リサ、囲まれる。
何事にもキッカケはあるものさ。そのキッカケをどの様に捉えるかは、人其々だけれどね。
君にとっては記憶にも残らない様な些細な事でも、相手にとっては自分の評価を犠牲にしてでも罰を下すキッカケになる。
そう、全てはキッカケから始まるんだ。キッカケが、善を象り悪を生み出すんだ。そして、そのキッカケを知らなければ人の善悪は無いに等しい。
だが、勘違いしてはいけないよ?誰しもが、真面な思考を持っているとは限らないからね。
入学式から1ヶ月が経ったある日の昼食時、リサは同じクラスの女生徒に呼び出され、授業棟の訓練室の一室に居た。
呼び出した者達は3人。彼女達はリサを訓練室の角に追いやり、囲む様にして見下ろしながら嫉妬の眼差しを向けている。
その中の1人、レンブノーラはリサと同じ様に腰まで伸びた黒髪を靡かせながら、他の2人より一歩前に出ると、威嚇する様に声を上げる。
「君さぁ、ビル君と仲良いからって調子乗ってない?魔法もちょっとは使える様だけど、だからって威張る理由にはならないよ?」
右隣に居る、青髪を肩の長さに切り揃えたレリアは、それに続く様にリサに圧をかけた。
「本当よ。良い所の出らしいけど、だからって制服も着ないでフラフラと……。それにビル君に色目まで使って……!」
左端にいる2人より若く背の低いペントナは、紫色の前髪で目を隠しながらオドオドとした様子で2人の言った事に同意する。
「そ、そうよ!入学前からビル君の知り合いなのは知ってるけど!だからって、ビル君は貴女の物じゃ無いんだから!」
リサは、謂れもない雑言を聞いても顔色一つ変えずに3人を見詰める。
何故、この人達は怒っているのか。何故、この人達はビルの事を自分に話すのか。リサには全く理解が出来ず、ただただ何の事かと黙っていた。
こういった事は何度か経験している。その度、今の様に相手を黙って見つめているのだがーー
「何無視してるの?黙ってても気が済むまではどこにも行かせないよ?」
毎度この様に相手は声を荒げて顔を赤くする。
その段階までくると、漸くリサは困惑した表情を浮かべ出し
「なんで怒ってるの?お腹空いてるの?」
そう、尋ねるのだ。
その結果、どうなるのか。それは言わずもがなーー
レンブノーラの顔は、まるで湯を沸かしたヤカンの様に瞬時に赤くなり、髪の毛を逆立てながら唾を飛ばして狂った様に怒声を浴びせる。
「ふっざけないで!アンタが!ビル君に!色目を使ってーー」
「ーーん?俺がどうかしたの?」
その瞬間、レンブノーラを含めた3人は、先程とは違う理由で頬と耳を赤く染めて、声色をガラリと変えるとリサの事は目もくれずに、入り口にいるビルの元に走り寄った。
「ビ、ビル君!今リサちゃんと君の事話してたの!ビル君、魔法得意でしょ?だから、私達にもリサちゃんと同じ様に魔法を教えて貰おうって!ね?」
「そうなのよ!それに、制服を着ないとダメだよって、大人の私達が教えてあげてたの!」
「ビル君……カッコいい……!」
鼻息を荒くしながら自分に顔を近づけてくる3人を手で抑制すると、ビルは部屋の隅で佇むリサに向かって、何があったのかと声を上げた。
「リサちゃん!こう言ってるけど本当?」
すると、その声に合わせて3人は後ろを振り向きリサを睨み付ける。
だが、その4人の姿を見たリサは急に笑い出し、ビルの質問に答える事なく腹を抱えてこう言った。
「アハハハハ!ガルガラに来る途中に寄った農場の“豚の餌やり”みたい!あの時もビルはモテモテだったよね!!」
リサの言葉に悪意は一切ない。侮辱するつもりも、見下すつもりも無い。だが、鼻息を荒げて顔を伸ばす彼女達が、農場で見た、柵から顔を出して餌を求める豚の姿と被って見えたので、思った事をそのまま口に出したのだ。
