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甦れ!フェニックスちゃん!  作者: 神宮雅
リサ 学校編
45/95

リサ、保存肉を作る。

いいねと評価ありがとうございます


 共通実習が2日後に迫った休息日。リサは今、普段の狩場とは違い、魔獣が多く生息する草原へと赴いていた。

 胴には、所々細かい傷が付いた、年季の入った胸当て。腰には革のベルトを巻き、そこには愛剣である細剣をぶら下げていた。そして、食料を入れる為に新たに買った、マグラビットが丸々3匹は入りそうな麻袋を、肩に掛けている。

 一応、普段使いしている麻袋も持ってきている。色々な物を入れて運んでいた為、所々にささくれの様な解れも見られ、何のものか分からない、黒いシミも出来ている。正直、その中に食料を入れる気にはなれない。だから、麻袋を新調したのだ。

 何故、新しい麻袋を抱えて草原へ来たのか。それは、共通実習の間に食べる肉を調達する為だ。街で塩漬け肉を買って、それを持って行ってもいいのだが、贅沢な話、リサはあの塩辛い肉が苦手である。あれは現地でスープを作る時に、塩と出汁の代わりに入れる物であり、そのまま齧り付く物ではない。と考えている。

 今回の野営は、同じ場所を拠点として6日間も過ごす為、昼時以外に料理する機会は無く、同じ理由で、夜はまともな料理を食べる事は出来ない。その上、周囲には同じ実習を受けている生徒もいる訳で、狩場も被る分、得られる食材も必然的に少なくなってしまう。狩場の状態が分からない以上、魔獣が見当たらない事を想定して、多めに保存肉を持って行った方が良いだろう。そういう事もあり、苦手な塩漬け肉を辞めて、態々狩りへ来たのだ。

 実際の所、肉を持っていかなくとも問題は無い。人間は肉を食べなくても、ある程度は生きていけるのだ。それに、肉が無ければ魚を獲れば良いだけの話でもある。川があるかは別として。


 だが、狩場がどの様な場所か分からない以上、入念な準備は必要だ。本当であれば、先行して狩場を確認したいのだが、ラズリーに「それは不平等です〜」と言われ、現地へ行くのを止められた。

 そもそも、実習場所である山は、シオン魔導学校の敷地であり、許可が無い限り、学校とは無関係の人は勿論、生徒達も入る事が禁止されている。


 話を戻すが、知らない狩場に行く以上、入念な準備は必要なのだ。冒険者として、仲間の命を危険に晒さない為に。


 日の出前から歩き続けて約2時間。リサは自分以外誰も居ない狩場に辿り着くと、手に持った麻袋2つを地面に置く。

 重量感を思わせる音を立てながら地面に落ちた、新品の麻袋の中には、肉の臭い消し用の香草と、大量の木屑が入っている。これは、調達した肉を“燻製”する為の物だ。

 草原ということもあり、辺りには殆ど木は生えておらず、生えていたとしても、生木しか手に入らない。そんな物で燻製を作ってしまうと、肉が煤だらけになって食べられなくなってしまうのだ。前に一度、それで肉を駄目にしている。

 燻製機に関しては、土生成で箱を創り出し、火生成で木屑に着火出来るので問題ない。しかも、水場が無くても水生成を使えば綺麗に解体が出来る。本当、魔法様様だ。だが、便利な魔法が使えるだけでは、ヲルガ達と共にパーティを組めない。


 今回狙う魔獣はマグチック。鶏の魔獣だ。ただ、鶏と言っても、小さい子供と同じ位の大きさがあり、気性もかなり荒く、鳴き声は物凄く喧しい。ハッキリ言って害獣だ。分類も中型の魔獣として扱われており、鶏だからと舐めてかかる新人冒険者が、年に数人は殺されている。

 そして、街道付近にいるマグチックは、食料を運ぶ荷馬車を積極的に襲う。

 その上、繁殖力も高く、いくら倒しても倒しても湧いて出てくる魔獣なのだが、肉はどの魔獣よりも重宝され、卵も栄養価が高い為、日常的に食されている。

 害獣であるが、他の生き物に一番必要とされている魔獣。それが、マグチックだ。

 辺りには、そんなマグチックの姿が散見される。逆に、草原にいる定番の魔獣、マグラビットの姿は見当たらない。それもその筈、この狩場一体はマグチック達の縄張りであり、縄張りに侵入した相手を、鋭利な三叉の爪先で抉り、強靭な脚力で容赦無く蹴り飛ばすからだ。今も、1匹のマグラビットが、彼等の縄張りに無造作に入り込み、頭を抉り潰されて肉塊になっていた。


