リサ、魔法剣を作る。
「私を無視するなんて……」
アイリーンの周囲は凍てつき、粒子化した空気がシャンデリアの明かりを乱反射させる。
彼女の隣に居たフォースオートの学生達は身震いすると、腕を抱きながら彼女から離れた。
床に霜を張り、周囲を漂う白い霧と共にその範囲を広げようとアイリーンがリーリアを睨み付けた瞬間、火花の散る音と共にそれら全てが蒸気に変わり、部屋の湿度を上げながら温度が常温に戻る。
「なっ……!」
アイリーンは驚愕した。激情に駆られて自然と溢れ出た冷気であったものの、自慢の魔力がいとも簡単に掻き消された事を。編まれた魔力では無く、自分と同じ、ただの漏れ出した魔力に、空間を上書きされた事を。
「……店員さんも取り込み中の様だし、仕方無いけど他のお店に行こっか」
ビルは、隣で腰を抜かしている女性店員を見下ろすと、踵を返しながらリサ達に声を掛けた。
「そっか〜、残念。海鮮料理が食べられるかもって期待してたのに」
リサもそう言いながらリーリアの手を引いて踵を返すが、入り口を塞ぐ様に立つ男子生徒を見て、数歩後退りした。
男子生徒はそんなリサを見て笑みを浮かべると、ビルに視線を移して、ビルの左肩に自分の左手を置いた。
「お兄さん、穏便に済ませましょうよ。可愛い女の子前に、格好つけたくなる気持ちは分かりますがね、アイリーン様の許可無く退席は無礼ですよ?」
男子生徒は身体強化を使い、ビルの肩に置いた手の力を強める。その時、自分の掌に伝わる感覚に首を傾げ、男子生徒は表情から笑顔を取り除く。
「悪いけど、さっきも言った通りお腹が空いて機嫌が悪いんだ。そっちがその気ならーー」
ビルは男子生徒の左手首を右手で掴む。瞬間、男子生徒の顔は歪に歪み、額から脂汗を大量に流して歯を剥き出しにする。
ビルはそのまま、自分の肩からゆっくりと置かれた手を剥がし、そのままゆっくりとその腕を下に回しながら、骨格を利用して男子生徒を跪かせた。
「ビル!」
「……分かったよ」
リサの呼び掛けに、ビルは溜息を吐きながら男子生徒の腕を引っ張り、後方へ転がす。
「先に言っておくけど、先に手を出したのはあの子だからね?」
「分かってるけど、本気で腕を折るつもりだったでしょ。分かってるからね」
「そりゃあ、可愛い女の子2人とのデートを邪魔されたら、怒りたくもなるよ」
「怒る相手が違うでしょ。八つ当たりじゃん」
「“守ってくれてありがとう”位言ってくれても良いのに。ねぇ、リーリア」
「あ、その……ありがとうございます……」
そのまま、3人は店を出ようと扉を横切った。その時、投げ飛ばされた男子生徒が立ち上がると、ビル向かって叫ぶ様にこう言った。
「待ってくださいお兄さん!俺は貴方に決闘を申し込む!」
その言葉に、周囲の生徒達は驚きの表情を浮かべた。だが、申し込まれた本人……ビルはその言葉を聞いて焦った表情を浮かべると、隣に居た少女に声を掛ける。ーーが、遅かった。
いつの間にか、リーリアの手を離して男子生徒の目の前に立つリサは、男子生徒の右手を自身の胸の前で両手で握り、瞳を輝かせながら顔を見上げている。
「ねぇ!今の本当!?」
「え、あぁ。君の連れに決闘を申し込む事なら事実ーー」
「あぁ〜……!良かった!私、剣技を叩き込まれた人の戦ってる所を見たかったんだよ!冒険者って我流が多くて、普通の狩場にいる初心者だと大した腕前が居なくて……。師匠と1年以上会ってないから、手本や目標になる人が欲しかったんだよ!ねぇ、いつやるの?今?今からやろ!ねぇビル!」
「嫌だよ!俺は魔導士!肉弾戦は専門外なの!それに、今からご飯に行くんだからね!?ランチタイムも終わっちゃうでしょ!」
「じゃ、じゃあ……ご飯食べた後ならーー」
「ーーその後は学校に戻って魔法剣製作!勿論明日は、それを見せに店に行くから駄目!それに、その子は正式な決闘の申し出をした訳じゃ無いから無視でいいの!」
ビルはリサの元へ歩み寄り、そのまま右肩に抱えると、リーリアに「リサちゃんが変な事言う前に早く行くよ」と声を掛けて店を出て行く。
「あ、アイリーンお姉様、それでは……」
リーリアはアイリーンに頭を下げると、小走りでビルの後を追った。
ーーーーーーーーーー
結局、3人は貴族街での食事は諦め、貴族街に近い少しだけお高めな食事処で昼食を済ませた後、ビルの提案で市場を回る事になった。
