リサ、スードラーと話す。
道中寄り道をせず、次の目的地であるゼシール魔道具店を訪れたリサ達は、店が営業中である事を確認すると、扉を開けて中へ入った。
「いらっしゃいませ。……と、リサ様でしたか。ご無沙汰しております」
入り口横に佇んでいる金髪の男性は、リサ達の入店を確認すると反射的に腰を折る。そして、顔を上げてリサを見ると、再び腰を折り、客とは別の対応を始めた。
「本日はどの様な御用向きでしょうか?」
「ちょっと前に……1ヶ月位前かな?魔石を売りに来た人が居ると思うんだけど、その事でスードラーに謝罪を。それと、魔道具の事で相談が……」
「かしこまりました」
男性はそう言うと、近くに居た手の空いている橙髪の女性を呼び、話を続ける。
「貴女はこの方達を応接室へ。私はスードラー様をお連れします。……ではリサ様、失礼いたします」
男性と入れ替わった女性店員は、彼が離れるとリサ達に頭を下げて店の奥、扉を手差してリサ達を促す。
「此方へどうぞ」
そして、リサ達は応接室へ案内された。
リサは何度か来た事のある見慣れてしまった部屋。その部屋に入ったビルとリーリアは、部屋の装飾に大して驚く事もせず、女性が手差した長椅子に3人並んで腰を下ろした。ビルは間に挟まれるのは嫌だと言い、一番右に腰を下ろして、リサはスードラーと話をするので中央、消去法で、リーリアは扉から一番離れた左側に腰を下ろした。
案内役の女性は3人が座るのを確認すると「お飲み物をお持ちいたします」と言って頭を下げると、応接室から出て行った。
「そう言えば、ちょっと前に冒険者の人に魔石渡してたね。買い取るお店ってここだったんだ」
「そうだよ。でも、咄嗟とは言え大した大きさじゃ無いやつを、金貨1枚って言っちゃったし、スードラーに買い取ってもらう形に勝手にしちゃったから、謝りに来たの。あ、謝罪の品とか持ってくるの忘れた……」
「あの、関係の無い私がこの場に居合わせても良いのでしょうか?」
「それを言ったらビルも部外者だから。まぁ、もしかしたら一回席を外してもらう事になるかもだけど……その時はごめんね」
先んじて2人に謝罪する。その時、応接室の扉が叩かれて
「リサ様、スードラーをお連れいたしました」
と男性が知らせる。
リサ達3人は長椅子から立ち上がる。そして、リサが扉に向かって「どうぞ」と声を掛けた。
その声に「失礼します」と男性が答えて扉が開かれると、先ずは金髪の男性が部屋に入り、それに続く様にスードラーが部屋に入り、最後に茶を運んできた橙髪の女性が眉を下げながら部屋へ入ってきた。
「待たせたな、リサと……そのご友人。気にせず掛けてくれ」
スードラーはそう言いながら3人の対面にある椅子に腰を掛けた。リサ達も、それに続いて長椅子に腰を下ろすと、リーリアから順に、橙髪の女性が机に茶を並べていく。最後に、スードラーの前に茶を置くと、橙髪の女性は一礼して扉から出て行く。
金髪の男性が扉を閉めると、店の入り口の時と同じ様に扉の横に黙って佇んだ。
最初に話を始めたのはスードラーだ。
「面倒だが……自己紹介か。私はスードラー、この店の店主だ。リサとの関係は面倒だから彼女から聞け」
ビルとリーリアは互いに目配せすると、ビルが長椅子に腰を掛けたまま軽く頭を下げて、自己紹介をする。
「俺はビル。今日はリサの付き添いで来た。よろしく頼む」
次に、リーリアが長椅子から立ち上がりカーテシーを見せる。すると、スードラーは右手を突き出して断りを入れる。
「家名は名乗るな。貴族としてこの場に来たのであれば、面倒だが、後日改めて場を設けさせていただく。それと、貴族相手に時間を割く程、私はお人好しでは無い事は、今この場で伝えておく」
それを聞いたリーリアは、黙って長椅子に腰を下ろし直すと、軽く腰を折り簡潔に名を名乗った。
「リーリアです。私もリサの付き添いで来ました」
「そうか。で、面倒だが来た理由は何だ?」
スードラーはリサに視線を向けると、ティーカップを手に取り中身を啜る。
「今日来た理由は2つ。まずは、最近私の魔石を売りに来た人の事で話が……」
「あぁ、あの男か。で、それがどうした」
カップをソーサーに乱雑に置き、気怠そうに椅子に身を委ねながら、左の肘掛けに頬杖を突く。
