リサ、魔法学校に入学する。
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「う〜ん……どうしよう」
入学日当日、リサは学校から与えられた自室で、燃え尽きた制服を見つめて頭を抱えていた。勿論、新しく生成された普段着に身を包みながらだ。
唯一犠牲を免れた胸元丈の濃紺色のケープは、裾に施された銀色の刺繍を見せつける様に靡いていた。
嬉しい事に、靴と靴下だけは着脱が可能であり、支給された靴と靴下を履く事は出来る。だが、普段の絹とレースの靴下に慣れているリサにとっては、支給された白い布の靴下に違和感を感じていた。
「なんかゴワゴワする……靴の方はいい感じだけど、普段の靴と比べるとなぁ」
先程、外を少し歩いただけで汚れた靴裏を見て、溜息を吐いた。
「ラズリーは制服で教室に行く様にって言ってたけど……仕方無いから、取り敢えずケープだけ羽織って行くしか無いか」
リサは靴を支給された物に履き替えると、生徒用の寄宿棟から出て、数分歩いた先にある授業棟へと足を運んだ。
授業棟には数多くの部屋がある。1階には1年生用の普通教室と、同じく2年生用の普通教室があり、体育館の様な場所や、複数の訓練室がある。
2階には、申請を出せば生徒が自由に使える部屋があり、そこでは、所謂部活動的な事を主に行なっているらしい。
日本の学校の様に下駄箱は存在しない。入り口は少し広めのエントランスになっており、そこからは各部屋に繋がる廊下と、2階へ上がる為の階段しか無い。
一応、各普通教室の前には個人が使えるロッカーが備え付けられている。が、鍵は備え付けられておらず、管理は杜撰だ。
リサは、自分の名前が書かれたプレートが嵌められたロッカーを見つけ、中を確認して先日配られた教科書類を一瞥すると、何も取り出す事なく、目の前の教室の扉を開けて中へ入る。
すると、案の定他の生徒に懐疑的な視線を送られる。それもその筈、他の生徒は支給された白シャツに、ジャケットかケープを羽織り、男はズボン、女はスカートを履いているのに、1人だけ制服に身を包む事なく私服で現れたのだ。
(せめてジャケットを支給して貰うべきだったかな……)
気まずい顔を浮かべながら、階段型の教室を見渡して何処か良さそうな席を探していると
「お、リサちゃん!こっちこっち!」
教室の右奥、窓際の席に座っていたビルが、リサの顔を見て手招きする。
リサはそれを見て、他の生徒の視線から逃げる様に教室を駆け上がると、ビルの隣に座り身を縮こませた。
挙動不審になりながら自分の隣に座るリサの服装を見て、ビルは何故私服でいるのか尋ねる。
「リサちゃん、制服はどうしたの?」
「燃えた」
「え?燃えた?……そう言えば、馬車で一緒に帝都に来る間も、ずっとその服だったよね?もしかして、特殊な服なの?」
「そうなの、汚れが無くなる代わりに脱げない服。はぁ……制服、着たかったなぁ〜」
溜息を吐きながら、机の上に顔を乗せて体の力を抜くリサは、自分の前に座る女性の制服を見て、羨ましそうに呟いた。
そんな事を話していると、教師が教室の扉を開けて入ってきて、丁度鐘の音が鳴り響いた。
そして、教師は教卓の前に立つと、手に持ったバインダーを置いて皆に挨拶を始める。
「皆さんご機嫌様。生徒指導の〈クリーム・ブラウニー〉です。以後お見知り置きを」
フワフワとウェーブがかった、腰まで伸びたブラウンの髪を靡かせて、優雅に腰を折って見せたその女性は、綺麗な微笑みを見せると、教室内に居る生徒達を男女問わず魅了した。
「私は基本的に皆さんの教鞭を執る事は御座いませんが、皆さんに大事な話を伝える時はこの様に顔を出します。今日は、私の事を知って貰う為に赴いたのですが、皆さんもお互いの事はよく知らない様子。ですので今から、皆さんには自己紹介をして頂きたく存じます。その前に……」
