リサ、みんなと武具屋に行く。
「でも、2人共良かったの?私の用事に付き合わせて」
リサは貴族街を通り過ぎ、冒険者街にあるギルド直営の武具屋に向かう途中、ビルとリーリアに申し訳無さそうに質問する。
「俺はご飯食べて、適当に街を回りたいだけだったから問題無いよ」
「私も予定は無いので……。それに、友人と街を歩くだけでも満足ですから」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。あ、あそこの武器屋さんだよ」
リサが指差したのは少し大きめの武具屋だ。
そこの武具屋は、武器鍛冶と防具鍛冶の工房の両方が備わっており、武具全般が取り揃えられている。値段も幅広いが、売られている物は初心者から中級者向けの物ばかりだ。
2つに別れた入り口の“武器”と書かれた看板が掛けられた方に入り、武器が並ぶ棚を素通りすると、リサは武具屋の奥、武器鍛冶士の工房へ向かう。
鉄を打つ音に混じり、荒い息遣いと水が焼ける音が辺りに響く。蒸し風呂の様に暑く熱い場所に足を踏み入れたビルとリーリアは、鼻先が焼ける痛みに顔を顰めながら、額に汗を浮かべて入り口の前で無意識に足を止めた。
その2人を横目に、リサは工房の奥に進んで行く。
「暑すぎ……てか熱い!工房の入り口でこれって、炉の近くはどうなってるんだ……」
「熱気だけで肌が焼けそうですね……。そうですわ、私の氷魔法で部屋を涼しくーー」
そう言いながら、リーリアは自身に冷気を帯びさせて足元に霜を張ろうとする。その瞬間ーー
「ーー馬鹿野郎!部屋の温度を下げる様な真似するんじゃねぇ!殺されてぇのか!?」
少し離れた場所に居た鍛冶士が物凄い剣幕でリーリアに怒鳴りつけ、殺気を放つ。それを聞いた周囲の鍛冶士も、入り口に立つリーリアに対して、殺気を孕んだ視線を突き刺した。
「あ、ああ、あ、ごご、ごめーー」
リーリアは、突然向けられた複数の強い殺気に激しく怯え、後方にたたらを踏むと、自分の足に躓いて勢い良く尻餅を付いた。
ビルは慌ててリーリアの元へ駆け寄り、隣に膝を突くと「大丈夫!?」と声を掛けて背中に手を回す。
「だ、大丈夫です……」
息を潜めながら、足早にその場を立ち去る他の客を横目に、リーリアは差し出された右手を取って、体を支えられながら立ち上がる。
すると、工房の奥からリサが駆け寄ってきて、リーリアに何度も頭を下げる。何故か、鉄屑を両手で包む様に持ちながら。
「ごめんリーリア!工房の事何も知らないのに、何も教えずに放置しちゃって!」
「い、いえ、私の無知が招いた事ですから。謝らなければいけないのは私の方です」
リーリアはそう言うと、再び工房に足を踏み入れ、先程より少し奥へ進むと、その場で頭を下げた。
「お仕事の邪魔をしてしまい、申し訳ございませんでした」
様々な音が鳴り響く中、然程大きく無いリーリアのその声は、何者にも掻き消される事無く辺りに響き渡る。
その声を聞いて無意識に手を止めてしまった鍛冶士達は、頭を下げ続けるリーリアを黙って見詰め、言葉を失っていた。
そんな中、一番奥にいる筋骨隆々の年老いた鍛冶士は、リーリアを一切見る事無く、金槌を振り続けてこう呟いた。
「次は無い。顔を上げて表へ行け」
「ありがとうございます」
リーリアは一度顔を上げると再び頭を下げて、踵を返すと工房から出てリサ達の元へ向かう。
年老いた鍛冶士は、足音でリーリアが工房から出て行った事を把握すると「鉄を無駄にする気か!」と、手を止めている他の鍛冶士を怒鳴りつけた。
その声に肩を跳ね上げたリーリアは、目の前に居るリサとビルの顔を見詰めて耳を赤く染めた。
「リーリアって意外と臆病だよね〜!」
「リサちゃんの肝が座り過ぎてるだけじゃ無い?」
