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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサ 学校編
47/95

リサ、山を登る。

いいねと評価ありがとうございます


 山に入る前、リサは、ラズリーと小声で会話をした。


(リサさん、ちょっと良いですか〜)


(どうしたの?ラズリー。トイレなら今のうちに行ってきてよ?)


(違います!実習の話です。今回の実習中、リサさんは、探索に関する事全て、口出し禁止でお願いしますよ〜?全て、ビル君に任せて下さい)


(えぇ〜……分かったよ。その代わり、ラズリーも、私じゃなくてビルを頼ってね?)


(分かりました〜)


 その会話をしたのが、約1時間前。そして今、課題である教師護衛の任をこなしながら、ビルを先頭に、中央にラズリー、殿にリサを置いて、隊列を組みながら森を歩いていた。

 道は殆ど整備されていないが、何度も行き来する場所だからだろうか、獣道に近い道ではあるが、割と通りやすい道になっていた。それでも、育った草木が道を塞いでいる事も屢々。その度にビルは、常時展開している風の魔法陣から、風の刃を発射して、道を切り開いていた。

 剣など要らないと言っていたが、確かに、あそこまで正確に攻撃魔法を操れるのであれば、剣は不要である。正直、羨ましい。

 だが、今の段階で信頼できるかというと、当たり前だが、全く出来ていない。リサは、氷篭の上に張った、薄い水の膜に腰を下ろしながら、一切背後に気を配る事をしないビルを見て、溜息を吐いていた。


 そして、出発前にラズリーと話した内容。それを思い出しながら、前を歩くラズリーを見詰める。

 歩き始めてまだ1時間。それだと言うのに、ラズリーは背を丸めながら、息を荒げていた。ワンピースから覗かせるストッキングは、戦闘を行ったかの様に穴が開き、時折パンプスを睨み付けては、今まさに溜息を吐いている。

 少し前、ビルに休憩を申し出たが、まだ出発してからそんなに経ってないという事と、休むスペースが無いという事で却下されている。それ以降、氷篭の上に座るリサを羨ましそうに見詰めては、溜息を吐いて正面に向き直るのを繰り返していた。

 素直に乗せてと言えば良い物を。そう思っても、此方から言わない理由は、自分が座り続けていたいと思っているからだ。決して、意地が悪い訳では無い。ただ、本当に辛そうにし始めたら、流石に譲るつもりではいるが。


 だが、リサが一番可哀想だと感じているのは他にある。

 ーー“虫”だ。

 山の中なのだから当たり前ではあるが、多種多様な虫が、這い、飛び、跳ぶ。奴らは、道にいる人間など気にする事なく辺りを動き回り、大きな気配を察知して飛んでいく奴や、前を見ずに跳んでくる奴。更には、枝葉から足を滑らして落ちてくる奴まで居る。そして、此方を捕食対象として寄ってくる奴も、少なからずいるのだ。

 そして、奴らは何度も、ビルとラズリーに悲鳴を上げさせていた。顔に当たり、口に入り、髪に留まり、手をくすぐる。幾ら、山で狩りをする事に慣れたリサでも、奴らにだけは慣れる事は無かった。だが、リサはこの山に来て一度も、虫に集られていない。その理由は外套にある。リサの羽織る外套は、虫の嫌う臭いを発する香草や、虫に効果のある毒花の蜜を混ぜた液体を、たっぷりと染み込ませてあるので、虫除けの効果を持っているのだ。フードを被れば、上から落ちてくる虫も大した事ない。顔部分には、煤でヴェールを作ってある為、前から飛んできたとしても、顔に当たる事もない。だが、その分視界が狭くなってしまうのが欠点だ。

 それを補う為、リサは自分の正面左右に、幾つかの氷の鏡を創り出し、前後左右と頭上を、視線を動かさずに、確認できる様にしていた。

 その気になれば、入り組んだ木々の向こう側も、この魔法を使って確認できる。


 そんな姿のリサを見て、ラズリーは涙を堪えていた。

 かれこれ2時間近く歩き続け、その間に何度も休憩を申し出たが、休める場所が無い事は自分でも分かっている。しかも、リサはラズリーが最低でも3時間は山道を歩ける事を知っているし、出発前に頼らないと言ってしまった手前、その篭に乗せてくれとも、言い出し辛い。何度か声を掛けようと振り返ったが、煤で顔を隠してしまっているので、表情が読み取れず、言葉を発する事も無い。もしかすると、何か怒っているのかも知れない。そう考えると、ラズリーは自然と溜息が出てしまう。

