リサ、師匠と狩場へ行く。
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共通授業を受けた後、リサとラズリーはギルドへ顔を出してから、普段リサが赴いている狩場へと足を運んだ。
「ここが、リサさんが普段狩場としている場所ですか?それにしては、他の冒険者さんの数が多いですね〜」
ラズリーは周囲を見回して、周りにいる冒険者達に目を向けると悪態を吐く。
「本当に稼げるんですか〜?私、狩場には詳しく無いですけど、到底、小金貨1枚を3時間で稼げる場所には思えないんですけど」
それもそうだろう。昨日ラズリーが言った通り、この時間帯のこの狩場は、1時間で銀貨1枚稼げれば良い方なのだ。
魔物の湧き自体そこまで多くなく、よく湧く場所は既に他の冒険者が確保している。小型の魔獣や獣は戦闘音を聞いて遠ざかり、ソレを食料とする中型以上の魔獣や獣も、併せてそこから遠ざかる。そもそも、魔獣や獣は魔物から遠ざかる為、狩場が被る事自体少ないのだが。
「この時間は流石に人が多いね。明日は休みだし、もう少し奥に行っても良いかもね。何なら、1泊しても良いかも」
リサの提案は儲ける為では無く、ラズリーと魔物の戦闘をしっかり観察したいが為の物だった。前提として、リサは稼ぎにこの場所に来ている訳では無く、指導をしてもらう為にこの狩場に赴いたのだ。だから、リサとしても魔物が多い場所にどうしても行きたい。
「1泊って……私には無理ですよ〜。何の用意もして無いですし、あんまり体力も無いので……」
「そっかぁ。じゃあ少し奥の狩場に行こっか。道があるから迷う事は無いし、安心して良いよ」
そう言うと、リサは山の奥に歩き出した。ラズリーはそれを見て早々に疲労を訴えていたが、リサはその言葉を無視して何度も振り返りながら、道なりに進んでいった。
そして歩く事数時間。少しだけ陽が傾き始めた頃、ようやく他の冒険者の姿が無い狩場まで足を運ぶ事ができた。
リサが何度か来ているこの場所は、他と比べて周囲の魔素の濃度が高い為魔物が湧き易く、核の質も山の入り口の狩場と比べて高い。その分魔物の身体も大きく、全体的な能力も高いのだが、サンドバックとしては十二分に役立ってくれるだろう。
「あ、早速魔物が居るじゃん。しかも、この時間にしては珍しい大きい人型……丁度良いね。ラズリー。……ラズリー?」
「ちょ……ちょっと待ってください……。って、魔物〜?リサさん、先お願いします〜……」
ラズリーは肩を大きく上下させながら近くの木にもたれ掛かり、魔物の姿を見るや否や、戦えないと言ってリサに討伐を押し付ける。
「え〜、しっかりしてよね。じゃあ、私の戦闘の改良点だけ教えて」
リサはラズリーの教師らしからぬ言動に、溜息混じりに首を横に振ると、人型の魔物と対峙する。
魔物の方もリサ達に気付いている。と言うより、ラズリーと正面から戦闘してもらう為に、リサは態々、魔物の前に姿を現していたのだ。
なのでその魔物は、呑気に背を向けながら、後ろの女性と話をしている無防備な少女に向かって、両手を上げながら走り寄っていた。
だがその魔物は突然、勢い良く前に倒れて地面に這い蹲る。ラズリーは何事かとその魔物を凝視すると、倒れた下半身に氷を纏った地面が覆い被さっており、起きあがろうと踠く腕が泥に沈んでいって、完全に身動きを封じられていた所だった。
何故転んで、いつの間に拘束されたのかは、ラズリーには分からなかった。だが、その魔物の上に氷の大斧が生成され、そのまま一刀両断する所を見て、あの模擬戦闘でかなり手加減されていたのだと実感した。
そして、そのまま魔物の肉体を地面ですり潰してから、核と魔結晶を回収して、持ってきた麻袋に詰めたリサはテクテクと小走りでラズリーに近寄ると声を掛ける。
「ラズリー、ちゃんと見てた?」
「……ごめんなさい、ちゃんと見てませんでした」
「え〜……まぁ良いや。次はラズリーの番ね」
そう言いながら、リサは氷の椅子に水のクッションを創り出してその場に座ると、氷のティーテーブルを創って左手で頬杖を突く。
ラズリーはその堂々とした立ち居振る舞いに動揺しながらも、周囲に目をやり魔物を探し始めた。
だが、態々探す必要もなかった様で、先の戦闘に反応した他の魔物が此方に走り寄ってきていた。数は2匹、何方とも狼型の魔物で、この山の狩場にいる標準的な形態だ。大きさも大した事なく、魔獣や獣と違い連携を組む事は全く無い為、1人でも問題無いだろうとリサは考えてそのままラズリーを見詰める。
