リサ、魔物を作る。
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杖の発注から数日後、リサは学校の授業棟にある訓練室の一部屋に訪れていた。
前の様に生徒の誰かに呼び出されたわけでは無く、寧ろ今回は、リサがラズリー呼び出してその部屋を貸し切っている。右手には、マグラビット1匹入る程度の麻袋。その中にはこれでもかと言う位に魔結晶を詰め込んである。そして左手には、木の枝数本とマグチックの生肉、そして、マグバットーー魔獣化した蝙蝠の牙が入った麻袋を持っている。
今日、何故態々壁や床、天井が魔法で強化された密室の訓練室に来たのかと言うと、“魔物生成”の実験を行う為だった。
魔物生成自体は、魔術として存在しており、それを分野として研究している者も居る。だが、リサの行う魔物生成と異なる点がある。
本来の魔物生成は魔法陣を用いて、予め決められた魔物を生成するのに対し、リサの魔物生成は魔法陣を介する事無く、血肉を生贄として捧げる事で、その生物を模った魔物が生成される仕組みになっていた。
簡単に説明すると、前者は魔物を模した魔術実体。後者は、魔素溜まりから生まれた魔物そのもの。その為、リサが生み出した魔物は核も魔結晶も備わっており、素材も回収する事ができる。
だが、その分魔物生成について分からないことも多く、狩場などの人に見られる場所で行うのは色々面倒毎に巻き込まれる可能性があるので、その事を知ってるラズリーに頼んで、訓練室を借りたのだ。
後、何故かクリームも同伴しているが、リサがこれから行う内容は一切知らされていない。どちらかと言うと、リサよりもラズリーの監視をしている感じだ。魔竜事件の事で、ラズリーの事を心配しているのかも知れない。
「じゃあ、取り敢えずやってみるけど、最初は失敗すると思うから」
「分かりました〜」
リサは訓練室の中央へ向かい、それを見送ったラズリーは部屋の端で石椅子を創り出すと、それに腰を下ろす。クリームはラズリーが腰を下ろした姿を訝しみながらもその隣に立ち、部屋の中央に向かったリサに目をやる。
部屋の中央に辿り着いたリサは、ラズリー達の方を向きながらその場に腰を下ろし、アヒル座りになると両手に持った麻袋を左右に置くと、自身の目の前に大きめの石の盃を創り出す。
そして、右の麻袋から拳大の魔結晶を3つ取り出すと、一つずつ両手で包み込み、火生成で液化させ、両手の隙間から流れ出るソレを盃へ流し込んでいった。
それを見たラズリーは目を見開き、勢い良く石椅子から立ち上がるとリサの元へ駆け寄って、盃の前に腰を下ろす。クリームもその後に続く様にリサの元へ歩み寄ると、ラズリーの右後ろから盃の中を見下ろしている。
そのまま、取り出した3つの魔結晶を溶かし終えたリサは、融解したソレを指差した。
「いつもはこのまま型に流し込んで飴を作るんだけど、今回は魔物生成だからーー」
「ーー魔物生成?これが?」
飴という単語は無視して首を傾げるクリームに、リサは頷いて返事をすると、融解した魔結晶に右手の人差し指を突っ込み、盃を撫でる様に掻き混ぜ始める。
時々見える石の盃の底は赤く煮えたぎった色をしており、盃にリサの指が触れる度に、軟化した石が幾何学模様を浮かべながら抉れていく。
中に注がれた薄紫色の液体は、指の動きに合わせて流れを作り、ゴポゴポと不気味な音を立てながら、大きな半球形の膜を作っては破裂させ、そこから蒸気や煤を吐き出している。
そして、液体の量が3分の2位になり、紫色を濃くし始めた時、リサは左の麻袋から木の枝を取り出して液体の中へ投げ入れる。すると、木の枝は一瞬にして激しく燃え上がり、“何故か”形を保ったまま液体の中へ沈むと、溶ける様に姿を消した。
「おぉ〜、凄いですね〜。先程まで不安定だった魔素の流れが、いきなり安定しましたよ〜。それに、体積は減っていますが、内包した魔素量は変わっていませんね〜。均等に溶かしていけば、魔結晶は液化しても魔素を放出しない事も、初めて知りました〜」
「鑑定眼ですか……ラズリー先生、説明をお願いできますか?」
「説明と言われましても〜、私も見るのは初めてなので〜」
2人は話を中断すると、再び盃に視線を落とす。
リサはそんな2人を横目に、木の枝が溶け込んだ魔結晶を更に指で掻き混ぜて、体積を減らしていく。
