リサ、絶滅魔法を知る。
フェニックスちゃんの1話の文章を大幅に変更しました。
暫くすると、廊下に張った氷壁が叩かれ、ケイルが中に入るよう促す。リサはすぐに氷壁を解除してケイルを中へ入れると、他の生徒が入らない様に再び氷壁を創り出した。
ケイルは氷篭のソリを未だに引いており、ラズリーとクリームの代わりにフォレアスタークを上に乗せていた。
ケイルとフォレアスターク、リサの3人はそのまま訓練室の中に入ると、フォレアスタークはソリから降りる。
そして、入口近くに置いてあった核を一瞥すると、魔物の死体に歩み寄り、左手に右肘を置きながらゆっくりと顎を撫でる。
「魔物生成で事故が起きたと聞いておったが……成程のう、正に大惨事じゃな」
窪んだ床にひび割れた壁や天井を眺め、フォレアスタークはそう呟くと、振り返り、リサを見る。
「さて、まずは詳しい話を聞くのが先じゃろうな。お嬢ちゃん、名前はなんだったか?」
「リサ……」
「リサ……そうじゃったな、通りで見覚えがあるわけじゃ。で、コレはリサが生み出した魔物で間違い無いかの?」
「う、うん……」
「そう怯えんでも良い。魔法の実験や練習で部屋が壊れる事は日常的じゃ。それに、教師2人の怪我も、この学校ではよくある事じゃよ。治療魔術師のお陰で綺麗に治せるしのう」
その言葉を聞いて、リサはホッと胸を撫で下ろした。勿論、ラズリーとクリームが無事だという発言に。
「じゃがーー」
安心したのも束の間、再び魔物の死体に目をやるフォレアスタークの言葉に、リサは曲がった背筋を伸ばす。
「この魔物は例外じゃな。リサよ、詳しい説明を頼むぞ?」
優しい口調ではあるが、有無を言わせぬ覇気を纏ってリサに金色の瞳を向ける。その瞳は、何処か嬉々としている様に見えたが、それは自分の勘違いだろう。リサはその瞳を遮る様に一度だけ長く目を閉じると、自分が行った事、そして、その魔物が生まれた原因を事細かに伝えた。
「ーーで、最後に、あそこに置いてある核に魔力を流し込んで、無理矢理指示性を掻き消したの」
リサは部屋の端に置かれた、外側が赤く変色した核を指差した。ケイルはそれを聞いてその核を持ち上げると、観察眼を用いて魔素の流れを確認する。
「確かに、周囲に干渉する様な魔素の流れは一切感じないな。中の魔力を常時垂れ流している状態だが、それも、ただの魔素として霧散している。後、よく見るとこの核、光を発しているな。……何処と無く、光源の魔道具に似ている」
「部屋が明るいからのう、あまり光を生み出して居らんのじゃろう。そこも、光源の魔道具と似て……いや、同じじゃな。まぁ、核自体が、魔素を大量に取り込む際に輝きを発する事もあるからのう……リサが魔力を流し込んだ時の名残りじゃろうて。それより、問題はこっちの死体の方じゃな」
フォレアスタークは魔物の死体に軽く触れると、羽毛を1枚引き抜き、指で摘みながら何度も回転させる。
「羽毛の1枚1枚がかなりの……いや、完全な状態で物質として固定化しておる。魔物としてでは無く、完全に生物のソレとして、ここにあるんじゃよ。……この魔物生成は、数百年前に消えた技術ーー絶滅した魔法の一種じゃ。童、席を外せ」
「い、いえ、しかし……分かりました。リサ、一度氷壁を解いてくれ、私はラズリー先生とクリーム先生の元へ行く」
フォレアスタークに出ていく様言われたケイルは、渋りながらも素直に従い、訓練室を後にした。
「なんでケイルを出て行かせたの?」
リサはフォレアスタークの行動に疑問を感じて首を傾げると、それに応える様に小さく呟いた。
「……魔竜討伐時の魔法」
「え?」
「お主では無い事は分かっておる。あれはビルが放った魔法じゃろうからな」
「ち、違うよ?あれは通りすがりの勇者がーー」
予め決められた言い訳。だが、この老夫はそれが嘘だと見抜いている。リサはそれに気付いていても、その言い訳を突き通そうと言葉を発した。だが、フォレアスタークは笑い声を上げてその言葉を遮る。
「ーークカカカカカ!リサも滑稽だとは思わんか?自分で自分を勇者と名乗り、格好良く自分を助けたと嘯いておる彼奴を!」
「正直、その時は笑いを堪えるのに必死ーーじゃ無くて!私は気絶してたから知らないよ!」
フォレアスタークは手を招く様にリサを宥める。
「良い良い、ビルから事実を聞いておる。リサが足止めをし、その隙に絶滅した筈の魔法を行使して魔竜の核を貫いた事をのう」
リサはその言葉を聞き、狼狽していた動きを止めると、諦めた様に溜息を吐きながら肩を落とす。
「き、聞いてたんだ……。でも、それと今の事に何の関係があるの?ケイルを出て行かせた理由も分からないし」
「童を出て行かせた理由は、リサの情報を無闇に聞かせない為じゃよ。今も、念の為に空気の壁をこの部屋全体に張って、外に声が漏れん様にしておるしのう」
そこで、初めてリサは周囲に透明な膜が出来ている事に気が付き、無意識に眉を顰める。
「そう警戒するで無い。話が進んでは無いか。……何故、ビルの魔法の話を出したかじゃが……アレも、絶滅魔法なんじゃよ。それでリサよ、絶滅した筈の魔法を使う者が“偶然”にも2人この学校内にいる訳じゃが……」
リサはフォレアスタークに見えない様に、自分の後ろに氷剣を忍ばせる。人除け、音遮断、稀有な出来事。その3つが揃った時、大抵は血生臭い事件が起こる。リサは冒険者稼業を生業としているので、そう言った話は幾度も聞いてきた。だが、自分がそんな出来事に巻き込まれるーー渦中の人間になるとは想定もしていなかった。
(お尋ね者にだけはなりたくない……!)
