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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサ 学校編2
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リサ、同級生と話す。


 スーテラが去った後、ケイルは授業があるからと、フォレアスタークに一礼してから何処かに行き、ビルとリサは授業は免除という事で自由行動となった。

 マグベアーの解体に関しては、フォレアスタークが抱える解体師に任せるという事で、リサは氷篭を霧散させてフォレアスタークに一任すると、その足で、少し早いが教室へ向かった。


 1年生の時と教室の場所が変わっており、2年生の教室の場所は2階にある。丁度、1年生の教室の真上だ。廊下に個人用のロッカーが並んでいる所は、1年生の教室と変わりない。1階と2階で違う所と言えば、教室の学年の違いの他に、2年生から使える魔法実験室という名の部室がある事だろう。

 リサはフォレアスタークの元で活動している為、魔法実験室で行う“魔法活動”と言われる部活動擬きには参加していないが、殆どの生徒が休息日に、各々の好きな魔法活動に参加している。

 大体は、新2年生に代々引き継がれた昔からある部活動であるが、稀に新しい部活動も出来るらしい。リサはフォレアスタークの元に行く事が無ければ、魔導戦闘部に加入しようと考えていた。聞けば、クリストフが前部長だったという事で、もし師匠がラズリーのままであったら、2年生の卒業時にクリストフと模擬戦を行えた可能性もあった。その機会を逃した事を、リサは割と気にしていた。


 リサはのんびりと、誰も居ない授業棟の廊下を端から端まで歩き回り、気が済んだら、自分のロッカーから黒板と白墨、魔法陣の図形を描いた羊皮紙の束を取り出し、2年生の教室の扉を開けて中へ入る。扉に鍵が掛かっていないのは、純粋にこの世界の防犯意識の低さが故だろう。

 教室の中には案の定誰も居ない。もしかして、誰か早めに教室に来て、こっそりと勉強をしているかも知れない。そう考えていたリサは、少しだけ肩を落として普段自分が使っている右奥の窓際の席に腰を下ろした。


 そして、魔法陣が描かれた羊皮紙をパラパラと捲り、眺めながら時間を潰す。

 入学してすぐ、1年生の最初の頃は羊皮紙を買う余裕は無かった。だが、今となっては魔物生成の研究で生まれた魔物の素材のお陰で、かなり懐に余裕がある。そう考えると、リサは少しだけ感慨に浸った。


 いつの間にか閉じていた羊皮紙の束を横目に、頬杖を突きながら外を眺めていると、教室の扉が開く音が聞こえ、リサは視線だけそちらに向けて誰が来たのか確認する。

 入ってきたのは男性の生徒。短く切り揃えられた茶髪に、同じ茶色の瞳。木製フレームの丸眼鏡は、真面目そうな彼の瞳を一回り小さく見せていた。


 リサは、1年間共に過ごした彼の名前を知らない。前提として、ビル以外の生徒の名前を覚えていない。が、茶髪の彼も例に漏れてはいなかった。

 なので、興味無さげに視線を逸らすと、再び窓の外を眺め始める。


 逆に、彼の方はリサの名前を知っていた。生真面目な性格故もあるが、女性の生徒……特に、中途半端に魔法の腕がある成金貴族の売れ残りから嫌われているので、目に入り易かったのかも知れない。

 魔力操作に秀でて、人気者の男性生徒と仲の良い、世間知らずの一匹狼。彼は、リサの事をそう評していた。


 話す事も無いし、機会も無い。だが、自分より早く来ていた彼女がどうしても気になってしまう。最初は自分の定位置に腰を下ろした彼だったが、好奇心に負けてしまい、気持ち悪がられるかも知れないと考えながらも、荷物を持って普段から不自然に空いている、教室右上の長机の一番左に荷物を置いた。そしてーー


「おはよう、僕より早く教室に来た人を見たのは入学してから初めてだよ。……隣、良いかな?」


 リサは、背中から浴びた言葉に振り向く事をせずに斜め上に氷鏡を創り出すと、氷鏡越しに後ろの人物を見て、笑みを浮かべながら手を振ると、


「問題無いよ。そこ、誰も座らないから」


 と言って、氷鏡を霧散させた。


 彼は、氷鏡が消えても尚、此方を振り向かないリサに対し苦笑いを浮かべ「ありがとう」と伝えると、椅子に腰を下ろした。


 生真面目であるが……いや、生真面目が故に、女性と会話する機会があまり無かった彼は、リサの隣に腰を下ろした事を早々に後悔しつつも、何を話せば良いかと必死に頭を働かせる。が、出てくる話題と言えば、授業の内容と魔法の話のみ。彼は、その時初めて、生真面目な自分の性格を呪った。

