リサ、魔法剣を見せる。
翌日。リサとビル、そして、気怠そうな顔色のリーリアは、太陽が真上に昇り落ち始めた頃、人通りが穏やかになり、店々が夕刻に向け準備を始める中、魔竜の皮と試作品の魔法剣……短剣4本と剣1本を持ち、ゼシール魔道具店へ赴いた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、リサ様。早速ご案内いたします」
店に入ると毎回、いつもの金髪の男性が必ず入口の脇に佇んでおり、頭を下げてくる。リサはそれを見て
(この人、ちゃんと休暇とか貰ってるのかな?偶々、私が来た時が仕事日の可能性もあるけど……。まぁ、私がここに来るのって学校の休息日の時だし、偶々だよね)
と考えながら男性に挨拶をすると、後について行く。
応接室だと魔法剣が見せられない。そう思い、口を挟もうとしたが、相手方も同じ考えだった様で、応接室を通り過ぎると、一番奥の突き当たりにある木製の扉の前に行き、案内役の男性が扉を引く。
すると、そこに現れたのは地下に続く回り階段。均等な形に削られた石が積み重なった壁には、照明魔道具が等間隔に取り付けられており、その空間を、昼間の様に明るく照らしている。
リサ達は男性に釣られるまま、大人2人が横に並んで両手を広げられる程幅のある、石で出来た、踏み外したら致命傷を負いそうな階段を降りていき、余白の様に少しだけ伸びた通路に足を下ろすと、目の前に現れた重そうな金属の扉に視線を送る。
男性は、その扉に付けられた無骨な形のドアノッカーを使い、金属の扉を叩いた。
石で囲まれた密室に近い空間だからか、その音は体の芯まで響く様な衝突音を響かせた。気怠そうにしているリーリアは、頭に激しく響いたのか、小さい呻き声をあげると肩を跳ね上げ耳を塞ぎ、嫌そうな顔を浮かべる。
「申し訳ございません」
男性はその声に振り向くと、リーリアに頭を下げて謝罪する。
それに対して、リーリアは「こちらこそ、失礼しました」と男性に対して言葉を掛ける。
その時、金属の扉が音を立てながらゆっくりと開かれた。その音に、再びリーリアが顔を顰めていると、開かれた扉の奥からスードラーが顔を出した。
「時間指定をしていなかったから心配していたが、丁度良い時間に来たね。入ってくれ」
リサ達3人は、頭を下げる男性の前を通り過ぎて扉の中へ入る。
そこは、フォレアスタークの研究室の様な、だだっ広い、邪魔する物が何も無い空間だった。
物質操作が行える地面に、先の場所と同じ石の壁と天井。等間隔に並べられた明かりを発する魔道具は、対物魔結界の魔道具だろう。その証拠に、壁や天井に薄らと、水面に垂らした油の様な模様が浮かび上がっている。フォレアスタークの研究室と同じで、地面深くまで対物魔結界は続いているだろう。
背後で閉められる扉を無視しながら、リサ達はスードラーについていく様に部屋の中央へ向かう。
そして、中央付近に着くと、スードラーは振り返り、リサ達に話しかける。
「面倒だが……先に魔法剣を見せて貰おう。リサ、その魔竜の皮は部屋の端に置いておけ」
「分かった」
リサは石箱の箱と蓋の境目を消し、創り出した氷狼に咥えさせて部屋の端に待機させる。
そして、手に持っている麻袋を地面に置くと、中に入っていた試作品の魔法短剣を3本取り出した。因みに、リーリアが選んだ短剣はリーリアが、剣はビルが別々に持っている。
リサはまず、剣身に魔石を埋め込んだ型の魔法剣を取り出し、スードラーに見せた。
「まず、これが一番最初に作った……失敗作だね。魔法陣に直接魔石が埋め込まれてるから、常時魔法が発動しちゃうの。魔石の魔力が空なのはそれが理由」
スードラーはリサから短剣を受け取り、鞘から剣を出しながらリサの説明を聞く。
