リサ、師匠と喧嘩する。
2000PV達成ありがとうございます。
冬休みぱわぁのお陰か、数多くの方々の目に触れさせていただき、感無量です。
これからも、のんびりにはなりますが、精一杯観測者として務めさせていただきます。
本当に、皆々様には心からの感謝を。
周囲に円を描く様に落ちた魔物の核と魔結晶を回収し終えると、驚く事に、28体分の核が山を築き上げた。
かなり多いとは思っていたが、まさかここまで多いとは思っても見なかった。あの時、咄嗟に生成した氷壁で攻撃を防げたのは、本当に僥倖だった。その後、1匹も逃す事無く、魔物を討伐出来たのは、日頃の鍛錬のお陰だろう。
だが、先程の魔法に攻撃の意思があったかと言われると、正直怪しい所ではある。先程は、ただ身を守る事を考え、魔物を傷付けられる魔法が、氷剣生成以外無かったからあの手を取っただけなのだ。攻撃する。では無く、外敵を排除すると言った方が正しい。ただ、それも1つの攻撃意思だと言われれば、そうなのだが。
そして、今の魔物の戦闘で思ったのだが、自分の編み出す魔法は他者のそれと微妙に違うのでは無いか。リサはそう感じ、霧散させた氷壁が残した氷の粒子を思い出す。
他者の編み出した魔法、例えばラズリーが編み出した石魔法は、霧散させた時にその場に何も残す事なく、跡形も無く消えるのに対し、リサが編み出した石魔法は、霧散する際に少量の砂がその場に舞う。本来、魔素で創り出した元素魔法ーー所謂元素生成と呼ばれる魔法は、魔法を解いた際、込められた魔力も含めて、創られた物は魔素に戻るのだ。
だが、リサの場合、物質ーー魔素では無い、実体のある物が残ってしまう。
そしてもう1つ。リサの創り出した氷剣が、他の魔法より強度が高い事だ。氷剣は元素生成で創られた物なのだが、他の元素生成で創り出した物と比べ、強度がある。しかも、物質生成で作り出した岩よりも硬いときた。
他の元素魔法は、岩壁に傷を付ける事が出来ないと言うのに。
「いや〜、それにしても凄い魔物の数だったね。ラズリーさん、あれって、学校側が仕組んだやつ?」
回収した魔結晶達を、リサが作った2つの杯型の氷の台に、核と魔結晶と分けて入れていくと、ビルは一仕事終えた様に、額を腕で拭って腰に手を当てる。
「違いますよ〜。恐らく、近くに魔素溜まりが出来ているんでしょう。明日の朝、他の教師が核と魔結晶を回収しに来ますので、その時に伝えた方がいいかも知れませんね〜」
手に持った魔結晶を台の上に置き、ラズリーはお腹を鳴らしながらそう答えた。
すると、ビルは苦笑いを浮かべながら、
「そう言えば、まだ昼ごはん食べてなかったね。急いで魔獣を狩ってくるから、少し待ってて。リサちゃん、この場はよろしく」
空に浮かぶ太陽を見て、再び森の奥に走って行ってしまった。
「了解」
目印も付けずに森を突っ走っていくとは、余程方向感覚に自信があるらしい。一応、薪を焚けば狼煙が上がるので、それを目印に戻ってこられるだろうが……それを含めての“よろしく”なのだと、リサは自分に言い聞かせる。
先程までの反省を活かし、リサは黙々と作業を進める。薪を組み直し、風除けを作ると、火生成で着火して焚き火を作る。その後、焚き火の横に座りながら、氷の鏡を合わせ鏡にして、少し離れた木々の奥を探索する。この方法、本当に便利ではあるが、暗い所では使えず、目標の距離が遠かったり、合わせ鏡の数が増えると、輪郭がボヤけて写ってしまうのが玉に瑕だ。
夜目が利くリサの目をもってしても、暗闇では鏡に映る物を見る事は叶わない。どういう原理かは分からないが、見えない物は見えないのだ。
合わせ鏡で見える最大距離は大体50m程。それ以上遠いと何が何だか分からなくなる。
そして、手元にあるメモと、生えている果物を見比べて、食べられる物だと分かると、氷で生成した鷲の様な鳥に、小さな氷篭を持たせて放ち、それを取りに行かせた。
「リサさん、本当に器用ですよね〜。学校に居る教師でも、そこまで器用に魔法を動かせる人は居ませんよ〜?」
「そうなの?」
リサは、ラズリーに小声で話す様にジェスチャーすると、首を傾げて聞き返した。
それに対して、ラズリーは「ごめんなさい〜」と小声で頭を下げると、間を置いて頷く。
「そうですよ〜。そもそも、あそこまで精巧な鳥を創り出せる人は少ないですし〜、それを、本物と遜色無く動かせる人は、学校には居ませんね〜。どちらかは出来ても、両方は中々出来ないですよ〜」
「そ、そうなんだ……!少し嬉しいかも。ーーあれ?でも、教室で他の生徒に見せた時、あんまり受けは良く無かったよ?」
「それは〜……何ででしょう?他の生徒の事はよく知りませんが、皆さんも普通に使えるのでしょうか?」