 お気に入りのストッキングは破れ、パンプスのヒールは歩き易さを求めてへし折り、口に入る何かを何度も吐き出しながら、手の甲にある虫刺されを撫でる様に掻く。

 リサと前に行った狩場は、もっと楽だったのに。ピクニック気分で過ごせると思っていたのに。そう考えていると、数日前、クリームに言われた言葉を思い出してしまう。


「弟子が冒険者であったとしても、貴女が冒険者になった訳ではありませんよ?」


 広場で集まった時、クリームにドヤ顔していた自分を、無性に殴りたい欲求に駆られ、やり場の無い怒りは、地面を強く踏んづけた。

 クリームに怒られても構わないーー今からでも、学校に戻ってケイルと交代しよう。そう考えたラズリーは、後ろを振り返りながら立ち止まると、ヴェールの奥に隠れたリサの顔を見詰める。すると、リサも同様に立ち止まり、前2人に向けてこう言い放った。


「ーーお客さんが来たよ」


 心が折れていたラズリーには、何の事かすぐに理解する事が出来なかったが、続けられた言葉でその意味を理解した。


「蜂型魔物2体、接敵10秒前。ビルは護衛対象を守って」


 そう言って、リサは体を半回転させながら氷篭から飛び降りると、背後から飛来する魔物と対峙する。

 氷の小人達はそれに合わせて氷篭を地面に下ろすと、ラズリーの前にピラミット上に重なり合い、万一の壁役として立ちはだかった。

 それを見たビルはラズリーの背後に立ち、青、翠、黄の小さな魔法陣を幾つも浮かべると、氷の小人達を見て


「何で無理矢理、元素魔法を覚えさせるのか……得意分野を伸ばせば良い物を……」


 と、小さく呟く。恐らく、誰にも聞かせるつもりでは無かったであろう、その独り言は、真正面にいたラズリーの耳に届いた。


(問題はそこじゃ無いんですよ〜……)


 ラズリーは、その独り言に心の中で返事を返しながら、リサを見る。


 蜂型の魔物は、木々の隙間を縫いながら、此方に物凄い速さで飛んでくる。何度も何度も進路を変え、決して直進することの無い蜂の魔物は、魔法士の得意とする距離を軽く超え、近接の間合いまで近付くと、左右から挟む様にして、リサの頭部と腹部目掛けて、産卵管を突き付ける。


「あ!危なーー」


 ラズリーが声を上げて、咄嗟に石弾を生成した瞬間、リサの首元から大量の火花が飛び散った後、空間が歪む程の熱波が辺りを襲い、皮膚の表面と髪を焼いていく。そんな中、ラズリーは薄目でリサを見つめると、リサを包む様に青白い炎が渦巻いていた、

 蜂の魔物は勢いを殺せずに、そのまま炎の膜にぶつかると、一瞬で姿を消して、核と魔結晶を歪な形に変形させながらリサに投げ付ける。


「あたっ、いてっ」


 顔とお腹に当たった核の所為で、間抜けな声を発してしまう。そして、左手で軽く患部を撫でて怪我が無いかを確認すると、炎の熱で一度融解してしまった、歪な形の核と魔結晶を拾い上げ、後方に居る2人に「終わったよ〜」と声を掛けた。


 ラズリーは、赤みを帯びた顔に水生成で水を掛け、変に縮れた前髪を軽く払うと、黙ったまま此方を見つめて微動だにしない。何か怒っている様にも感じるが、怒られる様な事は一切していない。物質生成では無く魔力を使って炎を創り出し、蜂型の魔物に対して、カウンターではあるが攻撃魔法を喰らわせたのだ。それの何処が不満なのだろうか。

