魔物降臨 7
姿を現した3人。ビルが浮遊魔法と身体強化を使いながら宙を浮かび、リーリアと腕を握り合う。更に、リーリアはもう片方の空いた手でアイリーンと腕を握り合っていた。ビルを支点に、3人が宙をぶら下がる状態の中、屋根上に居るリサ達と目が合った。
「リサちゃん!?って、フォレアスまで!?」
ビルは屋根の上に居るリサとフォレアスタークを見ると驚きの声を上げ、自分の左腕にぶら下がったリーリアとアイリーンを屋根の上に下ろして、裸の女性の横に降り立つ。
そして、自分の足元で気を失って倒れている女性を見下ろすと、指差しながらリサの顔を見る。
「これ、リサちゃんが?」
ここまで酷い仕打ちをするか?と言いたげに、顔を引き攣らせながら若干引き目にそう聞くビルに対し、リサは首の火花を消して頷きながらも否定した。
「そうだけど、その人が襲い掛かってきたから、お腹と顎を叩いただけだよ?他は何もしてないからね」
何故その様は弁明をしなければいけないのかと思いながらも、ビルにそう伝る。その間にも、空中の核の回収と、魔素を魔力へ編み直す行為は止めない。
フォレアスタークはビル達の登場に最初は眉を上げたものの、今は興味を失った様に顔を逸らし、左目の観察眼を光らせながら空に浮かぶ虹色の魔法陣を見上げていた。
「リサ、何故貴女が此処に……?他の生徒と共に逃げる話だったではありませんか」
リーリアはアイリーンと手を繋いだまま、リサがこの場に居る事に首を傾げながらも、嬉しそうに瞳を潤ませた。何か勘違いをしているのでは無いか?とリサはリーリアの反応を見て考えた。そして、その誤解を解く様に、自分がこの場に来た理由を、リーリア以外の2人にも聞こえる様に、リーリアに話し始める。
「ビル達が学園に向かった後、すぐに私がフォレアスに着いて行くって言ったの。そして、冒険者街に行ったんだけど……何でか分からないけど、あっちの魔法陣に解れが出来て、魔法陣の破壊に成功したから、こっちの援護に来たの。詳しく聞きたいならフォレアスおじさんに聞いて」
最後は、ビルに対しての言葉だ。それに頷いたビルは、リサから顔を逸らして、すぐ傍に落ちたボロ切れで足元の女性を包み担ぎ上げると、フォレアスタークと共に、リサ達からほんの少しだけ距離を取って小声で話し始める。
リサはそれを横目で見ながらも、盗み聞きするつもりは毛頭無いので、目の前に居るリーリアとその姉に顔を向けて互いに安否の声を上げた。
「リーリア、怪我は無い?具合はどう?立て続けの事件で疲れてるんじゃ無い?」
「大丈夫です。それより、リサは大丈夫なのですか?この空間は魔素が使えず、魔力のみで魔法を編み上げなければ、魔法は使えないのですよ?ですのに、その様に街を守る為に魔法をお使いになって……。それに、その鎧と翼……」
アイリーンから手を離したリーリアは、リサの背中に創られた氷翼を撫でて、再びリサの顔を見詰める。
「これらを創り出すにも、かなりの魔力を消費したのではありませんか?リサ、少し待ってくださいね……此方を、魔力回復のポーションです。学園の生徒の方から譲り受けた物ですが、私は魔力を使っていないので」
腰にある魔法剣に視線を送り、軽く鞘を撫でた後、ブレザーの右ポケットから小さな硝子瓶を取り出した。
リーリアが取り出した小さな小瓶。その中に入った粘性のある液体は、雫型のその瓶の内側に透明な水色の膜を張りながら音を立てずに揺らいでいた。
差し出されたそれを、リサは首を振って返すと、左手を埋めた核を見せて「これがあるから」と言い、感謝を伝える。
それを見たリーリアは、最初は首を傾げたがすぐに「あぁ」と声を上げて、その水色の液体が入った小瓶をブレザーの右ポケットに仕舞い直す。
アイリーンは「何が『あぁ』ですの?」と言いながら、ニコニコと笑い合う2人を見て、気味悪がる様に眉間に皺を寄せた。
「……それで、何でリーリアとビルは地面から出て来たの?お姉ちゃんを助けに行ったにしては、出てくる場所がおかしく無い?」
「あぁ……それはですね……話すと長くなるのですがーー」
