リサ、杖を貰う。
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魔竜出現事件から約1ヶ月後。休校期間もそろそろ終わりを迎えようとしていた。途中、授業棟が“謎の”爆破で立ち入り禁止になる事件も起きたが、詳細は誰も分からず、偶然その場に居合わせた生徒曰く「悪魔が学校に襲来した」との事だが、真偽は不明だ。
そんな中リサは、師匠であるラズリーに「今日の午後、私の研究室に来てください〜」と言われた事を思い出し、ガルガラ近くの狩場から早々に引き揚げると、胸当てに脛当て、そして腰には愛剣をぶら下げたまま、集めた核と魔結晶片手に研究室へ赴いた。
「ラズリー、リサだよ〜」
扉を2度叩き、名を名乗る。
扉を叩く回数も、自分の名乗り方も、殆ど固定化されてしまった呼び掛けに、扉の奥から返ってきた返事は、聞き慣れない男性の気怠そうな声だった。
「入れ」
リサは首を傾げながらも、何故か上から目線の返事に答える様に、扉を開けて部屋の中へ入る。
すると、リサの特等席である丸机には男性の姿があり、側面を刈り上げた青髪に背中から見ても細さを感じさせる後ろ姿を見て、リサは彼の名前を呼ぶ。
「あ、スードラーだ。……スードラーで合ってたよね?」
名前を呼ばれた男性ーースードラーはゆっくりと振り返りながら、隈の浮かんだ眠た気な視線をリサに送ると、椅子の背もたれに左腕を乗せる。
「合っているぞリサ。……なんだその格好は?」
「さっきまで街の横の狩場に行ってたからさ。実験に核が必要で」
そう言いながら丸机へ歩み寄り、スードラーの断り無く氷椅子を創り出し正面に腰を下ろして、核と魔結晶が乱雑に詰められた麻袋を丸机の上に置く。
その時、丸机に置かれていた長細い木箱が目に入り「何それ?」と尋ねながら、ポケットからティーバッグを取り出す。
「お前の杖だ」
「杖……?あぁ!忘れてた!」
リサは目を見開きながら大きな声を上げると、ティーバッグを右ポケットの中に戻し、丸机に置かれた木箱を見詰める。
「忘れてたってお前……はぁ」
「ねね、開けていい?」
立ち上がり、丸机に両手を置きながら木箱を見下ろす。
「……早く開けろ」
呆れた様に溜息を吐くスードラーは、自分の話を聞かずに目を輝かせるリサを見て、手を払って促す。
「私も見たいです〜」
そこに、書斎机の椅子に腰を下ろしていたラズリーが立ち上がり、鑑定眼を発動させながら小走りで近づいてきた。
それを横目に、リサは木箱に巻かれた紐を解き、蓋に手を掛けるとそのまま持ち上げた。
「お?おぉ〜。……杖?や、やった〜?」
「指揮棒型では無く、槌矛型ですか〜。素材の大きさや質的に、そうなりますよね〜」
リサが箱から取り出したソレ。銀色に輝く金属の握り手に、木乃伊の様なトレントの枝。その枝には、蔦を這わせる様に握り手から金属の触手を伸ばし、美しい模様を描いていた。
先端に取り付けられた紅宝玉は、まるで神に祈りを捧げる様に指を組んだ、合計10本の木と金属の指に包まれながら、妖艶に光り輝いていた。
長さは大体リサの腕と同じ。元の素材より倍近く長いのは、金属の握り手のお陰だろう。枝の太さに関しては変わらない。太かった部分は削り、握り手の接合部分として埋め込まれている。
握り手には滑り防止の為か幾つもくびれが作られており、柄の部分には魔道具の様に刻印が刻み込まれていた。
「おぉ〜!思ってたのと違うけど凄い……!スードラー、説明をお願い出来る!?」
スードラーは嫌々といった表情を浮かべながらも、丁寧に杖の説明を始める。
「面倒だが、当たり前だ。まず、握り手の金属は魔鋼だ。魔素を多く取り込んだ鋼で、普通の金属と比べて強度は段違いだ。そして、魔力を流した際に、抵抗が無く、流した魔力そのままの量を宝石に送る」
「魔鋼?何それ」
「錬成術で作る合金です〜、一応自然にもありますが。魔道具の材料として使う金属の中で、かなり上位の金属ですよ〜」
「握り手の下に刻印が刻まれているだろう?それは浄化魔法だ。指で触れ、魔力を流せば発動する」
「浄化魔法?なにそれ」
「汚れを落としてくれる魔法ですね〜。血や汗や油、泥なんかを弾き飛ばしてくれるんですよ〜」
それを聞き、試しに柄に指を当てて魔力を流し込むと、杖全体から白い粒子が舞う。
「おぉ〜!!」
「まだあるぞ。魔鋼の蔦の裏には、魔素吸収の刻印も刻まれている。その宝石の性質を伸ばす為の物だ。そして、壊耐の刻印と軽量の刻印、後は修復の刻印も裏に刻まれている。その3つは、宝石から魔力を吸い出して、常時自動で発動している」
「ええと……ラズリー、お願い」
