魔物降臨 6
フォースオート学園。リサはこの学園に初めて訪れ、初めてその外観を目にしたが、リサ達が立つ、シオン魔導学校の本館の様なこの建物以外は、見るも無惨に倒壊していた。
シオン魔導学校と比べ、街中にある為か、そこまで広く無い建物の直下の運動場には、無数の赤いシミに黒い塊、魔素が抜けて無職になった核が、至る所に散見される。
倒壊している建物からも、赤い液体と共に、どの部位かも分からない程ひしゃげた、人肌を纏う肉塊が散らばっていた。
空に浮かぶ魔法陣の色は、冒険者街の空に浮かんだ物と変わらない。が、周囲を漂う魔素の霧は、此方の方が濃く感じる。
リサ達が立つ場所は魔法陣の中央。全方位に大きく広がる魔法陣を見上げながら、リサはフォレアスタークに話し掛けた。
「さっきの場所より魔素が濃くない……?」
「おかしいのぅ。貴族街にある魔道具の殆どは魔石から作られた物ばかりで、魔素量は冒険者街と比べて圧倒的に少ない筈じゃ……」
その言葉通り、星明かりも差さぬ濃霧の夜であるにも関わらず、所々に照明魔道具の明かりが点在し、魔物や人々を照らし上げていた。
直下で起こる戦闘では、魔石を使用した魔道具による物か、学園の教師らしき人物達が、魔物に対し多段の魔法爆撃を繰り出していた。
その、見覚えのある連射型魔道具に首を傾げながらも、リサは屋根上から氷柱を発射して援護射撃を行いながら、周囲を見回してリーリアとビルを探す。
「ビル達の姿が無いけど……一体どこに……」
「分からぬが……その前に、学園内の建物の探索を行うべきじゃろうな。空に浮かぶ魔法陣の位置、異常な魔素量。学園内に魔人の協力者……いや、魔人自体が潜りんで居る可能性も有り得る。もしや、ビルもそれに気付いて……?」
「だったら、私達は地上で魔物を倒してた方が良いんじゃない?冒険者街と違って、攻撃用の魔道具もあって、騎士や衛兵も多いから今は余裕そうだけど……冒険者街と違って、魔物が無限に増え続けてる訳だし……」
「……そうじゃな。学園内の構造を理解した者が居らん今、儂らが建物に入っても、道に迷って時間を無駄にするだけじゃな。リサよ、済まないが、お主の魔力に変換された核を幾つか見繕ってくれぬか?魔力を回復しておきたい」
「分かった。空中の核を取るから、肉だけ剥がして」
フォレアスタークはリサの言葉に頷くと、自分の周囲に幾つもの翠の魔法陣を描き出し、風魔法を発射して、地上を爆撃する様に降り注ぐ魔物の核から生成されていく肉を削ぎ落としいく。
リサは肉体が削ぎ落とされた核を、風魔法で勢いを殺しながら氷の板で受け止めて、自分の手元へ運び、手を突っ込んで魔素を魔力に編み直していった。
そして、触れても大丈夫になるまで氷魔法で冷やされたソレを、フォレアスタークは鷲掴みにして、手の甲に淡い水色の魔法陣を描き出して内包された魔力を吸い上げ、自分の物にする。
「便利だよね。魔力変換……だっけ?他人の魔力を自分の魔力に変換させるやつ」
リサは見える範囲の魔物に氷柱を撃ち込みながら、フォレアスタークの魔術を羨ましそうに呟く。
「羨ましかろう?これは、若かりし頃の儂の為、友が作ってくれた魔法陣じゃ。知りたいなら見て盗め」
「……因みに何重?」
「3重じゃ。そこまで難しく無かろう?」
「それが分からない時点で察してよ」
そう話し合いながらも、リサは核の回収に、氷壁による周囲の魔物誘導や、氷柱での戦闘補助を行い、フォレアスタークは魔法陣の数を増やしながら、空中のみならず地上の核からも肉体を剥がしていく。
魔力を気にせずに魔法を使える。それだけで無く、腕の立つ騎士団や衛兵達のお陰で、冒険者街であれだけ苦労していた防衛戦が、雑談を交えながらの作業に変わった。
そして、明け方頃には貴族街にいる殆どの魔物の討伐が完了し、新たに降り注ぐ核も、フォレアスタークとリサによって無力化され、後は魔素を消費させて魔法陣に解れが出来るのを待つだけになった。
リサ達の居る屋根の上には大量の、魔素を失った核が置かれており、それでも尚置き場を無くして有り余る核は、建物の下に積まれていく。
「冒険者街の時と違って、魔物の生み出される量がかなり多いね。これ、冒険者街の魔法陣が真面に起動してたらヤバかったんじゃ……?」