 今、リサのいる場所は縄張りの外である。

 何故それが分かるのか。単純だ。襲われていないから、縄張りでは無いのだ。

 だが、かなり縄張りに近い事も確かだ。先程から、近くにいる1匹の雄鶏が、鶏冠を靡かせて、此方を見つめながら微動だにしていない。縄張りに踏み入った瞬間に、此方を蹴飛ばせる様、臨戦態勢を整えているのである。

 マグチックは、縄張りに侵入した者を襲う習性もあるが、それ以外にも、攻撃してきた相手を襲う習性がある。それ自体はどの生物にも当て嵌まるのだが、マグチックは、襲われた事を周囲の仲間に鳴き声で伝え、集団で報復に掛かるのだ。まぁ、それ自体も、他の魔獣や獣にも見られる習性ではあるが。“草原にいる魔獣”にしては、珍しい習性である。

 そんなマグチックの狩り方は、縄張りに入った瞬間全力で引き返し、近くにいた数頭を誘き寄せ、群れから離れた所を狩る。といった方法が主流である。

 作戦とは呼び辛い脳筋的な手法であるが、それが一番安全で効率が良いのは確かだ。だが、その作戦はマグチックより足が速く無いと成り立たない。魔獣化する前の小さい鶏でさえ、あれだけ速く走れるのだ。それを、魔獣化して巨大になった彼を相手となると、かなりの俊足の持ち主が、何も持たずに武具を装備しない状態で、全力疾走してやっと振り切れるレベルなのだ。だから、引き寄せ役と待ち伏せ役に分かれて、マグチックを誘き出して狩る。

 そんなマグチックにも、苦手とする物がある。炎と爆発音だ。

 それらも、大体の生物が苦手とする物であるが、集団で縄張りを守るマグチックには、かなり効き目がある。

 炎は、松明程度の物だと何の反応も示さないが、火魔法に関しては、攻撃しても反撃すること無く逃げて行く程苦手としており、爆発音に関しては、爆竹程度では意味が無いが、音響弾を縄張りの近くで鳴らすだけで、味方を見捨ててでも逃げ、縄張りを変える程だ。

 ただ、コレらの方法で狩られる事はまず無い。火魔法はマグチックの羽や肉を駄目にしてしまい、音響弾は金銭的に釣り合わない。


 だが、リサには煤魔法という、どこでも爆弾製造魔法が扱えるのだ。それを上手く使えば、逃げる必要も、お金を掛ける必要も無く、1匹ずつ安全に狩る事が可能だ。

 群れる魔獣相手の戦闘経験は無く、魔獣の誘導自体も今回が初めてだが、誘導に失敗しても、最悪付近を泥化させれば問題は無い。ーーマグチックは空を飛べないのだから。


 リサは腰の鞘から細剣を引き抜く。念の為、と言うのもあるが、コレは無意識の癖に近い。

 そして、先程から見つめてくる雄鶏と自分の丁度間に、煤でできた小石程の塊を生成すると、同じ物を2個、自分の左右に生成した。そうすれば、爆発音から遠ざかる様に逃げるマグチック達が、此方に走ってくる事は無いだろう。

 合図は無い。マグチックに、右手に持った剣を向けて半身になり、軽く腰を落として臨戦態勢を取る。

 両者とも動く事は無い。その姿勢は、相手を襲う為では無く、相手と対峙した時の作法と捉えた方が正しいかも知れない。

 合図は無かった。瞬間、リサの目線の先にいるマグチックの体が揺らぐと、軟化した大地に草と共に足を沈めていく。マグチックの強靭な脚力を持ってしても、抜け出すことが出来ないのは、巨大化して増えた体重が原因だ。

 攻撃されたと認識したマグチックは、赤い肉垂を大きく震わせると、嘴を開いた。だが、本来聞こえる筈だった叫喚は、3つの大きな爆発音に容易く掻き消された。


 マグチック達は、爆風に鶏冠をはためかせ、全身の羽を起立させると、肺の中の空気を一気に押し出した様な、歪な風切り音を発し、地面に半身を埋めた同胞を見る事無く、一斉に背を向けて逃げて行った。

