リサ、進級試験を受ける。
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進級試験当日。リサは事前にフォレアスタークからの呼び出しを受けており、試験開始時刻より1時間程早めに自室を出て、本館1階にある、関係者以外立ち入り禁止の看板が掲げられた、とある研究室に赴いた。
重苦しい鉄の扉の前に着いたリサは、槌矛型の杖を左手に持ちながら、扉を叩き名を名乗った。
「リサだよ〜。フォレアスタークいる〜?」
「鍵は空いておるぞ」
中から聞こえた言葉を、入室の許可と受け取ったリサは、取っ手に手を掛けて、全体重を掛けながら重い扉を引き開ける。
「くぅおっも……!って、ビルもいるんだ。何で?」
重い扉に挟まれない様慎重に閉めると、部屋の中にいるビルを見て声を上げた。
「其奴には魔法陣の設計を頼んでおってな。最終確認として呼んでおるのじゃよ」
「リサちゃんも、俺が魔法陣を描くのが得意なのは知ってるでしょ?」
「そうなんだ。で、私を呼んだ理由も最終確認って事で良い?」
「確認より調整じゃな。ほれ、魔力を注いどくれ」
「ストップ言ってね〜」
「…………ストップじゃ。では、最後に確認をしておくかのう」
最終確認を終えたリサとビルはその後、進級試験を行う場である、一番大きい訓練場に足を運んだのだった。
ーーーーーーーーーー
訓練場にリサ達が向かった頃には、他の全ての生徒は既に集まっており、時間的にも頃合いだった様で、ケイルがビルの姿を確認すると、皆の前に立ち声を上げて注目を集めた。
「生徒諸君!此方を向く様に!今から、進級試験を行う!知っている者も居るだろうが、試験内容は3つ。攻撃力試験と、柔軟性試験。最後に、此方が用意した魔物との戦闘試験だ!各試験、教師陣が定めた最低ラインが存在するが、それを生徒達に伝える事は無い。下回った場合は追試。追試後、それでも下回った試験が2つ以上ある場合は留年だ!学費もその分払う事になるから気を付けろよ?勿論、留年した挙句に学費が払えなかった場合は退学だ」
その言葉を聞いて動揺の声を上げる者は誰1人として居ない。皆、自分が落ちる筈無いと、自信を持っている面持ちだ。だが、彼らの顔を見た教師陣の反応はあまり良く無かった。理由は言うまでも無いが……。
だが、教師達も教え子が留年するとは考えていない様で、取り敢えず、ヘマだけはしないでくれという様に、下を俯いていた。
「まず最初は攻撃力試験だ!皆、訓練場の端に寄れ!呼ばれた者から前に出て、クリーム先生が創り出した氷壁を壊して貰う!」
生徒達は指示通りに訓練場の端に集まった。すると、何故か少し離れた場所に2年生の生徒の姿があり、中には、リサが先日模擬戦を観戦した金髪の男性生徒の姿も見えた。
「なんで2年生が?……あ、お〜い!」
リサはその男性生徒に手を振ると、彼もリサに対して片手を上げて挨拶をした。
「知り合い?」
「そう言う訳じゃ無いけど、ちょっと前にあの人の模擬戦を見せてもらったの」
首を傾げたビルにそう答える。その時、1年生の一部の女子生徒達が小声でザワつき始めた。
(何であの子がクリストフ様と知り合いなの?)
(さぁ?色目でも使ったんじゃ無い?)