そして、体積が魔結晶1個分より少なくなり、濃い紫色へと変色した頃、リサは掻き混ぜる手を止めて立ち上がると、左右の麻袋を持って、ラズリー達に下がる様伝えてからその場を離れる。
3人がその場から離れて部屋の端へ移動したその時、石の盃から枝葉が伸び、地面へ根を下ろした。
掛けられた圧によって盃は割れると霧散し、側根に支えられて宙に浮いた紫色の不恰好な核は、周囲の魔素を吸いながら軸となる幹を生成し始めて、核を覆い尽くそうと怪しく輝く。
だが、周囲の魔素量が足りないのか、成長した枝葉は伸びた先から枯れ朽ちると、乾いた音を立てながら自重でへし折れ、地面に落ちると砕けて霧散する。所々穴の空いた幹は、黒い霧を発しながら樹皮を捲っては生み出し、根は悶え苦しむ様に蠢き、消えては生えてを繰り返す。
破滅と再生を繰り返す木の魔物は、断末魔の様な爆裂音を響かせながら、動く事も消えることも出来ずにいた。
「失敗かぁ〜。取り敢えず、魔結晶をあげてみよっと」
失敗は想定内。寧ろ結果としては上々な方だ。正直、核から枝が1本生える程度で終わってしまうと思っていた。そう考えると、ある程度の意思を持って生まれてきてくれたのは僥倖だ。しかも、あの魔竜と同じ様な状態で。
リサは麻袋から魔結晶を取り出すと、木の魔物の根元に投げた。すると、木の魔物は何度も根を霧散させながらも、器用に自分の核の近くまでその魔結晶を手繰り寄せ、幹の中に取り込んでいった。その瞬間、先程とは見比べる程状態が安定し、余分な肉体を魔素に霧散させて再び吸収すると、体の崩壊を止めて魔物として正常な状態になった。
大きさは先程までと比べてかなり小さい。リサの腰と同じ位の太さのあった幹は、リサの太腿と同じ太さまで細くなり、高さに関しても、リサの膝上まであった物が、今は膝と同じ高さも無い。
枝は無く、二つに分岐した幹の先に葉を生やしているその魔物は、見たところ、苗木の様な姿をしている。幹の半分ほどの長さのある根は、自分の体を支える事で手一杯の様で、先程とは打って変わってピクリとも動かなかった。
「こうなるのか〜。それなら、最初から小さい体を作ればいいのに。もしかして、魔素量が余りにも少な過ぎて、形を保てる程の支持性を持てなかったとか?」
「可能性はありますね〜。用意した枝はかなり成長した木から取った物ですし〜、この魔物も、最初はそれに寄せて肉体を作り出そうとしていたんでしょうね〜」
「元の木が大き過ぎたってことね。じゃあ、マグチック程度の大きさなら、今と同じ魔結晶の数でも問題無さそうだね。前に試した兎型の魔物も2つで足りたから……マグバットも2つで十分かな」
木の魔物が動かない事を確認すると、リサはその魔物に歩み寄り、目の前に屈む。木の魔物は、本当に魔物なのかと疑いたくなる位、一切の反応を示さず、偶にバランスを崩した様に体を傾けては体勢を立て直す。
リサは幹の中心部から剥き出しになった歪な核を何度も突き、何も反応を示さない事を確認したら、木の魔物を横に倒し、幹に両足を押し当てながら核を思い切り摘みながら、力一杯幹を蹴り押す。が、全く抜ける気がしないので、引き抜くのを諦めた。
「仕方無い。半分に斬るか」
リサは氷剣を創り出すと、そのまま木の魔物に対して氷剣を水平に薙ぎ払い、上下に割ってみせる。そして、核の付いていない上部分を拾い上げると、自身の魔力を流し込み素材として安定化させる。
残った核の付いた下半分からも核を切り離すと、魔力を注いで安定化させた。
取り込まれていた魔結晶は魔素を失い霧散しており、核の方は魔素の吸収と放出を繰り返している様だが、肉体の形を忘れたのか、再び肉体を作り出す事は無かった。
「手に入った素材は少し丈夫な枝2本と、小型魔物の核が1つか〜。買取価格的には、魔結晶をそのまま売った時と大差は無いね。素材は……ラズリー使う?」
「良いんですか〜?では、お言葉に甘えていただきます〜」
リサは持っている枝2本をラズリーに渡して、核をポケットの中に仕舞い込む。
クリームはそんな2人の姿を見ながら、氷椅子を創り出すとその場に腰を下ろした。
「じゃあ次はマグチックだね。今度は上手くいくと思うから期待してて良いよ!」
そう言うと、麻袋を持って再びリサは訓練室の中央へ向かった。




