リサ、契約書を書く。
リサ達3人はスードラーの案内の元応接室へ向かった。一度、スードラーは店側に顔を出して金髪の男性に頼み事をしていたが、リサ達には何を話しているのか分からなかった。
応接室に入り、昨日と同じ場所に皆、腰を下ろす。
リサは手に持っている石箱に切れ目を入れると、中から魔竜の皮を取り出し、机の上に広げる。が、完全には広げず、半分程広げて手を止めると、石箱を重し代わりに魔竜の皮の丸めた部分の横に置く。
「話が早くて助かる。そうだね……買い取るのはこの位だ。問題無いか?」
スードラーは親指と人差し指で長さを測り、大体10cm程の買取を申し出た。
長方形の皮がほんの少しだけ短くなるが、全く問題無いと判断したリサは「問題無いよ」と頷いた。
スードラーはその返事に頷くと、右目を閉じて観察眼を発動させて、その部分を両手で掴み顔に近付けると、長机に置かれていた、刃に刻印が刻まれた鋏を手に取り、指定した部分を苦戦しながらも綺麗に切り取った。
切り取った皮を何度か強めに引っ張り、長机の上に置くと、顎に手を置きながら考え事を始める。
殆ど手に入らない魔竜の皮。しかも、状態も性質も武具の素材として一級品の物。10年に1度買い取れる機会があるか無いかの品物に、幾らの値を付ければ良いのかと、スードラーは目を瞑る。
暫く考えた後、スードラーは目を開きリサに視線を送ると、買取額を伝えた。
「定価で金貨4枚。色を付けて買い取るなら金貨8枚といった所だ」
「根拠は?」
リサは顔を動かさずに聞き返す。
「加工のし易さ、性質、汎用性。この皮の大きさなら、丸々売れば金貨40枚前後で買い取られる。皮の面積を減らして、大きさという価値を下げつつ、私の指定した大体20分の1のサイズで小売するとなると、金貨4枚が妥当だろう。渋るなら8枚。交渉次第では10枚は出せる」
「そっか、なら金貨4枚で。その代わり、いつかこの皮で、私の家族の手袋を作ってもらいたいんだけど、いい?」
「構わない。だが、代金は用意しろ」
「うん!ありがとスードラー!」
その時、丁度応接室の扉が叩かれて、金髪の男性がスードラーの名前を呼ぶ。その声に、スードラーは「入れ」と答えると、「失礼いたします」と返事が返ってきて扉が開かれた。
「スードラー様、契約書と、代金をお持ちいたしました」
金髪の男性は盆を持っており、その上には羽ペンと紙、そして革袋が置かれていた。
その盆を長机に置こうとした男性は一瞬固まると、スードラーの横で片膝を突き、盆を頭の上に持ち上げた。
リサはそれを見て長机に広げられた魔竜の皮と、重し代わりの石箱を手に取ると、石箱に皮を丸めて仕舞い、長机を空けた。
スードラーは盆から紙と羽ペン、そして、複数の金属が入った革袋を手に取り、長机に置くと、
「分かった。扉の横で待っててくれ」
と男性を下がらせる。
「かしこまりました」
男性が下がるのを横目に、スードラーは黒墨に羽ペンの先を浸すと、音を立てて何かを書き始めた。
リサとビル、リーリアの3人は、その内容を覗き見ると、書かれていく内容に目を大きくしていく。
そして、すぐに契約書を書き終えたスードラーは、革袋から金貨4枚を取り出すと、綺麗に積んだ状態でリサの前に置く。
「まず、魔竜の皮の買取金の金貨4枚だ。それとーー」
スードラーは先程書いた契約書を長机の上で半回転させると、リサの前に積まれた金貨の横に滑らせる。
「先程試作した魔道具が、完成した時の為の販売権だ。内容を確認しろ」
契約書に書かれている内容はこうだった。
1、魔法連射魔道具(仮名)以下連射魔具の商標権はリサ、並びにスードラーの双方が平等に得る事。
2、商標権の更新はスードラー、若しくは後継人(下記参照)が行う事。
3、連射魔具の製作、及び販売はスードラーに一任する事。
4、製作、及び販売の停止はリサに一任する事。
5、製作、及び販売に掛かる負担、返品や事故による補償は、スードラーが請け負う事。
6、連射魔具の定価の3割は、リサに支払われ、差額はスードラの物とする。
7、支払われる報酬は、毎月一括でリサ指定の口座にスードラー及び代理人、もしくは後継者(下記参照)が振り込む。
8、商標利用料は全てリサに支払われる。
9、契約者が死亡した場合、この契約は後継人、又は親族に引き継がれるものとする。それらが居ない場合、片方の契約者に全ての権利が譲渡される。
