リサ、氷剣を見る。
4000PV達成ありがとうございます。正直、宣伝も無しにここまで伸びている事に、若干震えています。
最近は、ゆっくりでありますが少女編の書き換えを進めています。
1話と2話に関しては既に改変済みの物に差し替えてありますが、皆様ご覧になりましたか?
これからも観測者として頑張らせていただきますので、応援の程、よろしくお願いいたします。
1年生に氷属性の魔法を自在に操る天才が居る。そう噂が広まったのは、リサが2年生に進級してから2ヶ月が経った頃だった。
黒髪で、名家の生まれ。成人して間も無い16歳という若さに、親しみ易い愛嬌のある顔。
周囲に関心を持ち、身分差関係無く平等に接する。その立ち居振る舞いに学年関係無く注目を集めていた。
一応、入学当初から少しだけ話題になっていた。リサは別として、ビルの耳には「魔法の扱いが得意な新入生が居る」と届いていた。だが、フォレアスタークの元で活動している都合上、訓練場や訓練室に赴く事が一切無かった為、噂の生徒に会う事は無かった。
そして、入学当初より正確な噂が生徒全体に広まり出した事で、リサとビルはその生徒……〈リーリア・フロスティーゼ〉に興味を持ち、授業後、彼女がよく使う煉瓦塀に囲まれた訓練場へ向かった。
その場所にはリサ達同様、見学……もとい、野次馬精神旺な2年生達の姿があった。彼等彼女等は訓練場を使う訳でも無く、寧ろ邪魔にならない授業棟側の端の方に固まっていた。
そして、その訓練場の中央付近には、噂の生徒であろう黒髪の少女と、紫髪の女性ーーラズリーの姿が見えた。
「あ、ラズリーだ。ねぇビル見て、ラズリーが居るよ」
リサは、煉瓦塀で区切られた訓練場の入り口から、中央付近に居るラズリーを指差して、隣に立つビルに声を掛けた。
だが、ビルはリサの言葉に一切の反応を示す事無く、中央付近に居るもう1人の人物……リーリア・フロスティーゼを一点に見詰めていた。
喜び。困惑。衝撃。それらの感情が入り混じった表情を浮かべるビルを見て、リサは首を傾げながら声を掛けた。
「あれ?もしかして、あの人ビルの知り合い?」
「……いや、分かんない。だけど……知り合いの可能性は高いかな。家名的にも……ね」
「フロスティーゼだっけ?あれ?確か……グリーダ帝国を建国した人達の中に、同じ家名の人が居たよね。名前なんだっけーー」
「ーービル・フロスティーゼ。氷剣のビルだよ」
そう答えたビルの声は何処か苦痛を孕んでおり、その表情は怒りと悲しみに染まっていた。
その表情を見たリサは、口から出かけた言葉を飲み込むと、黙って視線を逸らしてリーリアとラズリーのやり取りを眺める。
丁度、彼女達は魔法の訓練を始める所だった様で、ラズリーが石壁を広場の中央に創り出すと、2人共、少しだけその場から離れて間合いを取った。
そして、リーリアが石壁に向き合った瞬間、彼女の周囲に冷気が漂い始め、地面に霜を張り巡らせる。
それを見た周囲の生徒達が響めき立つ中、リーリアは棒を握る様に両手を前に掲げる。リサは彼女が創り出した物を見て目を見開いた。
ゆっくりと、彼女の掌の中に創られる棒。その先から、天に伸びる様に氷の剣……氷剣が創り出された。
両刃のその氷剣はかなり幅広で、“大剣”に分類される物である。
リサの創り出した氷剣ーー氷刀とは似て非なる剣。正に“氷剣”と呼ぶに相応しいその剣を見た他の生徒達も、思わず息を呑む。
だが、その中に居る、初めてリーリアの氷剣を見た数名の生徒は、それを見て言葉を失っていた。
それもその筈。自分が取り入ろうと考えていた名家のご令嬢と瓜二つの魔法を行使する、同じ黒髪の生意気な少女を知っているからだ。
そんな彼女達の考えなどリサやリーリエが分かる筈も無く、リーリエは氷大剣を振り上げ、リサは興味津々にそれを眺める。
そして、重さを感じさせる事無く振り下ろされたその氷剣は、激しい衝撃音と共に石壁を粉砕してみせた。
槌ーーリサの目には、その氷剣がそう見えた。実際、氷剣は石壁を斬り裂くのでは無く、砕き割ったのだ。
砕け飛んだ石片が空中で霧散する所を眺めながら、リサは期待外れといった様子でリーリアから興味を無くす。
非効率な魔力操作。あまりにも遅すぎる物質生成。破壊力と見た目のインパクトはあれど、実戦で使うには余りにも無駄が多い。リサはそう考え、彼女から視線を外すと隣に居るビルに目を向ける。
彼は彼女の魔法を見て、軽く肩を落とすと、分かっていたといった様子で普段の態度にコロッと戻り、リサに声を掛けた。
「やっぱり知らない人だったよ。……ちょっと期待したんだけどね〜」
