リサ、魔術を見る。
PV1000達成しました。これも、普段からリサちゃんの物語を見てくださっている皆様のお陰です。
これからも、皆様にリサちゃんの日常をお届けできる様、観測者として精一杯務めさせていただきます。
「やっと俺の見せ場が来たかぁ〜。じゃあ、この学校の先生の実力、見せて貰おうかな?」
「実力を測るのは此方だ!幾ら魔力が多かろうと、魔術が粗末であれば意味が無いからな?」
ビルとオールバックの男は広場の両端で向き合うと、お互いに軽口を叩き合う。
そして、ビルはその場で仁王立ちする様に堂々と構え、左手を腰に置きながら右手を差し出して自己紹介をする。
「俺はビル、大魔導師だ」
「大魔導師?笑わせる。その肩書きを名乗れるのは、大魔導師シオン様ただ1人だけだ。だが、愚か者なりの礼儀に答えて俺も名乗るとしよう。俺はシオン魔導学校の教員総括、〈ケイル・アバター〉だ」
ケイルと名乗ったオールバックの男は、ビルの発言を聞いて鼻で笑いながら自己紹介を済ませると、ビルに対して挑発する様に手を招いた。
「掛かってこいガキ。魔術がどれだけ素晴らしい物か教えてやるよ」
ビルは一瞬目を見開くと、間を置いてから腹を抱えて笑い出す。
「ナハハハハハハ!リサちゃんの攻撃魔法を1人じゃ防げない様な人が何言ってるんだか!」
「なっ!アレは不意打ちだったからだ!準備をすればあのてーー」
「ーー言い訳するなよおじさん。良いからかかって来い」
ケイルの言葉を途中で遮ると、ビルは目の色を変えて睨み付ける。
睨みつけられたケイルはその眼差しに怯んで後退りしてしまい、その事に気付くと顔を赤くして声を張り上げた。
「ーーっ!良いだろう!後で治癒魔導士に感謝するんだな!」
その瞬間、ケイルの右側には赤色の、左側には翠色の、ケイルと同じ大きさの魔法陣が展開されーー
ガラスの割れる音と共に砕け散った。
それを見たビルは大きく溜息を吐くと、心底呆れた様に首を振りながら冷めた目でケイルを見つめる。
「おじさん、さっき俺に怒ったばっかじゃん」
「……そうだったな。だが、干渉不可の術式を組み込めばーー」
そう言うと、再びケイルは赤と翠の魔法陣を展開する。先程とは違い2重に重なった2つの魔法陣は、先程と同じで音を立てて割れる。
「なっ!妨害はされない筈だが……!」
「妨害はしてないよ?“許可”してないだけで」
慌てふためくケイルの発言に、ビルはそう訂正すると指を鳴らした。
「……コレで、おじさんも魔術が使えるよ。但し、受けるのは1発。そうしないと周りに被害が出そうだからね。その後に、俺が1発お返しする形で」
ケイルは掌の上に小さい魔法陣を描き、拳大の水球を作り出して魔術が使える事を確認すると、顔を顰めながらその魔法陣を握り割る。
「どんな小細工かは知らんが、大口叩けるのも今の内だ」
そして、再び赤と翠の魔法陣を描き出すと、今度は割れずに魔法が放たれる。
「〈炎嵐〉!」
ケイルの呪文と共にビルの周囲に炎が渦巻き、そのままビルを包み込む様にその炎は巻き上がって大きな柱を作り出した。
「ちょっ、ケイル先生!流石にやり過ぎですよ!」
「加減はしている!それに、一度大怪我をしないと、こういう輩は学ばんからな!」
周囲の受験者や教員が顔色を変える中、リサは暴れる熱風に額を晒して目を細めながら
(うわぁ……癇癪起こすと、他人からはああ見えるのね)
第2試験の自分の姿と、今のケイルの姿を重ねて顔を熱くさせていた。
「……だが、悲鳴を上げないのは褒めてやる。精神だけで見れば、大魔導師とはいかなくとも、一流の魔術士を名乗れるぞ。……おい!治療術士を呼べ!」
ケイルは声を発さないビルの姿を称賛すると、治癒魔術士を呼びながら自分の魔法を霧散させた。
そして、この場にいる一同……別事を考えているリサ以外、息を飲んで言葉を失った。
「…………あれ?もうおじさんの攻撃は終わり?え〜、期待外れだなぁ」
「あ……ありえん…………あの炎嵐の中で無傷だと……!?」
目を見開くケイルの反応見てビルは視線を落とすと、周りに聞こえるかどうかの小声でボソリと呟く。
「アレが炎嵐……?この時代の魔術はここまで退化しているのか……?」
「何をブツブツと!……くそ、手加減し過ぎたか。次は本気でいーー」
「ーーいや、次は俺の番だ」
その瞬間、ケイルの足元に巨大な赤色の魔法陣が描き出され、そこから更に何重もの魔法陣が天に伸びる様に描き出されていく。
大小様々なその魔法陣は、幾つか翠や黄色、水色の魔法陣も組み込まれており、魔法陣を今さっき初めて見たリサでさえ、その魔術が強大で複雑な物だと理解出来る……いや、理解させられる物だった。
「ケイル、お遊戯程度の魔術で満足しているお前に、本物の魔術を見せてあげるよ。……コレが本来の“炎嵐”の術式だ」
「あ……あ、ああ……やめ、やめ!やめてくれ!」
ケイルはその魔法陣を見て腰を抜かし、顔を真っ青に染めながら手を振り回してビルに止める様懇願する。
動けずにいる教員達、何も理解出来ずに呆然と眺める受験者達、そして、何度か鼻をひくつかせてハンカチで口と鼻を覆うリサ。
誰もが静まり返り無音の時が過ぎる中、その静寂を切り裂く様に赤い閃光が迸る。
「へくち!」
バチバチバチバチ!
