リサ、追いかける。
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リサ達の姿を目視した乗合馬車の護衛の冒険者の1人、殿を務めている男冒険者が、抜剣しながら他の冒険者達に不審者の接近を伝える。そして、その男はリサ達に向かって声を荒げた。
「お前達、止まれ!」
リサとビルは足を止めると、2人共戦う意思は無い事を伝える為に両手を上げて、ビルが1歩前に出る。
「シオン魔導学校の者だ。攻撃するつもりは無い、武器を下ろしてくれ」
冒険者達は武器を下に向けるが、納剣はせずに警戒を緩めない。ビルはリサにその場で待機する様視線を送り、両手を下ろすと彼等の元へ近付く。その時、丁度リサ達に追い付いた氷鳥がリサの頭の上に止まり、置物と化した。
「俺はシオン魔導学校2年生、ビルだ。この付近でマグベアーの姿が確認されたので、巡回しつつ、目標の討伐を任されている」
それを聞いた冒険者達は互いに顔を見合うと、1人の男性冒険者が納剣して御者と小声で話を始め、その後にビルの元へ近付くと、他の冒険者に指示を出してからビルに声を掛けた。
「お前達は周囲の警戒を、俺は彼から話を聞く。ーービルと言ったか?俺はこの護衛依頼で、他の者達の指揮を執っている〈ジン〉だ。今の話は本当か?」
「本当だ。ガルガラとノトーの境目付近……今いる付近だな、先日マグベアーの姿を見たと報告を受けた。俺と……あの子が、フォレアスターク様から討伐の依頼されて、先も伝えた通り巡回を行っている所だ。悪いが、貴方達の人数と、冒険者ランクを確認したい」
ビルの言葉にジンと名乗った男は眉を顰め、声に少しだけ覇気を持たせながら言葉を返した。
「俺達が、お前とそこの子供より弱いとでも言いたいのか?悪いが、俺達はベテランで、俺達のパーティは護衛依頼を主に活動している“プロ”だ。お前達に心配される様な覚えは無い」
「プロ……そうか」
ビルはチラリと後ろを見てリサを確認する。すると、彼女の首元から軽く火花が飛び散っており、頭の上に乗った氷鳥が頭を低く構えながら乗合馬車を睨んでいた。
ビルは再び正面を向くと、今度は乗合馬車に視線を移す。
そこからは、リサやビルの様に魔力や魔素の流れに敏感な者や、鑑定眼や魔視を持った者で無いと気付けない様な、何とも言えない不快な魔力が流れ出ていた。決して人から出る様な物では無く、魔獣や魔物。それも、かなりの知能を有した存在が発している物である。
「ちょっと待ってくれ」
ビルはジンに一言だけそう伝えると、リサの元へ駆け寄り、小声で話をする。
(リサちゃん、警戒し過ぎだよ。ちょっと抑えて)
(ご、ごめん……何か勝手に……。あの馬車のアレって何なの?)
(多分だけど……魔人が居るんだと思う。かなり珍しいけど……。もしかしたら、ガルガラに治療法を探しに来たとかかもね。だけど、念の為に顔を確認しておきたいかな。魔人とは言っても、知恵の高い凶暴な魔獣と変わらないからね、でも……あの様子だと断られそうだなぁ)
その言葉に、リサは少しだけ頭を悩ませると、ビルに話し掛ける。
(…………分かった。ビル、あのリーダーっぽい人の名前は?)