「その人に、最低でも金貨1枚で売れるって勝手に言っちゃったから、迷惑を掛けたかもと思って謝りに。損失が出たなら補填はちゃんとするよ」
「寧ろ良い買い物が出来た。そこでだ、あの魔石を幾つか売ってくれないか?出来れば男が持ち込んだ物より質の良い物を」
「良いけど、幾らで買い取ったの?」
「金貨2枚と小金貨3枚だ。魔力量が大して多くは無かったが、存在自体が希少だからな」
「そうなんだ。じゃあ……」
リサはポケットから魔石を3つ取り出すと、長机の上に置く。
「これ。核の質自体は最低級の物だけど、魔力だけが込められてるから使い勝手はかなり良いよ」
スードラーは魔石を1つ摘み上げると、左目に2重の円を創り出し、右目を閉じて魔石を見詰める。
「それで、売ってくれるのか?」
スードラーは机の上に魔石を戻すと、何度か瞬きをして2重の円を掻き消した。
「私の魔法剣製作に協力してくれるなら、それはタダであげる。後、試作品の魔法剣も1本」
リサは自分の足元に置いてある麻袋から、自分が選んだ短剣を3本取り出し、机の上に置くと、
「この剣に魔石を埋め込んで、刻印した魔法陣を発動させたいの。一応、石板で同じ事は実証済みだから出来る事は分かってるけど……。そこへ更に、魔道具作成の付与系刻印を刻みたいなって」
自分の作ろうとしている物の説明をする。
それを聞いたスードラーは「待ってろ」と一言、椅子から立ち上がり応接室から出て行ってしまう。
暫くして、再び応接室へ戻ってきたスードラーは、手に持っていた布に包まれた物を長机の上に置くと、丁寧に布を捲って中身を見せる。
それは、刃渡約20cm、刃幅約5cmの短剣だった。
両刃の刃には、内から外に何重にも刻印が刻まれており、鍔の中央と両端には、外側が透明に近い水色をした核が合計3つ嵌め込まれ、中央の核の部分には魔法陣が彫られている。そして、柄頭には鍔に取り付けられた核と同じ物が嵌め込まれていた。その柄頭の周りにも、帯状の刻印が彫られている。
刃に刻まれた刻印の、一番内側に彫られた物は、何もしていないのに常に青白く文字を輝かせていた。
それを一目見ただけで、リサはそれが、自分の思い描いていた魔法剣だと理解する。
ビルとリーリアも、目の前にあるソレが、途轍もな労力と金額を注ぎ込んで作り出した物だと見ただけで理解し、生唾を飲み込む。
「先日出来たばかりの“宝剣”だ。完全修復機能、対破壊耐性、切断補助、魔法障壁干渉と、刃の部分だけでそれだけの刻印が刻まれている。鍔に彫られた魔法陣は身体強化、柄頭の刻印は浄化の刻印だ」
スードラーは宝剣と呼んだ短剣を手に取り、更に説明を続ける。
「刃に使われている鉱石は魔鋼の中でも最上級の物だ。人間には作れない。自然が長い年月を掛けて、溶かし、圧し、純度の高い魔素が込められて作られた物。だが、残念な事に鍔や柄の素材はそれに見合わない素材だ。鍔と柄を覆う金属は魔力伝導が高い銀合金。柄に巻かれた布はワイバーンの皮……」
溜息を吐き、机の上に短剣を戻す。そして、リサに視線を移すと、スードラーはある提案を出した。
「リサ、君は魔竜の皮の扱いに悩んで居たな。取引だ、魔竜の皮を買い取らせてくれ。代わりに、魔法剣の製作に手を貸してやる」
スードラーの提案に、リサは呆然としながら答える。
「ええと……その宝剣の所為で、話が全然入ってこないんだけど……」
「面倒だ……魔竜の皮を売るか、売らないか。どうする」
「あ、え〜っと……一部で良いなら売ろうかな。前は悩んでたけど、今は籠手を作るのに使いたいから」
「柄に巻く分だけで十分だ。後、試作品の1つは最初の約束通り貰うからな」
「分かった。取引成立かな?だったら、明日その皮を持ってくるよ」
「あぁ、その時に魔法陣を彫った剣も持ってこい。面倒だが、刻印を入れてやる」
リサとスードラーは立ち上がると、お互い手を握り握手を交わす。
「て事で、話は終わったからお出かけの続きしよっか」
リサはテーブルに置かれた魔石をポケットに入れ直すと、スードラーに視線を送る。そして、頷くスードラーに手を振ると、3人で応接室を出て、ゼシール魔道具店を後にした。
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