リサはそう思いながらも、フォレアスタークの足を斬り飛ばす気満々でいた。
動く。そう思い魔力操作で氷剣を素早く振り抜くと、フォレアスタークの法衣を割いて膝に刃が触れた瞬間、氷剣の動きを止めた。
「……普通は首を狙うじゃろ」
リサの首筋には目に見えない刃が押し当てられ、首筋から赤い液体が垂れる。
「逃げるだけなら足で十分。綺麗に斬れば、後でくっ付けて貰えるでしょ?」
そう言いながら氷剣を霧散させ、両手を上げて降参の合図をする。すると、首元から透明な刃が離れたので、咄嗟に血と傷口を煤で覆い隠した。
「血の気の多い小娘じゃ。儂の大事な一張羅を切り裂きおって……一体幾らすると思っておるんじゃ?」
「それを言ったら、お金で買えない乙女の柔肌に傷を付けた罪、償ってもらうけど?」
こういう言い合いの場に置いて、言語の師匠から教えてもらった常套句は役に立つ。私生活においては不便極まりない言い回しであったが……。
「ぐ……!そ、それは治療術師に治して貰えば良かろう。は、話を戻すぞ!」
逃げたな。リサはそう思いながらも、話を逸らしたかったのは自分も同じなので、無言で頷く。
「何処まで話したかのう……。ああそうじゃ、学校に2人も絶滅魔法を使える者が居る事は伝えたな?かなり先の話になるのじゃが、お主らが2年生に上がった時、師匠を今の教師から儂に変えようと考えておってなーー」
「ーーえ!?いや、さっきの話し方だと、絶対殺す感じだったじゃん!師匠変更の話に繋がる言い方じゃ無かったじゃん!」
「そんな事言われてものう……お主が勘違いしただけじゃろ?」
「あ〜!その言い方、絶対わざとだ!わざと私を嗾けたでしょ!?」
「どうじゃろうな〜」
フォレアスタークはリサから顔を逸らすと、右を向きながら鼻歌を歌い出した。
「ぐぬぬぬぬ……!」
リサは1発喰らわせてやりたい衝動を抑えながらも、フォレアスタークを睨み付ける。その反応を見てある程度満足がいったフォレアスタークは、鼻歌をやめてリサに目を合わせると、真面目な顔をして話を始めた。
「他の教員では万一の対応に懸念が生じる。儂であれば絶滅魔法についても詳しく、お主の知りたい他の魔法を教授する事も出来ようて。それに、凡夫の元で育てるには惜しいしのう」
「私としても嬉しい提案だけど……その魔物についても詳しく知りたいし」
「そうじゃろう?ついでじゃ、お主の作り出した……お主の行使した魔物生成について、少しだけ教えてやろう」
そう言うと、フォレアスタークは魔物の死体に手を当てながら話をした。
「儂の生まれる更に前……遥か昔は、魔物も本来は肉体を持っておったと言われておる。今で言う“魔獣”と同じ存在じゃったそうじゃ。じゃが、何かを切掛に、魔物は2つに分裂し、今の魔獣と魔物の2つに別れたんじゃ。現代では……そうじゃな、昔の魔物は“悪魔”として御伽話で語り継がれておるな」
「悪魔……」
「じゃが、本物の悪魔は魔物では無いがのう。話を戻すが、お主の行使する魔物生成は特別な魔物を生み出せるんじゃ。本来は複数人で時間を掛けてやる物じゃがな」
「そうなんだ……。って事はやっぱり、魔獣の肉を使ったから、変な魔物が生まれたんだ」
「じゃな。その分、この魔物の素材の価値は、普通の魔物と比べ物にならん程高いぞ。じゃが……訓練室の修理代に当てさせてもらうがのう」
部屋を見回しながらそう言うフォレアスタークに、仕方無いと肩を落とす。
「退学になったり、借金を負うよりはマシかな……。跡や後遺症が残る怪我をした人も居ないし、本当に良かったよ」
その後は、休校中と言うこともあり訓練室は授業棟毎封鎖され、魔物の死体はフォレアスタークが回収し、独自の経路で素材を売って、その金で訓練室を修理、改装して、この件は表に出る事は無かった。