「実際、危なかったじゃろうな。物理攻撃や近接攻撃が効きにくい魔物ばかりじゃし、彼方は魔道具も無く、騎士もおらず、衛兵も都壁の周囲から動けぬ。本当に、魔法陣が不出来で良かったわい」
魔力量は十分。寧ろ、2人とも有り余っている状態だ。かと言って、核の無力化から手を離せる訳では無く、フォレアスタークは核から肉を剥がす作業を。リサは、肉が剥がれた核を回収して、魔素を魔力へ変える作業を、それぞれ行なっており、他事に手を回せないでいる。
回収した核は優に1000個を超えており、核が積み重なった山が、屋上にある1つと合わせて、3つ出来上がっていた。
「魔力の心配は必要無いけど、そろそろ眠くなったりしてない?フォレアスおじさんって割と歳だし、かなり無理してるんじゃ……」
割と本気でそう心配するリサは、フォレスタークの顔を覗き込む様に見詰めると、フォレアスタークは眉間に皺を寄せながら、リサを馬鹿にするなという様に睨み付け、不機嫌な声色で言い返す。
「年寄り扱いするで無いわ!儂はまだ520歳じゃぞ!お主こそ、そろそろ腹が空いて倒れそうになっておるのでは無いか?」
クカカと独特な笑い声を上げ、目尻に皺を寄せながら顔を上に向ける。
「ひっど!本気で心配してるのに!それに、私は食いしん坊じゃ無いから!ご飯くらい食べなくても全然平気だし!」
頬を膨らませながらそう反論するリサの顔を見て、フォレアスタークは笑い声を大きくする。
「クカカカカ!しっかりと飯を食わんと身体は成長せぬぞ!お主の歳は知らぬが、同じ年頃の者より幾分か幼く見えるでのぅ!」
「失礼だなぁ!……でも、私自身、自分の年齢を詳しく知らないんだよね。とっくに成人はしてると思うんだけど……」
その時、リサ達の真下の地面が微かに揺れ、核の山の一角が崩れた。
何事かと、リサとフォレアスタークは話を止めて互いに顔を見合わせ、念の為にと、真下の地面にいつでも魔法を放てる様に編んでおく。
微かな振動は次第に激しくなり、地面が内側から波打ち、核の山が辺りに弾け飛ぶ。
「フォレアスおじさん、念の為に下がって。後、空中の核は任せるから」
リサは霧散させていた氷鎧と氷翼を作り直すと、首元から火花を散らして身体強化を発動し、数歩前に進み空中に足を出す。ソレを見たフォレスタークは氷鎧の首根っこを掴むと、リサを引き止める。
「待つんじゃ」
「おぐぉ!」
「……済まぬ。じゃが待て、何が来るか分からぬ以上、2人で対処した方が得策じゃ」
リサは自分の首を摩りながら、渋々浮いた足を屋根の上に戻した。そして、フォレアスタークが翠の魔法陣を、リサが氷柱を再び編み直し、今にも地面を割って出てこようとしている何かを警戒する。
瞬間、地面が爆発した様に、内側から凄まじい音と共に土や瓦礫を噴き上げながら、人影が飛び出してきた。
肩下まで伸びたウェーブの橙髪、吸い込まれそうな程綺麗な翠色の瞳孔、女性特有の複数の弧を描いた身体。尖った耳先は、種族固有の、リサのよく知る人物と同じ物だ。
だが、その種族に本来無い筈の物が、両側の側頭部の上側に付いて……いや、生えていた。
「……羊の角?」
その、赤黒く骨感のある巻角は、魔人や人種の物では無く、魔獣の物と酷似していた。
「……半獣か?何故ここに……」
フォレアスタークが半獣と呼んだその物は、飛び上がった勢いでリサ達の目の前に着地すると、ボロ切れの外套の様な服を良く脱ぎ捨て、掴み掛かろうと掌を伸ばして来た。
リサは咄嗟にフォレアスタークの前に出ると、その女性の腹部を右手で思い切り殴り付け、蹲る瞬間に女性の顎に左拳をぶつける。
意識を刈り取られた女性は、そのまま前に崩れ落ちる様に倒れ、顔面を屋根の上に強打すると、顔に小さな血溜まりを作り出す。
そして、彼女が開けた地面の穴から、再び何かが這い出る音が聞こえ、リサとフォレアスタークはその女性を無視して構え直す。
すると、そこからビルと、ビルに手を引かれたリーリア、更にもう1人、リーリアに酷似した黒髪の女性……リサが前に一度会った事のある、リーリアの姉が飛び出してきた。
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