「ふむ……まぁ、リサの言う通り失敗作だ。気になるのだが、この剣の魔法陣の刻印は誰が入れた?」
「私。ビルが描いた魔法陣に沿って、剣を溶かして溝を彫ったの。綺麗に出来てるでしょ?」
一瞬、室内が静まり返る。
「面倒だが……ハッキリ言わせてもらう。その方法で刻印が刻めるのであれば、君の魔法剣製作に私の力は必要無い」
スードラーは短剣を鞘に納めると、地面に屈んでいるリサに突き返す。
リサは思わず立ち上がり、「どう言う意味?」と首を傾げてスードラーを見詰める。
「そのままの意味だ。魔道具生成で一番重要なのは“物体に刻印する事”。刻印の術式自体は、魔法陣を帯状にした物でしか無い。中には錬成術士にしか伝えられていない物もあるが、実際にある刻印を転写するだけで事足りる。……長く話し過ぎたが、要は“自分で刻印を彫ればいい”。それだけだ」
その説明に、リサは勿論、後ろに居たビルとリーリアも声を漏らして固まる。
言われてみれば、その通りだ。魔道具に刻まれている刻印の殆どは、普通に使われる魔法陣を帯状に変形させた物。ビルが帯状の魔法陣を描き出し、リサが繊細な魔力操作で刻印を刻めば、スードラーの力を借りなくとも、魔法剣は作れる。リサとビルはそれに気付いて互いを見合う。
「……あれ?でも、魔道具の発動と停止ってどうやるの?魔法陣で魔力の導線を作って、それを開閉させる事って出来るの?」
「あ〜……常時魔力が流れている状態だと厳しいかな……それこそ、錬成術士に継がれる魔法陣が必要になりそうだけど。まぁ正直、次元魔法の応用で何とかなるだろうね。……ちょっと考えさせて」
ビルはその場に座り込み、顎に手を置きながら思考の海に浸る。
「ねぇ、スードラー。一応他のも見てよ。確かに自分達で作れるかもだけど、本職の人の意見も聞きたいし」
「……面倒だ」
リサはスードラーの言葉を無視して2本目の短剣……物質硬化の魔法陣を刻印した短剣を手渡して説明を始める。
「それは、抜剣してる時だけ発動する仕組みになってるの。試作品だから、魔石部分の部品の耐久性は皆無だけど……仕組みとしては、悪くないと思うんだよね」
スードラーは説明を聞きながら、何度も抜剣と納剣を繰り返し、抜剣した状態でピンを曲げて剣身から離したりと、かなり真剣にその剣を確認する。
「魔石側に刻印を刻まずに、発動の切り替えが出来る機構は素晴らしい。面倒だが、見返りに別の方法を教えてやる。魔法陣や核が付いた部品を捻る事で、魔法の発動の切り替えをする方法もある。剣で例えるなら、柄頭を右に捻ると発動、左に捻ると停止。といった具合だ」
「確かに……でも、作るのが難しそうだね。少しでもズレてたら発動しない訳だし。一瞬だけ発動すれば良いなら、その作り方でも良いけど……。あ、火球や水球なんかの攻撃の魔法陣でそれを作れば、上手くいけば連発出来るんじゃ……?例えば……輪っかの形の物に魔法陣の外側を、丸い板に魔法陣の内側の図形を描き込んで、クルクル回して色んな種類の魔法を発動させる……とか」
リサは、人生ゲームのダイスルーレットを思い浮かべながら、氷生成で見本を創り「こんな感じで」と言いながら氷の円盤を回転させた。
その瞬間、スードラーはその場から駆け出し、勢い良く金属の扉を開けると、扉を閉める事なく階段を駆け上がって行った。
「えぇ……話の途中なのに」
「リサ、私達も上に戻りますか?」
「う〜ん……どうせ後で戻ってくるんじゃない?ビルも考えたまま動かないし、どっちかが何か言うまでのんびりしてよ」
「分かりました」
リサはその場に氷の丸机と、氷の椅子を2つ創り出し、リーリアと共に腰を下ろすと、他愛も無い雑談をして時間を潰した。
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