リサ、ギルド職員と話す。
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ガルガラに着いたリサは、周囲の氷狼と遠見の魔法陣が描かれていない2羽の氷鳥を霧散させると、自分の上に積まれた核や魔結晶を拡張袋に雑に流し込み、氷の棺桶から起き上がってケイルに声を掛ける。
「ケイル、マグベアーの死体ってどうする感じ?学校に持って行くの?」
「お?起きたのか。そうだな……フォレアスターク様の研究室に運べば良いと思うぞ。あぁ、一応ギルドへ報告も必要だったな。遠回りになるが、一度ギルドにマグベアーの死体を見せた方が良いだろう」
ガルガラの北入り口から、シオン魔導学校は数分の距離であるが、ガルガラの冒険者ギルドは方角も違えば、北入り口から歩いて1時間近く掛かる距離もある。時間的にももうすぐ夜が明けるので、ギルドに着く頃には人通りも多くなるだろう。そんな中を、氷荷馬車で闊歩するつもりはリサは無いので、理由を付けて拒否する。
「フォレアスおじさんから、目立つ魔法を使うなって本当は言われてるの。だから、あんまり人に見られる前に学校に戻りたいかも。ギルドの人には来て貰えば良いでしょ?」
首を傾げ、低く唸る。が、すぐに頭を上げるとケイルはリサの言葉に同意して、何度も頷いた。
「そうだな、確かにそうだ。では、私がギルドの職員を代呼んでくるから、リサは先に学校に戻ってくれ。フォレアスターク様の研究室に面する外の空き地……本館を右からぐるっと回って、北側にある場所だ。そこに運べば、フォレアスターク様が研究室の壁を動かしてくださる。そこから研究室の中にマグベアーを運ぶと良い」
「へ〜、あの壁動くんだ。分かった、じゃあまた後でね」
リサはケイルに手を振って棺桶から出ると、氷荷馬車の隣を歩きながら学校へ向かい、そのまま本館の裏手に回って、指定された空き地にマグベアーを運んだ。
すると、既にフォレアスタークの研究室の壁が無くなっており、その中からビルとフォレアスタークがリサに声を掛けた。
「リサちゃんおかえり〜。ごめんね、迎えに行けなくて」
「済まんのぅ……此奴にも手を借りてたもんでな。ほれ、それを中へ入れとくれ」
リサは促され、氷荷馬車を研究室の中へ入れると、新たに大きな氷篭を創り出し、マグベアーの死体を荷台から其方に滑り移した。そして、氷馬諸共荷馬車を霧散させると、フォレアスタークに頼み事をする。
「別に良いけど、後でギルドの人が来るからね。それと、ギルドには依頼の後受けとして報告しても良いかな?活動実績と評価に加えたいし」
「儂は良いが、詳しい話はギルド側と話し合っとくれ。それにしてもーー」
フォレアスタークはマグベアーの死体に近付き、その死体を確認する様に周囲を歩き回りながら、左手で何度も、別角度からマグベアーの死体に触れる。
「ーー魔法陣越しに見ておったが、改めて実際に目の当たりにすると大きいのぅ……。肉体の損傷は無し……研究素材として完璧じゃ。恐らく胃や肺の中は石が詰まっておるじゃろうが、大した問題では無い。氷篭のお陰で腐敗も進んでおらん。リサよ、卒業後は儂の元で働かぬか?」
「家族と旅するから無理。後、今度から魔獣や魔物関連の仕事はギルドに指名依頼で出してよ。報酬は要らないけど、実績が貰えるとその分ギルドで依頼を受ける必要が無くなるからさ」
「授業の一環ではあるが……そうじゃな、今回の様にギルドが出した依頼の対象じゃと、学校とギルドの関係的にも、依頼として処理した方が得策かのぅ。報酬に関しては安心せい、今回のマグベアーの素材もしっかり買い取らせて貰うでの。今後も、買取報酬は2人に支払うつもりじゃ」
討伐や捕獲に関しての報酬は無いが、素材は相場で買い取りしっかりと払う事を約束してくれたフォレアスタークに対し、リサは礼を言う。
リサは、フォレアスタークに何度も素材を買い取ってもらっているので、そこに対しての心配はしていなかったが、改めて約束してくれた事に関してかなり好感が持てた。
「……あ、そう言えば、あの魔人の人はどうなったの?騎士に引き渡したの?」
忘れていた訳では無い。寧ろリサは彼の処遇を一番に聞きたかった位だ。
濃紫色の髪に、萌葱色の大きなベレー帽を深く被った温厚な顔付きの男。彼の手足を斬り飛ばして身動きを封じたのはリサであり、仕方が無かったとはいえ後悔していた。
死なせない為とは言え切断面を焼き焦がし、飛ばされた手足の回収もしていないので、彼は一生手足の無い生活を送らなければならない。だが、彼のこれから行おうとしていた行為は、手足があろうと無かろうと、処刑される事には変わり無い。それを知っていても、リサの気分は良い物では無かった。
「うむ。その前に儂らで話を聞き出したがのぅ。内容は教えぬぞ」
「それは別に……。あの魔道具は?」
「ビルが話していた通りの物じゃったわい。本当に……忌々しい物じゃよ。リサはあんな物を作ろうとなどと考えるで無いぞ?」
その言葉に、リサは肩を跳ねさせる。