寧ろ、リサは豚の可愛らしい仕草で例える事で、彼女達を褒めたつもりでもいた。餌を求める姿に可愛いと感じるのは良く無いと、そう考えてもいるが、リサはその仕草に癒しを感じたのも事実だ。
「可愛かったよね〜あの豚。農場の臭いは少し苦手だけど、また行きたいね」
その時、発砲音に似た音が3発鳴り、何事かと首を傾げていると、レンブノーラ達が目を充血させて歯を食いしばっている事に気が付く。
その顔は先程と比にならないほど赤く染まっており、肩を震えさせながら、強く握られた拳は爪先を白く染めていた。
その3人の背後にいるビルは、目の前に並ぶ蒸気を上げた3つの頭を見下ろすと、リサに釣られて腹を抱えながら大笑いする。
「ナハハハハハハ!いや、やばっ、い、息でき……!クフフフフフ!アハハハハハハハ!それ、を……!素で言って、るの、流石すぎる……!」
蔑んだ目を向けながら自分を嘲笑する者達に挟まれて、気がどうにかなりそうな感覚に陥ったレンブノーラは、それが自分の思い込みだと気付かずに、力が入りすぎて勝手に震える右手を、無意識下で前にゆっくり掲げると、声を振るわせながら、憎悪の籠った呪いの言葉……呪文を吐き捨てる。
「〈火球〉!」
「アハ……ちょ!おまーー」
「「ノーラ!?」」
レンブノーラの隣にいた、ビルを含めた3人は咄嗟に手を伸ばして呪文を止めようとするが、言霊となって瞬時に顕現した揺らめく火の玉をどうする事も出来なかった。
そして、その火球はゴウッと音を立てながら、それの存在に気付かずに未だ笑い続けるリサの顔面目掛けて飛んでいくと、そのまま顔面に命中し、軽い爆発を起こしながら黒煙を残して霧散した。
「お……どけ!」
ビルは目の前に呆然と立つレンブノーラを突き飛ばすと、リサの元へ駆け寄り、水生成で生み出した水を顔に掛けようとして動きを止めた。
「ーーーーあ〜、ビックリしたぁ……。危うく焼きリサになる所だったよ」
リサは目を見開きつつ目の前の黒煙を払い除けると、軽く冗談を言ってニコリと笑う。その顔は、火魔法を直撃したとは思えない程綺麗で、髪や服にも焦げの跡を一切付けていなかった。
「リサ!大丈夫なのか!?アレ完全に直撃してたでしょ!?」
動揺しながら自分の顔を揉んでくるビルの手を退かすと、リサは先程の事を気にする素振りを一切見せずに、自分を呼び出した女生徒達を見る。
「そんな事より、話終わったならご飯食べに行ってもいい?ラズリーを待たせてるし」
3人は黙って何度も頷くと、リサは頬を緩めながらテクテクと3人の間を通り抜けて
「待っててね〜カツサンド。今から食べにいくからね〜!」
そう言いながら訓練室を出て行った。
「……ったく、お嬢様にも程があるよ……ーーそれで、君達があの子に何をしようとしてたのか、真実を話して貰おうかな?」
そう言うと、ビルの顔から一切の表情が抜け落ち、彼女達を見詰める。それに怖気付いて動けなくなってしまった3人の女生徒は、自分達の元に歩み寄るビルの姿に視線を激しく泳がせながら、翳された右手に甘い期待を抱いた。
そして、彼女達の眼前で固まった右手は、彼女達の前に3つの黒い魔法陣を描き出すと魔法を掛けた。
ビルは腕をダラリと下ろし、目から光を失った黒髪の女性の顎を指であげると、まるで吐息を吐く様に囁いた。
「色々聞く前に、まずは名前を聞かないとね。君の名前は?」
「レンブノーラ……」
「そうか、レンブノーラか……。じゃあレンブノーラ、俺の質問に正直に答えてくれーー」
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