そうして、草木が擦れる音で掻き消される程の小声で話す事小1時間。背後の草むらが揺れるのを音で察知したリサは、咄嗟に振り返りながら立ち上がると、いつもの癖で剣の柄に手を乗せて、そちらを凝視する。
すると、慌てる様に両手を上げたビルが、「待って待って!」と言って姿を現した。攻撃をするつもりは無いと上げられたその両手には、何も持たずに。
「ビル、小声小声。今は周りに魔物は居ないと思うけど、いつ湧くか分からないから」
「あ、ごめん。でもーー」
リサの指摘に、ビルは肩を竦めながら謝り、焚き火の隣に腰を下ろすと、「ほら」と言って、惚ける様に両手を広げて見せると、
「周囲には魔物は疎か、魔獣も居ないわけだし、今は普通に喋ってても問題無いよ!」
ケラケラと笑い始め、急に黙ると焚き火を見詰める。
「え゛!?」
「まぁ、そうだよね〜。ーーはいコレ、果物。名前は分かんないけど、図鑑に食べられるって書いてあったから、問題無いはずだよ」
リサは、それが自分の所為だと分かっているので、深く突っ込む事なく、拳大の桃色の果物をビルに渡す。ラズリーとリサは既に食べ終わっている。
その果実は、僅かに上側に黄色を残した、桃色の弾力のある分厚い皮に覆われており、中の果肉はサクサクとしていて硬めである。味に関しては、元の世界にある物で例えると、バナナとリンゴの間を取った味に、嫌な癖のある渋みが混ざった味だ。美味しくはあるが、その渋みがリサはあまり好みでは無い。
だが、ビルは割と好みの味の様で、唇の端から果汁を滴らせながら、ペロリと1つ平らげてしまった。そして、果物が1つしか無い事を知ると、少しだけ落ち込んだ表情を見せた。ラズリーの感想に関しては言うまでも無い。4つ取れた内の2つを軽く平らげたとだけ伝えておく。
そして、軽く腹を満たした2人は、念の為に小声で、今後についての相談をする。
「ビル、これからどうする?近くに幾つか果物は生ってるけど、明日までの分しか無さそうだよ?実習の内容的に、遠征は駄目そうだし、魔獣は当分寄り付かないだろうし」
グウゥ〜
「だよね〜。最悪、食べる日と食べない日を作るのもありかな。1日ずつ交互にやれば、体に負荷も掛からないだろうし……」
グウゥゥ〜〜
「私は別に、食べ物が無くても問題ないけど。それより、思ったより食べられる野草を見つけるのって難しいね。全然見分けがつかなもん」
グウゥゥゥ〜〜〜
「俺は一応見分け付くけど。食べるだけなら、すぐ近くに生えてるあの草、全部食べられるよ?味は別として」
グウゥゥゥゥ〜〜〜〜
「川も近くに無さそうだし、キノコを食べるのは論外。お肉は無くて、生えてる草は、お世辞にも美味しいと言えない物。そして、近くには魔素溜まりがある可能性がある……と」
グウゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜
「食事無しの上に、頻繁に魔物が湧く可能性がある。そして、実習の所為でこの場所を拠点として、6日も過ごさなくちゃ行けない……詰んでるよね」
グウゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜!!
「ーーうっるさい、ラズリー!小声で話してる意味が無いじゃん!」
意図的に無視を決めていたが、辺りに鳴り響くラズリーの腹の虫に、とうとうリサが突っ込みを入れてしまった。
すると、ラズリーは涙を浮かべながら顔を真っ赤に染め、自分のお腹を押さえると、震えた声を漏らす。
「鳴らしたくて鳴らしている訳じゃ無いんですよぅ……!勝手に鳴るんです……!このお腹が、勝手に……!」
そこまで言うと、ラズリーは膝を丸めて、そこに顔を埋めると泣き出してしまった。
これはマズイ。リサは、言い過ぎてしまったと後悔しながら、これは自分の責任だ。そう考えて、リュックから燻製肉の入った麻袋を取り出し、そこから幾つか肉を掴み取ると、ラズリーの隣に腰を下ろし、宥める様に顔を近付けた。その時ーー
「ーーお昼に美味しいお肉が食べられると思って、朝ごはんの量を減らしたのに……話と違うじゃ無いですかぁ〜……」
その、顔を近付けないと聞き取れない程のラズリーの独り言を、耳にしてしまう。勝手に肉を掴んだ左手に力が入ってしまい、燻製肉が乾いた音を立てて擦れた。
その瞬間、ラズリーは勢い良く頭を上げ、リサの左手を凝視すると、パァっと明るい表情に戻り、リサに対して満面の笑みを送った。
「も、もしかしてリサさん!私の為によーー」
「ーー朝ごはん」
だが、次の瞬間には、その笑顔は音を立てて崩れた。
「リ、リサさん……聞いてーー」