「ご、ごめん……正直作れたら良いなって考えてた……」
魔物の素材も手に入り、訓練にも研究にも使えて、上手く使えば革命的な物であるし、実を言うとリサはそれに似た物を作れる。
「全員が、お主の様に平和的な考えをしている訳では無い。それにじゃ、あの魔道具が生み出す魔物は以前にリサが生み出した魔物と同じ、“肉体を持った魔物”じゃ。研究対象や素材としては是非とも発動させたい物ではあるが、周囲の被害が尋常では無いからのぅ」
リサが生み出した魔物と同種。それを聞いたリサは顔色を変えた。
咆哮だけで魔法で強化された部屋を半壊させ、周囲の人間を行動不能に追いやったあの化け物が、大量に、しかも際限無く溢れ出る。リサは先程の自分の馬鹿な考えを払い捨てた。
そんな事を話していると、研究室の外の空き地に、ケイルとギルド職員が姿を現し、中を覗くと話し掛けてきた。
「フォレアスターク様、失礼致します。ギルド職員の方をお連れいたしました」
ケイルは一度頭を下げると、隣に居る橙髪のボブヘアの女性を手差した。その女性はギルド職員の制服を纏っており、ケイルの紹介で一歩前に出ると、腰を深く折りフォレアスタークに自分の名前と、此処に来た理由を伝える。
「フォレアスターク様、ご無沙汰しております。冒険者ギルドガルガラ本部、ギルド職員のスーテラでございます。この度は、当ギルドが緊急依頼の討伐対象として取り扱っていたマグベアーの討伐を請け負ってくださったという話を聞き、その確認を……」
スーテラと名乗った女性は、顔を上げると周囲を一瞥し、部屋の中央に置かれたマグベアーの死体を見ると、一度言葉を区切った。
「……そちらが討伐対象のマグベアーですか?報告より随分と大きく見えますが……」
「マグベアーが2匹以上居る可能性も捨て切れぬが、儂の弟子達が確認し、討伐した物は此奴だけじゃ。気になるのであれば、探索依頼を出すんじゃな。言うておくが、学校の敷地の山を荒らすで無いぞ?」
「承知しております。して、本題に戻らせていただきますが、当ギルドが受けた報告の個体と別物の可能性もありますので、依頼達成金の支払いは確認が終わり次第になります。もし、討伐対象では無かった場合は報酬は払われませんので悪しからず」
「分かっておる。それよりじゃ、其奴を倒した実績とやらは加算されんかのぅ?儂の弟子が冒険者でな、其奴を倒したのも弟子の冒険者なのじゃよ」
フォレアスタークはマグベアーを顎で差しながらそう言うと、リサに視線を送った。
その視線に釣られてスーテラもリサに視線を移すと、納得した表情で頷いてリサに声を掛けた。
「確か……星2上位のリサさんでしたね。通りで、会議で名前が上がる訳です……と、今のは御内密に。フォレアスターク様の弟子であれば納得の評価です」
「あ、うん。それでさ、そのマグベアーって依頼関係無しに評価点に加えて貰えるの?無駄な討伐じゃ無いと思うけど……」
「個体の大きさ的には加算されると思いますが、ギルド管轄の狩場や、依頼の地域に現れた物だと確認が取れませんので、評価点に加える事は厳しいかと。どちらにしても、探索が終わり次第になります」
「そっかぁ……」
討伐した魔物や魔獣の扱いは、かなり面倒な制度になっている。
まず、ギルドが定めた“狩場”という物が存在している。リサが休息日に行く狩場というのも、ギルドが定めた場所だ。常設依頼は、その狩場に湧く魔獣や魔物の討伐の依頼であり、ギルドが直接依頼を出しているしている物である。
受付で直接依頼を受ける必要は無く、討伐証の持ち込みだけで評価点が加算される。それを悪用して、何もせずに評価点を稼ぐ者も居るが、それが発覚した場合はギルド側から何かしらの処罰が下るか、その前に死ぬ。
それ以外の通常依頼は、ギルド側が依頼対象と場所の把握、確認をして、指定日以内に受注した冒険者が依頼対象の処理。そして、依頼内容に合わせて、指定日にギルド職員が確認と処理を行う。といった、複雑な手順を踏む事になっている。
そして、今回のリサ達の様に、通常依頼をギルドから受注せずに依頼対象を狩猟してしまうと、依頼は保留となり、捜索依頼が出されて依頼対象の捜索が開始される。正直、ギルドや依頼を受けたから嫌われる行為である。
今回は緊急依頼であった為、何の処罰も下らないが、そう言った行為を繰り返すと、処罰が下る事もある。
そして、評価点が加算される仕組みも複雑であるのだが、簡単に言えば、常設依頼で評価点が加算されるのは星2下位まで。それ以降は通常依頼や指名依頼、緊急依頼でしか評価点は加算されない。そして、依頼として存在しない相手を狩猟したとしても、当然だが評価点に加算されない。だが、場合によっては未然に事故を防いだという事で加算される場合もある。
「其奴、あのままでは名称持ちとして扱う事になってたと思うがのぅ……」
「私が判断出来る物ではございませんので。では、私は一度ギルドへ報告に戻ります。改めて、他の者が敷地内の捜索に関して伺います」
スーテラはそう言って深く腰を折ると、踵を返してその場を後にした。




