リサ、2年生になる。
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2年生に上がったからと言って、リサの学校内の身の回りには特段変化は訪れなかった。
授業内容も突然難易度が跳ね上がるわけでは無い。だが、それ以前にリサは算術と魔法陣生成の授業に追いつけていない。
授業が全く出来ないからといって、留年や退学になるわけでは無いが、単純に魔法の基礎を学んでいる訳なので、「苦手だからやらない」といった選択肢を取ると、後悔するのは自分である。だが、出来ない物は出来ないと、リサはその2つの授業を諦めていた。
変化したのは授業後の指導時間だ。師匠が変わって、授業後に向かう部屋が変わり、魔法の指導内容も実践的な物に変化していた。
リサとビルが居るのは本館1階の立ち入り禁止部屋。何も無く、ただ広いだけのその部屋は、フォレアスタークの研究室として使われていた部屋だった。
地面の床に、鉄の壁と天井。等間隔に壁に設置された魔道具の明かりは、ただの副産物に過ぎない。
その部屋全体には対物理・魔法結界が張られており、煤爆発程度では一切揺らぐことも無い。そして、万一結界を貫通して壁や天井に傷を付けられたとしても、修復の刻印で跡形も無く修復される様になっている。
流石は、シオン魔導学校最高責任者の研究室だ。リサはそう思いながら魔法を編み、放つ。
リサが今行っているのは、ビルが部屋内に描いた魔法陣の破壊。部屋の床や壁、天井の何処かに無差別に描かれた魔法陣に向かって氷弾を撃ち、発動前に割る訓練だ。
最初は1つを目に見える場所に描き出していたが、今は同時に5個の魔法陣が描き出されていて、リサの死角になる場所にも現れる。
だが、リサは氷鏡を幾つも浮かべて死角を極限まで減らしているので、目に見える範囲に魔法陣が5個無かった時は、死角に向かって魔法を放っていた。
それでも、自分が認知出来ていない死角に魔法陣が生成され、そこから放たれた水球がリサの頭を濡らす。
「あぶぁ!」
「はい、俺の勝ち〜!という事で、今日は魔道具生成を手伝ってもらおうかな?」
この様に、その日の指導内容は勝負に勝った方が決めている。そうは言っても、リサの願う指導内容は実戦か、今の様な訓練なので、リサ的には勝敗に拘っていない。が、負ける事自体は嫌なので勝ちに行っているが。
「はぁ……で、今日は何を作るの?」
「今日からは本格的に魔道具を作ろうと思ってね。だけど、錬成術は使えないから……簡略化する為にリサの作った魔石を使おうかと。魔法陣に魔石を乗っけるだけで起動するのは本当に便利だよね!」
「そうだね。だけど、それなら空の魔石に自分で魔力を注げば良いじゃん。あ、それって、錬成術じゃ無いと出来ないんだっけ?」
「そうだよ。だから、リサの協力がいるんだよ」
核と魔石の違い。それは、内包された物が“魔素”か“魔力”かの違いである。
核は、周囲に魔素があれば自動で吸い上げて内包量を補填してくれるが、魔石の場合、周囲に魔力や魔素があっても勝手に吸収する事は無く、錬成術を使って魔力を注がないと魔力を補填出来ない。
性質は違うが、核も魔石も、ついでに魔結晶も、元となる素材自体は同じ物で出来ており、魔素と元素が絡み合って結晶化した物である。
リサは、それ等を溶かして核や魔石に作り直す事が可能なのだ。だが、核の場合は溶かした物自体に魔素が含まれていないと生成出来ないが。
リサは、魔力が空になって置かれている、自分の作った魔石を手に取る。魔力が入っていない為、その魔石は外側だけに赤色を残して、中心部は透明で色はない。
それを強く握り、表面だけ軽く溶かして形を歪めると、そこに魔力を注ぎ込んでいく。たったそれだけで、魔力が入っていなかった魔石は紫色を帯びて淡く輝き始めた。
「はいコレ。で、何を作るの?」
「錬成術の刻印を魔法陣で代用出来ないかなって。で、今日作るのは物質生成の魔法陣を組み込んだ石の像。リサちゃんは俺が試行錯誤している間は自由にしてて良いよ。だけど、魔石の魔力が尽きたら補填だけお願いね」