「そうなんだ。でも、どうせなら声を掛けてきたら?知り合いの人と同じ家名なら、家族にその知り合いが居るかもだし」
ビルは笑みを浮かべながら頷くと、
「それもそうだね!リサちゃん、ちょっとナンパしてくるね〜!」
そう言って広場の中央に駆けて行った。
「後で慰めてあげるから、頑張ってね〜!」
その言葉に、ビルは無言でリサに向けて黄色の魔法陣を描くが、リサは宙をなぞる様に指を滑らせて、その魔法陣を割る。
リサの場所からはビルとリーリア、ラズリーの会話は聞こえてこないが、割と良い感じで打ち解けている様で、リーリアが嬉しそうに笑顔を浮かべているのが見える。
その時、ラズリーとリサは目が合い、互いに手を振り合うと、ラズリーは隣に居るリーリアの肩を叩いてリサを指差した。そして、彼女に何かを伝えると、その隣に居たビルの表情が僅かに引き攣る。そして、リサに意味深な視線を向けた。
リサは、此方に歩み寄る3人を見て、面倒な事になりそうだと考えると、その場から駆け出して本館の方へ逃げた。
彼女達が追ってこないのを確認して胸を撫で下ろしながら、立ち入り禁止と書かれたフォレアスタークの研究室へ逃げ込み、一息吐くと、いつもの氷のテーブルセットを創り出して腰を下ろす。
そして、いつもと同じ様に氷のカップとソーサーを創って、ポケットに入ったティーバッグでお茶を作る。
「ーーふぅ〜。ラズリーには悪いけど、ビルの顔からして、絶対面倒な話をしたんだろうなぁ。大体の察しはつくけど……」
中身の尽きたカップをソーサーの上に置いて、部屋の中を自由に駆け回る氷狼を眺めていると、研究室の扉が開かれ、リサはそちらに体を向けた。
「お、フォレアスおじさんかな?」
想像通り、そこから現れたのはフォレアスタークとビル。だが、想像とは違いその後ろにはーー
「リサさん、さっきはどうして逃げたんですか〜?」
「貴女がリサ……」
何故かラズリーとリーリアの姿があった。
リサは顔を引き攣らせながら、机に左腕を置いた状態で固まる。そして、部屋に入ってきたリーリアも、言葉を発し掛けた口をそのまま開いた状態で、入り口の前で固まっていた。
そんな中、ビルはリサの元へ駆け寄り、耳打ちしながら小声で弁明を始めた。
(ごめんリサちゃん!3人で話してる所にあのクソジジィが来ちゃって……リサちゃんが逃げたってラズリー先生が伝えたら、ジジィが研究室に招くって……。俺は止めたんだけど……先に走って伝えにくるべきだったね)
リサはその言葉に深い溜息を吐くと、体の向きを3人から逸らして氷の丸机に顔を伏せた。
リサのそんな態度にフォレアスタークはケラケラと笑い、ラズリーは不満そうに顔を膨らませる。唯一、リーリアだけは、リサを守る様に牙を剥いて立ちはだかる2匹の氷狼を見て、怯えた病状を浮かべていた。
「クカカカカ!リサよ、氷狼を大人しくさせてやっとくれ。フロスティーゼが怖がっておる」
「うるさいバカ。……ワンちゃん達、噛むならあのおじさんだけにしてね」
「おぉ、怖い怖い。小娘よ、師匠に対してあの態度、なっとらんとは思わんか?」
「本当ですよ〜。リサさん、師匠はもっと労るべきですよ〜?」
「……ビル、あの2人どうにかして」
「ごめん。流石の俺にもどうする事も出来ないや」
リサは諦めた様に、再び深く溜息を吐くと、丸机をトントンと叩いた。その音を聞いた氷狼達は、耳を畳んで尻尾を下げると、牙を仕舞ってリサの元へ行き、椅子の下と足下に寝転ぶ。だが、すぐに動ける体勢を取りながら顔を3人に向けている。
リサは不貞腐れた表情を浮かべながらも徐に顔を上げて、フォレアスタークを睨み付けると、
「義絶を申し出たく存じます」
硬い口調でそう伝える。が、
「クカカカカ!儂に一度でも模擬戦で勝ってから言う事じゃな!」
口角を上げてフォレアスタークは挑発した。
その瞬間、足元の氷狼は再び歯を剥き出しにして、殺気を感じさせる程の精巧な表情を見せると、フォレアスタークに飛び掛かった。
だが、見えない刃に打ち砕かれると、氷の粒子を残しながら霧散してしまった。
未だに入り口の近くで佇んでいたリーリアは、その圧に押されて尻餅を突いてしまうと、それを見たフォレアスタークは再び笑い声を上げた、
「クカカカカ!フロスティーゼよ、今のは単なる師弟の戯れ合いじゃよ。そう怯えるで無いわい」
その言葉を聞いて、事実か確認する為にリーリアはリサに視線を送ると、先程のやり取りが無かったかの様に、リサは机に頬杖を突いて自分の世界に浸っていた。
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