リサ、高級料理店へ行く。
陽は高く昇り、店々が活発に動き出す中、賑わう人通りを見てリサ達はこれから何処へ行くか相談する。
「私の用事は一旦終わったわけだけど、どこ行くの?ビルは行く予定の場所はあるの?」
「朝は貴族街側の市場に行って、昼はそこら辺でランチでもしようかと。で、1人だと寂しいからリサちゃんを誘った訳で」
「デートじゃん、それ。それならリーリアを誘えば良かったのに」
リサは真顔でリーリアを見詰める。
「えぇ!?ななな、なんで私を!?」
リサの言葉に顔を赤く染めるリーリアは、慌てた様子で視線をビルに送った。
だが、ビルはその視線に気付く事無く、リサをジトリと見て嗜める。
「リサちゃん、あんまりそういう事言うの良く無いよ?リーリアに悪いでしょ?」
「そうなの?ごめんねリーリア、変な事言って」
「い、いえ……構いませんが……」
どの言葉に反応したのかは分からないが、リーリアは残念そうに肩を落とした。
「で、どこ行く?リーリアも居るし貴族街側のお店に行く?」
「そうだね……あ、そう言えば、ガルガラの西北側さ、結構良いお店並んでるんだけど知ってる?ちょっと高めだけど、今の俺達なら財布が痛む事も無いでしょ」
「西北側ですか……もしかして、フォースオート学園の近くですか?」
フォースオート学園ーー正式名“グリーダ帝国立フォースオート魔戦術特別専門学校”。帝都ガルガラの西北、貴族街と呼ばれる場所の端にあり、貴族か特別な才能を認められた者で、且つ15歳から20歳までしか入学出来ない、平民が名前を聞く事などまず無い様な、貴族による貴族の為の貴族の学校である。
リサは、帝都にシオン魔導学校以外に学校がある事を知らず、初めて聞かされた情報に目を丸めて固まっていた。
「そうそう、学園の近く。最低限のテーブルマナーはある訳だし、行っても失礼にはならないでしょ?」
ビルは学園の存在を知っていた様で、リーリアの問いに頷きながら笑みを浮かべた。
逆に、リーリアは顔に少しだけ影を落とす。
「嫌だった?なら他の場所に行こうか」
「いえ、嫌という訳では……。それに私、お金を持ち合わせておりませんし……」
「それは私達で払うから気にしないで良いよ。借りを作るのが嫌だったら、今度街に遊びに行く時に、リーリアが奢ってよ!」
「こ……今度……!はい!また今度、次は私の奢りで、ガルガラの街を回りましょう!」
「いや、帰りの挨拶みたいに言ってるけど、今から街を回るんだからね?って事で、早く行こうか。ランチタイムが終わっちゃうよ」
ビルは2人を案内する様に声を掛けると、自分が目を付けていたお店に向かって歩き出した。
貴族街。とは言ったものの、リサ達の暮らしている区画も貴族街なので、住民の服装は全く変わりない。だが、見慣れた物かと聞かれると、リサにとっては馴染みの無い装いではある。
ただ、店の多さの関係上、北東より西北の方が人通りは多く、雰囲気も活気立っている。リサは周囲の人の顔色を見て、穏やかな北東の貴族街の方が自分には合っているのだと実感した。
そして、学園の生徒であろう、白と青をベースに、金の刺繍が施された学生服を身に纏った若い人達の姿も見られる。彼等彼女等の大半は剣を腰に掛けており、リサとしては、是非とも剣技を見せて貰いたいと考えるが、友人のお出かけを中断してまで声を掛ける程節操無しでは無い。
「着いたよ。ここが気になってたお店“四国一帝”だよ」
ビルが手差した店は、他の店々と比べてあまり大きく無い、白い壁の2階建ての建物。外観も他と比べて派手では無いが、他の店に無い気品や気高さを感じさせる。
青い屋根の雨除けに白い柱、厳かな重みを感じる焦茶の両開きの扉。程良くあしらわれた縁の金色の塗装は、何処と無くフォースオート学園の制服に似ている。と言うより、殆ど同じだ。ジャケット下のシャツやブラウスが黒色ではあるが、他の色は、配分までもが良く似ている。
店名も四国一帝と、グリーダ帝国を表した名前となっている。もしかすると、この店は学園と繋がりがあるのでは無いだろうか。ビルとリーリアはそう考えながら店の外観を眺めている。が、リサは違った。
(四国一帝って、中華料理屋みたいな名前だなぁ。そういえば、この世界に来てから海の物を食べた事も見た事も無いや。帝国の北側は海だった筈だけど……)
魚は川で獲れる物を食べているが、貝や甲殻類は久しく口にしていない。四国一帝、店名通りであれば、海の幸も取り扱っているかも。リサは無性にエビが食べたいという衝動に襲われながら、店を眺めていた。
「制服で来た事を若干後悔してるけど、とりあえず入ろっか」