「そんな事……あるかもね。自分に何かあっても驚く事減ったかも」
「リサは不思議な方ですね。それで……その鉄屑はどうしたのですか?」
「あ、忘れてた。ちょっと待ってて!武器の修繕代金の代わりに一仕事してくるから!」
2人にそう伝えたリサは工房へ戻ると、先程リーリアの謝罪に応えた年老いた鍛冶士の元へ向かい、何かを始めた。
「あれは何をしているのでしょうか?」
リーリアの言葉に首を振るビルは、「後で聞いてみたら?」と言うと、店の中の剣が置かれている一角に足を運んだ。
数十分後、漸く工房から出てきたリサは、剣売り場に居るビルとリーリアの元へ向かい、「お待たせ」と笑う。
「お待たされ〜。買った剣は安物のやつだけど問題無いよね?」
ビルは肩に掛けた、荒縄で纏められた剣をリサに見せながらそう言った。
「ビルが良いなら問題無いよ。私も安物の短剣買う予定だし」
「リサ、聞きたいのですが、一体工房で何をしていたのですか?」
「あぁ、鉄屑を溶かしてたんだよ。炉で溶かすより早いし、不純物?も煤になってくれるから。って事で、偶に手伝ってるんだ〜」
「そうでしたか。……?鉄を溶かすのですか?」
「そうだよ?」
リーリアは、リサの言葉の内容に理解が追いつけず、思考を放棄すると「そうですか」と呟いて笑みを浮かべた。
その後、短剣売り場に向かったリサは、新品の中で一番安い短剣を3本手に取ると、リーリアにどの短剣が欲しいか尋ねる。
「リーリア、なんか良さそうな短剣あった?」
「そうですか」
「え?」
「ーーあ、ごめんなさい。どうしました?」
「気に入った短剣。それ買うから」
リーリアは何の事か分からず、首を傾げながらも置かれている短剣を一瞥すると、目の前にある、何の装飾も無い無骨な短剣を指差した。
「此方……ですかね」
それは、刃渡約30cmと少し長めで、幅も広めな両刃の短剣だった。
「え?それで良いの?自分で使う事を考えてよ?」
魔法職が使うにしては少々大き過ぎで、どちらかと言えば近接職の補助武器として使われる短剣を指定され、リサは少々困惑しながらも、本当にそれで良いのかと問う。
「私が使う事を前提として考えるのでしたら、尚更この大きさの物が良いです。私は杖では無く腕輪を使用していますし、基本は氷剣で戦いますから。大きめの補助武器の方が戦闘スタイルに合っているのです」
「そっか……。まぁ、試作品だしいっか」
リサは棚に置かれたその短剣も手に取ると、会計所に足を運んで金を払う。そして、短剣が詰められた麻袋を店員から受け取ると、「じゃあ次行こっか」と言って店を出る。
「それで、何故私に短剣を選ぶ様に仰ったのですか?こう言っては何ですが、私はあまり目利き出来る方ではありませんよ?」
「だろう……じゃなかった。別に問題無いよ。さっき選んでもらった短剣、魔法剣の製作に成功したら、リーリアにあげる物だし」
「え!?魔法剣の製作!?……ご、ごめんなさい」
「気にしないで。それで、今から行く魔道具店の店主さんに相談しに行くんだけどーー」
「ーーそ、その前に!あの……良いのですか?そんな凄い物をいただいてしまっても」
「まだ出来るか分からないけどね。それに、出来たとしても試作品だし、使い物になるかも分からないけど。まぁ、買い物に付き合ってくれたお礼って事で」
「あ、ありがとうございます!大切に部屋に飾りますから!」
「ま、まだ出来るか分からないからね?あんまり期待はしないで」
「はい!期待してます!」
「あはは……」
(失敗したら、普通に短剣プレゼントしよ……)
リサは失敗した時の事を考えて笑顔を引き攣らせた。
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