「コヒュッーーーー…………」
変な風切り音を聞き逃しながらエヘヘと笑うリサは、口元からハンカチを離す。
「くしゃみ出ちゃった……。って、どうしたのビル?変な顔して」
煤で汚れたハンカチを水生成で洗っているリサの顔を、ビルは呆れと驚きが組み合わさった不思議な表情で睨み付けていた。
そして、そのままケイルの方を指差すので、リサは釣られて視線をそちらに送る。
そこには、口から泡を吹きながら、股を濡らして仰向けに倒れていたケイルの姿があった。
「おぉ!ケイル勝ったんだ!凄いね!」
「いや……止めを刺したのはリサちゃんなんだけど……」
その言葉に首を傾げながらも、ハンカチを火と風生成であっという間に乾かしてポケットにしまう。
2人のその間の抜けたやり取りをみて、やっと正気を取り戻した他の教員が声を上げて第3試験の終了を宣言した。
「あ……だ、第3試験終了!治癒魔導士はケイル先生を清めてやってくれ!受験者達はあまりケイル先生を見るな!」
それを聞いた受験者達がぎこちなく喜ぶ中、リサとビルは2人でハイタッチをしながら、互いの勝利を褒め合っていた。
ーーーーーーーーーー
第3試験も終わり、無事全ての試験をこなしたリサは、他の受験者と1列に並びながらケイルの代わりに仕切る教員の言葉を聞いていた。
「え〜、ケイル先生がお休みしているので、私から伝えさせて貰う。……この場にいる、総勢24名の入学試験合格をここに宣言する!お前達は今日から2年間、シオン魔導学校の生徒として研鑽を積み、より魔道を高める為、そして発展させる為に精を尽くせ!最後に……入学おめでとう!」
その瞬間、辺りには割れんばかりの歓喜の声と、それを祝福する拍手が鳴り響いた。
「やった!コレでヲルガ達に顔向けが出来る!」
「良かったねリサちゃん!いやぁ、俺も無事入学できて嬉しいよ!」
そして、暫く響いた歓声が鳴り止むと、前にたった男性教員が軽く咳払いを済ませ、入学に関する説明を始める。
「早々に生々しい話になりますが、入学金に関しては国営金融金庫か、ギルド直轄の預金機関から直接引き出す形になります。後で渡す支払請求書にサインして、ご自身が利用する機関に届け出て下さい。入学日は1ヶ月後ですのでそれまでに」
リサは予め自分の銀行口座を作り、そこに入学金分のお金、金貨60枚分のお金を入れてある。コレは、街の衛兵の2年分の給料とほぼ同じだ。
魔法を学び、それ以上の見返りもあるので、長い目で見れば大した額ではない様に思えるが、この世界は常に死と隣り合わせであり、戦闘職である者であれば尚更だ。
それに、安定した衛兵という職業で2年分と言うことは、他の職業、ましてや家を持たない冒険者が稼ぐには、何倍もの年月がかかってもおかしくない額である。
リサは改めて、ヲルガ達に心の中で感謝した。
「入学日は1ヶ月後と言いましたが、担当の教員によっては、明日から指導をする者も居るかも知れませんので、後で聞いておく様に。後の詳しい事も、担当の教員から説明がありますから、しっかり聞く様に」
こうして、ある程度の説明を受けた後、配られた請求書をポケットにしまったリサは、ラズリーから自分が学校で寝泊まりする部屋を教えて貰い、その後銀行に請求書を提出して宿に戻ったのだった。