ガルガラの市場は西側入り口付近から、北と南の両側に伸びており、貴族街と冒険者街を繋ぐ、唯一、貴賤上下の差別が無い通りである。
無い。とは言っても完全に無いわけでは無いし、当たり前だが、貴賤の差関係無く、金を持っていない人は邪魔者扱いされる。
一方、路地裏に屯する孤児や浮浪者には売れ残りを分けたりと、人情に溢れており、そのお陰か、ガルガラの中で一番治安と活気が良い場所として、観光目的の人に人気である。
が、それは冒険者街にある市場に限っての話。それとは正反対に、貴族街側の市場はチラホラと、黒い噂が立っている。
残念ながら、その噂話をリサは知らない。噂話に疎い訳では無いが、冒険者ギルドの職員や同じ冒険者からは“1人では近付くな”としか言われていないのだ。
そんな良い噂を聞かない貴族街側の市場に、リサ達は赴いていた。
理由は単純。ビルが元々来る予定だったからだ。その理由は知らない。が、リサはある程度の予想が付いていた。
ーー魔人帝都襲撃未遂。あれ以降……いや、あれ以前から、ビルは黒い噂のある市場に頻繁に出入りしていた。それから察するに、ここへ来た目的は“魔人の捜索”。
(変な事に巻き込まれるのだけは、勘弁願いたいけど……“分かってる”風な事言ったら、今度はフォレアスおじさんに意図的に巻き込まれそうだし……。黙って着いて行くしか無いよね……)
リサは万が一の事を考えてリーリアの手を握りながら、ビルの後をついていく。
貴族街側の市場は食事を扱う出店は殆ど無く、殆どが布や服、装飾品に家具といった、調度品ばかりだ。一応、嗜好品の紅茶や菓子類、中には海鮮の干物も売られており、リサはそちらに目を輝かせていた。
「わぁ……!あのお菓子美味しそう!あっちのお菓子も!でも……小金貨1枚近い値段は流石に手が……!」
「まぁ、貴族向けの異国の菓子だからね。ちょっと良い菓子が買いたいなら、市場よりも街の菓子屋に行った方が良いよ。次街に行く時連れて行ってあげようか?」
「本当!?次のお出かけの楽しみが増えたね。リーリア」
「ふふ!そうですねリサ。私も、お勧めのお茶菓子を取り扱っているお店に案内しますよ」
「それまでにお金貯めておかないとだね」
リサは、フォレアスタークとラズリーに渡す、お土産用のクッキーを買って脇に抱える。
そして、ビルとリーリアは市場を見て回るだけで、何も買わずに学校へと戻るのだった。
ーーーーーーーーーー
学校に着いたリサはリーリアにラズリー用のお土産を渡して、リサとビルはフォレアスタークの自室へ、リーリアはラズリーの研究室へ向かう為に、本館1階で解散した。
リサとビルは、自室にいたフォレアスタークに声を掛けてお土産を渡すと、今から魔法剣の製作をする事を伝えた。すると、フォレアスタークは「儂も行こう」と部屋から出てきたので、3人で1階の研究室へ足を向ける。
結論から言うと、魔法剣の製作は簡単に出来た。
用意した短剣に対し、魔石が大きかったので、半分程の大きさに煮詰めて固めた後、リサが、短剣の刃の鍔に近い部分に人差し指で穴を開けて、粘土をこねる様に魔石を埋め込んだ。
その魔石を中心に、ビルが火属性付与の魔法陣を浮かび上がらせて、その魔法陣の文字や形に沿って、リサが魔力で熱を操り金属を溶かした。
そして出来上がったのが、常時刀身を燃やし続ける魔法剣だ。
一応、考えた通りの物を作る事は出来たが、常時、魔法陣に魔力が流されているので、剣が纏った炎を消す事が出来ない。
しかも、鞘が木製なので納剣する事も出来ない。今は即席で作り上げた石の鞘に納めているが、その間にも、魔石の中の魔力は消費され続けている。
2本目は、剣に髪留めの様な形のピンを付けて、抜剣した時に、刃に描かれた魔法陣に魔石が当たる様細工し、物理的に魔法陣への魔力の供給を絶つ事に成功。抜剣時にのみ、物質硬化の魔法が発動する短剣が出来上がった。
3本目は、短剣の両面に魔石が付いたピンを付けて、2つの魔法を抜剣時に発動する様にした。
火と風属性の同時付与。結果は……目的の複合属性である“雷属性”の付与に成功。ただ残念な事に、リサ以外がその短剣を持つと感電してしまう。リサの魔力で生み出した物である為、当たり前ではあるが。
その後、リーリアを研究室に呼び出したリサは、新たな魔石を生成して、ビルと共に魔法剣を作り上げた。
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