 残ったマグチックは、眼前で爆発した黒い物体に余程のショックを受けたのか、口から舌をハミ出させて、再び叫喚を上げる事は無かった。


「……意外と呆気なかったなぁ。こんなに簡単に出来るなら、もう1匹狩っても良かったかも。取り敢えず解体しよっと」


 リサは地面を器用に動かして、土生成と合わせながら、マグチックをランタンの様に逆さ吊りにして、細剣で首を跳ね飛ばした。

 人間の首と大差無い太さの首を見て、何度か刃を入れないと駄目だと考えていたが、上手い事椎骨の間に刃が入った様で、一撃で跳ね飛ばす事が出来た。

 断面から、止めどなく流れ出る赤い液体が、地面を激しく打つ音を聞きながら、リサは刀身に付いた血を払い飛ばす。本当は、刀身を湯で洗い流したいのだが、ヲルガから「剣が悪くなるから止めろ」と言われたので、火生成で残った血油を焼き焦がしてから、鞘に納める。

 マグチックの首の断面から、血液以外にも、太い穴から、胃の内容物であろう半個体状の何かが、赤く染まりながら不規則に音を立てながら地面に落ちる。

 それを見て、リサは少しだけ顔を顰めてしまう。が、すぐに真顔に戻ると、腹を開いて臓物を掻き出す。無造作に地面に落ちて行く臓物達は、地面に落ちると血溜まりを揺らし、周囲に大量の血を飛ばす。

 先程よりも大きくなった血溜まりの中、リサは生暖かく濡れる靴下に、猛烈な不快感を感じながら少し後ろに下がると、血濡れた手を水生成で洗い流し、臓物と血溜まりを物質操作で地面に埋める。

 解体する時に邪魔になる。というのもあるが、血の臭いで肉食の魔獣が寄ってきたり、放置した臓物にアモルファスが湧くので、出来るだけ早めに処理したかったのだ。とは言っても、まだ少しずづではあるが血も出てきているのでもう一度処理する事になるのだが。


 マグチックの解体方法には2種類ある。1つは、他の魔獣や獣同様、皮を剥いで解体する方法。そしてもう1つは、湯を掛けてから羽を毟り、皮をそのまま残す方法。後者の方が肉としての買取価格も高く、羽も矢に使われる為、微々たる物であるが、儲けになる。だが、今回は儲けの為では無く、保存肉の調達の為であり、保存の効かない皮や、食べられない羽は収集の対象外だ。それらは、骨や内臓と一緒に自然に返すとしよう。

 マグチックの解体は初めてだが、解体している姿は何度か、遠目ではあるが拝見した事がある。前者のやり方であれば、他の魔獣と大差は無い。そう考えたリサは、先に翼を外してから、慣れた手つきで皮を剥いでいく。

 皮を全て剥ぎ終わったマグチックは、獣というより、両生類ーーカエルに近い見た目をしている。正直、この見た目は得意では無い。が、皮を剥ぐ前のカエルは好きだ。そう考えたら、マグラビットもカエルに似ているが、何故彼方は平気なのだろうか。骨格も、肉質も、マグラビットの方がカエルに近いというのに。

 などと、どうでも良い事を考えながら、肉骨から肉を薄く削ぎ落としていき、近くに生成した石の箱の中の棒にぶら下げていく。

 途中、軟骨と勘違いしてしまう程硬く、数の多い筋に苦戦しながらも、数時間掛けて解体を終えた。

 腿や胸、ササミなんて部位は存在しない。肉の質感を無視して、同じ様な笹状に削ぎ落としているので、色々な部位が混ざり合っている。

 だが、腿肉は形が汚いのに対し、胸肉は形が綺麗なので、一応区別は付けられるかも知れない。それも、燻製にしてしまえば、同じ物になってしまうのだが。

 燻製機は合計で3個。自分と同じ位の大きさのそれに囲まれるのは、少々息が詰まる。

 リサは麻袋を手に取り、箱の底面に木屑を敷いて行くと、一番下の石棒に香草を巻いていく。

 燻製機の中は5層の棒が取り付けられており、一番下には香草、他には肉を垂らしている。この香草が役に立つかは分からないが、気分的にはあった方が良い。


 陽はまだ登り切っていない。燻製が出来上がるのには時間が掛かるし、更にそこから、冷めるのを待たなければいけない。


 長くなりそうだ。


 リサはそう考えると、火生成で1匹の鳥を創り出した。夢に見た美しい鳥を思い浮かべて創り出したソレは、我ながら見事だと感じると共に、本物の気品ある美しさには遠く及ばないと自笑して、鱗粉の様に舞う火の粉を残して霧散させた。


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