(ビル君の次はクリストフ様?とんだ節操無しね)
所々でしかないが、周りの女子生徒の会話が聞こえてきたリサは、ビルにこう言った。
「あの人はクリストフって名前なんだ。色目を使う節操無しって、あんまり良い評判じゃないね。何となく言ってる事は分かるけど」
「そ、そうだね。……うん」
「ん?どうしたの?変な顔して」
「ンクク……!いや、何でもないよ」
ビルは笑いを噛み殺しながら、リサに震えた声で返事をする。
「プリシー!前へ!」
その時、ケイルが生徒の名前を大声で呼び、呼ばれた女性生徒は訓練場の前に出た。
それを合図に、クリームは訓練場に氷壁を創り出した。女性生徒との距離は大体20m程。間合いとしては少し近いが、近接相手に魔法を使えるか使えないか、微妙な距離感といった所だ。
「最初に言っておくが、魔法は5発までだ!属性は自由!やれ!」
プリシーの持っている杖の宝石は赤。定石通りなら火属性だが、リサは自分の杖の紅宝玉の存在もあるので、必ずしも、色に合った属性では無いと考えている。
だが、彼女の放った魔法の属性は案の定、火属性魔法だ。彼女の放った魔法〈火球〉は、氷壁の表面に当たると、表面を軽く溶かしながら凹ませたが、その程度。そのまま続けてもう一度火球を放ち、同じ場所に命中させると、更に氷壁を凹ませる。残り3発。2発、1発。次々と撃ち込まれていった火球は、先程当てた場所とは少しズレており、どれも表面を軽く溶かす程度で終わってしまった。
そして、最後の1発。彼女は〈炎槍〉を唱えると、氷壁の中央、一番窪んだ場所に向けて炎槍を発射し、見事命中させる。が、厚さ1m近くある氷壁の3分の1も抉る事が出来ず、終わってしまった。
合否は分からない。が、彼女の担当である教師の反応を見るに、恐らくは合格なのであろう。女性生徒が、自分の担当の教師に頷いてるのを見て、その可能性は深まった。
次に呼ばれた女性生徒も、赤色の宝石が嵌め込まれた杖を持っていた。リサはそれを見て、周囲にいる女性生徒の持つ杖を確認すると、驚いた事に、殆どの生徒が赤い宝石の杖を持っており、残りの数人は黄色ーー土属性の杖を持っている事に気が付いた。
「試験の為に態々買ったのかな?それか、全属性の杖を持ってるとか?」
「多分後者だろうね。安物の属性杖を揃えて買ってるんだと思うよ。自分用に高いのを1本買えば、それで良いのに」
そう話しながら、次々と呼ばれていく生徒達を、リサとビルは暇そうに眺める。
氷壁は1度も壊される事なく、一番傷付けられた者でも、一点に攻撃を集中してやっと半分を超えるか超えないか位の所で終わっている。
そんなにあの氷壁は硬いのかと、リサとビルは首を傾げながら、最後の2人になり、どちらが先に呼ばれるのかと話し合っていたら、ケイルが生徒達の前に立ち、
「攻撃力試験は終了!次は柔軟性試験を行う!」
第一試験の終了を知らせた。
「ちょ!ケイルさん!?俺達まだ呼ばれてないけど!?」
ビルは慌ててケイルに走り寄り、リサと自分を指差しながらそう訴えるが、
「お前達はやる必要無いだろう。やりたいなら、試験が終わった後にやらせてやる。と言うか、今やられたら訓練場が使えなくなるだろ」
「ぐ……!」
ビルは図星を突かれると、そのまま反論する事なくリサの元へ戻る。だが、それに対して他の生徒が反論の言葉を上げた。
「ケイルさん!ビル君は分かるけど、そっちの子が試験しない理由は納得出来ない!」
「そうです!幾らお金を積まれたかは知りませんが、私達もお金を払っているんですよ!?」
「そうだよケイル!私だってクリームの氷壁に攻撃したい!」
その言葉、特に最後の言葉を聞いて眉を下げるケイルは、一度騒ぐ生徒に鎮まる様に伝えると、
「分かった分かった……最後にやらせてやるから、少しだけ待っててくれないか?他の生徒の試験もあるから。な?」
完全にリサに対してだけの言葉であるが、皆に対してそう伝えると、顔を切り替えて次の試験に話を変えた。
「次の試験は6人同時で行う。順に呼ぶので並ぶ様にーー」