「分かった」
リサがそう答えると、ビルは地面に直に腰をおろして、指で地面に魔法陣を描き、そこからデフォルメされた人型の石を作り出すと、作業を開始した。
ついでという事で、同じ大きさの空の魔石の幾つかに魔力を注いでおくと、リサはそこから少し離れた場所に氷の丸机と椅子を創って腰を下ろす。そして、氷狼を2匹創り出し、自律的に動くソレを観察する。
(なんで、あの氷の狼達は勝手に動くんだろう。一応自分の意思でも動かせるけど……何にも命令しないと遊び出すって、意味が分かんない)
地面に氷の膜を張りながら、戯れあって1つの塊の様になっている氷狼達を見詰めてそう考えていると、鉄の扉が開かれてフォレアスタークが研究室に入ってきた。
氷狼達は入ってきたフォレアスタークに駆け寄ると、周囲を回り出し、何周か回るとリサの元へ走り寄って足や腕に顔を埋める。
「本物の犬みたいじゃのう」
フォレアスタークは笑い、足元の氷を溶かしながらリサの前に来ると、雑な石の腰掛けを創り出して腰を下ろした。
「だよね。本当にどうやって動いてるんだろう」
頭を撫でられて満足した様子で氷狼達はリサから離れる。
再び戯れ合う氷狼達を見ながら、リサは丸机に右手で頬杖を突いてそう呟いた。
「リサが自分で動かしておる訳では無いのか?」
「うん。自分の意思でも動かせるけど、何もしてないとああやって勝手に動いてるの。何でか分かる?」
「考えられる原因は幾つかあるのう……。じゃが、どんな原因にしろ、リサの無意識であの行動を取っておる事には変わらん。そうじゃな……自律型ゴーレムと考えておけば良いのでは無いか?事実、ソレと大差無いからのう」
「ゴーレムねぇ……あ、ねぇビル!」
立ち上がり、ビルの元へ駆け寄ると、目の前で腰を下ろす。
「それ、ゴーレムで作れば良いじゃん!ビルって魔法のゴーレム作れるでしょ!?」
「気付いちゃった?今作ってるのは、自律型ゴーレムの強化魔法陣なんだよ。自分の知らない所で破損しても、自分で修復して動ける様にさせる為にね」
「なんだ〜……閃いたと思ったのに〜」
リサが落ち込んだ姿を見せると、氷狼がリサの元に集まり顔を押し当て始める。
「あ、そうだ。私が作ったこの狼達に魔石を埋め込んだらどうなるかな?」
魔石を1つ掴み、リサは片方の狼の胸に魔石を握った手を突っ込むと、胸の中央に魔石を埋め込んで拳を引き抜く。
「…………特に何にも起こらないね」
「その魔石はリサの魔力が込められてる訳だし、その魔石の中の魔力を自分で操作したら?そしたら、その狼から魔法が放てるかもよ」
「それ、意味あるのかな……ねぇ、フォレアスおじさん、離れた場所の景色を見る魔法とか無いの?」
リサは屈んだ状態で何度か飛び跳ねながら後ろを向き、フォレアスタークに魔法の有無を尋ねる。
「あるぞ。じゃが、元素魔法では無く次元魔法の一種じゃからな……魔法陣無しでやるには厳しいぞ?」
「そうなんだ。それで、どんな魔法?」
フォレアスタークは無色の小さな魔法陣を2つ描き出すと、片方を部屋の天井に、もう片方をリサの前に移動させた。
目の前の魔法陣を見つめると、魔法陣の円の中央に、まるで投影機の様に半透明の映像が映し出されており、その景色は、もう一つの魔法陣がある天井から、リサ達のいる研究室を見下ろした物になっている。
「おぉ〜!凄いね!どうなってるのこれ!」
魔法陣の映像に指を突っ込むが、映像に乱れは無い。指も映像を貫通していて、異常なく動かせる。
「空間に干渉して、そこの視点を切り取っておるだけじゃよ。逆に、天井にある魔法陣から部屋を見下ろしても、何も見えんぞ」
原理を説明されても全く理解出来ない。が、前の世界にあったテレビやカメラと全くの別物だという事だけは理解出来た。
「う〜ん……まず、次元魔法を知らないから、そこから勉強しないとかな。今日はやる事ないし、次元魔法について教えて!」
その後、大まかに次元魔法の説明を受けたリサは、その日1日魔力操作の鍛錬を行なった。