「まず、壊耐の刻印は杖を壊れにくい様に強化する物です〜。そして、軽量の刻印は言葉通り、杖を軽くする物。最後の修復の刻印は、欠けた部分を勝手に直してくれる、簡単に言えば生成魔法ですね〜」
「え……なんか、凄く凄い単語が沢山聞こえてきたんだけど……」
「実際凄いですよ〜?魔鋼だけで金貨数枚。刻印の種類や刻み方は一種類で金貨10枚前後はするでしょうし〜……その杖を普通に買えば、金貨50枚は軽く超えるでしょうね〜」
「加工と人件費込みで金貨62枚だ」
「ろく……!」
リサは顔色を悪くすると、手を細かく震えさせながら杖を木箱に戻す。
「な、なんか気持ち悪くてなってきたかも……」
「入学費と殆ど同じ額ですからね〜……私も正直引いてますよ〜……」
「今から訓練場へ行くぞ。場所は確保してもらっている、杖を持て」
そう言うとスードラーは立ち上がり、木箱から杖を取り出してリサに押し付けると、そのまま腕を引いてラズリーの研究室、もとい自室からリサを連れ出す。
辿り着いたのは、煉瓦壁に囲まれたあの訓練場。リサはその訓練場の端で、杖を両手で抱きしめながら、生まれたての子鹿の様に震えていた。
何故か。理由はその手に握られた“金の延べ棒”の所為だ。簡単に壊れないと説明で分かっていても、動かす事は疎か、雑に握る事さえ恐ろしくて出来ないでいるのだ。今抱き抱えているだけでも、ストレスで禿げそうだと、リサは目を潤ませる。
「先生。面倒だが、話した通り、普段より強度を増した石壁の生成を頼む」
ラズリーはスードラーの指示通り、訓練場の中央に石壁を創り出した。見た目では普段と強度の差は分からないが、指示通りであればかなりの強度を持っているだろう。
「リサ、待たせるな。早く何か放て」
「え、え……心の準備が……」
「面倒だ……早くしてくれ」
「う、うん……」
リサは苛立ちを隠さないスードラーに怯えながらも、杖を恐る恐る両手で掲げ、杖に魔力を注ぐ様に魔法を編むと、首元から火花を散らしながら、紅宝玉の先から石が創り出される。
拳大のその石は、普段と見た目は変わらない。それを見て、リサは少しだけ心の中で溜息を吐く。
そして普段通り、その石を石壁に向かって発射した。その瞬間ーー
野太い風切り音と共に目にも止まらぬ速さで石が発射され、石壁に易々と風穴を開けると、後ろにある魔法で強化された煉瓦塀まで撃ち抜き、更にその裏にあった山の木々を数本薙ぎ倒した。
辺りには土煙が舞い、一直線に並んだその穴は、斜面にめり込んでいる石を覗かせていた。
「「…………え?」」
「石弾でこの威力……流石は私の作った魔道具だ」
唖然とする2人を横目に、スードラーは自分の作った杖を、腕を組みながら自賛する。
そこへ、破壊音を聞いて駆けつけてきたクリームが現れると、
「またですか?またラズリー先生ですか?」
そう言いながら、ラズリーの元へ優しい顔をしながら歩み寄る。
「ちが……!ちょっと待ってください〜!話は後で聞きますから〜!ーーリサさん」
ラズリーはクリームを引き連れながらリサの元へ歩み寄り、
「杖を渡して下さい。そして、もう一度だけ石壁に同じ物を撃って下さい」
そう言うとリサから杖を受け取り、一度石壁を霧散させて再び同じ場所に創り出した。
リサは杖の代わりに右手を翳すと、言われた通りに石を作り出し、先程と全く同じ様に発射した。
その石は、先程とは比べてスピードは落ちているものの、以前とは比べ物にならない速さで石壁に飛来し、着弾した瞬間、石壁は大きな衝撃音を立てながら、爆散する様に砕け散った。
それでも尚勢いを保ったままの石は、その先の煉瓦塀に当たって霧散した。
「「え?」」
「流石ですねリサさん。で、ラズリー先生、話を……どうかいたしましたか?」
ラズリーはクリームを無視してリサに杖を渡すと、新しく石壁を作り直し、リサに指示を出す。
「私が作れる一番の強度です。水生成で攻撃をお願いします」
「うん」
リサは再び杖を掲げると、紅宝玉を輝かせながら杖の先に拳大の水球を創り出し、光線の様に射出する。すると、今度は無音で石壁に小指程度の綺麗な穴を空けた。
「「…………」」
リサとラズリーはお互いに頬を緩めて見つめ合う。
「ど、どうかしましたか?」
「どうした?使い心地を聞かせろ」
そのまま2人は両手を広げて抱き合うと、歓喜の声を上げた。
「やったぁぁぁぁぁ!!石壁を壊せたぁ!!!」
「おめでとうリサさん!!流石は私の一番弟子です〜!!」
先程と立場が逆転し、クリームとスードラーが唖然としながらリサ達を見詰める。
リサとラズリーは、そんな事をお構い無しに喜び合い、一通り喜び終えると、ラズリーがクリームに連行されていった。