そうして呼ばれた生徒達は、数名が不満そうな表情を浮かべながらも、第二試験を始めた。
第二試験の内容は、クリームが伝えた属性の球を生成し、前方に発射するといった物だった。簡単に聞こえるかも知れないが、1秒毎に決められた属性の球を作り出し、発射する行為は、例えるならフラッシュ暗算に近い。例えそれが、単純な2桁同士の足し算であっても、一度崩れてしまうと立て直すのは困難。試験というプレッシャーも合わさり、60秒間続く試験の後半の方では、全ての生徒が躓き乱れてしまう。
そして、第二試験もリサとビルの名前は呼ばれず、第三試験に移るのかと思いきや……
「最後、リサとビル。お前達もやれ」
何故か2人だけ別枠で呼ばれ、第二試験を行う事になった。
「まぁ……暇だったし」
「だね。でも、これに関しては本当に、俺達がやる意味って無いよね。なんか勝負する?」
「じゃあ、飛ばした魔法に、次に飛ばした魔法をぶつけて相殺させるのはどう?で、外した回数の多い方が負けで」
そう言い合いながら2人はクリームの元へ向かう。
「良いね。ケイルさん、そういう事だから、リサが外した回数数えといて」
「ケイル、私は外さないから、ビルのを数えといて!」
「分かった。ケイルの外した回数を数えるんだな」
「おい!一応アンタの弟子だぞ俺は!」
ビルの叫びを無視して、ケイルが開始の合図を伝えると、クリームは淡々と様々な属性を口にする。
「水、風、土、岩、水、火、氷、氷ーー」
リサは言葉通りに属性の球を発射して、早々にある事に気がつく。
「あ……発射した球も動かせるんだから、球当ての意味無いや」
「気づいちゃったか〜!俺は魔法陣で軌道を完全固定化出来るから、気付かなければ勝てると思ってたのに!」
「うわぁ〜!ひっど〜い!……そうだ」
リサは氷剣を創り出すと、ビルが飛ばした水球を斬り裂き、先に飛ばしていた石球に当てるのを妨害した。
「ケイル!今の見た!?ビルのカウント1ね!」
「ああ見たぞ。ビルにカウント1だな」
「ちょ!妨害は無しでしょ!」
そう話し合っている最中も、次々とビルの撃ち出す球を氷剣で斬っていき、ビルの失点を増やしていく。
ビルも試験の魔法陣とは別に複数の翠の魔法陣を描き出し、リサの発射する球に目視不可の風の刃を叩き込み、リサの妨害をする。
そして、2人は妨害し合いながらも、一度も失敗をする事無く、第二試験を終えた。
そして、勝負の結果は、ビルが32回外し、リサは数える人が居なかったので0回という結果で終わった。
「くそ……!リサ贔屓が!幾ら金を積まれたんだ!」
「寧ろ貢ぎたい位だ。……冗談は置いておいて、次は第三試験、魔物討伐だ!」
フォレアスタークが訓練場に用意されたのは、椅子の座面程ある大きさの石板と、魔物の核。
石板には複雑な魔法陣が刻まれており、中央には核を置く為の窪みが彫られている。そして、フォレアスタークが持っている魔物の核は、普通の物とは違い赤みを帯びていた。
「皆も知っての通り、こちらの方はシオン魔導学校における最高責任者で有らせられる、フォレアスターク・リードリック様だ!今回はフォレアスターク様が魔物をご用意してくださる!皆感謝する様に!」
その言葉を聞いた生徒達、リサとビルの2人を除いて、全員が頭を下げて感謝の言葉を述べた。
「フォレアスおじさんの成果になっちゃってるね」
「流石に、俺達が作りました。とは言えないでしょ。試験なんだし」
あの石板と魔石は、フォレアスタークの協力の元、リサとビルで作り上げた〈魔物生成魔法板〉である。リサが魔力を込めて作った核を媒体にして、石板に刻まれた魔法陣で魔物を生み出し、核を持った魔物を生み出す“魔道具”だ。
簡単に言えば、リサの魔力を使ってビルが描いた魔法陣を起動し、魔物生成を行っている。
通常の核ーー魔素が詰まった物の場合、核自体に刻印を刻んで魔素を一定の方向に放出し、魔道具の“ガワ”になる部分に刻まれた魔法陣に流し込んで魔法を発動させる。
だが、リサが創り出した核は、魔素では無く魔力が込められており、変な支持性を持った魔素が含まれていない為、刻印を刻む必要が無い。