リサの疑問にリーリアは、自分とビルがリサとフォレアスタークから別れた後の出来事から順にリサに伝え始める。
「最初は、学園の校庭で魔物と戦っているアイリーンとすぐに合流して、周囲の魔物をビルさんが一掃したのです。その後、夜になり視界が悪くなり始めたので、戦えない住民や学園の生徒の方々を、地下通路から逃がす為に、私とビルさんがアイリーンと共に誘導していたのですが……」
「……地下通路に魔人が居たのです。そして、その魔人が魔物を……自分の命を代償に、パープルビーを大量に召喚いたしまして……」
「私とアイリーンの2人で魔物は掃討出来たのですが、今ビルさんが担いでいらっしゃる方が、ビルさんに襲い掛かり……。今の今まで地下で足止めを……」
リーリアとアイリーンは交互に、自分達がリサとフォレアスタークの前に現れるまでの出来事を伝えた。
「……魔人が地下通路に?尚更リーリアに怪我が無くて良かったよ……!」
その話を聞いたリサは、深く安堵の息を吐き、隣に立つリーリアの右手を握った。
「……良い子ね」
「?アイリーン、何か言いましたか?」
「何も無いわよ。それより貴女、このアイリーン・フロスティーゼの事も心配するべきでは無くて?平民であれば尚更、頭を垂れて歓喜するべきよ」
「アイリーンも無事で良かったよ。貴女に何かあったら、リーリアが悲しむから」
「……まぁ良いわ。それよりーー」
アイリーンは腕を組みながら外方を向くと、瞳だけ動かしてリサの左手をーー正確には、リサの左手が埋まった核を見詰めて、言葉を続けた。
「貴女は何をしていらっしゃるのかしら?建物の被害を抑えてくださっている事は分かるのですが、その……何故、魔物の核に左手を突き刺して……いえ、何故核に手を突き刺す事が出来るのですか?」
そんな事、答えるつもりは無い。そう思うリサは、自分の左手に一度視線を落とした後、アイリーンを見上げながら、自分の唇に人差し指を当てて悪戯に微笑むと
「秘密!」
そう言って、魔素を失い空になった手元の核を、屋根の上から地上へ落とす。
「……ふん!如何にも男が喜びそうな演技ね!これだから平民は……!」
アイリーンが完全にリサから背を向けて鼻を強く鳴らした時、話し終えたフォレアスタークとビルが、入れ替わる様にリサに声を掛けた。
「リサよ、今から儂とビルで魔法陣の破壊を試みる。周囲の魔素量を見るに、儂とビル、そしてお主の魔力を全て使えば、空に浮かぶ魔法陣の大半を消滅させ、自壊させる事が出来よう」
「私の魔力もって……私が2人に魔力を渡せば良いの?」
「うん。俺がリサちゃんの魔力を吸い上げていくから、リサちゃんはフォレアスと一緒に、最低限の魔力で核を無効化して。魔法陣が完成する瞬間に、一気に残りの魔力を吸い上げるから、念の為に座ってやるよ」
ビルは手を差し伸べて、リサはそれを右手で握ると、その場に腰を下ろしてアヒル座りをする。
それに釣られてビルも腰を下ろし、フォレアスタークも地面に胡座をかいた。
そして、すぐにビルとフォレアスタークは術式の構築に入り出し、リサの魔力が、自分の右手からビルの左手の甲の魔法陣を経由して、ビルに吸い上げられていく。
回収した核で魔力を回復しているが、それを上回る量を吸い上げられているので、徐々にではあるが、体内の魔力が枯渇していき、リサは気怠さを覚える。
徐々に。とは言っても、普段魔法を編む時とは比べ物にならない量を吸い上げられているので、余計に気怠さを感じるのだろう。横目で見たフォレアスタークの顔色も、この短時間で悪くなっている。ビルも、リサから魔力を譲渡されているにも関わらず、顔色を悪くしていた。
ビルとフォレアスタークが協力して描き上げたお陰か、空に描かれた虹色の魔法陣を上書きする様に描かれた、白色の巨大な魔法陣は、ものの数分でほぼ全てが完成した。
「リサちゃん、一気に吸い上げるから気をしっかり持ってね」
「ばっちこい!」
その瞬間、リサの視界は暗転し、自分の意思が介入する間も無く、意識を刈り取られた。
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