「朝ごはんを軽く済ませるのは分かるよ。いっぱい食べると、動きが遅くなるからね。でもさ、それはお昼ご飯をいっぱい食べる為に、する事じゃ無いよね?」
「ちが、違うんですぅ!リサさんの言う通り、山を登るから減らしただけでーー」
リサの圧に押されて、一度浮いた腰を、尻餅をつく様に地面に戻し、少しだけ後退りする。それでも、視線は燻製肉に釘付けのままだ。
「ごめんね、私の所為で魔獣を遠ざけちゃって。これ、お詫びのつもりであげようと思ってたけど、採れたて新鮮の美味しいお肉じゃ無いから、ラズリーの舌には合わないよね。ごめんね」
リサは態とらしく落ち込んでみせると、ラズリーに背中を向けて、リュックの中に燻製肉を仕舞う素振りを見せた。
「そそそそそ、そんな事ないです!新鮮お肉より燻製肉の方が大好きです!心の拠り所と言っても良いでしょう!それに、私の大好物は、燻製肉の燻製肉サンドですよ!?リサさんも良く知っているでしょう!?」
すると、大きい声を出しながら、今まで聞いた事ない早口で捲し立てると、なりふり構っていられないといった様子でリサに背後から抱き付き、リュックから遠ざける様に引っ張る。リサは、プニプニと、全身に押し付けられる感触に腹を立て、ラズリーの頬を右手で押し返す。
「そんなの知らないし、ラズリーは食べ過ぎなんだよ!果物を2個食べたんだから、「え?2個?」それで満足してよ!」
「リサさんが少食なだけですぅ!それに、私は実習の護衛対象で、リサさんの師匠なんですよぉ!?少しくらい労わってくださいよぉ!」
「十分労わってるでしょ!?本当だったら、山の中を引き摺り回して魔法の指導をさせたいのに、ラズリーが体力無いから我慢してるんだよ!?」
「リサさんが体力ありすぎなんですぅ!何ですか、休息日はずっと狩場に篭るって!私とご飯食べに行ってくれても良いじゃ無いですかぁ!」
「そんなこと言ってるから、お金が〜、お金が〜ってなってるんでしょ!どうせ今回も、タダで美味しいものが食べられて、お給料も余分に貰えるから来ただけでしょ!?」
「ゔ…………!」
「図星なんだ……ところで、2人ともそろそろ止めにしようよ。喧嘩してたら、余計お腹が空くだけだよ?」
呆然と2人のやり取りを見ていたビルは、呆れながら溜息を吐くと、仕方無いといった様子で2人を止め、躊躇しながらも、ラズリーの腕を軽く持ってリサから引き剥がす。
「うぅぅぅ〜……」
引き剥がされた瞬間、萎む様にその場にへたり込むラズリーを見て、リサは左手に持った、元々渡す予定でいた燻製肉を差し出すと、
「私1人の分を3日分位しか持ってきてないから、ゆっくり、味わって食べてよね。一気に全部食べたら怒るし、もし、私の分にも手を出したら、冗談抜きで山の中を引き摺るからね」
そう伝えた。
ラズリーは再び満面の笑みを浮かべると、震えた両手でそれを受け取り、上擦った声で感謝の言葉を何度も伝える。
「ありがとう……リサさん、ありがとう……」
「別に良いよ。ーーはいコレ、ビルにも」
リサはリュックから再び麻袋を取り出すと、「今日の分」と言って、ラズリーに渡した量と、同じ量の燻製肉を掴み取ってビルに渡した。
「良いのか?」
そう聞き返しながらも「ありがとう」と言って受け取るビルに、リサは頷く。
「ラズリーにだけあげてたら不平等でしょ?本当なら自分で用意しないのが悪い!って言ってたけど、私の所為で魔獣が逃げちゃったからね。そもそも居たのかは別として」
実際、あれだけ統率の取れた魔物が近くに居たのだから、リサの出した音とは関係無く、魔物が居なかった可能性がある。寧ろ、そちらの方が高い。だが、自分に少しでも非があるなら、謝罪をしておいた方が、仲間として上手くやっていけると、リサは考えている。
こうして、3人で焚き火を囲みながら燻製肉を齧り、リサの持参したお茶を氷のカップで飲みながら、結局、他に何もやる事無く、時間が過ぎて帳が降りる。
ラズリーは陽が落ちて暫くすると、すぐに眠りについてしまった。
ハンモックは広場内に吊るす場所が無かったので、リサが物質操作で石の柱を2本、焚き火の近くに作り、そこに吊るしてある。そして、そのハンモックの上で、ぐっすりと眠っているラズリーは、リサの外套を毛布代わりにして包まっていた。
師匠が弟子の寝具と装備を奪うのはどうなんだ。と思うかもしれないが、全てリサが提案して、ラズリーに渡したのだ。そうすれば、自分が心置き無く水のクッションの上で寝転がれるから。
リサは氷座椅子に敷かれた水のクッションの上に座りながら、背もたれに体を預けて、カップに入ったお茶を啜ると、月の無い夜空を見上げた。
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