そして、石板の上に核を置いて、軽く魔力を流して誘導するだけで、魔法が発動する仕組みになっている。
生み出される魔物は人型。体格は小さめで、リサより一回り小さい。その分動きは俊敏だが、攻撃性能は低い。急所を殴られれば激痛に悶える事になるが、その程度だ。
「では、順に名前を呼ぶ!ドローラ!お前からだ!」
女性生徒が呼ばれ、前に出たのを合図に、フォレアスタークは核を石板の上に置いて魔力を流した。
そして、ゆっくりと核が魔力を吐き出し、魔法陣に描かれた指示によって身体を創り出していく。
合図は無かった。体が出来上がった瞬間、魔物は女性生徒に駆け寄り、その勢いのまま飛び付く。それを見て、女性生徒は杖を構えようとするがその瞬間、フォレアスタークが予め核に仕込んでいた魔法陣を発動させて、核を魔物の体外へ弾き出した。
「そこまでじゃ。お主は第三試験失敗。先に言うておくが、第三試験の追試は無いぞ」
その話に聞く耳を持たずに、腰を抜かしてその場にへたり込んだ女子生徒を、担当の教員が肩を貸して連れて行った。
そして、次に呼ばれた男性生徒は、先程の女生徒の試験内容を見て、予め魔法陣を生成してから試験に挑んだが、魔物の片腕を飛ばすだけに終わった。
次も、その次も、何度か試験の失敗が続き、漸く1人の男性生徒が、魔物の核を体外へ吹き飛ばす事に成功した。
その後は、複数の生徒が魔物の足を魔法で飛ばして、核を体外へ吹き飛ばした。が、結局第三試験を合格したのはたったの4名。それには教師陣も疎か2年生達も呆れていた。
「一応リサとビルの分もあるらしいが、やってみるか?」
「いや〜……私は良いかな」
「俺も。さっきーーじゃ無くて、魔物討伐は別に」
それを聞いた生徒達の中に、先程の様に反論を述べる者は居なかった。
「では、これにて全試験終了!そして、この場で合否を発表する!」
その言葉を聞いて、1年生は自然と背筋を正した。
「第三試験は殆どが失格だった。そして、再試験も行うことは出来ないーーが、それも今となっては関係ない!皆、進級試験合格だ!」
それと同時に、周囲から拍手が湧き起こった。
1年生の生徒達は、歓声を上げる者は少なかった物の、皆安心した様な、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「一応、2年生になるまで授業はまだあるから、気を抜いてヘマをするなよ!」
「やったねビル。まぁ、私達はフォレアスおじさんに進級を確約されてた訳だけど」
「それでも、無事進級できたのは嬉しいな。ここは素直に喜んでおこう」
2人で話をしていると、そこにケイルとラズリー、そしてクリームの3人が近づいて来た。
「リサ、第一試験の攻撃力試験受けてみるか?」
「あ、やりたい!クリーム、お願いできる?」
「承知しました。ではリサさん、氷壁を作りますね」
そう言うと、訓練場に氷壁……では無く、氷塊を創り出した。
横幅と高さは約2mづつ。だが、問題はその奥行き。目測ではあるが、10m近くはある。
「強度は試験の物と同等です。どうぞ」
「リサさん、思いっきり壊してくださいね〜。クリーム先生が作ったんですから〜」
「ええと……うん。ラズリーも程々にね」
リサはラズリーの後ろで優しく微笑むクリームから目を逸らすと、氷塊に向き合い、杖を前に掲げて首元から火花を散らせる。
「〈水生成〉」
杖先が赤く輝き、杖先の中に水球を創り出すと、光線の様に圧縮して水を放つ。
その水の光線は、簡単に氷塊を貫くと、その先にあった花壇の植木をへし折り、花壇に植えられていた花を下敷きにした。
瞬間、リサ達4人は顔を真っ青に染め、ぎこちない動きでクリームの方を向く。
クリームはいつもと同じ様に優しい笑みを浮かべているが、目が笑っていない。黒く、暗く、深い闇の様その瞳は、ただ一点、ラズリーだけを見つめて、歌声の様な心地良い声色でこう言った。
「ラズリー先生。お話があるので此方に」
こうして、リサは無事?に進級試験を終えて、2年生を迎える事になった。




