶされそうになった。

自分が人をいじめていたことによりその人の命を奪ってしまったのだ。

そして今目の前で泣いている美晴の幸せも奪い去ってしまったのだ。

今更後悔しても遅いのはわかってる。

俺はとんでもない愚か者だ。

死んで償うなんておこがましいよな。

だから俺は生きる。雨月、ごめんなさい。

酷いことをして。許してくれなんて言わないよ。というか言えないよ。

雨月、本当に悪かった。後悔してもしきれないよ。

お前の苦しみ、それを理解できなかった自分が憎い。美晴が止めてた時に止めればよかったのにとかそんなことばかり考えてしまう。

後悔先に立たず、こんな取り返しが付かないとこで感じるのは嫌だけどほんとにその通りだよ。ごめんなさい。雨月。

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