クリームは一度言葉を止め、リサを見ると首を傾げて声を掛ける。
「もし、そちらのお嬢様」
「私?」
「はい。疑問なのですが、何故貴女は制服を着用しておられないのですか?」
クリームの質問にリサは言葉を詰まらせつつも、自分の制服が迎えた結末を簡潔に伝えた。
「えと……その……燃えちゃった」
すると、クリームの柔らかい笑みにヒビが入った様な錯覚を覚え、教室に居る生徒……ビルとリサを除いた全員が顔を引き攣らせて、自然と背筋を正した。
「制服を……燃やしたのですか?」
先程とは違い単調な口調で、まるで文章を読み上げる様に口から音を流すクリームに、リサは申し訳無さそうに頭を下げると、制服を燃やした件を謝罪をする。
「わざとじゃないよ!?着たら勝手に燃えちゃうの!そういう体質なの!嘘だと思うなら、目の前で着替えても良いよ」
「意図的に燃やした訳では無いのですね?」
「逆に、制服が着られなくて落ち込んでた所だよ……」
そう言いながら項垂れるリサを見て、クリームはクスリと可愛らしく笑って見せると、先程の柔らかい口調に戻し、綺麗な笑みを浮かべる。
「そうですか。では、その件は後程。さて、では改めて、皆さん自己紹介をお願い致します。順番は……そうですね、お嬢様、貴女からお願い致します」
名指しされたので、リサは渋々席から立ち上がる。
「う、うん。……初めまして、私はリサ。この学校には星3冒険者になる為に入学したの。知ってると思うけど、まだ攻撃魔法は使えない。だけど、魔力操作は得意だから……」
そう言いながら両手を広げると、氷と炎で創り出した無数の精巧な蝶を教室内に解き放ち、暫くすると輝く鱗粉を空中に残しながら、魔法を霧散させた。
「……こんな感じの事は出来るよ。よろしくね」
自己紹介を終えたリサは軽く一礼すると、席に座り直す。
だが、リサの自己紹介に拍手で答えてくれたのはビルとクリームだけで、他の生徒は何の反応も見せる事なく呆然としていた。
「あれ?ギルドの人達には評判良かったんだけどなぁ」
「凄いねリサちゃん!じゃあ俺も、何か一発芸を見せるべきかな?」
ケラケラと笑いながらビルは立ち上がると、クリームとは違った形で優雅にお辞儀を見せ、自己紹介を始める。
「俺はビル。試験の時にも言ったが、大魔導師だ。魔法陣を使えば、リサちゃんと同じ様に精巧なゴーレムを作る事は出来るけど、同じ事やってもつまらないよね……」
ビルはそう言いながら軽く指を鳴らした。
すると、教室内にいる全員頭上に水色の魔法陣を描き出した。
クリームは頭上に魔法陣が現れた瞬間、虫を払う様に魔法陣を払い除ける。
リサは冒険者としての本能で咄嗟に氷剣を作り出すと、魔法陣を2つに切り裂いた。
そして、間髪入れずに残った魔法陣が輝き始めると、突然水が生成され、魔法陣の下にいた生徒達はずぶ濡れになる。
「クリームさんは当然として、リサちゃんも反応したかぁ。良く気付いたね」
「魔法陣って魔法を発動させる物でしょ?そんなのがいきなり頭の上に出てきたら、誰だってビックリするよ。でも、魔法陣は不意打ちには向いてないね。簡単に勘付かれちゃうし」
そう言いながら、リサはビルの背後に氷剣を創り出して、峰を下に向けて軽く振り下ろした。
すると、良い音を立てながらビルの頭に直撃し、氷剣は霧散した。
「いっだぁ!?」
「アハハハハ!変な声!」
ビルは頭を押さえたまま、リサを睨みつつ席に座る。
クリームは肩を上げてから軽く息を吐くと、他の生徒に自己紹介を続ける様に促した。
だが、ずぶ濡れになった生徒達は目を丸くしながら、自己紹介どころでは無いといった様子で唖然としていた。
暫くしてから再び生徒達の自己紹介が始まったが、その間誰も自分の魔法について語る者は居なかった。
ビルとリサが授業後にクリームに呼び出された事は言うまでもない。