要約すると、先程地下で見せた魔道具をスードラーが製作と販売をして、リサにその定価の3割が報酬として渡される。という事になる。
しかも、リサには商標利用料が全額入り、連射魔道具に対して一切責任を負わなくて良い。つまり、ただ金が振り込まれるだけ。という事だ。
「か、確認したけど……これ、私に対して良い事しか無くない?要するに、“アイデアありがとう。お金あげる”って事でしょ?スードラーは良いの?」
「問題無い。寧ろ、商業ギルドに早く商標権の申請をしたい。面倒だから早く決めろ」
「……分かった。名前書くから羽ペン貸して」
「……あ、待て、私の名前を書くのを忘れていた」
スードラーは一度リサから紙を借りると、目の前で見える様に、契約書の下側に名前を書いた。
そして、リサに再度内容を確認する様伝えると、羽ペンを渡す。
「…………はい。名前書いたよ」
リサは羽ペンを差し出された筆立てに置き、契約書をスードラーの方に滑らせた。
スードラーは契約書を見て頷くと扉の横に居る男性を手招き、小さいナイフを受け取ると、自分の親指を切って、契約書の自分の名前の横に押し付けた。
「え?え?な、何してるの!?」
スードラーは男性にナイフを渡し、受け取った男性はハンカチで綺麗にナイフを拭くと、リサの前に置いた。
「ちょちょちょっと待って!え!?私もそれやるの!?」
リサは目の前に置かれたナイフを見て取り乱しながら、スードラーに質問する。
「そうだ。血に魔力を含ませろ」
頷くスードラーに、更にリサは狼狽し、その場に立ち上がりながら両手を突き出して、慌しく振る。
「む、無理無理無理!無理!血は無理!他の!他のにして!」
「血液以外だと唾液になるか」
「唾液……」
リサは大人しくなると長椅子に腰を下ろし直す。そして、顔の前で右手の人差し指を立てながら、暫く指を見詰めると、
「ビル、リーリア、あっち向いてて」
2人に声を掛けた。
ビルとリーリアは言われる通りリサから顔を逸らすと、リサはそれを確認してから「んぇ」と声を漏らしながら舌を出し、自身の人差し指を舌に押し当てる。
舌を仕舞い、人差し指を長机の上にやる。指の腹にはしっかりとリサの唾液が付着しており、魔道具の明かりを照らしながら輝いていた。
だが、それも一瞬。スードラーが首を傾げる前に、指に付着した唾液は煤になって宙に消えた。
「な……!どうして……」
リサはポケットからハンカチを取り出すと、何となく人差し指を拭きながらスードラーに説明した。
「見てわかる通り、こんななっちゃうの。血でも同じだから、どうする事も出来ない」
もういいよ、とリサはビルとリーリアに声を掛けて、スードラーを見詰める。
「他に方法は無いの?例えばインクに魔力を流し込んで、血の代わりにするとか」
スードラーはリサの案を聞いて「それだ」と声を上げると、男性に
「赤いインクを持ってこい。出来れば新品、魔力が篭ってない物だ」
男性はすぐに赤いインクを用意して、リサの目の前に置く。
リサはそのインク瓶の蓋を開けると、赤い墨の中に人差し指を突っ込み、魔力を流しながら掻き混ぜる。そして、鑑定眼を発動したスードラーが「もういい」と声を掛けると、リサは掻き混ぜる指と魔力を流すのを止めて、余分な墨を落とすと契約書に赤い墨で濡れた指を押し付けた。
「リサ、今から銀行へ向かい、その足で商業ギルドへ行くぞ。後、商業ギルドへの登録もしてもらう。私の推薦があるから問題無く登録出来る筈だ。そのインクはやる。それも持ってこい」
スードラーは契約書の指印を手で仰ぎ、乾いたこ事を確認すると、丸めながら立ち上がってリサにそう捲し立てる。
「え?……うん、分かった。ごめんビル、リーリア、今日はここで別れよ。魔法剣に関しては明日以降って事で」
「あはは……まぁ、折角のチャンスだからね。分かった」
「ですね。リサ、頑張ってくださいね」
「何も頑張る事無いと思うけど、頑張るよ」
リサ達はゼシール魔道具店を出ると、店の前で別れた。リサとスードラーはすぐ近くにあるギルドの預金機関に、ビルとリーリアは街を見て回ると言って西側に歩いて行った。
そして、預金機関に入ったリサは受付の人に、普段から首に掛けている冒険者タグを見せて、自身の口座番号の書かれたプレートを発行してもらい、その足で、街の中央付近にある商業ギルドへ足を運んだ。
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