(ジン)
(ジン……じゃあ、あの人にだけ聞こえる様にこう言ってーー)
リサの言葉にビルは目を見開きながらも、渋々同意して再びジンの元へ向かうと、手を招き、彼にだけ聞こえる様にこう言った。
「“お嬢様が、貴方にだけ内密にお話ししたい事があると”」
そのまま、後ろにいるリサを手差してジンを促す。
ジンはそのまま言葉を失った様に固まり、リサを見詰めるが、彼女が彼と同じ制服を着ていない事に気が付くと、他の冒険者達に声を掛けた。
「悪い、少し彼等と話をする。御者の方も済まないが、安全の為だ」
そう言うと、ビルを後ろに引き連れながらリサの元へ歩み寄る。
そして、ジンが自分の前に来ると、リサはビルに声を掛けた。
「ビル、申し訳ありませんが、他の冒険者様から、わたくし達の姿が見えぬ様に壁を作っていただけますか?」
「な……え、あ、はい」
ビルは動揺しながらも黄色の魔法陣を地面に描き出し、乗合馬車から姿が隠れる様に、自分達の横に石壁を創り出した。
「何を……!」
ジンは咄嗟に剣の柄に手を掛けるが、リサはそれに構わずビルに再び声を掛けた。
「ビル、貴方は周囲の警戒をお願いいたします」
ビルはリサの考えを察して壁の裏側へ移動すると、壁に背をもたれさせてリサの声耳を澄ます。
「冒険者ジン。わたくしのお声がけに答えてくださった事、感謝します。そして、この様にお仲間との間に壁を隔てた無礼、お許しください」
リサは言葉を言い終えると、目を伏せて軽く頭を下げて見せる。その動作に合わせる様に、頭上に乗った氷鳥は羽ばたくと石壁の上に移動した。
それを見て、ジンは口を何度か開閉させると、恐る恐るといった様子でリサに質問を投げ掛けた。
「あ……アンタ、は誰なんだ?」
「わたくしはリサと申します。命じられた調査の都合上、家名を名乗る事は禁じられておりますのでご容赦を。して、冒険者ジン。わたくしから貴方にお願いがあるのですが……勿論、報酬もご用意いたします」
そう言うと、リサは核が入った拡張袋に手を突っ込み、袋内で核から魔石を生成すると、その少し歪な形をした赤い魔石を取り出してジンに見せる。
「小さい物ではありますが、ガルガラにある魔道具店、ゼシール魔道具店にお持ちいただければ、高値で買い取って下さるでしょう。……わたくしのお願いの内容は、乗合馬車に居る方々の容姿の確認の許可です。使用にーーコホン、ビルに馬車の中を覗かせていただくだけで構いません。如何でしょうか?」
ジンは、見た事も無い赤い宝石を見つめながら生唾を飲み込み、リサの目に視線を移す。
「ゼシール魔道具店だったか?そこ以外では売れないのか?」
「売れはいたしますが、穏便に済ませたいのであれば、この宝石を取り扱っておられるゼシール魔道具店に顔を出された方がよろしいかと」
「……大体いくらだ?」
「最低でも金貨1枚は」
それを聞いたジンはその場に片膝を突き、顔を下げると両手を頭の上に掲げてこう言った。
「その願い、承りました。リサお嬢さん」
リサはそっとジンの手に左手を添え、右手に持った魔石を優しく置くと、微笑みながらジンに感謝の言葉を伝える。
「冒険者ジン。貴方のお心遣い、重ね重ね感謝いたします。ビル」
「なに……なんですか?」
リサは首飾りを外すとビルに手渡す。
「馬車内の確認の許可が取れました。後はお願いいたします」
ビルは頷くと、ジンが立ち上がりポケットに魔石を仕舞った事を確認してから石壁を霧散させた。上に乗っていた氷鳥は、足場が消えた事に驚いたのか、バランスを崩しながら羽ばたきリサの頭の上に乗る。
「行くぞ、ビル」
その場にリサを残しながら、ビルとジンは乗合馬車に戻って行く。
そして、ジンは御者の隣に行くと、その御者の男性に耳打ちをして、銀貨1枚を渡すと、他の冒険者に、
「もうすぐ出発する。その前に、魔導学校の生徒が少しだけ確認をする事があるそうだ」
と伝えた。
ビルは周りの冒険者達を一瞥した後、左手に持った首飾りを口元に掲げながら馬車の扉の取っ手に手を掛けて、「開けるぞ」と中の人達に伝えると、扉を引く。
リサは木々の隙間に隠した氷鏡を使って馬車の中を覗き見る。
乗合馬車に乗車している客は7名。男女の若い夫婦と、小さい子供。何の特徴も無い男性2人に、性別不明の老体1人。そして、問題の人が2人。
片方は頭に大きなベレー帽の様な物を被っており、もう片方は、額に角が付いたフルフェイスを装備している。
ビルはその2人を見て眉を細めると、取り敢えず目の前にいるフルフェイスの人物に声を掛けた。
「済まないが、フルフェイスの貴方。それを外してもらう事は可能か?」
そう声を掛けた時、何故か馬車の反対側の扉が突然開かれた。
外の冒険者達は一切動いていない。であれば、開けたのは乗客の誰か。そして、反対側の扉の横に座っているのは、性別の判らない老体と“ベレー帽被った男性”。
ビルは咄嗟に乗客に結界を張ったが、そのベレー帽の男は何もせずに馬車から飛び出すと、森の中へと逃げていった。
「ビル!」
「分かってる!追いかけるよ!」
彼が離れた瞬間に不気味な魔力も消えた事を確認したリサ達は、追いかける為に森の中へ足を踏み入れようとしたが、その時、近くに居た小型の魔物達が襲いかかって来たーーが、その数匹の魔物達は、核の付いた頭と胴体を分裂させて地面に落ちた。
「ジン!その核あげるから回収よろしく!」
ビルの言葉と言動にただただ立ち尽くすジンを横目に、リサ達はベレー帽の男性
ーー魔人の後を追いかけた。




