リサ、一悶着する。
いいねと評価ありがとうございます
シオン魔導学校に入学してから早1年。リサは無事、2年生に進級する事が出来た。だが、2年生に進級する前、進級試験が終わり、進級に向けて皆が動いている時、リサの周りでは色々な問題が起こった。
その中でも一番揉めたのは、フォレアスタークがラズリーに師匠の変更を伝えた時だろうーー
「流石のフォレアスターク様でも、その変更は納得出来ませんよ〜!どうして、私をリサさんの師匠から外すんですか〜!」
そこは、本館3階にあるフォレアスタークの自室。リサ、ビル、ケイル、ラズリーの4人は、フォレアスタークに進級時の師匠変更について話があると言われ、その場に呼ばれていた。
そして、入室直後にラズリーが放ったのが先程の言葉だ。
「私は構わないのですが……理由を聞いておきたいです。今後の為にも、ラズリー先生の為にも」
フォレアスタークの前に立ち一礼すると、ラズリーを擁護する様にケイルはそう言った。
「理由は簡単じゃ。童も小娘も分かっておろうが、ビルとリサはお主ら凡夫に任せておくには、ちと癖が強すぎるんじゃよ。それと、お主らが此奴等を育てると、此奴等の才能を潰しかねんしのう。特に小娘、お主は確か貴族のボンボンの世話係じゃろう?本来の仕事に戻る事の何が不満じゃ?」
「貴族のボンボン……?ラズリー、どういう意味?」
リサの問いにラズリーは答えない。そちらを向く事もせず、未だにフォレアスタークを睨み続ける。
代わりに、リサの問いにフォレアスタークが答えた。
「その小娘は、凡人より多少の魔力と金だけを持った、勘違い貴族を相手する為に教員をしておるんじゃ。“元貴族”じゃから、貴族相手の扱いには慣れておるからのう」
「フォ、フォレアスターク様!それは秘匿情報ですよ!幾らお気に入りの生徒だとしても、ラズリー先生の事を内情を少しは考えてください!」
慌ててケイルがフォレアスタークの話を遮るも、反応に遅れてしまった為、言葉を発したのはフォレアスタークが話し終えた後だった。
だが、リサはその話を聞いても特段驚きはしなかった。寧ろ、普段のラズリーの立ち居振る舞いに対して納得がいった。
「元じゃ無くて今も貴族なのかと思ってた」
リサの溢した言葉に、ラズリーはローブを両手で握りしめる。
その姿を見ながらも、然程興味なさげに視線を逸らして、フォレアスタークは淡々と話を続けた。
「まぁ、その話はどうでも良いか。でよ、お主らが儂より、此奴等に魔術を教え込めるのであれば話は別じゃが、そうでは無かろう?じゃから、儂が自ら教鞭を執り、お主等は本来の役目に戻る。教師総轄と、貴族の子守りという、大事な仕事にのう」
空気が重い。誰1人としてフォレアスタークの言葉に返事をしない。ケイルでさえ、下を向いて黙り込んでしまっている。だが、リサとビルだけは普段と変わり無く、暗い空気の中でも自分の世界に浸って表情をコロコロと変えていた。
リサ自身、ラズリーの事は嫌いでは無いし、好きな方である。かと言って、魔法を教わりに学校に入学した以上、自分の為になる相手に教えを乞う事を優先したい。なので、ラズリーの擁護をするつもりは一切無い。約1年、魔法を教えてくれた事には感謝しているし、恩義も感じているが、金を払った見返りを貰ったまでの事。別に、リサが冷酷なわけでは無い。教師も教師で、金を貰った見返りとして教鞭を執っているに過ぎないのだ。しかも、生徒にとって先生は数少ない“個”であるが、教師からしてみれば、生徒は有象無象の“群”。
詰まる所、互いに有益な間柄で無ければ、そこで関係は終わるのだ。そして、リサとラズリーの均衡な関係が崩れた今、リサがラズリーから離れるのは至極当たり前の事。リサはそう考えていた。
「……私は、リサさんを弟子として、ちゃんと育てるつもりで居たんです。最初こそ、お金持ちのお嬢様だと思っていましたが、今は1人の弟子として、リサさんを見ています。それなのに、突然の師匠変更は……納得出来ません」
「お主が納得する必要は無い。じゃが……今後を考えて、蟠りは無くすべきじゃろうな。お主は何をすれば納得する?儂と戦い、お主に勝てば納得してくれるか?」
フォレアスタークにそう言われて、再びラズリーは口を閉ざしてしまった。そして、助けを求める様にリサを見詰める。
リサは容認も拒絶もしない。首をどちらにも振らず、ラズリーを見返して、ただ、自分の考えを口にした。
「別に、ラズリーが師匠のままでも問題無いけどね。空いた時間にフォレアスおじさんの方に行けば良いだけだし。だけど……そうだなぁ、一回だけ、ラズリーとお互い本気で模擬戦をしてみたいかな。そしたら、ラズリーも私の師匠がどっちが良いか分かるでしょ?」
「模擬戦で本気を出せば、それはもう死合じゃよ。許可は出せん。それに先日模擬戦を行って小娘が負けたと、“姉”の方から聞いておるが?」
「姉?」
「フォレアスターク様」
ケイルは話を中断させると、ラズリーに向き直って語り掛ける。
「ラズリー先生。弟子を思うのであれば、より良い師を就かせるべきでしょう。弟子を執る気になったのであれば、来年度の生徒がいるでは無いですか。それと……キツイ言葉になりますが、貴女の我儘でリサの才能の伸び代を断つのは、教員管轄として見過ごせません」
「……分かり、ました」
ラズリーはそれだけ言うと、一歩後ろに下がる。
「ビルとリサよ、お主等は変更に異議はあるか?」
リサは後ろに下がったラズリーの方は向かず、そのまま前を向いて答えた。
「私は自分が求める魔法を教えてもらえて、実戦が出来るならそれで。だけど、それが出来ないなら今まで通りラズリーが良い」
「言っちゃ悪いけど、俺は元々フォレアスさんに会いに来たから、その方が都合が良いかな」
「……決まりじゃ。生徒がそう言っておるのだ、小娘も諦めよ」
そうして、師匠変更の話し合いは終わった。そして1年生の残りの2ヶ月間、授業後はラズリーと模擬戦をしては、クリームに怒られるを繰り返していたーー。
もう一つ、2年生の卒業式が終わった後に起きた出来事がある。
訓練場が使えないので、ラズリーの自室でリサ達はお茶を飲みながら雑談をしていると突然、部屋の扉が叩かれた。
「失礼。クリストフですが、リサと呼ばれる少女は此方においでですか?」
声の主はクリストフと名乗った。その名を聞き、悪い評判を聞いていたリサは少しだけ顔を顰めるが、ラズリーは誰か分からない様子で書斎机から扉に向かって返事を返した。
「すみませんが、知らない方に伝える事はありませんよ〜。御用があれば、クリーム先生かケイル先生と同伴でお願いします〜」
「え?いや、2年生のクリストフですよ。つい先程卒業したので、もう学生ではありませんが」
ラズリーはリサの顔を見て、相手があまり良い生徒では無いと考えると、扉に向かって再度声を掛けた。
「であれば、私がリサさんにお伝えしますので、要件をお願いします〜」
「それはありがたい。要件というのは、私の行っている“魔法活動”をリサに引き継いでもらいたくーー」
「ーーその件でしたら、フォレアスターク様に相談してくださ〜い。リサさんの師匠はフォレアスターク様なので〜」
それ以降、扉の裏から返事が返ってくる事は無かった。