 その時、ふと彼は窓の外に目をやり、何も無い朝焼け空を見詰めると、自然と思い付いた質問を、そのまま呟いた。


「ーー空、好きなの?」


 リサは、それでも尚振り向く事はしない。そのまま空を見上げながら、彼の質問に答えた。


「好き……かな、多分好き。だけど、曇り空や雨は嫌いかな。逆に、星空は一番好き。月が無いのが少しだけ寂しいけど」


 聞き慣れない単語に、彼は首を傾げる。


「つき?……つき、とは何だい?」


「う〜ん……太陽を映し出す鏡かな?簡単に言うと、ただの大きな星」


 リサは、空から虚空に視線を移してそう答えると、再び視線を空に戻した。


「太陽を映し出す鏡……面白い発想だね。僕には到底思い付きそうも無いよ」


 彼は感心した様に笑いながら、目の前の少女が思い浮かべているであろう、つきという物を想像する。

 その時、リサは頬杖を外し、初めて彼に振り向くと、太腿の間に両手を挟みながらこう言った。


「私が考えた物じゃ無いよ。だから、私も貴方と同じ様に、思い付く事は出来ないかな」


 ニヒヒと笑いながら「同じだね」と肩を軽く上げるリサに、年相応のあどけなさを感じながらも、何故か照れる自分に更に照れて、赤くした鼻の頭を軽く触る。

 それを誤魔化す様に、彼は目を泳がせながら話を変える。


「そ、そうだ、空と言えば……ほら、君は物質生成で生物の具象化が得意だよね。1年生の自己紹介の時に見せてくれた蝶とか。今でもあの光景は覚えてるよ、炎と氷という正反対の属性の蝶が、教室内を羽ばたく姿を」


 その言葉に、リサは少しだけ驚いた後、苦笑いを浮かべた。


「覚えてたんだ。でも、あんまり驚いて無かったよね?私、みんなが微妙な反応しててショックだったもん」


「それは仕方ないよ……あんなに凄い物見せられたら、誰だって言葉を失うよ。特に、魔法を齧った人なら尚更ね」


「そうだったんだ。私、みんなあれ位普通に出来るんだと思ってた」


「あそこまで細かく、しかも鱗粉まで再現するのは今でも無理だよ。それに、複数の属性を同時に編む人も少ないからね。大体の人は、自分が得意な単体の属性と、その属性と複合出来る属性の魔法を、同時に編むのが精一杯だよ」

 

 リサは、太腿から右手を引き抜き、人差し指の先を唇に当てながら右上に視線を送り、何か考える様な仕草を取ると「確かに」と呟き、言葉を続ける。


「同時に別の属性の魔法を使ってる人を、ビル以外で見た事無いかも。ラズリーも土単体だったし、フォレアスおじさんは……魔法を使う所を殆ど見た事無いかも」


「でしょう?……ほら、2年生に上がる為の進級試験であった柔軟性試験。あれは、別の属性の魔法を同時に操る為の練習の前練習として、よく行われる手法なんだ。あれを一度も失敗せずに達成した生徒達は、全員2つの属性の魔法を同時に編む事が出来る生徒だったんだよ?知ってた?」


「ううん、初めて知った。私、他の生徒と関わる事無かったし。……あ、あの中に貴方も居たよね。……ごめんなさい、貴方貴方って。私はリサ、貴方の名前は?」


「僕はべフィー。残念だけど、家名は持ってないよ」


 その発言に、彼はしまったと目を見開く。この学校に来て、女性生徒に名乗った時に家名が無い事に勝手に落胆され、それが何度も続いた所為で、そう言うのが癖になってしまっていたのだ。

 相手が、自分の事を玉の輿の相手として見ていると決め付ける様な発言。彼にそのつもりは無くとも、実際にそう思われても仕方無い発言である。彼はその事にすぐに気が付き、謝罪しようとして焦って言葉を詰まらせる。

 だが、彼のその謎に慌てた姿を見て、リサは笑い声を漏らすと、右手を再び太腿の間に差し込み、首を左に傾けると、


「ンフフフ!よろしくべフィー!家名がない者同士、仲良くしてくれると嬉しいな!」


 屈託の無い笑顔を向けて、声を弾ませながらそう言った。


「よよ、よ、よろしーー」


 自分でも笑ってしまいそうな程盛大に舌を噛みながら、べフィーは言葉を伝えようと声を出したが、それを遮る様に教室の扉が開かれ、女性生徒が数人姿を現した。

 何と間の悪い。べフィーは心の中で落ち込むと、荷物を持ってリサに声を掛ける。


「ーーよろしくね。じゃあ、僕は自分の席に戻るよ」


 このまま彼女の隣に座り続ければ、またも謂れの無い噂を立てられてしまう。そう考え、本当はもう少し話したいと思う気持ちを抑えて、べフィーは普段自分の座る席へと戻って行った。


 リサはべフィーに「またね」と笑顔で手を振ると、教室から興味を無くして再び頬杖を突きながら、窓の外の空を眺め始めた。


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