ビルは店を見ながら佇む2人に声を掛けて、店の扉を引いた。
店に入ると、そこはホテルの受付の様な場所だった。
白い壁や床。一面に敷かれた青い絨毯。金色のシャンデリアは、明かりの魔道具によって煌びやかに光り輝いていた。
入り口横には2人の男女。白いシャツとブラウスに、黒のスラックスとベストを着ており、リサ達が店に入って数歩進むと
「いらっしゃいませ」
と言って腰を深く折る。
ビルは、普段より少しだけ口調を変えながら、男性の店員に話し掛けた。
「予約をしていないのだが、席は空いているだろうか?」
「当店は、ディナータイム以外は自由席となっておりますので、問題ありません。3名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ、1人は子供だから、出来れば酒のある席から離れた場所を願いたいのだが……」
「かしこまりました。では、お荷物をお預かりします」
その時、リサ達の背後にある店の扉が勢い良く開かれ、複数の影がリサ達を押し除ける様に前に出る。
白と青の混じった服……フォースオート学園の制服に身を包んだ者達は、リサ達に髪を靡かせながら振り返る。
男子2人、女子3人。金や紫、青といった派手な髪色の者達の中で一番目を引いたのは、リサとリーリアと同じ、腰まで伸びた黒髪を靡かせた女子だった。
背丈も、立ち姿も、顔も、まるで同じ。唯一違う所と言えば、その女子の瞳の色が氷の様な水色な所。
その姿を見た青色の瞳の少女ーーリーリアは、声を詰まらせて同じ見た目の少女を見詰めていた。
ビルとリサの行動は意外にも速かった。
ビルは自分の相手をしていた男性店員に謝罪をし、リサはリーリアの左手を掴んで同時に踵を返す。だが、入り口を塞ぐ様に佇んでいる、大柄なフォースオートの男子学生に阻まれ、顔を顰める。
それを見た男性店員は、黒髪を靡かせる女子生徒に近寄り、硬い口調で声を掛けるがーー
「申し訳ありませんが、他のお客様のごめーー」
「ーーなら、この場にいる客の代金は私が全部支払うわ。それとも、譲歩してあげたのに、フロスティーゼ家に楯突くつもり?」
「……いえ。ーー申し訳ありませんが、お食事中の方は2階へ移動をお願いいたします。料理は新しい物をお持ちいたしますし、代金もお受け取りいたしませんので」
フロスティーゼの名を聞いた途端、掌を返して他の客を2階へ誘導した。そして、新たな客が入らない様に、態々店の外に出て“準備中”の看板を扉にぶら下げた。
「さぁ、これで逃げる事は出来ませんわよ。リーリア?」
「…………アイリーン」
「“お姉様”でしょう?」
その言葉に、ビルとリサは黒髪の女子生徒ーーアイリーンに体を向ける。
「……アイリーンお姉様、何用でしょうか」
「用も何も、可愛い可愛い妹に会えたのですから、挨拶をと、ね。そちらの方々は貴女のお友達かしら?」
その言葉には、嘲笑が含まれていた。
「見ただけで分かる“安物”の剣。黒く汚れた胸当て。貴女にはお似合いのお友達ですわね」
アイリーンがそう言うと、周囲の生徒達もクスクスと笑い出す。
それを聞いたリサは、自分の胸当てに視線を送ると、
「あ、着けっぱなしだったの忘れてた。外しておかないと」
と言って胸当ての革ベルトを緩めると、それを外して、まだ空きのある短剣の入った麻袋に押し込んだ。
「教えてくれてありがとう。ええと、アイリーンだっけ?貴女のお陰で他のお客さんに嫌な思いさせずに済んだよ」
ニコニコと笑みを浮かべるリサに対し、右端に立っていた金髪の男子生徒が声を荒げる。
「お前!アイリーン様に対して無礼だぞ!」
一歩、脅す為に踏み込む。その瞬間、悪寒を感じたフォースオートの学生達は、全員その場から一歩下がる。凄んだ金髪の男子生徒だけは、足を縺れさせながら後ろへ大きく下がり、大きな音を立てて尻餅を突いた。
「ねぇ、俺達もう行っていいかな?お腹空いてるから機嫌悪いんだよね」
「え〜、どうせならここでご飯食べようよぉ。どうせ扉が塞がれてるんだしさ」
「そうだけどさ……って、そうだね。リーリア、君が良いならここで食事をする?」
「え……あの……え?」
「決まりって事で。では、席に案内をして貰えるかな?」
ビルは、入り口横で置物の様に固まって存在感を消していた女性店員に声を掛けた。
彼女は、大量の冷や汗を流しながら、彼等に無視されている貴族の令嬢の顔を覗いた。
ーー激情。アイリーンの顔は怒りに歪み、屈辱的だと言わんばかりに歯を噛み締めて青筋を立てていた。
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