ラズリーはリサを一瞥し、動く様子がない事を確認すると、手前の魔物には石弾を放ち、奥にいる魔物には石壁を生成して道を塞ぐと、自身の頭上に石槍を創り出す。
そうして、軽い魔法で魔物の動きを誘導すると、2匹の魔物が重なった瞬間に先程創った石槍を発射し、2匹同時に貫くと石球で頭部を潰して見せた。
「おぉ〜!凄い手際!やっぱり魔法って良いなぁ〜。じゃあ次は私だね」
リサは椅子から立ち上がると、ラズリーに席を譲って魔物の姿を探す。
が、今ので周囲の魔物は最後だった様で、リサは仕方無くもう一つ椅子を創り出すとカップを2つ創り、ポケットからティーバッグをカップと同じ数取り出すと、カップにお湯を入れて茶を沸かす。
魔法には、霧散する物としない物の2種類存在する。
その違いは単純で“物質として生み出したか”、“魔法として生み出したか”によって、霧散するかが決まるのだ。
物質として作り出した物は、魔素を“利用して”元素を形造り物体を生み出すのに対し
魔法として創り出した物は、魔素を“使用して”元素を模して物体を生み出しているのだ。
基本的に使われている生成魔法は前者の方法であり、今リサが湯を沸かした様に使われる事が殆どだ。
だが、リサは中途半端に攻撃魔法を習得しようとした所為で、後者のやり方で生成魔法を編む癖ができてしまっている。
簡単に言うと、リサは“魔法”に拘ってしまっているのだ。それを、短期間の付き合いで気付いたラズリーは、リサの魔法指導について頭を悩ませていた。
リサの希望通り“魔法”を教えるのか、リサの得意である“物質操作”を伸ばしていくか。
一応、限定的ではあるが物質操作も攻撃魔法として使える。森や水辺、山や沼地など、自然界限定ではあるが。
「…………あ、魔物が来たね。……えい」
遠くを見て思案するラズリーを横目に、リサは椅子に座りながら、視界に入った狼型の魔物の足元を凍った地面で拘束し、声に似た音を発する前に氷斧で首を跳ね飛ばした。そして、魔物の残骸を氷で創った小人達に運ばせて、自分の目の前まで運ばせると、先程と同じ様に地面ですり潰して核と魔結晶を仕舞う。
「……あ、倒す所見せるの忘れてた。ごめんねラズリー」
リサは、振り向くのをやめてお茶を啜り出したラズリーに謝ると、傾く陽を見て椅子から立ち上がりながら伸びをする。
「んぬぅ〜〜!……もうすぐ夜になるけどどうする?帰りながら見つけた魔物でも狩る?」
「そうですね〜。そろそろ街へ戻らないと、帰り道が真っ暗になりますし〜」
ラズリーはそう同意すると、カップの中のお茶を一気に飲み干し、椅子から立ち上がると、リサ同様軽く伸びをする。それを見たリサは氷で創った諸々を霧散させると、麻袋を担ぎ直して街へ繋がる道を戻って行った。
道中、四足型の小型魔獣を何匹か狩りながら歩いていると、道から逸れた木々の奥に中型で細身の蹄類の魔物を見つけ、リサは立ち止まると声を上げた。
「あ、鹿の魔獣なんて珍しい。ここら辺にいるんだ〜」
「良いですね〜。狩るんですか?」
ラズリーは「美味しそう」と頬を緩めて鹿を見つめるが、リサは首を振ると再び歩みを進める。
「お肉は街に幾らでも売ってるし、攻撃してきたり生態系を壊す訳じゃ無いから、狩る必要は無いね。行くよラズリー」
リサは未だに鹿を見詰めるラズリーの手を引いて、下山するとギルドへ向かった。
買取額は銀貨4枚。魔結晶も全て買取に出したので、普段より買取額が少しだけ多い。
「はいコレ、ラズリーの分ね。だけど、結局ラズリーの戦闘は1回しか見られなかったなぁ……私の戦闘もちゃんと見せられて無いし……」
学校への帰り道、リサは銀貨2枚をラズリーに手渡すと、今日の指導内容を振り返って溜息を吐きながら肩を落とす。
だが、銀貨を受け取って同じ様に肩を落としたラズリーは、お腹を鳴らしながら別の事を呟く。
「半日で銀貨2枚……戦闘は1回だけですけど、山道を歩いて銀貨2枚……。リサさん、山での指導はコレからは無しの方向で……」
「え!?……まぁラズリーに無理させる訳にもいかないかぁ。じゃあ今度、いっぱい魔結晶を持ってくるから、校内で魔物討伐の訓練しようよ」
「魔結晶?校内で魔物?小型の魔物でも捕まえるんですか〜?」
「ううん。……あ〜、でも今度にしようか。またクリーム先生に怒られるかも知れないしね」
ラズリーは先日の事を思い出したのか、身震いをするとキツめの口調でリサに下手な事はしない様に伝える。
「変な事するのはダメですよ〜!怒られるのは、師匠である私ですからね?」
「分かってるって。あ、あの屋台の焼き肉買って帰ろ〜」
そして、学校に戻りラズリーと別れたリサは、夜になると再び狩場へと赴いたのだった。