 何か問題でもあったのかと、ビルに視線を送ると、ビルは普段と変わらぬ態度でリサに近づき、ケラケラと笑いながら肩を叩く。


「流石リサちゃん!言われた通り攻撃魔法で見事、魔物を倒すなんて!後は、魔獣相手にこれが出来るかが問題だね!」


 ビルの言葉を聞いて、そう言う事かと納得する。ラズリーは不機嫌なのでは無く、魔物相手だったから、大した反応を見せなかっただけなのだと。


 だが、今のを魔獣相手にやれと言われたら、正直出来る気がしない。魔獣を狩る事に抵抗がある訳では無いが、殺す必要が無い相手と対峙してしまうと、どうしても魔法の威力や耐久度が下がってしまうのだ。その点、細剣や、普段使っている氷剣は、誰と対峙しても、火力も耐久度も変わらないので、自分に合ってる。

 やはり、元素を創り出した魔法は、自分に合わないのかも知れない。だが、そうなると、攻撃魔法が使えないので、星3冒険者になる事が出来なくなってしまう。そう考えたリサは、顔に影を落とす。


 ラズリーやビルからは、煤で隠れていて表情は読み取れない。だが、何か勘付いたビルは、更に言葉を続けた。


「でもさ、態々元素魔法で攻撃しなくても、リサちゃんには物質操作や魔力操作があるんだから、ある物を利用して攻撃したら良いのに。それも立派な攻撃魔法なんだからさ」


「立派な……攻撃魔法?」


「そうだよ?攻撃魔法って“相手の命を削る魔法”の事を言うんだよ。それが、物質操作であれ、元素生成であれ、相手を攻撃する意思があり、命を削る事が出来れば、それは立派な攻撃魔法だよ!」


 ビルは、リサを励ます様に、両手を広げながら声高らかにそう言った。


 だが、もしビルの言う事が正しいのであれば、やはり自分は攻撃魔法を使えていないのだろう。攻撃する意思。その意思があるかと言われると、無いと答えられる。

 リサの中で、攻撃=無害の相手に害を為す行為。という風に結び合ってしまっている所為で、自身や周囲の生き物に、敵対行動を示す相手以外に攻撃する事を、非としてしまっている。そもそも、食事といった“道楽”の為に魔獣を狩る時でさえ、今でも躊躇してしまう程だ。元の世界にいた時には無かった感情。命を直に見て、命を直に奪う世界に来たからこそ、生まれてしまった邪念だ。自然に生きる動物が抱くことの無い、人間のエゴ。リサはそれを理解しているし、そのエゴの所為で攻撃魔法が使えない事も理解していた。いや、理解させられたのだ。攻撃魔法という物を知った時にーー。


 だから、ビルの励ましも一切心に響かない。あれを攻撃魔法だと認められても、何も嬉しく無いし、何も得るものは無い。


「あれは攻撃魔法じゃ無いよ……ごめんねラズリー、約束破って」


 漏らす様に、ビルの祝辞を撤回すると、ラズリーに向かって頭を下げた。


「…………良いですよ〜。私も、少し急かしてしまいましたね〜、これじゃあ、教師失格ですかね〜?」


「そ、そんな事ないよ!多分。……ビルもゴメンね?励ましてくれてありがと」


「ーーいや、気にしないで!でもそっか……攻撃魔法ではないのか」


 最後の方が聞き取れかなったが、ビルも笑っている事だし、問題無いだろう。

 リサは、半面が溶けてしまった小人達の前に屈み、順に頭を撫でていくと、魔力を注いで形を形成し直す。その後、6人の小人に氷篭を持たせた。そして、リサ達3人はビルを先頭にして再び歩き出すと、1時間後、日が昇り切る前に、何事も無く目的地に辿り着く事が出来た。


 リサちゃんの周囲で起きた出来事を、簡潔に書き記す事が出来ず、申し訳ない。

 ただ、リサちゃんの事をもっと深く、知って貰いたいと思っての事なのです。

 観測者としてはまだまだ未熟者ですが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 正直この魔物または人間を殺すのに躊躇という展開は主人公に共感できませんし良く描けていたとしても別に面白い訳ではないのでどんな作品でも総じて退屈ですね。 周りは難なくこなしてるのに主人公…
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